『オーヴァーロード』はJ.J.エイブラムスが成功させた実験
2019年末に『スター・ウォーズ/ザ・ライズ・オブ・スカイウォーカー(原題)』の公開が控えるJ.J.エイブラムスが、共同脚本および製作を手がける『オーヴァーロード』。本作の監督ジュリアス・エイヴァリーはリブート版『フラッシュ・ゴードン(原題)』のメガホンを託された注目の新鋭だ。
主人公のヘタレ兵士を演じるのは新人俳優ジョヴァン・アデポ、隊員たちを引率する強面伍長を演じるのはカート・ラッセルの息子ワイアット・ラッセル。他にも『ゴースト・イン・ザ・シェル』(2017年)のバトー役や『ゲーム・オブ・スローンズ』のユーロン役(シーズン6~)でお馴染みのピルー・アスペックが悪役を、『キャロル』(2015年)から『アンブレラ・アカデミー』まで話題作に続々出演しているジョン・マガロが部隊のお喋りキャラを演じ存在感を発揮している。
この主要キャストからお察しいただけるように本作には抜きん出たスター俳優こそ出演していないものの、いわゆる“知ってる人は知ってる”注目俳優が集結。そんな彼らの物語を大御所のJ.J.エイブラムスが製作するという、かなり実験的な作品でもある。しかし、だからこそ奇抜かつユニークな映画になったとも言えるだろう。
予想できない展開がクセになる! 見事なジャンル・スイッチ・ムービーである所以
物語は第二次世界大戦中の1944年、英米連合軍がフランス領に乗り込んだノルマンディー上陸作戦、通称“オーヴァーロード作戦”から始まる。主人公ボイスの所属する部隊はドイツ占領下にあるフランスのとある村に潜入し、連合軍の通信を妨害している電波塔の破壊を命じられる。
ナチスがはびこる森に飛び降りる際に多くの仲間を失いながらもフォード伍長らと合流したボイスは、村に向かう道中で出会った村娘にかくまってもらうことに。彼女いわく、ナチスは教会で“ある実験”を行っていて、村人は実験の被験体として駆り出されているという。やがてボイスは教会内部に単独潜入するが、そこで謎の研究所を目撃してしまい……。
ジャンル・スイッチ・ムービーとは文字通り、ジャンルが途中で変わる映画のこと。本作の場合、前半は完璧な戦争映画で、その緊迫感は『地獄の黙示録』(1979年)そのもの。しかし後半、ナチスの恐ろしい“実験”の真相にたどり着いたところでジャンルが変わりはじめる。
一般的にはジャンルが途端に変わるということは、脚本がうまく作り込まれていないと違和感を感じる場合が多い。その点、本作では戦争に対する恐怖が前半でしっかり描かれていて、その渦中にいるキャラクターへの感情移入が済んでいるため違和感は皆無。すでに我々は彼らの目線で戦争やナチス軍に怯えていて、さらに同じ目線で予期せぬ“何か”に怯えることになるのだ。
例えば、これが単純な“ナチスゾンビもの”だったら目の肥えた観客はすでに他の映画でそのジャンルを見てきているから、「はいはい、ゾンビね」と構えられるのだが、この映画は一味違う。というか、ゾンビではなくて……今までに見たことのないようなタイプのものなのだ。ゾンビなら「頭を潰せば死ぬ」というお約束ルールがあるし、そのことは我々もよく知っている。しかし、本作における“それ”は一体どうしたら死ぬのか皆目見当もつかない。
これが、劇中で“それ”を初めて目の当たりにした兵士たちと同じ目線で怯えることができる大きな理由になっている。ちなみに、フォード伍長を演じるワイアットの父カート・ラッセルが主演した『遊星からの物体X』(1982年)がエイブラムスの理想のモンスター・ホラーだそうで、本作のクリーチャーを紐解く上での重要なポイントになっていることが伺える。
最初の10分間を見逃すな! 脳裏に焼きつく圧倒的な映像とアクション
筆者は、特に映画が始まってから10分ほどのシークエンスに痺れまくった。軍事機に乗った空挺師団が降下までに各々心の準備をしたり、雑談をしたり士気を高め合う中、目的地付近で途端に相手の戦闘機からめちゃくちゃに攻撃を受ける。無数の銃弾を受けて機体には穴が空き、座っていた兵士たちの一部も被弾して大パニック。このまま乗っていても爆破されるのがオチなので、みんな急いで列になって降下し始める。
当然その最中にも攻撃を食らい、すぐ隣の兵士が突然撃ち殺されたりと、かなりスリリング。そして我々もボイスと共に、緊張感と恐怖を抱えたまま敵の爆撃の中、勢いよく地上に落ちていく。この時のカメラワークが、ボイスと同じ目線→落ちてくるボイスを下から見上げる目線に切り替わることで、彼がいかにヤバい状況の中で落ちているのかが理解できる。思わず「ひゃー!」と声が出て背筋が凍る気分だった。エイブラムス自身も、この輸送機が急降下して墜落するシーンについて「素晴らしいの一言に尽きる」と公式インタビューで語っているほどだ。
この圧倒的な映像は、冒頭だけにとどまらず映画全体を彩っている。特にクライマックスの爆発シーンなんかは、「こういう風に撮っているんだろうな」と想像できるクラフト感を感じつつも、やっぱり鬼気迫るものがあって慄いてしまう。さらにアクションも最高で、兵士たちの肉弾戦はもちろん本作の紅一点である村娘クロエもバリバリ銃を使うからカッコいい。
エイヴァリー監督の映像に対するアプローチは並外れたもので、カメラレンズにも工夫を施している。撮影を担当したファビアン・ワグナーは、古く歴史のあるアナモフィックレンズを使うことでシャープさを除き、本当に過去に作られた映画のような感覚を与えた。加えて、近年多く見受けられる“彩度を落とした戦争映画”とは反対に鮮やかな色彩を取り込み、本物の景色と見まごう戦争映画を作ることに成功したのだ。
リアルを追求することで非現実を現実的に捉えることができる
兎に角、本作は脚本が面白い。それもそのはず、脚本を担当したのはアカデミー受賞作『レヴェナント:蘇りし者』(2015年)でA・G・イニャリトゥ監督と共に脚本を手がけたマーク・L・スミスだ。彼の『オーヴァーロード』における目標は、前半をしっかり史実に沿ったリアリティのあるものにすることであり、「1944年に起こっていることに敬意を払いながら、幻想的な要素も混ぜ合わせる必要があった」と語っている。
これを実現するにはキャストの役作りも欠かせない。本作の製作陣は、元米海兵隊軍曹のフレディ・ジョー・ファーンズワースを軍事アドバイザーに招く。彼は、「落下傘部隊を描く本作は一般の観客を楽しませると同時に、軍事マニアを当惑させないようなものにする必要がある」と考えた。そこで、主要キャスト5名をケータイやテレビ禁止のブートキャンプに放り込み、肉体強化はもちろんキャンプで得たストレスや絆をそのまま演技に反映させたのだ。
徹底的にリアリティを追求した前半の描写があるからこそ、後半の幻想的な要素も現実の一部と錯覚してしまう。それこそがまさに、本作が優れたジャンル・スイッチ・ムービーたる最大の理由だろう。この迫力満載の映像や音響は、ぜひ映画館で楽しむことをお勧めする。
文:アナイス
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『オーヴァーロード』は2019年5月10日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
『オーヴァーロード』
極秘裏に企てられたナチスの陰謀とは?そして彼らは電波塔の爆破作戦を遂行することができるのか!?
制作年: | 2018 |
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監督: | |
出演: |