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“空飛ぶ石頭”と「指輪物語」の関係は?『未来惑星ザルドス』濃厚解説! 超カルト映画が4K復活上映

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ライター:#多田遠志
“空飛ぶ石頭”と「指輪物語」の関係は?『未来惑星ザルドス』濃厚解説! 超カルト映画が4K復活上映
『未来惑星ザルドス』©1974 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPOLATION

永遠のカルト映画

カルト映画」と呼ばれる映画は多々あれど、かつては深夜の劇場でひっそり、しかし熱狂的に上映されていた。しかしいまでは、そんな「幻の作品」が製品化されるだけではなく、配信サービスで映画の方からご自宅にやってくる時代になってきた。

「実は『シェーン』(1953年)ではシェーンはクライマックスの銃撃戦で一発食らっていて、ラスト遠くに消えていく最後にがっくりと崩れる」などの“映画都市伝説”。これらは1回限りの劇場鑑賞が生み出すものだったが、今では家で「問題のシーン」を繰り返し観ることができ、高画質ゆえ『ゾンビ』(1978年)のヘリで頭を切り飛ばされるゾンビも、頭部を引っ張るワイヤーが見えてしまう。映画の魔法は暴かれがちな昨今なのだ。

『未来惑星ザルドス』©1974 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPOLATION

そんな現代でも未だ「カルト映画」として君臨する、『未来惑星ザルドス」』(1974年)が4Kデジタルリマスターでリバイバル公開される。監督は『脱出』(1972年)や『エクソシスト2』(1977年)などの名匠、ジョン・ブアマン。主演はショーン・コネリーシャーロット・ランプリングである。

予算不足で監督宅に下宿!? ショーン・コネリー出演のワケ

遙か未来の2293年。地上世界は限りある命の<ブルータル>が棲んでおり、ボルテックスという天界のような世界に住む不死者<エターナルズ>に支配されていた。地上とボルテックスを繋ぐのは空を飛ぶ巨大な石の頭<ザルドス>のみ。ザルドスを通じて育てた穀物をボルテックスに送る、身分制度の敷かれた生活であった。

ボルテックスから送られた武器で治安を守る、エクスタミネーターの1人であるゼッドはこの世界に疑問を抱き、ある日ザルドスに密かに乗り込みボルテックスに潜入する。ゼッドが知る驚きの世界の真相とは……?

『未来惑星ザルドス』©1974 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPOLATION

物語のベースは『ジョン・カーター』(2012年)の原作でもあるSF小説「火星シリーズ」のような“剣と惑星もの”。これは『コナン・ザ・グレート』(1982年)などに代表される“剣と魔法もの”の発展系といえるものだ。

オープニングタイトルで、舞台は2293年と未来の設定であることが分かるが、もともとブアマンの頭の中では現代劇のつもりだった。当初は、恋人がコミューンに去ってしまった大学教授があきらめきれず、彼女の暮らす共同体を訪れるという物語だった。ブアマンは実際にコミューンを訪れリサーチしたが、社会が崩壊した未来の映画にしようと決めたのだ。

主人公ゼッド役にはブアマンの前作『脱出』の主演、バート・レイノルズが候補に挙がっていたが、病気で断念。そこで白羽の矢が立ったのが、『007/ダイヤモンドは永遠に』(1971年)でジェームズ・ボンド役を降板して以降、演技の方向性に悩んでいたショーン・コネリーだった。そのため破格のギャラで契約することができたと言われている。低予算映画でコスト削減のため、コネリーは自分の車で撮影現場入りし、撮影中はブアマンのアイルランドの自宅に宿泊。律義にも毎週末、ブアマンの妻に宿泊代を払っていたそうだ。

ロケ地となったアイルランドは、当時IRA(アイルランド共和軍)の攻撃が頻発していたので、撮影のためのプロップガンは持ち込みが許されなかった。クライマックスで大量に銃器の置いてあるシーンも、かなりの銃がブアマンによる手書きである。

ちなみにゼッドの持つ拳銃は、455ウェブリー=フォスベリーという英国製のセミオートマチック・リボルバー。発射の反動で自動的に撃鉄を起こす独特の機構を持ち、連射性能に優れたリボルバーとオートマチック拳銃の中間的存在で、映画に登場するのは大変レアな珍銃。『天空の城ラピュタ』(1986年)でムスカが用いている拳銃の親戚的な存在で、これも見所だ。

そして本作といえば、なんと言ってもタイトルにもなっている、空を飛ぶ巨大な石像の頭<ザルドス>である。ネイティブアメリカンの部族やヨーロッパなどに、ザルドスのような「フライングヘッド」の伝説が存在している。どの伝説でも満たされない飢えに呪われた霊の顕在化したものだ。このような世界の神話、伝承を元に、ザルドス世界はブアマンが一から創造していったのだ。

『未来惑星ザルドス』©1974 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPOLATION

『ザルドス』は「指輪物語」実写化企画頓挫から始まった

もともと現代劇だった脚本がここまでの奇想SFファンタジーになったのには、ある有名作品が関係している。実はブアマンはこの映画を、J・R・R・トールキンの「指輪物語」の映画化企画が頓挫された後に構想し始めたのだ。

トールキンが一から自分の神話世界、<中つ国>を作り上げていったように、ブアマンは奇妙な新しい世界の創造に注力し続けた。ザルドスの物語はトールキンの影響が濃厚なのだ。

『未来惑星ザルドス』©1974 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPOLATION

ブアマンは監督、脚本、プロデューサーを務め、衣装デザインも妻が担当、音楽もブアマン自身が関わった。未来では音楽は旧世界の楽器で奏でられている、というコンセプトで作曲家に中世の楽器を用いさせ、そこにベートーベンの交響曲第7番をミックス、聴いたことのない音楽を生み出した。

余談だが、数年後に再度ブアマンによる「指輪〜」の映画化企画が持ち上がったが実現せず、この時は『エクスカリバー』(1981年)として結実する。そのためか、本作にはすでに、アーサー王伝説の要素も多分に入っている。

何よりザルドス制作当時は、CGなどの特殊効果はほぼない時代であり、様々な当時の技術での試行錯誤の結果としての圧倒なビジュアルに眼を見張る。実は撮影にはノンクレジットながら、親交のあったスタンリー・キューブリックもテクニカルアドバイザーとして参加したと言われている。

野心的で圧倒的なビジョンは壮大だったが、予算や技術面の都合もあり、ブアマンが思い描いていたもの、撮りたかったものは入りきらず、描ききれなかった。

コネリーを『007』のイメージから脱却させた作品

批評家方面は映像の迫力、先駆性は認めながらも、「わけが分からん」と酷評、興行成績もふるわなかった。しかし後年になって、80年代以降は「『スター・ウォーズ』(1977年)よりも何年も前にSF世界を作り上げた映画」「ブアマンの最高傑作」「最も過小評価されている映画」などと再評価。「もっとも楽しめるバッドムービー100」などのランキングにも頻繁に顔を出す、カルト映画として再発見された作品であると言っていい。

『未来惑星ザルドス』©1974 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPOLATION

「この世界は作り物かも」という感覚は、内的SFの先駆けだし、あまりに早すぎた作品だったといえる。当時はSF映画といえばスペースオペラくらいしかなく、新しいものでも『2001年宇宙の旅』(1968年)くらい(こちらも公開当時は「わけ分からん」と言われていた)。そんな時代に、ブアマンは「指輪物語」の企画をきっかけに、自分の描きたい世界を突き詰めていくことで、トールキンと同様に世界設定や神話など、架空の世界を一から造りあげてしまった。ブアマンはザルドス世界、その神話の創造主なのだ。

考えてみるとこの作品は、コネリーにとっても転機となった1本なのではないか。ボンド役のあと仕事がなく伸び悩んでいた時に、本作のゼッドのような思い切った役柄を演じきり、ジェームズ・ボンドという世界一キャラの立った役から脱却することができた。その後、コネリーが『アンタッチャブル』(1987年)、『ザ・ロック』(1996年)、『ドラゴンハート』(1996年)等々、様々な役をこなす大物俳優としてキャリアをさらに積み重ねていったのはご存じの通りで、その転機となった作品が『ザルドス』だったのではないか。

『未来惑星ザルドス』©1974 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPOLATION

のちにコネリーが『ロード・オブ・ザ・リング』のガンダルフ役の候補に挙がっていたことを考えると、やはりブアマン版「指輪物語」、見てみたかったものである。

まだ誰も見たことのないディストピアを味わい、食らいにいく

近年、我々は映画に対し、やれ元ネタが~とか、このシーンの意味は何か、などとすぐに考えがちである。見た映画が分からなかったら、SNSや動画サイトで答えを探す、そんな鑑賞スタイルが普通になっている。かつては、あの『新世紀エヴァンゲリオン』(1995~1996年)ですら多くの謎をバラまいて終わったところが、最近完結した『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(2020年)ではある種の答えを出して完結しているのも、時代性と決して無関係ではないだろう。

この手の「答え」は、大抵「もうそのことについて考えなくて済むため」に求めていることが多いのではないか。しかし一方、すぐにまとめサイトや「映画の見方がわかる本」的なものに頼らず、その映画を見て「???」となったのを機に、監督の関連作品、参考図書などに当たったりして自力で何とか理解しようとする……そんな、作品の持つ「謎」を楽しむ、という見方もあるだろう。

『未来惑星ザルドス』©1974 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPOLATION

実はブアマン、この映画を作るためにドラッグ体験を利用していた。脚本執筆時や撮影当時も、薬物体験の強い影響があったと認めている。それだけでなく、何で撮ったのかわからないシーンや、覚えていないシーンもあるということだ。だからこちらが「???」となるシーンがあるのも当然である。

撮ったブアマン自身も分からないのだから、我々も考えるというより、ブアマンが全精力を込め、当時の有らん限りの技術を投入して作り上げた、まだ誰も見たことのない未来のディストピア<ザルドス>を、まるでジェットコースターに乗るかのように味わい、食らいにいく、そんな映画体験もいいのではなかろうか。

どこかに少しでも違和感を感じたら、それがザルドス世界への入り口

時代への不安から来る自己の存在の不確かさを描いたSFやホラー映画は、不安定さを増した現代社会でのリメイク話も多い。『プリズナーNo.6』(1967~1968年)などのリメイク(2009年)もあったが、最近では『ウエストワールド』(1973年/2016年~)もドラマ化され大ヒットしている。近々でも『ウィッカーマン』(1973年/2006年)のドラマ化企画が進行中という報もあった。『ザルドス』も、リメイクやその世界をさらに広げたドラマなどの展開も可能な素材かと思う。

余談だが、ジョン・ブアマンの息子、チャーリーは映画監督となり、2009年にドキュメンタリー『Right to the Edge: Sydney to Tokyo by Any Means(原題)』の撮影でパブアニューギニアを訪れた。そこで『ザルドス』に登場する物と全く同じ仮面をかぶった部族に出会ったそうである。ザルドス世界は、実は現実世界と地続きなのかもしれない。

『ザルドス』の公式Twitterアカウントも活発に動いており、本作のコネリーの姿に類似した“映画史に登場した赤ふんキャラ”の画像を連投したり、怪しげな本編のセリフの引用をしたりと、様々なアプローチをしている。

予告映像でも、メインビジュアルでも、コネリーの赤ふん姿でも、ザルドス世界のどこかしらに「何これ?」と引っかかり違和感を感じた人には、ぜひ『ザルドス』を浴びてもらいたい。そこから様々な興味が広がっていくかもしれない。

文:多田遠志

『未来惑星ザルドス』は2022年11月4日(金)よりシネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー

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『未来惑星ザルドス』

2293年、人類は不老不死の社会を実現。特権階級の永遠人(エターナルズ)たちは、外界から隔絶された透明ドーム(ボルテックス)の中で平和で優雅な毎日を過ごしていた。彼らは空飛ぶ巨大神像ザルドスを建立、それを崇める撲滅戦士(エクスターミネーターズ)たちを操り、荒廃した外界に棲む獣人(ブルータルズ)たちの搾取と殺戮を続けている。だがある日、撲滅戦士のリーダー、ゼッドは、着陸したザルドスの口内に身を隠し、ドーム内に潜入。ザルドス=神の忠実な下僕だったはずのゼッドの目的とは一体?

監督・脚本・製作:ジョン・ブアマン
撮影:ジェフリー・アンスワース
衣装デザイン:クリステル・クルース・ブアマン
音楽:デヴィッド・マンロー

出演:ショーン・コネリー シャーロット・ランプリング
   サラ・ケステルマン サリー・アン・ニュートン
   ジョン・アルダートン ニアル・バギー

制作年: 1974