「第72回カンヌ映画祭」でマークすべき注目作と、Netflix映画が歓迎されない理由

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ライター:齋藤敦子
「第72回カンヌ映画祭」でマークすべき注目作と、Netflix映画が歓迎されない理由
© Photo : La Pointe courte / 1994 Agnès Varda and her children - Montage & design : Flore Maquin
第72回カンヌ映画祭の全貌がいよいよ見えてきた。コンペティション部門では過去パルム・ドールを2度手にしているケン・ローチなど、大御所の名前が目立つ。また、「映画は映画館のスクリーンで観るもの」と提唱したカンヌ映画祭だが、今後、配信作品との関わり方は変化する可能性はあるのだろうか?

出品作の9割が発表!さて、残り1割に日本作品は入るのか?

2019年4月18日にパリでカンヌ映画祭代表ティエリー・フレモーとプレジデントのピエール・レスキュールの記者会見が行われ、今年のラインアップが発表になった。昨年、『万引き家族』のパルム・ドール受賞という嬉しい驚きで幕を閉じたカンヌ映画祭だが、当日発表されたセレクションの中に日本映画は1本も入っていなかった。まだ全体の9割ということなので、残りの1割に日本映画が入るかどうか、まだ可能性は残っているが、ともあれ、今年のカンヌ映画祭の見どころを探ってみよう。

ジム・ジャームッシュ監督のゾンビ映画

最初の大きな驚きは、オープニングのジム・ジャームッシュ監督『The Dead Don’t Die(死者は死なない)』が、フランス全土400館以上の映画館で、同時上映されることだ。2年前に、いわゆるNetflix問題が起こって、ネット配信作品をコンペから閉め出したカンヌ映画祭だが、今年は“映画は映画館のスクリーンで見るもの”ということを提起してきた。ただし、Appleやディズニーなどが続々とネット配信に参入してきている現実もあり、来年までには配信排除の規則は撤廃されると言われている。

パルム・ドール受賞経験のある、大御所監督3名

では、個々の作品を見ていこう。まずはパルム・ドール受賞組から。2度受賞のケン・ローチは、借金を抱えて奮闘する家族がイギリスの現実に直面する『Sorry, We Missed You(君達に会えなくてごめん)』、同じく2度受賞のダルデンヌ兄弟は、過激思想に染まって教師の殺害を計画する青年を描いた『Young Afmed(青年アフメド)』、1度受賞のテレンス・マリックは、反ナチの良心的兵役拒否者を描いた『A Hidden Life(隠された生活)』。『シン・レッド・ライン』で太平洋戦争を描いたマリックが、第二次大戦下のオーストリアをどんな風に描いているのか楽しみだ。主演はラウル・ペック監督の『マルクス・エンゲルス』でカール・マルクスを演じたアウグスト・ディール。

A・バンデラス&P・クルス共演のペドロ・アルモドバル監督作

続いて、まだパルム・ドールを獲っていないが、いつ獲ってもおかしくないベテラン組。ペドロ・アルモドバルの『Pain and Glory(苦悩と栄光)』は、映画監督が過去を振り返るというもので、主演はアントニオ・バンデラス。マルコ・ベロッキオの『The Traitor(裏切り者)』はマフィアの内通者の実録物。ベロッキオがシチリア・マフィアをテーマにしたことに驚く。

30歳の若手!グザヴィエ・ドランは監督&主演

若手ナンバーワンのグザヴィエ・ドランは、まだ30歳ながら『Matthias And Maxime(マティアスとマクシム)』でパルム・ドールに3度目の挑戦。3年前『たかが世界の終わり』で、あと一歩パルム・ドールに届かず、悔しそうな顔をしていたのが忘れられない。今回は本人の主演で、『マイ・マザー』の“母”アンヌ・ドルヴァルの共演なので、より濃密なドランの世界になっているはず。

ポン・ジュノ監督とソン・ガンホの大注目コンビ

アジアからは、Netflix問題のきっかけとなった『オクジャ/okja』以来、2度目のコンペ登場となるポン・ジュノの『パラサイト』と、『薄氷の殺人』でベルリン映画祭金熊賞を受賞したディアオ・イーナンの『The Wild Goose Lake(野鴨の湖)』の2本。『パラサイト』は似ているようで似ていない、似ていないようで似ている家族を描いたものとか。主演はソン・ガンホ。

コンペティション外にニコラス・ウィンディング・レフン作品

コンペティション外では、ニコラス・ウィンディング・レフンのTVシリーズ『Too Old to Die Young – North of Hollywood, West of Hell (若くして死ぬには歳をとりすぎている ハリウッドの北、地獄の西)』に期待。ティーザーを見ると、スタイリッシュなレフン・ワールドが炸裂していた。

タランティーノ監督、絶賛編集中!

噂されていたクエンティン・タランティーノの『Once Upon A Time in Hollywood』だが、編集作業が遅れていて間に合うか間に合わないかだという。Netflix製作なのに、デジタルでなく35ミリで編集しているというからタランティーノの面目躍如だ。ちなみに、アルフォンソ・キュアロンもデジタルリストア版『シャイニング』のプレゼンターとしてカンヌ映画祭に登場する。

審査員長のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥは、彼自身が映画祭の受賞でステップアップしてきた人なので、誰よりも映画祭の意義と恩恵を熟知している。そんな彼がどんな才能を選ぶのか、そこに今年の最も大きな焦点がある。

ネット配信台頭の流れを止められない中、映画興行界は生き残れるか

Netflixオリジナル映画『ROMA/ローマ』独占配信中

最後にネット配信問題について一言。

今年のアカデミー賞での『ROMA/ローマ』をめぐるNetflix問題は、本来ならエミー賞の対象になるべき配信作品が、なぜかアカデミー賞に紛れ込んでしまったことから生じた混乱だったが、カンヌ映画祭のNetflix問題は、配信企業の性質そのものから来ている。フランスの映画産業は税金によって支えられているが、“リアル店舗”を持たない、Netflixのような企業は従来の税制ではカバーしきれていない。2年前にフランスの映画興行界がカンヌ映画祭に抗議したのはこの点だった。税制上の問題なら、いずれ解決するだろうと思っていたが、2年経ってもダメなところを見ると、秒単位で世界中から莫大な利益をあげるバーチャルな企業の尻尾を掴むのは、よほど難しいのだろう。

私の周囲では、世界中のクリエイターに潤沢な資金を提供するNetflixを歓迎する声が多い。映画製作に関して言えば、確かにNetflixは多くのクリエイターに多くのチャンスを与えてくれる。それに『ROMA/ローマ』のような地味な映画にあれだけの資金を提供できたのはNetflixならではの美点だった。けれども、このままネット配信が伸張していくと、製作(入口)と配給(出口)で成り立ってきた従来の映画産業は、大幅な改革を余儀なくされることになる。ネット配信映画には出口がいらないからだ。そして、その最も大きな打撃を受けるのはリアル店舗=映画館である。

今年のカンヌ映画祭はあえて映画館で映画を見ることを提唱している。だが、来年はネット配信映画(おそらくマーティン・スコセッシの新作)がコンペティションに帰ってくる。もはやネット配信の流れを止めることはできない。これから先も映画興行界はネット配信に対抗できるだろうか。いや、むしろ生き残れるだろうか。私の危惧は今ここにある。

文:齋藤敦子

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