マイク・ミルズ監督「ホアキンに服を奪われた(笑)」A24製作『カモン カモン』驚きの撮影秘話と演出術

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ライター:遠藤京子
マイク・ミルズ監督「ホアキンに服を奪われた(笑)」A24製作『カモン カモン』驚きの撮影秘話と演出術
『カモン カモン』マイク・ミルズ監督 © Courtesy of A24

『人生はビギナーズ!』(2010年)では父、『20センチュリー・ウーマン』(2016年)では母と、家族の物語を映画にしてきたマイク・ミルズ。お子さんが赤ちゃんだったころ入浴させているときに「これを映画にしよう!」と思いついたことが発端で、新作『カモン カモン』が生まれたという。ホアキン・フェニックスが演じる独身のラジオジャーナリストが、急に甥っ子を預かることになり……という物語だ。

『カモン カモン』© 2021 Be Funny When You Can LLC. All Rights Reserved.

この映画に、自身の実生活がどう反映されたのか? ホアキンや新星子役ウディ・ノーマンとの仕事は? マイク・ミルズにリモートインタビューで聞いた。

『カモン カモン』マイク・ミルズ監督

「俳優を、命令されたり批判されたような気持ちにさせないこと」

―お子さんとの会話から生まれた台詞もあるのでしょうか。ジェシー役の子役のウディ・ノーマンは天才的でしたが、彼に演出するときどんなことに気をつけていましたか?

子どもとの会話や生活から生まれた、たくさんのものが混ざった感じだね。直接ジェシーの台詞になったものもあるよ。脚本を書くのに煮詰まっていたとき「もっと笑えるようにするか、もっとシリアスにするか、どうしよう?」と聞いたら、「ふざけよう、コンマ、そうできる時は、ピリオド」と言うんだ。コンマとピリオドが短い一文の中にあるのが、すごくおもしろいなと思って脚本に入れた(※日本語で言えば、点と丸をそのまま音読しているような感じ&英語では普通は長い文章にしかコンマは使わない)。でもジェシーじゃなく、ジェシーの父親の台詞になったんだ。そんなふうに、あちこちに混ぜこんだ感じかな。

ウディについていえば、ほかの俳優とおもしろいほど変わらなかった。でもウディはすごく知的だよね? それにすごくリアルなんだ。彼の感性が好きだよ。僕の仕事はおもに、ウディにパワフルで正しい演技をしていると感じさせることだったかもしれない。信頼関係を作るのが大事だったんだ。だからこそ俳優たちが自由に演技できて、遊んでいるみたいに感じられる。どんな演技も試せるように、何をしても問題は何も起こらないよと感じさせるのが大事。これはホアキンにしてもウディにしてもギャビー(・ホフマン)にしても同じで、僕が常に努力しているのは俳優の感性に力を与えることなんだ。

『カモン カモン』© 2021 Be Funny When You Can LLC. All Rights Reserved.

―それは自然な流れに任せるということですか?

うーん、なんていうか……もちろん流れは見るけれど、相手に自信を持たせるのには、こちらもかなり努力しないといけない。その人をどれだけ知っているか、その人が自分のどんなところを弱みだと思っているのか、そういうことを理解していなければいけない。こちらがやらせたいことを、彼らが「できない」と思っているときに、どう対応するか。理解してサポートすれば「できる」と感じてもらえるかもしれない。命令されたり晒されたり、批判された気持ちにさせないことが大事なんだ。

ときには「僕にはできない」「どうしたらいいかわからない」「意味がわからない」という相手を説得しなければならないこともある。音楽を演奏するための道を見つける、その手助けをする努力しているような感じかな。それで彼らが演奏できる気持ちになれる、ということなのかも。

『カモン カモン』© 2021 Be Funny When You Can LLC. All Rights Reserved.

―では、どんなときにリテイクを出しますか?

僕はいつも、カメラは撮影を始めたら最後まで回してるほうなんだ。こういう(カチンコを打つジェスチャー)ことはしないで、すでにカメラが回っている状態で俳優たちに話してもらう。そうすると、よりカジュアルで自然で、スローになるよね。カメラを回して「わっ、撮影始まったの?(緊張して固まる)」となることを避けたいんだ。「気がつかなかった、カメラ回ってたの?」くらいの状態で始めて、カットはかけないで「もう一回やってもらえる?」と何回か演技してもらう。なにも指図しないか、言ったとしてもひと言くらい。それを4、5、6、7回くらい……止めないで続けるんだ。それがいいんだよ。

料理するとき、じっくり弱火で煮ながらその場を離れたりするよね。温めつづけて変化させつづけるんだ。「OK、じゃあ火を止めようか」と戻ると、料理ができている。方向性を示してポイントだけ伝えて、本当にゆっくり待つんだ。ギリギリの撮り方だと必ず問題が起こってしまう。あと、どんなシーンでも最低5から10テイクは撮るほうだね。

『カモン カモン』© 2021 Be Funny When You Can LLC. All Rights Reserved.

「ホアキンはとても寛大で考え深い人。彼との仕事はすごく楽しかった」

―ホアキン・フェニックスとの仕事はいかがでしたか?

ホアキンのことは大好きだ。話もうまくて、映画も撮れるし、演技も(できる)。あんなにおもしろくて頭がいい人はいないよ。それに物語を深く解釈する人だしね。作品と監督に対して、僕に対しても敬意を払ってくれる。ホアキンはクレイジーでダークでおかしな人だと思われているかもしれないけれど、あんなによく働く人はいないし、謙虚で、撮影への集中力が高くて、機会を逃さない。彼と映画を撮れるのは特権だよ。

実は『カモン カモン』を撮り終えた後、ホアキンと一緒に映画館に行ったんだ。彼は観客にお礼を言いたかったみたいで。事前予告なしで、月曜の夕方5時の回だったので観客は4人くらいしかいなかった。でも彼は「ホアキンがいる」と騒がれたくなくて、僕の名前を言わないでくれ、放っておいてくれ、わざわざ映画館に来てくれている観客と過ごしたいだけなんだ、と言うんだ。僕は「ホアキンがいる!」と言いたかったよ、ほんとに(笑)。

ホアキンは「この先、映画は注意を払われなくなるんじゃないか。劇場にはほんの少ししか人が来ないけど、劇場で映画を見るのって素敵なことだ。劇場には観客が必要なんだよ」と言っていた。僕たちの映画のことだけじゃなく、映画館で映画を見ることについてそう言うので、僕は「すごいな……」って感じだった。とても寛大で考え深い人なんだ。

『カモン カモン』© 2021 Be Funny When You Can LLC. All Rights Reserved.

―「映画は注意を払われなくなる」とは、どういうことなんでしょうか?

映画を見るために劇場に来つづける人は、危機的に少なくなっている。だから彼は映画を見に来てくれる人に、ただ挨拶するために映画館に行くんだよね。アンジェリカ・フィルムセンター(※米映画館チェーン)とかに。でもホアキンは劇場に2、3人しかいないようなときが、いちばん居心地がいいみたいなんだ。より個人でいられるからじゃないかな。友達に「ハイ」っていうみたいに。

―そのとき劇場に来ていた人たちはラッキーでしたね。

そうだね。でも混乱してもいた。ホアキンが歩き回っていてもマスク姿だし、みんなすぐには気づかないんだ。観客を見ていると「見てごらんよ、あの人」という感じで、だんだん気づいて「あれは“ジョーカー”じゃない?」「そうだ、ホアキンだ!」って(笑)。すごく可笑しかったよ。

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―ホアキンが劇中で着ているノースフェイスのジャケットやコンバースのシューズが監督の服装にそっくりだと言われていますが、ご自身をモデルにした登場人物を監督するとき、どんなお気持ちですか?

(「これね」と言うかのように足もとをカメラに映るように上げてくれる)音楽って、(人によって)いろいろな演奏があるよね。ホアキンが演じたジョニーと僕はまったく同じでもなくて、彼のほうがおもしろくて、もっと強い感じ。あと、ホアキンは僕の服をだいぶ着たんだよね。でも、それは予算がないから。信じてもらえるかわからないけれど、僕らは資金に恵まれてるわけじゃないんだよね……。だから、うちの家具も僕の服も、だいぶ映画に出ている。

不思議なことに、僕とホアキンの服のサイズが同じで、ユアン・マクレガーとも同じなんだ。『人生はビギナーズ』でも、ユアンは僕の服をかなり着ているよ。僕はそのことを知らなくて「ああ、このシャツ君が着てたのか?」みたいな。今回ホアキンは最初、僕の服を着ていなかった。だからちょっと感じが違ったんだけど、カメラテストのとき、ホアキンは僕を見て「靴を渡せ」って感じでこっちに寄ってくるんだよ。それで靴を渡したら気に入ったみたいで、次は「ジーンズを渡せ」と。僕はジーンズを文字通り脱がされて、衣裳部が代わりのジーンズを何本か持ってきてくれた。それから内輪ネタみたいに僕から盗み続けるのが続いたんだ。

『カモン カモン』マイク・ミルズ監督

「作品の中で語られている台詞は、すべての観客に向けられている」

―監督をされていて、ご自身のアイデンティティを再認識することはありますか?

それはないかな。監督として作業中に起こることのすべてが僕自身から起こってくるわけではないし、僕がすべてをコントロールしているわけではないし、僕が自分で書いた台詞を演じるわけでもない。そこが(監督業の)めちゃくちゃに好きなところなんだ。こういう個人的な映画を撮っても、それが自己発見かというとそうではない。でもセラピーは自己発見だし、人生そのもの、友人関係、書くことなども何かしらの自己発見だと思う。俳優に出会ったら車のキーを渡して、好きなように運転してもらうのが僕は幸せだし、彼らを励まして好きなようにやってもらいたい。そうすると個人の記憶がそれだけに留まらずに、物語として共有されるよね。

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―モノクロでの撮影について『キッド』(1921年)、『ペーパー・ムーン』(1973年)、『都会のアリス』(1973年)など、子役が出ている傑作モノクロ映画について言及されています。そして2019年には、ザ・ナショナルの「Hairpin Turns」のミュージックビデオもモノクロとパートカラーで撮っていらっしゃいますよね。モノクロにすることで、映像のパワーを上げる狙いがあったのではありませんか?

その通り。モノクロが大好きなんだ。より魔法的になるからね。“魔法”という言葉を使ったけれど、まさに魔法のような感覚で、それが現実に起こりうるというリアリティを与えるんだ。それにモノクロは、リアリティということにとどまらない。“超リアリティ”とか“ダブルのリアリティ”みたいな感じで、より領域を広げてくれる。

映画監督として、モノクロだとシリアスにも面白くもできて、子どもと大人のイメージが寓話的になるのもよかった。黒澤明の『天国と地獄』(1963年)みたいになると思う。モノクロだと、すべてがアートになるよね。日本の水墨画とか。あるレベルではリアルなのに、絵画のようにもなる。美しく独特で、リアルという以上の作品になる。もし僕が勝手に選んでいいのなら、モノクロ映画しか撮らないよ。

『カモン カモン』© 2021 Be Funny When You Can LLC. All Rights Reserved.

―モノクロ映像が美しくて、車の渋滞でさえキャンドルサービスのように見えました。

本当にリアルなものを撮りたいし、アート的にしなくても、モノクロで自然光で撮るとモダンになるよね。なにか美しい、ほとんど審美的なものがあって、すごくリアルで、すごく普通で、すごく変わっている。というのも僕たちは通常、世界をモノクロで見ることがないからなんだ。

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―映画の始まりにも終わりにも、子どものインタビュー音声が入っています。「未来について考えたとき何を想像する?」「何があると幸せになる?」――これらの質問が私たち大人にも投げかけられているように感じたのですが、そうした意図もあったのでしょうか?

そうだね、それは考えていた。作品の中で語られている台詞は、すべての観客に向けられているんだ。誰が何を言っても「もし自分が聞かれたら」「もし、こう言われたらどう感じるだろう」「これはどんな感じだろう」と感じるよね。子どもたちへのインタビューは二重の演劇で……子どもの返事を聞いて子どものことも考えるけれども、大人の自分も子どもの気持ちになって、自分の気持ちを考えるということが起こる。だから一度に多くのことが起こると思ったんだ。子どもを物事の中心にすると、それが大人の観客には物理的にトリックっぽくなるんだよね。

『カモン カモン』© 2021 Be Funny When You Can LLC. All Rights Reserved.

「映画は観客なしでは存在し得ない」

―読者へのメッセージをお願いします。

なんのために?

―映画を見に来てね、とか……。

観客に個人的に話しかけるようにしたかった作品だし、何千もの異なる解釈があると思うけど、この映画の中をゆっくり散歩するような余白を残したいと思っている。メッセージを、自分が本当に思っていることを言うとするなら、映画は観客なしでは存在し得ない。誰かがそれを見たり、解釈したり、感じたりしなければ、映画というものは空っぽで存在しないも同然だ。

だから僕はいつも、わざわざ時間を取って映画を見に来てくれる人に“借り”があると思っているし、感謝しているし、つながりを感じる。観客に観てもらうまでが映画制作のプロセスの一部のように感じるし、本当に借りがあると思っているんだ。インタビューされるのと同じで、僕が話すことに時間を取ってくれて、配慮や時間を取ってもらうことに感謝しているし、それは素晴らしいことだ。映画を撮りつづけなければと思っている。だから観客へのメッセージは「どうもありがとう」だけだよ。

『カモン カモン』© 2021 Be Funny When You Can LLC. All Rights Reserved.

―最後にもう一つだけ伺ってもいいですか?

もちろん!

―緊迫した世界情勢の中、この作品を見て「こんなに美しい映画を撮っている人がいるのに、この世界の大人たちは……」と思ったら泣いてしまったんです。あなたの作品の中でインタビューされている子どもでさえ「誰かに怒りを向けるな」「間違った方法でねじ伏せるなんて」と言っているのに。いま改めて子どもたちに言ってあげたいことは何かありますか。

これは大変な質問だなあ……。僕は紛争とか情報戦争とかについては、まったくわからない。だから僕が何か言うにしろ、「僕に聞かないでよ」って感じだよ。もし僕に何か言えることがあるとしたら……わからないな、幼い人々に何を言ってあげたらいいのか……。誰にとっても真実だと思うのは、どこで暮らしていようと、自分の意見を持っていたり、持とうとしたり、自分自身でいていいんだ、ということ。それは一生かかるプロセスだよね。永遠にかかるかもしれない。僕に聞くより、雑誌に出ているような誰かに聞くべきなのかもしれないけど。単純な答えなんかない、信じられないような大変なことに対処しようとする、独自の道を見つけようとするようなことなのかもしれない。ちょっと説教くさいかな(笑)。でも、あなたがこの映画を美しいと思ってくれたことに感謝しているよ。

ついこの間『カサブランカ』(1942年)を見たんだ。大好きな映画で、こんな大変な時期にこの映画を見られてよかったと思った。不思議なことに『カサブランカ』って、戦争と難民と弾圧と、弾圧への抵抗についての映画なんだよね。でも僕は、この映画の制作者の努力や才能や技能、配慮や職人魂を楽しむことができたんだ。映画そのものが、戦争宣言ではなく、人間宣言みたいだった。それに、多くの人が紛争を心配して見守っているというのも、ある種ポジティブなことなんじゃないかな。

『カモン カモン』マイク・ミルズ監督

取材・文:遠藤京子

『カモン カモン』は2022年4月22日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

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『カモン カモン』

NYでラジオジャーナリストとして1人で暮らすジョニーは、妹から頼まれ、9歳の甥・ジェシーの面倒を数日間みることに。LAの妹の家で突然始まった共同生活は、戸惑いの連続。好奇心旺盛なジェシーは、ジョニーのぎこちない兄妹関係やいまだ独身でいる理由、自分の父親の病気に関する疑問をストレートに投げかけ、ジョニーを困らせる一方で、ジョニーの仕事や録音機材に興味を示し、二人は次第に距離を縮めていく。仕事のためNYに戻ることになったジョニーは、ジェシーを連れて行くことを決めるが……。

監督・脚本:マイク・ミルズ

出演:ホアキン・フェニックス ウディ・ノーマン
   ギャビー・ホフマン モリー・ウェブスター ジャブーキー・ヤング=ホワイト

制作年: 2021

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