【映画ポスター ベスト10】2022年上半期『ユンヒヘ』『ニトラム』『ガガーリン』ほか傑作多数

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ライター:SYO
【映画ポスター ベスト10】2022年上半期『ユンヒヘ』『ニトラム』『ガガーリン』ほか傑作多数
『ユンヒへ』© 2019 FILM RUN and LITTLE BIG PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED. / 『ニトラム/NITRAM』©2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited / 『GAGARINE/ガガーリン』© 2020 Haut et Court - France 3 CINEMA

ポスターで振り返る映画の2022年

半期に一度、つまり6月末と12月末に、映画ファンにはある楽しみが訪れる。前者は「上半期ベスト映画」、後者は「下半期ベスト映画」そして「年間ベスト映画」の選出だ。

半年間/1年間に観賞した作品の中から独断と偏見でベスト映画(往々にして10本)を選び、SNS上などで発表する。そこまでが映画観賞の儀式――というと言いすぎだが、仕事納め的な達成感が得られるのは間違いない。他者の上半期/下半期/年間ベスト映画が自分と重なっていたら嬉しいものだし、多くの人が推す作品を観ていなければ「じゃあ観てみようか」という気にもなるものだ。映画ファンにとっては一種の祭りでもあり、直近では「2022年上半期映画ベスト10」が大いに盛り上がりを見せていた。

筆者自身もこっそり上半期映画ベスト10を思案しつつ過ごしていたが、もう一つ別の切り口を楽しんでもいた。それは「2022年上半期映画ポスターベスト10」だ。作品の中身を評価する上半期映画ベスト10も素晴らしいが、宣材物の領域を超え、デザイン・アートとして独自の地位を築いている映画ポスターには、また一味違う魅力が備わっている。

そんな折、BANGER!!!編集部にお声がけいただき、ならばガチでやろう! ということで始まったのが本企画。2022年上半期に劇場公開された映画約600本のポスターの中から、独断と偏見で10本を選出した。「わかる」と思っていただける方もいれば、「こっちも捨てがたい」という意見もあることだろう。上半期の映画を振り返るひとときとなれば、幸いだ。

以下に挙げる「2022年上半期映画ポスターベスト10」は、ランキング形式ではなく公開順に並べた。なお、2022年1月1日から6月30日に劇場公開された映画を対象とする。

1.『ユンヒヘ』

(2022年1月7日公開/監督:イム・デヒョン)

映画ポスター好きの間で「韓国版ポスターのデザインがいい」はよく知られた話。ちなみに日本はいわゆる映画チラシの多くがB5サイズだが、韓国はA4サイズが主。紙も分厚く、ちょっとした文化の違いが見られる。

2019年の韓国映画『ユンヒヘ』のポスターもまた、韓国の映画ポスター文化の洗練具合を感じさせる一枚。ただそこに、日本独自のあしらいの妙が効いている。ベースとなる写真は本国版と同じだが(この写真がもう最高に良い)、日本版は文字情報のQ数(文字の大きさ)を極力小さくし、画面全体に余白を作り出しているのだ。

『ユンヒへ』© 2019 FILM RUN and LITTLE BIG PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

キャッチコピーも手紙を彷彿とさせる縦書きで、かつレイアウトにもこだわりが感じられ、視覚的にも美しい。タイトルを白にしている演出も上手く、雪のイメージが副次的に浮かび上がってくるよう。パッと見ただけで、切なく詩的な映画の雰囲気を予感させる。

2.『エル プラネタ』

(2022年1月14日公開/監督:アマリア・ウルマン)

『ユンヒへ』は本国版のポスターを踏襲したデザインだったが、『エル プラネタ』は全く別物。こちらの本国版ポスターは着飾った母娘がはしゃぐ様子を収めており、日本版とは大分様相が異なる。

しかしだからダメということではなく、日本版のポスターが醸し出す空虚な雰囲気、はしゃいでいる人物がふっと見せる疲弊にも似た哀しみは、それだけで見る者を惹きつける。そこに効いてくるのが、「みんな、飾って生きている」という秀逸なコピーだ。文字情報を一か所にまとめ、一枚絵としてのインパクトを強める判断も◎。

『エル プラネタ』ⓒ 2020 El Planeta LLC All rights reserved

本作は、生活苦に陥りながらもSNS映えを追求する生活を捨てられない母娘の物語。自分たちのライフスタイルを貫く強さと、刹那的に生きる危うさの両方を秘めた作品のどこを切り取るか――。このポスターからは、日本の観客に向けた配給宣伝サイドの意志が伝わってくるようだ。

なお、日本版の予告編もセンスあふれる仕上がりになっているため、ぜひチェックいただきたい。

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3.『ちょっと思い出しただけ』

(2022年2月11日公開/監督:松居大悟)

枠の中に枠があり、写真立てのようなデザインが施された本作のポスター。日本映画のポスターとしてはなかなかにレアなつくりとなった『ちょっと思い出しただけ』の本ポスターは、メインの写真も不思議な浮遊感が漂い、「何の映画かはわからないものの、どんな雰囲気かは伝わってくる」という絶妙なラインを突いてくる。

©︎2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会

しかもこの映画ポスター、主演の池松壮亮の顔が映っていない。国内の映画ポスターにおいては、誰が出ているかを一発でわからせるために顔をとにかく見せることを重視したものが溢れている。宣伝効果から逆算すれば理解できるのだが、本作においてはそれを行わない。勇気あるデザインを手掛けたのは、国内の映画ポスターといえばこの人、人気デザイナーの大島依提亜だ。

映画を観た後にもう一度このポスターを見ると、ウルッとさせられる演出も上手い。本作は本ポスター以外にも別パターンのデザインチラシを展開しており(計8種類)、枠はそのままに中身の写真だけが変わっていく。まさに思い出を振り返る“枠”として機能しているのだ。

4.『GAGARINE/ガガーリン』

(2022年2月25日公開/監督:ファニー・リアタール、ジェレミー・トルイユ)

本作においては、とかく色合いが素晴らしい。本国版のポスターも同様のグラデーションが施されているのだが、日本版では画面に映る人物を主人公一人に限定し、さらにエフェクトをかけて絵画的な見え方にしている。

そして、ロゴデザイン。ちょっと電飾・ネオン系のデザインに変更しているのだが、これは劇中でキーとなる「モールス信号」と呼応しているのだろう。背景との相性も良く、一見すると「お洒落だな」と思うだけなのだが、よくよく見ていくと作品愛を感じられるポイントに唸らされる。「募る思いが、輝き出す。」というコピーにも同様の意識が感じられ、相互作用も効いている。

『GAGARINE/ガガーリン』© 2020 Haut et Court – France 3 CINEMA

そう考えると、前述した「主人公を絵画的に魅せる」アイデアも、現実と想像が混ざり合う本作(ままならない現実を、想像は超えていく)の“核”を表現しているようにも見えてきて、深く染み入ってくる。諸所に必然性が感じられる“エモ”は、やはり強い。

5.『余命10年』

(2022年3月4日公開/監督:藤井道人)

本作のポスターデザインにおいて、評価したい点は数多い。まず1点目は、一枚絵で乗り切った点。俗に「角版(カクハン)」というのだが、一枚絵の上にキャラクター写真をいくつか載せているポスターを見たことはないだろうか? 国内の(特にオールスター大作)映画だと、主要メンバー全員集合パターンか、メインキャストの一枚絵に角版を載せるパターンが多い。しかし『余命10年』はティザーも本ポスターも、一枚絵だ。この実現にはおそらく、相当の苦労があったのではないか。

『余命10年』©2022映画「余命10年」製作委員会

そして、いわゆる「余命もの」が陥りがちな「泣ける」方向にポスターデザインをもっていかなかった点。特にティザービジュアルは、とかく生き生きとした小松菜奈・坂口健太郎の表情が印象的だ。“通例”をぶち破ってくる気概が感じられるポスターともいえる。

本作は興行収入30億円を突破する大ヒットとなり、「成功例」として刻まれるはず。今後のポスターデザインにも影響を与えていく可能性は十分にあるだろう。

6.『ニトラム/NITRAM』

(2022年3月25日公開/監督:ジャスティン・カーゼル)

オーストラリアで実際に起こった無差別銃乱射事件の犯人の人物像に迫っていく本作。主演のケイレブ・ランドリー・ジョーンズが第74回カンヌ国際映画祭で男優賞に輝いた力作だ。

となると彼の表情を見せたくなる部分もあろうが、本作は海外のポスターにおいても“顔”を見せない。この没個性がおぞましさを増長させているのだが(“ニトラム/NITRAM”は実在の犯人“マーティン/MARTIN”の逆さ読み)、日本版はそのトーン&マナーに沿いつつ、トリッキーなデザインで見る者を惑わせる。

『ニトラム/NITRAM』©2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited

まず、縦位置のポスターに対して横位置の写真を配置。この時点でスルッと飲み込めない異物感が生まれているが、文字も日本語と英語が法則もフォントもばらばらに並べられている。縦読みに横読み、反転させるような位置取り……。文字のスペースの取り方も異様で、いくつかは重なってしまっている。整理されつつも混沌としている不気味さ――。なかなか他に例を見ないデザインだ。

7.『映画クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝』

(2022年4月22日公開/監督:橋本昌和)

こちらにおいては、完璧に「構図の勝利」といえるだろう。シンメトリー構造になっており、ふたつの家族が対称的に並べられた絵を見れば、本作が何を描こうとするものか判別がつく。そして、前面にいるしんのすけは忍者の格好、新キャラクターの少年・珍蔵は普段のしんのすけの格好をしており、そこに上部のみさえとちよめが加われば、この二つの家族に何かがあった予測が立てられる。

そのうえで「オラは誰の子? 忍者の子!?」という衝撃的な文章が効果を発揮する。つまり、しんのすけの誕生にまつわるエピソードを描く本作は、ポスター時点で巧みに“誘導”が行われているのだ。

『映画クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝』©臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2022

「美しい空」「城」など、映画クレしんシリーズのファンにはグッとくるような要素がさりげなく配置されている点も、嬉しいところ。本作には思うように生きられない母親の姿も描かれており、苦難の時代を生きる我々に向けたとも捉えられる「明日を、生きて。」という強いメッセージも記憶に残る。

8.『N号棟』

(2022年4月29日公開/監督:後藤庸介)

先ほど日本映画のポスターにおける傾向を述べたが、ホラー作品においては独自の文化が根付きつつある。『犬鳴村』『樹海村』『牛首村』といった「恐怖の村」シリーズ(2019年~)は、キャストではなく“村の怖さ”の一点突破なデザインとなっており、人物がほぼ映っていない。その流れを継承したのが、『女神の継承』(2021年)の日本版ポスターや『N号棟』であろう。

『N号棟』©「N号棟」製作委員会

実際に起きた幽霊団地事件を題材にとった本作は、「団地が怖い」と思えるかどうかが生命線といえる。その点、このポスターを見れば恐怖は十分にあおられるのではないか。『仄暗い水の底から』(2001年)や『黒い家』(2007年)のような「家が怖い」名作ホラーのエッセンスも感じられ、期待を高めることに成功している。窓からこちらを見ている女性も風景に溶け込んでいるからこそ不気味に映る。

びっくりするほどタイトルのQ数が大きい理由は謎だが、インパクトは十分。1回目にしただけで間違いなく作品名を覚えてしまうであろうという意味では、実に効果的だ。

9.『ニューオーダー』

(2022年6月4日公開/監督:ミシェル・フランコ)

非常に芸術性の高いポスターデザインだ。ただ写真を配置するだけでなく、劇中で崩壊の引き金となる「緑色の塗料」をぶちまけさせ、漆黒とのコントラストで魅せる。不穏な表情でどこかを見つめる主人公の目線が正面を向いていないことで異様さが際立ち、彼女が「緑に染まっていく」ことが事件性を強調。そこに踊る「これは悪夢か、無慈悲な現実か――」というコピーも強烈だ。

『ニューオーダー』©2020 Lo que algunos soñaron S.A. de C.V., Les Films d’Ici

予告も恐るべきクオリティであり、作品自体はトラウマものの衝撃性に打ちのめされる『ニューオーダー』だが、ただただエグい描写が並べ立てられるのではなく、ポスターに書かれているように「冷徹」なまでにクレバーに「政権がひっくり返った世界」を“観察”していくのが大いなる特徴。このポスターも、陰惨な作品であろうという印象は立つものの、一枚の絵画として飾りたくなるような抗いがたい魅力も同時に備えている点が憎い。

10.『わたし達はおとな』

(2022年6月10日公開/監督:加藤拓也)

演劇界の風雲児・加藤拓也が長編映画監督デビューを果たした本作。『よだかの片想い』『そばかす』へと続く「(not)HEROINE MOVIES」プロジェクトの第一弾であり、新たなるヒロイン像を描こうとする決意が伝わってくるような挑戦的なポスターだ。

『わたし達はおとな』©2022『わたし達はおとな』製作委員会

主人公=ヒロインの顔をつぶす仕草は、恋人たちのじゃれあいというには少々恐ろしさが垣間見えはしないだろうか(そもそも、出演者&事務所的にもなかなか通りにくそうな写真ではある)。この写真は加藤監督が選んだそうだが、この一枚からも男女の関係性が伝わってくるようで、実に不穏。キャッチコピーを廃しているのも、この実にシニカルなタイトルがキャッチコピーも兼ねているが故だろう。

そういった意味では見る者を支配しようとする意図が明確な、かなりあざとい演出ではあるのだが、そのあざとさの切れ味があまりに鋭いため、鼻につくどころかぞくりとさせられる。悔しくも、実に上手いと認めざるを得ないポスターだ。

――なかなかにボリューミィになってしまったが、お楽しみいただけただろうか。下半期も既に目を引く映画ポスターが続々と発表されており、またこういった形で皆さんと共有できることを願っている。

文・構成:SYO

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