磯村勇斗&早川千絵監督が『PLAN 75』を語る!「磯村さんは“映画の人”の顔をしている」カンヌ映画祭特別表彰

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ライター:石津文子
磯村勇斗&早川千絵監督が『PLAN 75』を語る!「磯村さんは“映画の人”の顔をしている」カンヌ映画祭特別表彰
磯村勇斗 早川千絵監督

カンヌ国際映画祭「ある視点」部門正式出品

75歳以上で自らの生死を選択できる制度<プラン75>が施行される超高齢化社会を舞台にした、映画『PLAN 75』。第75回カンヌ映画祭で、新人監督に贈られるカメラドール賞(黄金のカメラ)の特別表彰を受けた本作の早川千絵監督と、ヒロム役の磯村勇斗に現地で話を聞いた。磯村は連続ドラマ撮影中の厳しいスケジュールの中、2泊4日の弾丸でやって来たが、カンヌで得たものは大きかったようだ。

磯村勇斗

「早川監督のト書きに惚れた」

―挑戦的かつ、とてもデリケートなテーマのお話です。磯村さんが<プラン75>を担当する市役所員ヒロム役を引き受けた一番の理由はなんでしたか?

磯村:僕はこの脚本を読んでいる最中から、これはやりたい、って思ったんです。それくらい、映画の中に出てくる<プラン75>という制度をはじめ、この映画の世界観に惹かれて。ディストピアではあるんだけど、今のままだと確実に起こるであろう問題への着眼点が、すごく面白いと思いました。

早川監督の脚本はセリフで伝えるというよりは、ト書きで情感が伝わる。ト書きに惚れたというか。もちろんセリフも素敵なんですが、そのバランスも含めて素晴らしい脚本だなと思って、ぜひやりたかったんです。

早川:ありがとうございます。私のト書きは短い方だとは思うんですが。

磯村:短いんですけど、その人物の感情、心情を、すごくシーンで見せる監督なのかな、と感じたんですよね。

『PLAN 75』6 月 17 日(金)より、新宿ピカデリーほか全国公開 © 2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee 配給:ハピネットファントム・スタジオ

―この映画の、どこか不穏だけれど透明感のある空気が映画のルックにも現れていますが、撮影監督はシンガポールを拠点に活躍する浦田秀穂さんです。実は、私と浦田さんはニューヨーク大学でクラスメイトだったんです。

早川:そんなご縁があったんですね。

―彼はとても優秀で大学院を出て。監督もニューヨークのスクール・オブ・ビジュアル・アーツご出身ですが、あちらでお知り合いだったんでしょうか?

早川:いえ、違うんです。でもご縁がつながっている気はして。うまくいくときって、そういうものだなと思いますね。プロデューサーの水野(詠子)さんが浦田さんを紹介してくれたんですが、その時たまたま日本に帰国中で、「明後日シンガポールに戻るので、明日なら会えますよ」と言ってくれて。

ロッシ・デ・パルマ(カメラドール審査委員長) 早川千絵監督

―東京フィルメックスで上映された『幻土』(2018年/監督:ヨー・シュウホァ)の時ですか?

早川:別の時ですね。でも作品を拝見したら、映像が素晴らしくて。お会いしたときに、この方に撮ってもらったら素晴らしい映画になる、と直感で思ったんです。そのあと、撮影まで一度も直接会えなかったんですが、浦田さんはとてもコミュニケーションを大切にされる方で、その間もスカイプなど色々な手段で何度も、2~3時間ずつ話をしました。どういう映画にしたいか、どういう映像にしたいかなど、色々フィードバックをいただいて。とても良いコラボレーションになったというか、本当にこれは浦田さん無くしてはできなかった映画だと思います。

磯村:浦田さんの人柄も素敵なんです。俳優陣の芝居をちゃんと見て、切り取ってくださるカメラマンで、本当に僕は一目惚れしてしまって。僕は「浦田さん、大好きです」って告白もしました(笑)。

『PLAN 75』6 月 17 日(金)より、新宿ピカデリーほか全国公開 © 2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee 配給:ハピネットファントム・スタジオ

「俳優の心をしっかり掴んでしまう監督」

―磯村さんから見て、早川千絵監督の何が監督として際立っていると思いますか?

磯村:本当に、この、脚本を生む力というか。この世界や言葉を生むことは相当難しいと思うのですが、僕は監督に何か近いものを感じたんです。現場での早川監督の振る舞いも、怒鳴るようなことは一切ないですし、でもちゃんとディスカッションをする。撮影の浦田さんとも、俳優たちともそうです。その意見交換をしている姿を見ていると、今の、そして今後の日本映画にとって大事なやり方をされていると感じました。

今、映画界のハラスメントというものが問題視されているなかで、監督はすごく丁寧で、だけどちゃんと自分を伝えていくというのが、素敵だなと思いました。実は、演者に寄り添ってくれる監督って少ないんです。でも監督は俳優の心をしっかり掴んでしまう、というか、パーソナル・エリアにスッと入ってきてしまうというか。

早川千絵監督

―早川監督は声も大きくないですし、とても品がありますよね。

磯村:それがいいのかもしれないです。(こちら側に)入ってくるのも、嫌じゃない。なんというか、スッと抱き抱えられるような感じがありました。早川監督は、すごく相手をリスペクトしているのが素敵だなと思いますし、見習わないといけないなと思います。

早川:リスペクトはしています。

―監督は、きちんとしているというか、品があるというか、英語でいう“Decent”という言葉がピッタリだと思います。相手をリスペクトすること、というのはアメリカで学んだことが大きく影響しているのでしょうか?

早川:アメリカで勉強したから大きい、ということではないとは思うんですが、やはりアメリカに比べると日本は人権意識が低いな、とは思っています。女性に対してもそうですし、労働者に対しても、子供に対しても。それとは別に、映画の現場で役者の人をみんなの前で怒鳴るとか、追い詰めていくのが日本では普通だった、というのはあり得ないと思います。それが良しとされる文化があったというのが、考えられないですね。

是枝裕和監督 早川千絵監督

 

「磯村さんはお顔が人間的。“映画の人”の顔」

―早川監督は本作を、短編(『十年 Ten Years Japan』の中の一本)から長編に膨らませた際に、磯村さんにお願いしたいと思った理由はなんだったのでしょう?

早川:この映画は元々長編で考えていたものを、『十年 Ten Years Japan』という企画をいただいた時に、いっぺん短編にして作ってみようと思ったんです。当初、5人の群像劇で考えていたものを、短編では1人にしたんですが、実際に長編にした時には5人を3人に絞りました。そこで、ヒロムだけ書いていてなかなかキャラクターが定まらず、右往左往してしまって。ミチ(倍賞千恵子)とマリア(ステファニー・アリアン)は最初からいたんですが、ヒロムは職業がお医者さんだったり医学生になったり、女性になったりして定まらなかった。本当に一番産みの苦しみがあったので、一番不安があったんです。その役を磯村さんがやってくださるとなったときに、すごくイメージが膨らんで、脚本を少し変えることもできました。

『PLAN 75』6 月 17 日(金)より、新宿ピカデリーほか全国公開 © 2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee 配給:ハピネットファントム・スタジオ

―監督が磯村さんを指名したんですか?

早川:はい。コロナ禍で家にいた時に、テレビで「あさイチ」を観たんです。そこで磯村さんが、お芝居をやりたくて地元の劇団に電話をしたという話をしていて。そこがかなり年上の方ばかりの劇団で、磯村さんは10代で飛び込んだんですよね?

磯村:17歳でした。それほどお芝居を知りたかったんですね。がむしゃらに、というか。

早川:それで、面白い人だなあと思ったんです。その時点で、もう磯村さんはすごく活躍されていましたけど、観る作品、観る作品、全く違っていた。そこで、なかなかイメージが掴めなかったヒロムという役を磯村さんに演じていただくことで、私が思う以上のものが生まれるんじゃないか、という期待がものすごくありました。

磯村:それはひしひしと感じました(笑)。

『PLAN 75』6 月 17 日(金)より、新宿ピカデリーほか全国公開 © 2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee 配給:ハピネットファントム・スタジオ

早川:もう一つの決め手として、磯村さんはお顔が人間的。映像映えするというか、映画の人の顔だな、という気がしたんです。

―それはわかる気がします。語弊があるかもしれませんが、磯村さんは昭和の映画に出てきそうなお顔に見ます。

磯村:それ、確かに言われるんです。

早川:そうかもしれません。私は若い俳優さんの顔が覚えられないんですけど、磯村さんの顔は印象に残って、すぐに覚えられたんです。

磯村勇斗

「安楽死の是非を問う映画ではない」

―磯村さんが演じたヒロムは市役所勤務の公務員で、<プラン75>担当の職員ですが、すごくまともな人で、心が揺れる。誰か、身近にモデルになるような方はいましたか?

磯村:いなかったですね。知り合いに公務員の方はいますが、やはり扱っているものが違いますし。ただ、若い公務員の方がどういうふうに市民の方と接するのか、というのは調べたりしました。公務員向けのレクチャー動画、というのがあるんですよ。それを見て、僕も真似をしてやってみたりして。

―そんなものがあるとは知りませんでした。磯村さん、えらい。

磯村:えらくなんかないですよ(笑)。ただ僕は、そういうことをしている時間が好きというだけなんです。それがどこかに影響してるのかはわからないですけど、そうした準備をすることで、僕の中で自信になるというか、ヒロムに繋がるような気がしてやってみたんです。ヒロムは<プラン75>という制度を推奨している側で、表ではお年寄りの方にプランを勧めていますが、裏では……という部分を持っていないといけない。表面的なこと以外もしっかり捉えてシーンに臨みたいなと思って、演じました。

『PLAN 75』6 月 17 日(金)より、新宿ピカデリーほか全国公開 © 2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee 配給:ハピネットファントム・スタジオ

―<プラン75>は、高齢者が死を選ぶことができる制度です。直接的な安楽死の話ではありませんが、安楽死というものに対して、監督はどんなふうに捉えてらっしゃるのでしょうか? 高齢になった人間が死に方を選ぶということに対して、というか。実は2021年のカンヌ映画祭に『Everything went fine』(英題)というフランソワ・オゾン監督の映画があって、ソフィー・マルソー演じる娘が高齢の父親に安楽死を頼まれて悩む、という話だったんです。こうした映画も近年多くなっています。

早川:この映画は安楽死の是非を問う映画ではなく、そこに言及してはいないんです。私は安楽死を求める人も、反対する人も否定はしたくありません。安楽死を自分が絶対に選ばない、とは言い切れない一方、安楽死に反対する人にもシンパシーは感じます。“わからない”というのが正確なところですが、それを法制化するということは嫌だなと思います。

『PLAN 75』6 月 17 日(金)より、新宿ピカデリーほか全国公開 © 2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee 配給:ハピネットファントム・スタジオ

―押し付けるというのは、絶対にやってはいけないと思いますね。

早川:<プラン75>のような制度が微妙なのは、一見、選択制であるところ。微妙なラインなんです。これが存在することによって色々な問題が出てくるのに、目を瞑ったり、巧妙に操作してくることの恐ろしさ。そういったことへの危機感を伝えたかったんです。

―そのような制度を扱う脚本を書き始める上で、何かきっかけはあったのでしょうか?

早川:アメリカから帰ってきて、日本ではやたら自己責任であるとか、人に迷惑をかけてはいけない、という思想というか圧力が強くなってきていると感じたんです。以前はこんなことはなかったな、と。インターネットやSNSが普及してきたことも関係していると思うんですが、差別的な発言を著名人や政治家がしたり、それが拡散される。そこに対する憤りがありました。不寛容に対する憤りです。

『PLAN 75』6 月 17 日(金)より、新宿ピカデリーほか全国公開 © 2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee 配給:ハピネットファントム・スタジオ

―磯村さんはいわゆるインターネット・ネイティブ、SNS世代だと思いますが、“SNS時代の不寛容“というものをどう捉えていますか?

磯村:僕はこういう仕事をしていますから、SNSを使って作品の宣伝をしたりするメリットもありますし、すべてが悪いわけではないと思いますが、ただSNSが人を殺すメディアになってしまっている、というのは確実にあるのではないかと。SNS上では匿名で意見を言えるので、ヘイトをしやすい場になっているのがとても悲しいなと毎日思いますし、特に僕らのような仕事はサンドバッグになりやすいところがある。それは良くないし、そのデメリットを理解しながらやってはいるけれど、うまく活用できていないとも思うんです。匿名性から生まれる問題をどう解決するのか、という。

―私も20年以上前に、アメリカ留学から帰ってきた時にとても日本の窮屈さを感じましたが、今はその比ではないほど不寛容を感じます。多様性という言葉は広がったにもかかわらず、実際にはそれに対してとても厳しいですね。

磯村:それはものすごく感じます。本当に言葉だけ、流行りに乗っているだけで、実際に行動に移せているかは疑問です。僕自身も多様性、ジェンダーやLGBTQの問題なども理解はしているつもりでも、知らないことがたくさんある。そういうことを表面的に捉えるだけではなく、きちんと知って、理解していかないといけないとは思います。

『PLAN 75』6 月 17 日(金)より、新宿ピカデリーほか全国公開 © 2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee 配給:ハピネットファントム・スタジオ

「ミチという人物を演じられるのは倍賞さんだけ」

―監督は先ほどジャパン・パビリオンでの会見で、役者さんに演出をすることにまだ慣れていないとおっしゃっていましたね。

早川:私は写真をやっていたので、映像はほぼ一人でビデオアートみたいなものを作っていたんです。だから役者さんを演出することには慣れていなくて。磯村さんたちに初めてお会いした時、私が一番現場での経験値は少ないので、皆さんに助けてもらわないと、と話したくらいです。

―ミチ役の倍賞千恵子さんには、どんなふうに演出されたんですか?

早川:倍賞さんには、ほとんど演出はしていないです。何も言わずとも完璧以上のものをやってくださるので、ほとんどワンテイクでOKでした。少しだけ「ここはこうしてください」と言えば、「はい、わかった」と言ってやってくださるし、すごかったですね。

『PLAN 75』6 月 17 日(金)より、新宿ピカデリーほか全国公開 © 2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee 配給:ハピネットファントム・スタジオ

―脚本を書かかれているときに倍賞さんのイメージはあったんでしょうか?

早川:脚本の段階では、どんな役も全く誰も想定していませんでした。それで、資金が集まったので始めましょうという時に、初めてキャスティングを考えたんです。ミチの役を演じられる、あの年代の役者さんは限られているので、必然的に倍賞さんしかいないよね、となりました。ミチという役を同情されるような、惨めな女性にはしたくなかったんです。魅力があって、凛とした美しさがある人というのが最初にあって。なおかつ、仕事をしている人、というのがリアルに見えるのは、倍賞さんしかいませんでした。

『PLAN 75』6 月 17 日(金)より、新宿ピカデリーほか全国公開 © 2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee 配給:ハピネットファントム・スタジオ

―今回、カンヌにやって来た甲斐があったなと感じた瞬間は?

早川:みんなで初めて集まって会えたことが一番嬉しかったですね。この映画はフランスのチーム、フィリピンのチームも関わっていたんですが、コロナ禍でほとんどリモートでしか会えていなかった。特にフランスのチームは撮影現場にも来れなかったので。そしてヒロムとマリアにも会えました。

磯村:僕は舞台上にチームで登壇できたことです。倍賞千恵子さんが来られたら本当に最高だったとは思いますが、そうした色々な想いを持ってあの場に立てたことも含めて、カンヌに来てよかったとすごく思います。映画を愛している人たちが世界にはこんなにもたくさんいるんだなと改めて感じることができました。もっと自分もがんばれると思えましたし、これからも映画に対して愛を持って取り組んでいきたいと思いました。

磯村勇斗 早川千絵監督 ステファニー・アリアン

取材・文・撮影:石津文子

『PLAN 75』は2022年6月17日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開

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『PLAN 75』

夫と死別してひとりで慎ましく暮らす、角谷ミチは78歳。ある日、高齢を理由にホテルの客室清掃の仕事を突然解雇される。住む場所をも失いそうになった彼女は<プラン75>の申請を検討し始める。一方、市役所の<プラン75>の申請窓口で働くヒロム、死を選んだお年寄りに“その日”が来る直前までサポートするコールセンタースタッフの瑶子は、このシステムの存在に強い疑問を抱いていく。また、フィリピンから単身来日した介護職のマリアは幼い娘の手術費用を稼ぐため、より高給の<プラン75>関連施設に転職。利用者の遺品処理など、複雑な思いを抱えて作業に勤しむ日々を送る。果たして、<プラン75>に翻弄される人々が最後に見出した答えとは――。

監督・脚本:早川千絵
撮影:浦田秀穂

出演:倍賞千恵子 磯村勇斗
   たかお鷹 河合優実 ステファニー・アリアン
   大方斐紗子 串田和美

制作年: 2022

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