NYの伝説的レコ屋の軌跡『アザー・ミュージック』レア映像満載で振り返る激動の00年代メディア史

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ライター:野中モモ
NYの伝説的レコ屋の軌跡『アザー・ミュージック』レア映像満載で振り返る激動の00年代メディア史
『アザー・ミュージック』© 2019 Production Company Productions LLC

“アザー”ミュージック

「アザー・ミュージック」と聞いてピンと来るのは、90年代から2010年代前半に、アメリカやイギリスのちょっと変わった音楽の動向を意識的に追いかけていた人々だろう。そのCD/レコード店は、ニューヨークはマンハッタン島のイーストヴィレッジあたり、タワーレコードの通りを挟んだ向かいにあった。

『アザー・ミュージック』© 2019 Production Company Productions LLC

店名に掲げられた「アザー(その他の)」という言葉がほのめかしているのは、うちはメジャーレーベルからリリースされる有名スターのヒット作品を主力商品とするタワレコとは違うということ。すなわちインディーやオルタナティヴ、エクスペリメンタルといったジャンル、あるいはまだジャンルやスタイルの名前も固まっていないような新しい音楽、知られざる動きをプッシュしていこうという心意気だ。

『アザー・ミュージック』© 2019 Production Company Productions LLC

レコード店の21年間と激動のメディア史、変わりゆくニューヨークの街

大通りに面してガラスのファサードから光が差し込む店内には、「マニアックな秘密のサロン」という雰囲気はない。あくまでも風通しの良い、開けたムードが魅力だ。とはいえ、やはり量販店とは違うちょっとした緊張感はある。

『アザー・ミュージック』© 2019 Production Company Productions LLC

店内ではインストアライブもたびたび開催され、ヴァンパイア・ウィークエンドやアニマル・コレクティヴなど、地元のバンドたちがより大きな舞台に飛び立ってゆくのをサポートした(その様子はこの映画でも観ることができる)。かと思えばジェームス・チャンスといった70年代からの「街の顔」的な存在も顔を出す。

たとえば閉店に際して集計されたものと思われるオールタイムのベストセラーランキングの上位には、ベル・アンド・セバスチャンやヨ・ラ・テンゴ、ムタンチスらの名前が見える。ランキングといえども、マスな世界とは別の文化と文脈があるのだ。地図に引かれる国境の線とは違う、ある種の音楽ファンたちの「国」が存在することを物語っている。

『アザー・ミュージック』© 2019 Production Company Productions LLC

映画は2016年6月、この閉店を惜しむ人々のパレードから始まる。それから経営者のクリス・ヴァンダルーとジョシュ・マデル、店員や常連客たちの証言を交えつつ、1995年の開店から21年余りの歴史が紹介されるわけだが、それはこの特別に愛された店の思い出のアルバムというだけにとどまらない。ダウンロード販売への挑戦と失敗や住民不在の都市再開発についても言及され、20世紀から21世紀への世紀の変わり目が、メディアと街にとっていかに激動の時代だったのかを記録するものにもなっているのだ。

『アザー・ミュージック』© 2019 Production Company Productions LLC

ちなみにヴァンダルーとマデルはもともとビデオのレンタル/販売チェーン<キムズ・アンダーグラウンド>の同僚だったというから、90年代よりもっと昔から脈々と流れるニューヨークの文化の地下水脈を感じさせられもする。観る者も自分と街と音楽との関わりについて省察を促されることだろう。

『アザー・ミュージック』© 2019 Production Company Productions LLC

大好きなもの、大切なものを守り育むために何ができるか

本作は2021年、Gucchi’s Free School(グッチーズ・フリースクール)の企画による「本と音楽の映画祭」で2日間限定で配信され、今回、イメージフォーラムほか全国で順次ロードショーされる運びとなった。彼らは個人で日本未公開映画の紹介、上映を企画・運営するところからはじめ、2021年から任意団体として活動しているそうだ。映画の作られ方や届け方も、「これまで通りのやり方」が通用しない状況下でさまざまな実践が広がっているようで、それも『アザー・ミュージック』と地続きの物語という感じがする。

『アザー・ミュージック』© 2019 Production Company Productions LLC

このまま真っ直ぐうちに帰りたくない時、ちょっと立ち寄って時間を過ごせる場所。とはいっても酒場とか遊興施設ではなくて、たぶん潤沢とは言えないお小遣いを握りしめた10代の姿も見える。新しいお気に入りが自分に発見されるのを待っていて、顔見知りにも偶然会えたりするかもしれない。そんな人々で賑わうレコード屋の風景を記憶している世代の自分としては、どうしたって胸に沁みるものがある。

『アザー・ミュージック』© 2019 Production Company Productions LLC

しかし、そういう時間や空間を確保することがまずます難しくなっている現在、それに代わるものはいったいどこにあるのか。大好きなものや大切なものを守り育むために何ができるのか。決して「懐かしい」で終わらせてはいけない、それぞれに宿題を手渡してくる映画だと思う。

『アザー・ミュージック』© 2019 Production Company Productions LLC

文:野中モモ

『アザー・ミュージック』は2022年9月10日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開中

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『アザー・ミュージック』

2016年5月、世界中の音楽ファンに激震が走った。ニューヨーク、イースト・ヴィレッジにあるレコードショップが閉店するという。このニュースを知り駆けつけたのは、店のスタッフと客として出会い、やがて夫婦となったドキュメンタリー作家コンビ、プロマ・バスーとロブ・ハッチ=ミラー。2人は、この店の知られざる歴史をdigり始める──。

1995年、アルバイト先のレンタルビデオ屋で知り合ったジョシュとクリスが、店を立ち上げた。巨大チェーン、タワーレコードの向かいにあるから、「アザー・ミュージック」。続々と、クセモノ揃いの愉快なスタッフが加わっていく。

2001年のNY同時多発テロとiTunesの誕生、03年のタワーレコードの倒産など、時代の大きなうねりに翻弄されながらも、「別」の道を模索し、抵抗し続けた奮闘の日々。その最中で、アーティスト=場所=カスタマーの双方向的なコミュニケーションによって、歴史的なシーンが次々に生まれていった理想的なコミュニティは、いかにして形づくられたのか。そして、店員や常連客にとって”家”だったような場所がなぜ失われるに至ったのか……。これは、「その他」であることを、控えめに誇りながら、「もうひとつ」の可能性を追い求め足掻き続けた異人たちの、哀しく美しい、世界にたったひとつの青春群像物語。

ヴァンパイア・ウィークエンドにニュートラル・ミルク・ホテルなどアザー・ミュージックと馴染み深いバンドが店内で頻繁に行っていた異様な熱気と親密さに満ちたインストア・ライブ、オノ・ヨーコやヨ・ラ・テンゴらが一同に会したフェアウェル・コンサートの模様など、貴重なライブ映像の数々も見逃せない。

監督:プロマ・バスー ロブ・ハッチ=ミラー

出演:マーティン・ゴア
   ジェイソン・シュワルツマン ベニチオ・デル・トロ
   トゥンデ・アデビンペ エズラ・クーニグ
   マット・バーニンガー レジーナ・スペクター

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