カンヌという「田舎町」で競った『万引き家族』と『バーニング 劇場版』

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ライター:大倉眞一郎
カンヌという「田舎町」で競った『万引き家族』と『バーニング 劇場版』
撮影:大倉眞一郎
カンヌ映画祭の翌月に同会場で行われる「カンヌ広告祭」でレッドカーペットを歩いた大倉眞一郎が、カンヌのおすすめスポットと共に、2018年に最後までパルム・ドールを競った2作品を語る。

カンヌとは何者か?

私はカンヌ映画祭で世界中からスターが集結し、押し合いへし合いの状態になるメイン会場のパレ(Palais des Festivals et des Congrès)の前のレッドカーペットにタキシードで登場し、笑顔で手を振ったことが何度もある。
あの場所は意外に狭くて、授賞式の開場前にはハエのように人が群がる。
威厳とかそんな雰囲気のある場所ではない。

私が参加したのは映画祭じゃなくて、カンヌ広告祭の方だけど。
みんながはしゃいで写真を撮るので、私も手を振っただけ。
何も嘘はついていない。

カンヌは地名なので「何者か?」という投げかけはナンセンスだが、そのくらいこの田舎町は人格を持っているのではないかと勘違いするほど、人々を魅了している、と決めつけるのは良くない。
行ってみると、リゾート地ではあるが、海岸の砂浜部分は狭く、ほとんどはホテルのプライベートビーチになっており、パラソルで埋め尽くされ、すなはまー!うみー!といった類の高揚感はまるで感じられない。
パレ近くの海岸だけはパブリックビーチになっているがどこか汚い。砂の質が違うというのか、高級ホテルに宿泊していない私のような人間が多いせいか、これはこれでまた高揚感ゼロ。

裏通りには高級ブティックが一応並んではいるが、どこかうら寂しくて、さらにその裏に入るともう普通の田舎町。

高級ホテルが並ぶ表通りに面した、いかにもカンヌでございます的なレストランはただ高いだけで美味くない。観光客相手の店は要注意である。

カンヌ映画祭

そんな町になぜ人が押し寄せるのか。
ほぼ毎月世界的なエンターテインメント見本市が開かれるからである。
カンヌ映画祭だって言い方を変えれば見本市。

という現実があるとしてもカンヌ映画祭は私が最も注目している映画祭の一つである。
ベルリン映画祭もヴェネチア映画祭も楽しみで、どれも文句のつけようがないが、カンヌ映画祭の最高賞パルム・ドールは興行的にも比較的当たりそうなもの(と言っても限界はあるが)が選ばれており、私もほとんどの作品を観ている。

さて、第71回のカンヌ映画祭パルム・ドール『万引き家族』は役者が揃い、隙がない演技で全員が全員を牽制しあっていることが逆にいい結果を呼んだように思うのだが、出演者は和やかな現場だったと言っているから私の分析は当てにならない。
ただ、完成度が高く、内容も「社会性」が反映されており、私はこれまでの是枝作品では一番好きだった。
カンヌ映画祭で賞を取ってもあまり日本では当たらないことが多いので、恐れ多くも「観てください」とSNSで呼びかけたりしたのだが、国内の興行収入は45億円を突破したらしく、中国でも異例のヒット、アメリカでは2億を超えるという可愛い結果となり、何よりであったと、満足した次第。もちろん私の貢献によるものが大きかったと思っております。
やはり映画は観てもらわないと意味がない。

しかし、2019年の2月に劇場公開された韓国映画『バーニング』に激しく心を揺さぶられ、これは一体誰が作ったのか、映画祭で受賞はしていないのか、と慌てて調べてみたら、監督がイ・チャンドン(恥ずかしながら『ペパーミント・キャンディ』も『オアシス』も未見だが、製作で関わった『私の少女』『わたしたち』は観ていた)。

受賞はというとカンヌ映画祭で国際批評家連盟賞。
そうかそんなら文句ない、と納得しかけたら、友人が映画業界紙での批評家の星取りでは『バーニング』が頭抜けていた、実際の審査でも『万引き家族』と最後まで競ったと教えてくれてようやく納得した。
カンヌ映画祭のパルム・ドールは審査委員長の意向によるところが大きいとされるが、ケイト・ブランシェットが強く『万引き家族』を推したらしい。
そういうことってあるよね、仕方ないよね、と思うが、やはり一番でないと興行がうまくいかないというのはなんとも残念。
『万引き家族』を観て、『バーニング』を見逃した方は是非どこかでご覧ください。

さらにカンヌを語る

撮影:大倉眞一郎

映画祭には行ったことがないので比較できないが、広告祭はそもそも無理のあるコンペティションであるにもかかわらず、熱心な人は毎日朝から夜までスクリーニングやセミナー、大手エージェンシー主催のパーティに出席したりと忙しい。
しかし、バカンス気分で来た連中は全然会場には足を運ばず、海外のプロダクションが招待してくれるクルージングを楽しんでみたり(私のことだが、なぜだかおフランスの会社に誘われてシャンパン飲み放題クルーズを満喫したことがある)、カンヌには全く寄らず、1週間くらいコートダジュール観光ツアーに出かけるという馬鹿者もいた。

で、カンヌ田舎説を前半で強調してしまったが、実はお勧めスポットもある。
メインの通りに面しているレストランはほとんどアウトだが、Palais des Festivals et des Congrèsを過ぎて、どんづまりになっている辺りのレストランはかなりイケる。また、急な坂になっている細道の両側にはオシャンピーに人気のありそうなこじんまりとしたレストランが並んでいて、どこもそこそこ美味しい。
ムール貝が好きな人は専門店があるから行ってみるといい。
3つくらい味が選べて、なんだっけ、ワイン蒸し、カレー味にもうひとつ、味噌味じゃないな、トムヤムクン味でもない何かが揃っていて、一人前をバケツいっぱい持ってきてくれる。飽きるから何人かで。
さらに坂を登れば、ごく普通の南フランスの住宅街。
そういう場所を散歩している方が私には向いている。

 

撮影:大倉眞一郎

と、ここまでにしようと思ったが、せっかくだから本物の穴場を。
Palais des Festivals et des Congrèsの裏手あたりにある船着場からサントノラ島に。
超乾燥していて落ち葉が多いので、火気厳禁、タバコ禁止、で、何もない。
私は仲良しのゲイの部下が「すっごくいいところがあるらしいよ」と情報を仕入れてきたので、それに乗っかったら、ゲイビーチがあるところでした。
いきなり素っ裸の男たちの中に飛び込む勇気はなかったので、誰もいない岩場で寝ていたら、あら、あちらで寝ているのはもしかしたら素っ裸の女性じゃないの?
ボス想いの部下が「僕が友達になろうよと話をつけてきてあげるよ」と言ってくれたが、そんなあ、ねえ。
というくらいオープンな島で、サンドイッチと水を持っていかないと死んでしまうが、水がとても澄んでいてとてもいいところ。
ご検討ください。

ちなみに部下に2時間自由時間をあげたら、喜んであっちに行ってしまいました。

カンヌ、最高。
仮設遊園地もあるよ。

撮影:大倉眞一郎

文:大倉眞一郎

【BANGER!!!×MoviePlus】第72回カンヌ映画祭特集

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