• BANGER!!! トップ
  • >
  • 映画
  • >
  • 日本に暮らすクルド人少女の青春『マイスモールランド』が伝える難民・移民たちの現在

日本に暮らすクルド人少女の青春『マイスモールランド』が伝える難民・移民たちの現在

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook
ライター:#野中モモ
日本に暮らすクルド人少女の青春『マイスモールランド』が伝える難民・移民たちの現在
『マイスモールランド』©︎2022「マイスモールランド」製作委員会

日本しか知らない移民二世

かねてより非人道的な処遇が横行していることが指摘されてきた日本の難民・移民政策。さらにパンデミックの影響で海外渡航が制限される中、ウクライナの戦禍から逃れてきた人々の受け入れに特例措置が取られる、外国人技能実習生の労働問題が次々と明らかになるなどの事態から、入国管理局のありかたにますます注目が集まっている。『マイスモールランド』は、そんな現代日本に生きるクルド人の少女が主人公の青春映画だ。

『マイスモールランド』©︎2022「マイスモールランド」製作委員会

「国家を持たない世界最大の民族」と呼ばれるクルド人は、古くよりトルコやイラク、シリア周辺で暮らしてきた。しかし、トルコなどで迫害の対象とされ、1990年代には政府からの弾圧が激化。これを逃れ、親戚や知人を頼って来日する人々が増えた。現在、日本では埼玉県南部におよそ2000人ほどのクルド系住民のコミュニティが築かれている。彼らはクルド語やトルコ語を話し、多くが日本語を習得しているが、日本語しかわからない二世、三世も生まれつつある。

『マイスモールランド』©︎2022「マイスモールランド」製作委員会

マルチルーツを持つ嵐莉菜とその家族が出演

17歳の高校生サーリャ(嵐莉菜)は、幼い頃に親に連れられて日本にやってきたクルド人だ。在日クルド人コミュニティのリーダー的な存在として慕われている父マズルム、日本で生まれ育った妹のアーリン、弟のロビンと4人で暮らしている。

『マイスモールランド』©︎2022「マイスモールランド」製作委員会

サーリャは大学進学の学費を貯めようと家族には内緒ではじめたコンビニエンスストアのアルバイトで、店長の甥で同世代の聡太(奥平大兼)と出会い、心を通わせる。しかし、父親の難民申請が認定されず、さらに入管の施設に収容されてしまい、サーリャは苦境に立たされる。

『マイスモールランド』©︎2022「マイスモールランド」製作委員会

監督・脚本は是枝裕和率いる映像制作者集団「分福」に在籍し、本作で商業長編映画デビューを飾る川和田恵真。日本とイギリスにルーツを持つ1991年生まれの新鋭だ。

主演はこれが映画初出演だという嵐莉菜。日本、ドイツ、イラン、イラク、ロシアにルーツを持ち、大学受験を控えて勉強中の現役高校生だ。2020年より雑誌「ViVi」専属モデルとして活躍し、今年の6月号では初めて単独で表紙を飾った。立っているだけで目をひく華やかなルックスだが、ぷっくりした頬に親しみやすい愛嬌もあり、「ごく普通の高校生」を好演している。

『マイスモールランド』©︎2022「マイスモールランド」製作委員会

監督は、当初は在日クルド人の起用を検討したが、難民申請中に映画に出演することによって背負うリスクを考えて、オーディションを重ねたと記者会見で述べている。映画でサーリャの父、妹、弟を演じているのは嵐の実の家族だが、こちらもオーディションでキャスティングされたとのことだ。

『マイスモールランド』©︎2022「マイスモールランド」製作委員会

私たちのすぐ隣で生きている多くの移民・難民たち

帰国すれば命が危ないというのに、日本で難民として認められることは極端に難しく、就労が許されない。理不尽としか言いようがない要求に翻弄される家族の姿に、胸が痛む。また、サーリャは、母親不在の家庭で幼い妹と弟の面倒を見ており、加えて、トルコ語と日本語を理解できることから、ちょっとした貼り紙の翻訳など、クルド人と日本人のあいだに立ってコミュニケーションを助ける雑用を押し付けられてしまう。彼女を追い詰めるのは入管だが、それ以前に未成年には重すぎる責任を引き受けてしまっているのだ。近年「ヤングケアラー」という言葉と共に認知が広がってきた、家事や家族の世話や介護を担わせられている子供たちへの公的な支援と保護の必要性も痛感させられる。

『マイスモールランド』©︎2022「マイスモールランド」製作委員会

とはいえこの作品には、いかにも青春映画らしいきらめく瞬間も収められている。東京都に近い埼玉県南部、荒川沿いの草むらや素っ気ない道路を自転車でゆく若者たちは、やはり絵になるのだ。床に車座になって祈りを捧げてから食事をとったり、休日にはクルド人で集まってバーベキューをしたりといったサーリャたちの普段の生活の描写も興味深い。この映画が自分を含む日本の観客に、すでに隣に生きている在日クルド人たちをさらに近くに感じさせ、状況の改善が促されることを願う。

『マイスモールランド』©︎2022「マイスモールランド」製作委員会

文:野中モモ

『マイスモールランド』は2022年5月6日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開

Share On
  • Twitter
  • LINE
  • Facebook

『マイスモールランド』

17歳のサーリャは、生活していた地を逃れて来日した家族とともに、幼い頃から日本で育ったクルド人。現在は、埼玉の高校に通い、親友と呼べる友達もいる。夢は学校の先生になること。父・マズルム、妹のアーリン、弟のロビンと4人で暮らし、家ではクルド料理を食べ、食事前には必ずクルド語の祈りを捧げる。

「クルド人としての誇りを失わないように」
そんな父の願いに反して、サーリャたちは、日本の同世代の少年少女と同様に“日本人らしく”育っていた。

進学のため家族に内緒ではじめたバイト先で、サーリャは東京の高校に通う聡太と出会う。聡太は、サーリャが初めて自分の生い立ちを話すことができる少年だった。

ある日、サーリャたち家族に難民申請が不認定となった知らせが入る。在留資格を失うと、居住区である埼玉から出られず、働くこともできなくなる。そんな折、父・マズルムが、入管の施設に収容されたと知らせが入る……。

監督・脚本:川和田恵真
主題歌:ROTH BART BARON「New Morning」

出演:嵐莉菜 奥平大兼
   藤井隆 池脇千鶴
   韓英恵 板橋駿谷 新谷ゆづみ さくら
   サヘル・ローズ 平泉成

制作年: 2022