夫婦役ハリー・スタイルズとフローレンス・ピューの相性は? 怪奇スリラー『ドント・ウォーリー・ダーリン』オリヴィア・ワイルド監督作

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ライター:斉藤博昭
夫婦役ハリー・スタイルズとフローレンス・ピューの相性は? 怪奇スリラー『ドント・ウォーリー・ダーリン』オリヴィア・ワイルド監督作
『ドント・ウォーリー・ダーリン』 © 2022 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

『ブックスマート』で俳優から監督へ

スター俳優から監督へと転身し、演技と同じくらい、いやそれ以上に才能を発揮するケースは多々ある。ロバート・レッドフォード、ジョディ・フォスター、メル・ギブソン、ジョージ・クルーニー……と、いくらでも名前を挙げられるが、このリストに仲間入りしたのが、オリヴィア・ワイルドだ。

オリヴィア・ワイルド

ドラマ『The O.C.』(2003~2007年)で注目され、『Dr.HOUSE ―ドクター・ハウス―』(2004~2012年)や、2010年の映画『トロン:レガシー』のヒロイン役、2013年の『ラッシュ/プライドと友情』などで着実に俳優のキャリアを築いていたオリヴィア・ワイルド。そんな彼女が新たな才能を開花させたのが、2019年の初監督作『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』だった。

「演技はジャーナリズムに近い」

遊んでばかりの同級生たちを横目に、勉強一筋で学校生活を送り、一流大学への進学も決めた2人の女子高生。最後くらいバカ騒ぎしようと、呼ばれてもいない卒業パーティーに乗り込もうとする一夜が描かれるのだが、これが痛快そのもの。リアルなセリフの応酬に、高校生ならではの感受性、主人公の一人をレズピアンにしたことの効果、何より一夜のドラマの絶妙なテンポが気持ちよく、ワイルドの監督としてのセンスがいかんなく発揮された。

この『ブックスマート』は作品自体の高評価とともに、ワイルドにさまざまな新人監督賞の受賞やノミネートをもたらした。『トロン:レガシー』でインタビューした際に、ワイルドはこんなことを語っていた。

私の祖父や両親はジャーナリストなので、私にもその血が流れている。演技は、人生の真実を伝えるからジャーナリズムに近い。時には社会の正義を観客に教えることもできる。

ジャーナリズムの精神で作品を通して何かを伝えたいというワイルドの信念は、俳優という枠を超えて監督業の方が達成しやすかったのかもしれない。

監督2作目『ドント・ウォーリー・ダーリン』で大胆チャレンジ

そんなオリヴィア・ワイルドの、待望の監督2作目が『ドント・ウォーリー・ダーリン』である。青春コメディ映画で大成功を収めたワイルドなので、その流れで来るかと思いきや、よりハイレベルなジャンルに挑戦。予想を裏切って進むサスペンススリラーで、監督としての野心がみなぎる一作を完成させた。

『ドント・ウォーリー・ダーリン』 © 2022 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

巨匠のような手さばきで複雑怪奇な世界を演出

都会の喧騒から離れたユートピアのように美しい街で、愛する夫のジャックと新たな生活を始めたアリス。平和でリッチな暮らしが保証されているその街では、いくつかの厳しいルールがあった。夫の仕事の内容を聞くことは禁止。妻は家で専業主婦でいること。パーティーには必ず夫婦で出席すること……などなど。ある日、アリスは近所の女性が怪しげな男たちに連れ去られる光景を目撃する。そこから、彼女は街のルールや夫の仕事に疑惑の目を向け始めるが、逆に変人扱いされ、精神の治療も受けることになってしまう。

『ドント・ウォーリー・ダーリン』 © 2022 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

ティム・バートン監督の『シザーハンズ』(1990年)を思わせる美しい住宅地に、専業主婦ばかりの街に不穏な空気が漂う『ステップフォード・ワイフ』(1975年/2004年)、さらに社会がどこか不自然で、自分以外は何かに操られて生きていることがわかる『トゥルーマン・ショー』(1998年)……と、一見、ユートピアのような場所を舞台にしたさまざまな作品が脳裏をかすめながら、この『ドント・ウォーリー・ベイビー』は、独特なムードと展開で進んでいく。結末を予想しながら観ていても、どこか不思議な空気に支配されていく感覚だ。

『ドント・ウォーリー・ダーリン』 © 2022 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

この複雑怪奇な世界を演出するオリヴィア・ワイルドは、2作目にしてどこか巨匠のような手さばき。アリスが感づく生活の違和感を、小さなエピソードを積み重ねながら、われわれ観客にも静かに浸透させていく。あからさまな描写を避け、ネタを“小出し”にする手腕が効果的。要所ではかなり大がかりでダイナミックなアクションも見せるし、現実と幻覚のボーダーがわからなくなるシーンもスリリングに映像化。ダンサーを幾何学模様で見せるミュージカル映画の“伝説”バスビー・バークレーへのオマージュも鮮やかだ。

『ドント・ウォーリー・ダーリン』 © 2022 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

何より、全体のデザインが秀逸で、各家庭のインテリア、衣装、ヘアスタイルは、1950〜1960年代からインスパイアされつつ、どこか未来的なエッセンスも取り込まれ、観ているだけでテンションが上がる。オリヴィア・ワイルドは、総合芸術として映画に取り組んでいるのだろう。

『ドント・ウォーリー・ダーリン』 © 2022 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

俳優の気持ちを別次元に引き上げる演出力

そして本作でのワイルドの真骨頂は、俳優の魅力を引き出す部分で最大限に発揮される。このあたりが俳優出身の監督らしい。

アリス役がフローレンス・ピュー、夫のジャック役がハリー・スタイルズと、いま最高に乗っている2人をキャスティング。ピューは、得体の知れない世界に巻き込まれつつ、逞しさで立ち向かうプロセスで、当たり役となった『ミッドサマー』(2019年)を彷彿とさせるし、『ダンケルク』(2017年)をきっかけに俳優業に専心し始めたスタイルズは、演技の初々しさがまだ保たれ、いい意味での不安定感が役にマッチしている。本作とほぼ同時に配信が始まる『僕の巡査』(2022年)でのゲイ役と観比べれば、一人の俳優の急成長ぶりを実感できるはず。

『ドント・ウォーリー・ダーリン』 © 2022 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

ピューとスタイルズのラブシーンは、濃密で幸福に満ちているようで、どこか不穏さも漂い、このあたりにオリヴィア・ワイルドの、俳優の気持ちを別次元に引き上げる演出力がはたらいた気もする。

そのほか、街全体のプロジェクトで重要な地位に立つフランク役のクリス・パインは、これまでの代表作であるアクション大作で強調されたアクティブな側面が、今回は逆方向で効果的にはたらき、新境地の印象。

『ドント・ウォーリー・ダーリン』 © 2022 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

そして物語の中でやや難しい立ち位置であるフランクの妻を、オリヴィア・ワイルド自ら器用にこなしており、俳優で“魅せる”という『ドント・ウォーリー・ダーリン』の持ち味は、監督のセンスによって達成されたと言えそうだ。

『ドント・ウォーリー・ダーリン』 © 2022 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

文:斉藤博昭

『ドント・ウォーリー・ダーリン』は2022年11月11日(金)より全国公開

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『ドント・ウォーリー・ダーリン』

完璧な生活が保証された街で、アリスは愛する夫ジャックと平穏な日々を送っていた。そんなある日、隣人が赤い服の男達に連れ去られるのを目撃する。それ以降、彼女の周りで頻繁に不気味な出来事が起きるようになる。
次第に精神が乱れ、周囲からもおかしくなったと心配されるアリスだったが、あることをきっかけにこの街に疑問を持ち始めるー。

監督:オリヴィア・ワイルド
脚本:ケイティ・シルバーマン

出演:フローレンス・ピュー ハリー・スタイルズ
   オリヴィア・ワイルド ジェンマ・チャン
   キキ・レイン ニック・クロール
   クリス・パイン

制作年: 2022

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