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韓国映画界の本気!航空パニックにバイオテロの恐怖を豪快にトッピング 『非常宣言』レビュー【前編】

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ライター:#ギンティ小林
韓国映画界の本気!航空パニックにバイオテロの恐怖を豪快にトッピング 『非常宣言』レビュー【前編】
『非常宣言』© 2022 SHOWBOX AND MAGNUM9 ALL RIGHTS RESERVED.

ここ数年、韓国映画界が送り出すパニック映画が熱い。『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016年)、有毒ガスに覆われた高層ビルからの脱出劇を描いた『EXIT イグジット』(2018年)、タイトル通りの大惨事が起こる『白頭山大噴火』(2019年)などグッと来る作品ばかり。

そして2023年早々、韓国映画界が、持てる力をフル活用して生み出した新たなパニック映画『非常宣言』が日本公開中だ。今度は航空パニック・ムービーだ。アニマル・パニックから災害パニックまで幅のあるパニック映画の中でも、航空パニックは個人的にはトップクラスに恐ろしい……。

『非常宣言』© 2022 SHOWBOX AND MAGNUM9 ALL RIGHTS RESERVED.

航空パニックにバイオテロの恐怖を豪快にトッピング

爆弾テロの恐怖を描いた『大空港』(1970年)が大ヒットして以来、様々な航空パニック・ムービーが作られた。

自家用機と衝突し、パイロットを失った旅客機を客室乗務員が操縦する羽目になる『エアポート’75』(1974年)。ハイジャックされた旅客機がバミューダ海域に不時着する『エアポート’77/バミューダからの脱出』(1977年)。旅客機が戦闘機に追撃される『エアポート’80』(1979年)。機内でテロ・グループとウェズリー・スナイプスが戦う『パッセンジャー57』(1992年)、護送中の凶悪犯が機内で大暴れする最中、悪天候も襲ってくる『乱気流/タービュランス』(1997年)。ハイジャック犯を制圧するため、超頼りにしていたスティーヴン・セガールが作戦開始前に死んじゃう……という予想外すぎるアクシデントを描いた『エグゼクティブ・デシジョン』(1996年)。機内で怪奇現象が起こる『7500』(2014年)。空輸していた無数の毒蛇が機内に解き放たれる『スネーク・フライト』(2006年)などなど。どれもパニック映画的には素敵なアイデアだが、実際に遭遇したら正気を保てる自信がない。

航空パニック・ムービー以外のパニック映画なら、災難に遭う人たちの行動には色んな選択肢がある。逃げようとしたり、喰い止めようとしたり、人命救助したり等。しかし、航空パニック・ムービーで機内に閉じ込められた乗客たちは、なす術がなさすぎる……。そもそも逃げ場がないんだから。ただひたすら、己の無力さを痛感するしかない。

そんな(僕的には)パニック映画界で最も怖い航空パニックに今回、韓国映画界が挑んだ。しかし、先にも挙げたように航空パニックは、すでに考える限りの災難を描いてきた。それに韓国発の航空パニック・ムービーといえば、すでに『ノンストップ』(2020年)がある。この作品は、ハイジャックされた旅客機内で<テロ・グループVS人質>となった乗客の中にいた元エージェント夫婦の戦いを描いた、航空パニックに「ナメてた相手が、実は殺人マシンでした」ムービーをトッピングしたアクションコメディだった。

もう、これ以上、新しい航空パニック・ムービーを作る事は不可能なのでは……と思いきや、今回紹介する『非情宣言』は、航空パニック・ムービーの限界値を鮮やかに更新! なんと本作では航空パニックにバイオテロの恐怖を豪快にトッピング! その結果、観客の予想を嘲笑うかのごとき最悪の事態が次々と勃発してしまう弩級の大作パニック・ムービー超大作が誕生!

2022年の夏、韓国ではIMAXだけではなく、4DXとScreenXがドッキングした4DXスクリーンでも上映され、200万人を超える観客動員を記録した。

ソン・ガンホ&イ・ビョンホン 4度目の共演作

監督はソン・ガンホ主演作『優雅な世界』(2007年)、『観相師-かんそうしー』(2013年)、チョン・ウソン主演作『ザ・キング』(2017年)を手がけたハン・ジェリム。彼はパニック映画史上前人未到の航空テロ事件をリアルに描くため、製作前にパイロット、航空会社の従業員、テロを担当する刑事、および空軍関係者を徹底的に取材している。

主演を務めるのはソン・ガンホとイ・ビョンホン。これまで2人は『JSA』(2000年)、『グッド・バッド・ウィアード』(2008年)、『密偵』(2016年)で共演してきたが、いずれも確実に死者が出る、ただごとじゃない状況を描いた作品ばかり。今回、4度目の共演を果たしたのが『非常宣言』。

『非常宣言』© 2022 SHOWBOX AND MAGNUM9 ALL RIGHTS RESERVED.

このタイトルは、「航空機が危機に直面し、正常な飛行が不可能になった時、無条件の着陸を要請する緊急事態」を意味する航空用語で、「航空運行における戒厳令の布告に値する」という。どう考えても、2人の共演作史上最もただごとではない……。だからこそパニック映画的には期待が高まる。

他の出演者も見逃せない。まずは、男性アイドルグループZE:A(ゼア)のメンバーであり俳優のイム・シワン、『ハウスメイド』(2010年)に主演したチョン・ドヨン、『殺人者の記憶法』(2017年)で連続猟奇殺人犯を演じたキム・ナムギル、『麻薬王』(2018年)でソン・ガンホ演じる主人公の妻を演じたキム・ソジンたちが確かな演技スキルで本作のパニック濃度を高めてくれる。

ブレーキが壊れた不気味なテロリストをZE:Aのイム・シワンが好演

手練れぞろいの出演者の中でも個人的にプッシュしたいのがイム・シワン。彼が演じるのは、本作の災難の原因となるリュ・ジンソク。人知れず殺人ウイルスを開発したジンソクは、「自分の命と引き換えにしても、とにかく大量に人を殺したい」という1ミリも共感できない夢に向かって突き進む超迷惑な人物。

映画冒頭の登場シーンから素晴らしい。ジンソクは空港のカウンターで航空券を買おうとしている。彼は涼し気な表情で、カウンターの女性スタッフにこうたずねる。

「乗客が大勢乗る便は?」

彼は行き先を決めていない。その場のフィーリングで、バイオテロを起こす飛行機をチョイスしようとしているのだ……。当然、女性スタッフは困惑気味になり、「お客様はどちらまで?」と問い返す。が、それでもジンソクは、「長距離で大勢行けるところがいいな」と言い、その後も淡々と「一番乗客が多い便を教えて欲しい」と聞くばかり……。

「お客様の情報を教えるわけにはいきません」と営業スマイルを懸命に浮かべながらも困り果てる女性スタッフに向かって、ジンソクは冷めた顔つきで静かに、かつハッキリと言い放つ。

「そんなふうに笑うな。クズのくせに」

どうです、薄気味悪いでしょう? イム・シワンといえば世間的には気品と柔和なムードを漂わせる二枚目というイメージのオーナー。しかし、本作では物静かだが、いちいちブレーキが壊れている、不気味なテロリスト像を披露してくれる。

『非常宣言』© 2022 SHOWBOX AND MAGNUM9 ALL RIGHTS RESERVED.

パニック映画ファンならびに常軌を逸した犯罪者が登場する作品が大好きな映画ファン的には、期待に胸をパンパンにさせて間違いないジンソクは、ある理由でホノルル行きの旅客機に乗ることに決める。その飛行機には、小学生の娘と共にハワイに行くシングルファーザーのパク・ジェヒョク(イ・ビョンホン)や、職務のため夫婦で行くはずだったハワイ旅行をドタキャンしたク・イノ刑事(ソン・ガンホ)の妻など大勢の乗客が乗っていた。韓国発地獄行きのクラスター・フライトと化す事も知らずに……。

文:ギンティ小林

『非常宣言』は1月6日(金)より全国公開中

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『非常宣言』

娘とハワイへ向かう飛行機恐怖症のジェヒョク(イ・ビョンホン)は、空港で執拗にふたりにつきまとう謎の若い男(イム・シワン)が、同じ便に搭乗したことを知り不安がよぎる。KI501便はハワイに向け飛び立つが、離陸後間もなくして、1人の乗客男性が死亡。直後に、次々と乗客が原因不明で死亡し、機内は恐怖とパニックの渦に包まれていく。一方、地上では、妻とのハワイ旅行をキャンセルしたベテラン刑事のク・イノ(ソン・ガンホ)が警察署にいた。飛行機へのバイオテロの犯行予告動画がアップされ、捜査を開始するが、その飛行機は妻が搭乗した便だったことを知る。また、テロの知らせを受けた国土交通大臣のスッキ(チョン・ドヨン)は、緊急着陸のために国内外に交渉を開始する。副操縦士のヒョンス(キム・ナムギル)は、乗客の命を守るため奮闘するが、飛行を続けるタイムリミットが迫り、「非常宣言」を発動。しかし、機体はついに操縦不能となり、地上へと急降下していく。

見えないウイルスによる恐怖と、墜落の恐怖。高度28,000フィート上空の愛する人を救う方法はあるのか―!?

監督/脚本:ハン・ジェリム

出演:ソン・ガンホ イ・ビョンホン、チョン・ドヨン、キム・ナムギル、イム・シワン、キム・ソジン、パク・ヘジュン

制作年: 2022