ジェリー・ブラッカイマー来日!
36年ぶりの続編として待望の公開となった『トップガン マーヴェリック』。1986年の前作が、まるでつい最近観た映画のように感じた人も多いのではないか? それくらい36年のブランクを感じさせないのは、『トップガン』のスピリットが完璧に受け継がれているからだろう。
もちろん主人公マーヴェリックのその後を、トム・クルーズが鮮やかに体現したことも要因だが、もう一人、『トップガン』の世界を十分に理解した人が続編の製作をバックアップしたからだ。プロデューサーのジェリー・ブラッカイマーである。
「大スターになったトムとヴァルの再共演に感動しました」
『トップガン』以外にも、『フラッシュダンス』(1983年)、『ビバリーヒルズ・コップ』(1984年)、『アルマゲドン』(1998年)、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ(2003年〜)など社会現象を起こすほどのメガヒット作を送り続け、現在もハリウッドの“トップ・オブ・ザ・ トップ ”と言ってもいい地位にいるブラッカイマー。そんな彼にとっても、『トップガン マーヴェリック』では新たな体験が待っていた。新型コロナウイルスによって、完成していた作品の公開が約2年間、延期を余儀なくされたのだ。そのあたりの心境をブラッカイマーは語り始めた。
ものすごい不安でした。もちろん、この2年間は神経もすり減らされましたね。でも世界の状況がだんだん変わってきて、現在は『007』シリーズの最新作や、『THE BATMANーザ・バットマンー』、そして『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』と、徐々に観客が劇場に戻ってきたことを実感しています。
当初から『トップガン マーヴェリック』は、とにかく大きなスクリーンで観てもらいたかった。絶対に劇場公開されなくてはならなかった。そのタイミングを測った結果なので、(2年の延期という)判断は正しかったと信じています。
さらにもう一人、1986年の『トップガン』の世界を受け継ぐ人がいる。アイスマン役のヴァル・キルマーだ。咽頭がんの闘病も経た彼は、どのような経緯で出演したのか。そして撮影現場はどんな雰囲気だったのか。
トムが熱望したのです。「ヴァルが出ないなら作らない」と最初から言っていたのでオファーしたところ、快諾してくれました。アイスマンの設定や登場シーンについては、ヴァルのアイデアを基に一緒に作り上げたのです。
36年を経て大スターになったトムとヴァルの共演には私も感動しましたね。ヴァルのシーンを撮る日は現場も、みな感情的になっていたと思います。あれだけの辛い状況を乗り越え、演技に対する情熱やエネルギーを失っていない彼の精神を目の当たりにしたのです。
その他にも『トップガン』の記憶が一瞬で甦る設定や演出はいくつもあるが、ケニー・ロギンスの「デンジャー・ゾーン」が流れるシーンは、完全に前作を意識した映像だったりする。
「デンジャー・ゾーン」のシーンで始めるのは、製作陣みんなの総意でした。まさにノスタルジーの凝縮ですね。いきなり1作目の世界に観ている人たちを誘(いざな)うのが目的でした。ケニー・ロギンスも心から喜んで賛同してくれましたよ。『トップガン』の音楽を手がけたハロルド・フォルターメイヤーにも参加してもらい、オリジナルのスコアをアップデートして的確なシーンに当てはめていったのです。
ただ、こうした前作からのネタが過剰すぎても新作の意味が薄らいでしまう。たとえばメグ・ライアンやティム・ロビンスらに出演を打診するアイデアもあったかもしれないが、そのあたりはプロデューサーとしてどう考えたのか。
新しい物語、新しいキャラクターのためのスペース(映画内の時間)が必要です。ですから前作の多くの要素を再登場させるのは当然、不可能。バランスは考えましたし、映画の上映時間を考えると違うストーリーに偏ってしまうリスクも抱えますから。
「トムは36年かけて学んだことを『マーヴェリック』に注ぎ込んでくれた」
映画を観るわれわれは、トム・クルーズを「俳優」として捉えるしかないのだが、彼はプロデューサーとして映画に貢献していることでも知られる。今回も撮影現場でマーヴェリックの演技だけでなく、戦闘機のカメラの位置や撮影方法についてアドバイスするなど、トムは作り手側として大車輪の活躍だった。同じプロデューサーとして、ブラッカイマーは彼をどう評価しているのだろう。
トムは映画に対しても、人生に対しても熱量がものすごい。そこは尊敬しています。彼の最大のミッションは、映画で観客を楽しませること。映画を観ている間、日常のすべてを忘れさせること。そのために才能のある人材を集めるし、自ら何でも挑戦するのです。好奇心の塊で、すべてをスポンジのように吸収するのはトムの体質でしょう(笑)。
『トップガン』の時は21歳でしたが、すでに編集について貪欲に知りたがっていました。そこからスティーヴン・スピルバーグ、スタンリー・キューブリック、シドニー・ポラックといった名匠、ダスティン・ホフマン、ジャック・ニコルソン、ポール・ニューマンなど名優からすべてを吸収し、36年かけて学んだことを『トップガン マーヴェリック』に注ぎ込んでくれた印象です。
ではジェリー・ブラッカイマー自身は、これだけのキャリアを経て、どのように仕事と向き合っているのか。以前、プロデューサーとしての仕事は「トランスポーター(何かを運ぶ役割)」で、必要とされる技術は「ストーリーテラー(物語を語ること)」だと語っていた。
その気持ちは今も変わっていません。私の使命は、2時間の映画なら、観ている人にその間だけでもキャラクターの気持ちとひとつになってもらうこと。優秀な才能を見極め、その才能を雇うこと。そして彼らのベストを引き出すのが私の仕事です。そのために多くの映画やドラマをチェックして、新しい才能を発掘しています。今回のジョセフ・コシンスキー監督もそのような経緯でオファーしました。
そんなジェリー・ブラッカイマーも現在78歳。そろそろ引退も頭をよぎるのか? マーヴェリックのように、不死鳥のプロデューサーでいてほしいが……。
私はマーヴェリックと違います。自分で描くキャラクターには感情移入しないのかもしれません(笑)。もちろんいつかは引退するでしょうが、今はまだ考えていませんね。この後は『ビバリーヒルズ・コップ』の新作を手がけるCM出身のマーク・モロイ監督の手腕に期待していますし、『パイレーツ・オブ・カリビアン』に関しては、最初の3作の脚本家テッド・エリオットも参加して、いくつもの脚本を練っています。いま言えるのは、マーゴット・ロビーが出演するということくらいでしょうか。
また、現在6本のTVシリーズを抱えています。デイジー・リドリー主演でディズニープラスの作品『Young Woman and the Sea(原題)』をブルガリアで撮影していて、本来は東京に来ている場合じゃなかったので(笑)、またすぐに現場に戻らなくては……。まぁ『マーヴェリック』は特別ですからね。
このように忙しさはまったく途切れないジェリー・ブラッカイマー。「自分は忍耐力がないので監督には向いてない」と謙遜する彼だが、プロデュース力、そしてエネルギーはまだまだ衰え知らずのようだ。
取材・文:斉藤博昭
『トップガン マーヴェリック』は2022年5月27日(金)より全国公開中
『トップガン マーヴェリック』
アメリカのエリート・パイロットチーム“トップガン”。かつてない世界の危機を回避する、絶対不可能な【極秘ミッション】に直面していた。ミッション達成のため、チームに加わったのは、トップガン史上最高のパイロットでありながら、常識破りな性格で組織から追いやられた“マーヴェリック”だった。なぜ彼は、新世代トップガンとともにこのミッションに命を懸けるのか? タイムリミットは、すぐそこに迫っていた——。
監督:ジョセフ・コシンスキー
脚本:アーレン・クルーガー エリック・ウォーレン・シンガー クリストファー・マッカリー
製作:ジェリー・ブラッカイマー
音楽:ハロルド・フォルターメイヤー ハンス・ジマー
出演:トム・クルーズ マイルズ・テラー
ジェニファー・コネリー エド・ハリス
ヴァル・キルマー ジーン・ルイザ・ケリー
ジョン・ハム グレン・パウエル ルイス・プルマン
制作年: | 2022 |
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2022年5月27日(金)より全国公開中