是枝監督インタビュー「カンヌ映画祭は自分を試す場所。“幸せ”なだけじゃない真剣勝負」

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ライター:佐藤久理子
是枝監督インタビュー「カンヌ映画祭は自分を試す場所。“幸せ”なだけじゃない真剣勝負」
是枝裕和監督 写真:ロイター/アフロ ©ムービープラスカンヌ映画祭/第71回授賞式の様子
昨年の第71回カンヌ映画祭は、是枝裕和監督『万引き家族』の最高賞パルム・ドール受賞で幕を閉じた。今年の第72回の出品作も大方見えてきたいま、監督自身にカンヌ映画祭への思い、また、日仏合作の最新作『La Vérité』(原題)について伺った。

パルム・ドール受賞は、初ノミネートから18年間の蓄積が大きいと思っている

昨年のカンヌ映画祭に『万引き家族』を出品し、最高賞のパルム・ドールを受賞した是枝裕和監督。カンヌ以降も本作は日本のみならず世界中で成功を納め、フランスの権威あるセザール賞外国映画賞を受賞した他、アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされた。もっとも、是枝監督はその余韻も冷めやらぬうちにフランスで、カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホークといった国際的なキャストによる新作の撮影を開始し、我が道を突き進んでいる。

今年もカンヌの季節を迎えるなか、昨年のパルム・ドールの実感とこの一年の狂騒をどのように受け止めているのか、そして外からではなかなか見えにくいカンヌの厳しさなども含めて、パリのスタジオで作業中の彼を訪ねてじっくりと語ってもらった。

—昨年のカンヌでみごとパルム・ドールを受賞されましたが、いま振り返って、なぜそこまで評価されたと思われますか。

「初めてカンヌに行ったのが2001年で、カンヌに呼んで頂けるようになって18年が経ち、去年でコンペが5回目を数えました。おそらく一本ずつの評価というよりはそういった蓄積があって、今までの僕の作品を継続的に観てくれている関係者や審査員がいたうえで、あの評価があったんじゃないかと思っています。審査員メンバーだったドゥニ・ヴィルヌーヴも、『誰も知らない』を観てくれていて、今回もそうだが、「いつもどうやって撮ったんだかわからないシーンがある」と言ってくれました。正直、『万引き家族』がとくに今までの作品と何か違うかと言われると、自分でもよくわからない。おそらくカンヌや他の映画祭も含めて、さまざまな積み重ねがあったことが大きかったんじゃないでしょうか」

—カンヌ以後も、本作は是枝映画として過去最高の世界的なヒットを果たし、アカデミー賞にもノミネートされました。そこまで世界的に広がった要因は、テーマの普遍性だと思われますか。

「そうですねえ、たぶん犯罪で繋がっている家族の話という、いわば家族の繋がりみたいなものが揺らいでいること、それはおそらく世界的に起きているのだろうと想像します。もしくは様々な社会的問題が、家族という一番小さな共同体にいろいろな意味でしわ寄せが来ている状況は、各国にあるのかなと。『万引き〜』を観てくれたいろいろな国の方々が、自分たちの国で起きてもおかしくない、という言い方をされていました。たぶんそういう今日性、普遍性が、今回の映画のなかに色濃くあったのかなと、評価を聞くとなんとなくわかるんですけれど(笑)。でも、特別自分のなかでは何かを変えたわけではないので、今までに比べて突出した広がりがあったのには、正直驚いています」

カンヌ映画祭は時々行って荒波にさらされるのはいいけど、いつも行きたいとは思わない(笑)

是枝裕和監督

こつこつと撮りたいものを自分なりのやり方で撮ってきたからこそ、いまの是枝がいる。その一方で、本人の意図に拘らず海外から見ればいまの日本映画を代表する存在として映り、後続の監督たちからは目標にされる。そんな彼に、あまり外からではわからない海外映画祭のシビアな側面について訊ねた。

是枝裕和監督

—何度も通われている監督としての立場から見て、カンヌとはどんなところでしょうか。

「世界的な注目度が他の映画祭とは全く違うので、あそこに作品を出すということはいろいろな意味でチャレンジです。うまくいけばいいですけど、うまくいかなかったときの叩かれ方は、端で見ていても怖くなるぐらいですし、なかなか『幸せな場所です』と一言では片付けられないところですよ(笑)。ただ、監督として自分の作品を持ってあの場所に行くのは、すごく鍛えられるなと思っているので。いつも行きたいとは思いませんけれど(笑)、時々行って荒波にさらされ、鍛えられて戻ってきて、よし次はがんばるぞ、というような気持ちにはなれるかもしれない。別にそこへ向けて映画を作っているつもりはまったくないんですけど、自分を試す場所としてはいいんじゃないでしょうか。

と同時に映画祭のスタッフも、なぜこの作品を選んでこっちを選ばないのか、ということで常に叩かれる立場にあるので、選ぶ側も批判にさらされる覚悟で毎年やっている。本当の真剣勝負が展開されているので、そのことには頭が下がるし、そういう場所に自分がいることは、ある意味映画祭スタッフが描く世界地図の一部であるということを実感させられる。自分がいまどのあたりにいるのか、ということも踏まえて考えさせられる、とても大きな経験だと思います」

イーサン・ホークの「映画を作るには言語や文化ではなくヴィジョンを共有できればいい」という言葉に共感

『La Vérité』(原題)Ⓒ2019 3B-分福-MI MOVIES-FRANCE 3 CINEMA

最後に現在ポスプロ中の新作『La Vérité』(原題)の経験について尋ねると、いかにもマイペースな彼らしい答えが返ってきた。

「言葉の壁を心配されたんですが、とても優秀な通訳の方にべったりと付いて頂いたので、まったくストレスがなかったんです。それに俳優さんたちとも撮影を進めていくうちに、監督がここで何を求めて役者がどう答えるべきか、という感覚がわかってきて、言葉をそれほど使わなくても成立してしまうんですよ。イーサン・ホークが現場で、映画を作る上では言語や文化を共有することが大事なのではなくヴィジョンを共有できればいいのだと言ってくれて、本当にその通りだなと。だからヴィジョンは共有できたと思っています」

『La Vérité』(原題)は2019年10月TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー

文:佐藤久理子(ジャーナリスト)

【BANGER!!!×MoviePlus】第72回カンヌ映画祭特集

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『La Vérité』(原題)

フランスが誇る大女優が自伝本を出版。皆の気掛かりはただ一つ。「一体彼女は何を綴ったのか?」
アメリカで脚本家をする娘、テレビ俳優の娘婿、現夫と元夫、長年の秘書…彼女を取り巻く、あらゆる“家族”が彼女の元に集まる。そしてこの自伝は、次第に母と娘の間に隠された、愛憎渦巻く“真実”をも露わにする。

制作年: 2019
監督:
出演:
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