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インド映画界の“家系”スターも楽じゃない!? 『RRR』ラーム・チャランの山あり谷あり15年を総まくり

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ライター:#安宅直子
インド映画界の“家系”スターも楽じゃない!? 『RRR』ラーム・チャランの山あり谷あり15年を総まくり
『RRR』来日舞台挨拶に登壇したラーム・チャラン

2022年10月21日より公開中のインド映画『RRR』の主役の1人、そして過去主演作『マガディーラ 勇者転生』(2009年)がCS映画専門チャンネル ムービープラスで10~11月に放送されるラーム・チャランについて、その15年の軌跡をざっくり振り返ってみましょう。

筆者撮影

テルグ語映画界の華麗なる「お家制度」

コニデラ・ラーム・チャラン・テージャは、1985年にタミルナードゥ州の州都マドラス(現チェンナイ)で生まれました。父はテルグ語映画界の“メガスター”チランジーヴィ。ツテもコネもないところから映画界に入り、圧倒的なダンスと迫力のアクションで「怒れる若者」像を演じて1980年代にスターダムに上り、現在までテルグ語映画界の頂点に立ち続ける俳優です。

そのチランジーヴィが有名俳優アッル・ラーマリンガイヤの娘と結婚して、ラーム・チャランと2人の姉妹が誕生。また両家はプロデューサー、俳優を幾人も擁する映画ファミリーとして存在感を増しました。

『マガディーラ 勇者転生』の現地公開時の街頭ポスター。中央に父チランジーヴィ、右端の叔父のパワン・カリヤーン。上部の円の中には従兄のアッル・アルジュンの顔も見える。その他の人物はファンクラブの幹部と思われる。2009年9月、アーンドラ・プラデーシュ州ヴィジャヤワーダにて筆者撮影

テルグ語映画界の特異な構造は、5つから7つほどあるこうした映画ファミリーが、業界の最上部を独占し、巨費を投じた娯楽アクション大作を作り続けていることです。ファミリーの中心は看板となるスター男優。筆者はこれを勝手に「“家系”男子」と呼んでいます。これらファミリー以外の俳優ももちろんいますが、彼らは“家系”スターの作品に脇役出演したり、低~中予算映画で主演したり、コメディアンや悪役一筋で活躍する人がほとんどです。

『マガディーラ 勇者転生』の現地公開時の映画館ゲートの飾り。筆者撮影

一方、映画ファミリー出身でも女性で映画人として活躍する人は限られています。その他の映画ファミリーには、NTR Jr.が引っぱるナンダムーリ家、プラバースのいるウッパラパーティ家、ラーナー・ダッグバーティが属するダッグバーティ家などがあります。こうした構造のもとでは、脚本が求める要件を満たす俳優がキャスティングされるのではなく、スター俳優が一定期間おきに新作を送り出すために、適した脚本や監督が選ばれるという逆転も起こりがちです。逆に言えば、作品が失敗した場合はスターが責任を負わされる可能性もあります。

『マガディーラ 勇者転生』の現地公開時の映画館ゲートの飾り。主演のラーム・チャランよりも父のチランジーヴィの方が目立っている。筆者撮影

“家系”男子たちは、「家業としてのスター」を受け継ぐために、幼少時からヒーローデビューを見据えた教育を受けることが多いようです。踊りや馬術・武術など習い事も重要ですが、映画への子役出演や、映画イベントへの出席などにより、早くからカメラや人々の目に晒されることに慣れ、同時に名前を売っておくことも欠かせません。

彼らには(当然のように主演での)デビュー前から公的な愛称があり、ファンクラブが存在することも。コアなファンは俳優個人だけでなくファミリー全体を応援する傾向があるからです。ラーム・チャランの愛称は「チェリー」でしたが、父の“メガスター”チランジーヴィと叔父の“パワースター”パワン・カリヤーンからいただいた「メガパワースター」も加わりました。

巨大なプレッシャーと戦い続けた15年

2007年のデビュー作『Chiruta(原題)』(未公開)封切り時点でラーム・チャランは弱冠22才。チランジーヴィのただ1人の息子として、この柔和な顔の若者にのしかかった期待と重圧は、想像するだけで胃が痛くなります。それは今日に至るまでの15年で主演作が14本(ゲスト出演を除く)しかないことにも表れています。たとえば2008年にデビューした非“家系”俳優、『マッキー』(2012年)に出演のナーニにその倍の出演作があることと好対照です。

『Chiruta』はそこそこのヒット、第2作目の『マガディーラ 勇者転生』は爆発的大ヒットとなりましたが、続く『Orange(原題)』(2010年/未公開)でロマンス中心のストーリーを選んだところ、惨憺たる興行的失敗に。2年後の後続作からは“家系”の基本であるリベンジ・アクションに戻りました。それらの作品はファンを喜ばせ、利益を上げはしたものの、批評家からはしばしばマンネリを批判されました。

『マガディーラ 勇者転生』の現地公開時の街頭ポスター。封切りの劇場で途切れることなく上映が続いた日数をカウントし、節目(この場合は30日)ごとに記念のポスターが新たに作られる。筆者撮影

2013年にはヒンディー語作品に初主演。それはアミターブ・バッチャン主演の歴史的な名作『Zanjeer(原題)』(1973年/未公開)の同名のリメイクで、原作を知る誰もが唖然とする大胆な選択でしたが、壊滅的な失敗となり、地元向けに同時製作したテルグ語版も全く評価されませんでした。北インドの批評家からは「ヒンディー語映画への挑戦は失敗」などとコメントされましたが、テルグの“家系”男子が本気で他言語圏に進出するということは考えられず、これは芸域を広げようという試みのひとつでした。

翌2014年の『誰だ!(原題:Yevadu)』『Govindudu Andarivadele(原題)』(未公開)で持ち直し、特に後者は初めての農村の物語で、しみじみとした情感を表現。『Bruce Lee: The Fighter(原題)』(2015年/未公開)ではコメディーで持ち味を発揮し、『Dhruva(原題)』(2016年/未公開)では筋肉大増量で大人の男を演出するなどして、徐々に演技の幅を広げていきます。続いて、かつてないほどリアリズムに寄った農村映画『Rangasthalam(原題)』(2018年/未公開)では商業的に成功するとともに成熟した演技でも賞讃を浴びました。

同作で彼が演じた主人公は、ダリト(被差別カースト)に属し、軽微とはいえ障碍を持つキャラクターで、これは“家系”スターとしては革命的なことでした。いい感じになってきたところで、続く『Vinaya Vidheya Rama(原題)』(2019年/未公開)は超絶アクションとマッチョさの匙加減を間違えたのか轟沈。

その後3年の沈黙を経て公開された『RRR』は世界的な成功をおさめ、米アカデミー賞の主演男優部門にNTR Jr.と並びエントリーを果たすまでに。そしてすでに撮影が始まっている次作は、『ロボット』『ロボット2.0』(2010年/2018年)のシャンカル監督との初のタッグでのポリティカル・スリラー。かつて「テルグ語映画を手掛けないのか?」と問われた際に、「(スター中心主義ゆえの)制約が多すぎて自分には難しい」と語っていたシャンカル監督をその気にさせたラーム・チャラン、一体どんなものを見せてくれるのか、今から楽しみです。

『RRR』©︎2021 DVV ENTERTAINMENTS LLP.ALL RIGHTS RESERVED.

文:安宅直子

『RRR』は2022年10月21日(金)より公開中

『マガディーラ 勇者転生[完全版]』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「ハマる! インド映画 S.S.ラージャマウリ監督作特集」で2022年10~11月放送

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『RRR』

舞台は1920年、英国植民地時代のインド。
英国軍にさらわれた幼い少女を救うため、立ち上がるビーム。大義のため英国政府の警察となるラーマ。
熱い思いを胸に秘めた男たちが運命に導かれて出会い、唯一無二の親友となる。しかし、ある事件をきっかけに究極の選択を迫られることに。
彼らが選ぶのは、友情か?使命か?

監督・脚本:S.S.ラージャマウリ
原案:V.ヴィジャエーンドラ・プラサード
音楽:M.M.キーラヴァーニ
出演:NTR・Jr. ラーム・チャラン

制作年: 2022