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『シン・ウルトラマン』は「人間推し」の最強オタク・ウルトラマンによる「人間推し活」映画だ!【ネタバレあり】

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『シン・ウルトラマン』は「人間推し」の最強オタク・ウルトラマンによる「人間推し活」映画だ!【ネタバレあり】
イラスト:chiro

『シン・ウルトラマン』ひとつの解釈

庵野秀明氏総監修、樋口真嗣監督による映画『シン・ウルトラマン』の公開から、1週間ほどが経過した。

公開初日の朝に見てから、何度か繰り返し鑑賞し、多種多様な感想を聞く機会なんかもあったのだが、そこでよく聞かれたのが(特に日頃あまりウルトラマン作品に触れていない方からよく聞かれたのが)、「なぜウルトラマンは、そんなに人間のことが好きになったんですか? それがわからない」という声だった。

「きみ、ポスターみたいなこと言うね」と思いつつ、たしかにその部分が気になるという意見は多いようで、作劇的な観点や、哲学的な観点など様々な考察もあがっていることだろう。

そこで、自分なりにも考えた結果、ひとつの「解釈」が自分の中で生まれたので、本稿はそこに絞って書いていこうと思う。

※例のごとくネタバレありなので、必ず鑑賞後にお読みください。
※こちらは自分の中の一つの解釈であって、作品の「解」を提示するようなものではありません。
※本稿では、「人類」と表記した方が正しいと思われる部分も、ポスターの「そんなに人間が好きになったのか」のセリフに合わせて「人間」と表記します。

 

 

「人間推し」の最強オタク・ウルトラマンによる「人間推し活」映画

まず結論から言って、『シン・ウルトラマン』という作品は、「人間推し」の最強オタク・ウルトラマンによる「人間推し活」映画なのだと考えている。

地球という惑星で、かつて侵略のために送り込まれた生体兵器が目覚め、その星に住んでいる種族が大変なことになっている、というところから物語は始まる。宇宙の秩序を守る仕事に就いているウルトラマンは、業務の一環として地球にやってきて、その生体兵器=禍威獣を倒す。

ひととおり仕事を終えたら帰る予定だったウルトラマンだが、その時に見たこともないような不思議な光景を目にする。それは、自分が起こした衝撃波に巻き込まれた子供を守って、自らの命を投げ出す青年の姿だ。

このときウルトラマンの中に、この小さく、か弱く、群れを成す、理解不能な種族に対する「好き」という感情の芽が生まれた。

勘違いしてはいけないのが、ここで言う「好き」とは、「ラブ=愛情」ではなく、「インタレスティング=興味深い」に近い感情だということだ。ラストのゾーフィがそうであったように、異なる種族であるウルトラマンが人間に抱いた感情は、自然に考えれば「なんだろう、これ?」という「興味深い」に属するものだろう。

時として他者のために命を投げ出す不可解で多様な種族。それが「群れ」を知らない究極の生命体であるウルトラマンにとっては、理解不能であるがゆえに強く惹かれる部分であった。

そうして、地球に留まったウルトラマンは、ひたすら大量の書物を読んで人間のことを学んでいく。人間を知れば知るほど、不可解だが面白い。次第に、インタレスティングの感情が、「ライク=愛着」に近い物に変わっていく。

この「本を読み漁るパート」が、感情的に「好き」という部分につながっていくのに違和感がある、という意見を目にした。しかし、もしあなたが何かを掘り下げるオタク的気質を少しでも持っているのなら、想像してみてほしい。

ふと見かけて興味を持ったコンテンツのことを、知れば知るほど、調べれば調べるほど、「インタレスティング」を超えた愛着の感情が芽生えてきた経験はないだろうか? このウルトラマンの姿は、コンテンツにハマって関連書籍を読み漁っているオタクの姿そのまんまじゃないか。

これが「推す」という段階の始まりなのだろう。

そんな中、自分の「推しコンテンツ」である人間を滅ぼそうとする外星人・ザラブがやってくる。言葉巧みにコンテンツの中に取り入って、実は内部から絶滅を画策する。しかも、その手段は自分の姿を真似しての破壊活動、言語道断である。

そんな不届き者を、最強オタクのウルトラマンが許すわけがない。ばっちりボコボコにして、スペシウム光線を撃ち込み、八つ裂き光輪で真っ二つにするほどお怒りだ。

その過程で、ウルトラマンはそんな「推し」である人間と実際に交流し、「バディ」で「仲間」だと告げられるのだ。真面目な話、こんな喜びがあるだろうか? 言ってみれば、ウルトラマンにとっては、毎日が握手会みたいなものなのだ。

そうして、ウルトラマンの人間に対する感情は、次第にインタレスティング→ライクから「ラブ=愛情」に近い物へと変貌していく。インタレスティングやライクは、どこか理性的な感情だが、ラブは違う。利害関係や、理性的な判断を無視してでも、その想いを貫きたくなるエモーション=情動がラブだ。

たとえば、会うことの出来ないアイドルでも、現実に存在しないキャラクターでも、荒唐無稽な空想劇でもなんでもいいが、そんな所謂“不要不急”の物のために、身を削るほどの愛着を抱いていく不条理な感情、実は大部分の人に経験があると思うのだ。

その感情にたどり着いたから、ウルトラマンは自らが「光の星の掟」に背くことになっても、人間のために戦うことを選んでいく。

 

その次に対峙することになる外星人・メフィラスは、もっと複雑な存在だ。

「実は、私も現生人類が好きなんですよ」と言うメフィラスは、自らの力をプレゼンし、人間に急速な進化を技術供与しようとする。

しかし、ウルトラマンからすると、このメフィラスは「コンテンツ愛があるように見せかけて、その資源的価値にしか注目していない悪徳プロデューサー」なのである。

「わたしのプロデュースで急速に進化すれば、ヒットするし、私も資源が独占できますし、win-winですよね」という見解のメフィラスに対して、ウルトラマンは「私はこのままの人類の自主性を見守りたいのであって、的外れなプロデュースは実力行使で阻止する」という意向を表明する。

そう、ウルトラマンはありのままのコンテンツのオリジナル性、自主性を重んじる、原作原理主義のオタクなのだ。

もしかしたら、人間(コンテンツ)にとっては、実は大きく進化させられ、力を得た方が幸せな側面があるのかもしれない。一部の人間たちは、それを自ら望んですらいる。しかしそれは、ファン(ウルトラマン)が望む姿ではないのだ。

ここまでいくと、もしかしたらウルトラマンは「原作厨」と呼ばれるレベルなのかもしれない。

結果としてメフィラスは、そのコンテンツ自体が近年消滅することを察知し、もう資源的価値は無いからと手を引いていく(やはり、こやつにはコンテンツ愛は無かったんだな)。

そうして人間を推していたウルトラマンだが、今度は自分の同族がやってきた。ゾーフィが言うことは、こう解釈できる。

なんでそんなくだらないものが好きなの? もう全部消すから、現実の世界に帰ってこいよ

ウルトラマンは、この「いい加減、大人になれよ」的な要求も拒否。敵わないと分かっている強大な敵、コンテンツ自体を消し去れる絶大な権力、ゼットンに対しても立ち向かっていく。

一度は敗れたウルトラマンであったが、そこで人間側からの援護射撃があり、再戦時に自分の命と引き換えにゼットンを消し去ることに成功する。これが、この映画のクライマックスにあたる。

ウルトラマンは、(一時的にせよ)自分の推しを消滅から守ったのだ。しかも、自分の推しているコンテンツの潜在的なポテンシャルとの共闘によって。

こんなに幸せなことがあるだろうか。ゾーフィもびっくりする、ウルトラマンの満足感はそこにある。

つまり『シン・ウルトラマン』において描かれるのは、「なんでそんなくだらないものが好きなの?」と言われながら、それでも「そんなもの」に生涯をかける者の姿なのだ。

その姿は、「特撮」や「アニメ」や、その他“不要不急”のカルチャーに生涯をかける、ファンやクリエイターの姿にも重なってこないだろうか。

そして、この物語は、最後の最後に「なんでそんなくだらないものが好きなの?」と言っていたゾーフィに、「お前が推してる人間っていうのも、たしかにそんなに悪くないのかもね」と言われる、そういう話なのだ。

※ちなみに、映画全体の感想については初日にnoteにまとめたので、良ければこちらで。

文:タカハシヒョウリ

イラスト:chiro

『シン・ウルトラマン』は2022年5月13日(金)より公開中

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『シン・ウルトラマン』

次々と巨大不明生物【禍威獣(カイジュウ)】 があらわれ、その存在が日常となった日本。通常兵器は全く役に立たず、限界を迎える日本政府は、禍威獣対策のスペシャリストを集結し【禍威獣特設対策室専従班】 通称【禍特対(カトクタイ)】 を設立。

班長・田村君男、作戦立案担当官・神永新二、非粒子物理学者・滝明久、汎用生物学者・船縁由美が選ばれ、任務に当たっていた。

禍威獣の危機がせまる中、大気圏外から突如あらわれた銀色の巨人。禍特対には、巨人対策のために分析官・浅見弘子が新たに配属され、神永とバディを組むことに。浅見による報告書に書かれていたのは……【ウルトラマン(仮称)、正体不明】。

監督:樋口真嗣
総監修:庵野秀明
脚本:庵野秀明

出演:斎藤工 長澤まさみ
   有岡大貴 早見あかり 田中哲司
   西島秀俊
   山本耕史 岩松了 嶋田久作 益岡徹
   長塚圭史 山崎一 和田聰宏

声の出演:高橋一生 山寺宏一 津田健次郎

制作年: 2022