差別、難民、暴動、饗宴! アカデミー賞ドキュメンタリー賞候補10作品を紹介!! 配信中作品も多数

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ライター:まつかわゆま
差別、難民、暴動、饗宴! アカデミー賞ドキュメンタリー賞候補10作品を紹介!! 配信中作品も多数
『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』
© 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

アカデミー賞におけるドキュメンタリー部門

第94回アカデミー賞の授賞式が迫ってきた。2022年は、なんといっても濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』の4部門ノミネートが話題をさらっている。が、その話は他の方に任せるとして、ここではドキュメンタリー映画部門についてお話してみたい。

『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』
© 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

アカデミー賞のドキュメンタリー部門は長編と短編の二つに分かれている。長編は40分以上、短編は40分以内という規定だ。指定された地域での公開、または指定された映画祭での受賞、もしくは長編ドキュメンタリー部門の場合なら長編国際映画賞候補作品として国の推薦を受けた作品もドキュメンタリー部門にノミネートされることができる、という規定がある。

つまり、製作した国がアメリカでなくてはいけないということはない。ドキュメンタリー映画が作品賞にノミネートされたり、長編国際映画賞にノミネートされたり、その手法がアニメーションであればアニメーション部門にもノミネートできるし、主題歌があれば2019年の『RBG 最強の85才』(2018年)のように歌曲賞にもノミネートされる、というわけである。

『FLEE フリー』©Final Cut for Real ApS, Sun Creature Studio, Vivement Lundi!, Mostfilm, Mer Film ARTE France, Copenhagen Film Fund, Ryot Films, Vice Studios, VPRO 2021 All rights reserved

3部門ノミネートの快挙『FLEE フリー』

今回、デンマーク代表として国際長編映画賞に選ばれ、長編ドキュメンタリー映画賞にも入っているのが『FLEE フリー』。アニメーションという手法を使った作品として長編アニメ映画賞にもノミネートされ、史上初と話題になっている。すでにアヌシーのアニメーション映画祭、サンダンス映画祭、トロント映画祭など多くの映画祭で、アニメーションまたはドキュメンタリーとして受賞を遂げている作品だ。

『FLEE フリー』©Final Cut for Real ApS, Sun Creature Studio, Vivement Lundi!, Mostfilm, Mer Film ARTE France, Copenhagen Film Fund, Ryot Films, Vice Studios, VPRO 2021 All rights reserved

幼いころ戦乱の中家族と引き離され、一人デンマークに亡命したアフガン難民の青年。学術の道で成功し、同性の恋人と結婚することになり、彼は恋人にも話していない壮絶な過去を振り返らざるをえなくなり、親友である映画監督に語り始める。本人を特定させないために選ばれたのがアニメという手法だったのだ。デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、フランスの合作で、2022年6月に日本公開が決まった。

お蔵入りした世紀の饗宴を発掘再編集『サマー・オブ・ソウル』

2021年8月に日本で公開されたのが『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』。アメリカ国内の映画祭でドキュメンタリー映画部門の賞を獲りまくっている。

アカデミー賞は会員を海外の映画人にも広げるなど多様性を図っているが、それでも基本的にアメリカ映画業界の賞である。ドキュメンタリー映画としてのクオリティや作家性の高さ(例えばフレデリック・ワイズマン監督はアカデミー賞に縁がなく、2017年に名誉賞を授賞されたのみ)を評価する、というよりも、アメリカ国内の問題について取り上げる作品を評価する傾向にある。国際問題よりも国内の社会問題を掘り下げる方がアメリカ人には響くわけだ。作家がアメリカ人であるということもポイントが高い。そういう視点で見ると、『サマー・オブ・ソウル』の受賞可能性はかなり高いと思う。

『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』
© 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

「ウッドストックのコンサート」の向こうを張るかのように、1969年ニューヨーク・ハーレム地区で行われた音楽イベントを記録したドキュメンタリーだ。ソウルを始めとしたブラック・ミュージックの錚々たるメンバーが集合し、6週間にわたって音楽及び文化の祭典を繰り広げたこの記録は、一部をテレビ番組として使用されただけでしまい込まれていた。当時のスターもいれば、現在の大御所の若き日の姿もあるこの記録をデジタル化、当時の参加者や探し出した観客のインタビュー、当時の社会背景を映すフッテージなどを加えて新たなドキュメンタリー作品として構成したのが本作である。

悲劇的な刑務所暴動の真実『Attica』

ブラック・パワーの時代の暗黒部分を思い起こさせ今と重ねるという意味で『Attica』(公開未定)のノミネートがある。1971年9月に起きたニューヨーク州、アッティカ刑務所の暴動を描く作品。当時の収監者、人質の家族などのインタビューを交え、暴動の事実を掘り起こしていく。アフリカ系とヒスパニック系などの有色人種が収監者のほとんどを占め、それに対して刑務官はすべて白人で、彼らは有色人種収監者に対して差別的に暴力的になり、刑務所の環境自体も劣悪であったという。

暴動は人質を取っての籠城になり州兵が出動、銃撃戦に発展し人質9人と収監者28人が死亡した。事件から50年。ブラック・ライブス・マターに揺れ動く今もなお続く、人種差別的な刑務所システムを告発するドキュメンタリーになっている。

インドで戦う女性ジャーナリストを追う『燃え上がる記者たち』

アメリカにはPBSを始めドキュメンタリーを放映するケーブルテレビ局やストリーミングがあり、様々な種類のドキュメンタリーが作られている。映画祭にもドキュメンタリー部門を持つところが少なくなく、国内と国際に分けてドキュメンタリー作品を上映・コンペティションを行う映画祭からは、インターナショナルな作品がアメリカ国内に送り出されていく。

そんな中から現れたのがインドの作品『燃え上がる記者たち』。とうとうアカデミー賞までたどり着いたかと感慨が深い。本作は2021年のサンダンス映画祭で観客賞と国際ドキュメンタリー部門審査員特別賞を受賞し、山形国際ドキュメンタリー映画祭では市民賞を獲得している。筆者が一次審査を担当する映画祭でも劇映画を含めたロングリストに推薦した作品だ。

インドの下層カースト“ダーリ”出身の女性たちによる、唯一の新聞/ウェブメディアの記者たちの活動を描く。ダーリであること、女性であることの二重の被差別者として社会から無視され傷つけられる立場にある彼女たちが、声をあげ、社会の底辺から問題を掘り起こし追及していく。スマホひとつを武器に現場に乗り込んでいく女性たちが、次第にいきいきとジャーナリストとしての誇りを掲げ、一歩も引かず取材対象に挑んでいく様に勇気をもらえる作品になっている。

女は家にいて家事と育児をすべきという慣習と戦い、差別と闘い、社会と戦う。もちろん戦いに負けることもある。それも受け入れながら立ち続ける仲間たちに、拍手を送りたい。日本でも劇場公開されることを強く、望む。

人間の果てなき欲望と搾取構造を冷徹に見つめる『Ascension』

長編ドキュメンタリー賞ノミネート作品の最後は、中国系の女性監督によるアメリカ作品『Ascension』。2021年のトライベッカ映画祭で長篇ドキュメンタリー映画賞を授賞し、現在も各国の映画祭に応募しているところのようだ。ノー・ナレーションで観察映画のスタイルをとり、中国の様々な階層の人々の“経済活動”をカメラに捉えていく。

とてつもない人数の胃袋を満たす鶏醤油煮の工場、ペットボトルやミネラルウォーターの工場、世界のアパレルを支える縫製工場から、世界の欲望を満たすロマンスドールの工場まで、とてつもない数の製品を作り出す、数えきれない末端の労働者たち。富裕層を対象にした新しいサービス業、たとえば執事とかエステティシャンとかになろうという人たちの訓練の場も、立派にビジネスになっている。とにかく「儲けたい」「より良い収入・より良い暮らし」を、とてつもない人数の人々が追い求めている中国を、冷徹に観察する映画である。

環境保護だのリサイクルだの、そんなことを考えている暇はなさそうな現実が描かれている。次から次へと出てくる、あまりの物量の氾濫にげっそりするが、世界の経済と暮らしがこの人たちに、彼らの生産物に支えられているのかと思うと、批判は自分に戻ってくるのだなと思う。これをアカデミ―会員がどう見るのか興味がわく。

短編ドキュメンタリー賞は全5作品中4作品が字幕付き配信中

短編ドキュメンタリー映画部門の作品は5本。長編と同じ応募条件に加えて、学生アカデミー賞の3位までの作品に応募が許されている。2022年は、監督が50年前のいじめを検証するため、5年生のクラスと5年生の担任を訪ねるという『When We Were Bullies』以外は、ネット上で日本からも見ることができる。Netflixで『オーディブル:鼓動を聞かせて』『私の帰る場所』『ベナジルに捧げる3つの歌』の3本が、YouTubeで『The Queen of Basketball』が配信中だ。日本語字幕付きで見られるのも助かる。

『ベナジルに捧げる3つの歌』はアフガニスタンの作品。アフガニスタンの国内難民キャンプで暮らす青年シャイスタはベナジルと結婚し子どもも生まれるが、仕事もなく、アフガニスタン国軍に入ろうとする。しかし、親に反対されてしまい……。難民として暮らす困難と、初々しい恋の喜び、若者の夢と挫折を見守る作品になっている。

他4本はアメリカの作品。アメリカンフットボールの強豪校である聾学校のアメフト選手の青春を描く『オーディブル:鼓動を聞かせて』、70年代に黒人女性として初めて全国優勝した高校バスケットボール選手のライフヒストリーを追う『The Queen of Basketball』、アメリカのホームレス問題を描く『私の帰る場所』、いずれも丁寧に作られたアメリカン・ドキュメンタリーらしい作品だ。起承転結があり、フッテージやインタビューを盛り込み、明快にテーマを打ち出すまじめな作品である。どれが受賞してもおかしくない。

Netflix『オーディブル:鼓動を聞かせて』独占配信中

アカデミー賞ドキュメンタリー部門の投票は、長編も短編も、最終リストに挙げられた作品をすべて見たアカデミー会員によって行われる。広く公開される/されたわけではないドキュメンタリーの場合、DVDやストリーミングで見られるとはいえ、積極的に探して見なければ全作品を網羅するのは大変かもしれない。もちろん、アカデミーは会員が見られるような機会を作ってはいるのだが……。

Netflix『私の帰る場所』独占配信中

忙しさを縫ってでも候補作品を全部見て、わざわざドキュメンタリー部門に投票したいという意思のある会員が、どのくらいいるのだろう。それはわからないが、その彼らが、いったいどの作品に投票するのか。筆者は授賞式を楽しみにしている。

文:まつかわゆま

第94回アカデミー賞は2022年3月28日(※日本時間)開催

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