• BANGER!!! トップ
  • >
  • 映画
  • >
  • マイホーム焼失! その後の生活をスマホ撮影『焼け跡クロニクル』監督一家が“焼け跡”から見つけた“宝物”とは

マイホーム焼失! その後の生活をスマホ撮影『焼け跡クロニクル』監督一家が“焼け跡”から見つけた“宝物”とは

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook
ライター:#髙橋直樹
マイホーム焼失! その後の生活をスマホ撮影『焼け跡クロニクル』監督一家が“焼け跡”から見つけた“宝物”とは
『焼け跡クロニクル』©2022『焼け跡クロニクル』プロジェクト

突然の自宅焼失! 小さな炎が手と手を取り合って踊っていた

映画『焼け跡クロニクル』 には、原將人監督と妻のまおり氏、大学生の息子と双子の姉妹が登場する。義理のお母さんや仲間たちも顔を見せるが、殆どは家族五人が画面の中を行ったり来たり。

2018年7月、猛暑が続く京都。突然の出火で“あれよ、あれよ”という間に家が焼失した。小さな炎は「手と手を取り合って、まるでダンスを踊るかのように燃え広がった」と原監督が振り返る。それは「美しく、あっという間の出来事だった」とも。消火が始まっても、主は我が家が炎に包まれる様に目を奪われていた。しばしの間と感じたが、メラメラと燃える炎に晒された皮膚は大きなダメージを負った。ヤケドである。心の痛みを全身に浴びた監督は、消防士からの助言で病院に緊急入院することに。

『焼け跡クロニクル』©2022『焼け跡クロニクル』プロジェクト

火事の報せを受けた妻はスマホで撮影を開始!

まさかの自宅焼失、さぞや茫然自失、我を忘れて悲嘆に暮れているのではないか。こんな凡人的な予想は良い意味で完全に裏切られる。

新作のデータが入ったHDとMacを持ち出した監督が病院に搬送されている最中、一報を受けた妻の原まおり氏はタクシーの中でスマホを取り出す。電話ではなく撮影するために!

『焼け跡クロニクル』©2022『焼け跡クロニクル』プロジェクト

京都の市街地を走り我が家の傍に到着する。こぼれ落ちた水滴で濡れた路面には消防車、周辺で隊員たちが右往左往。母は崩れ落ちた我が家の向かいで子どもたちを見つける。娘の一人が「お腹が空いた」と訴え、「お母さんはお金を持ってるよね」と念を押す。大変なことが起きていることは察しているが、腹が減っては元気が出ない。隣の長男坊は、燃えちゃったものはしょうがないと達観の程でクールにことの成り行きを見つめている。

『焼け跡クロニクル』©2022『焼け跡クロニクル』プロジェクト

「ちょっと見てくる」――焼け跡で“発掘作業”が始まった!

じっとしてはいられない。最初に立ち上がったのは、監督、撮影、編集を担ったまおり氏だ。妻であり、女優であり、母である彼女は、スマホとタブレットで現在進行形の避難生活を撮影し続ける。やがて、病院では包帯を巻かれてミイラ状態(長男の証言)だった夫が帰ってくる。熱中症が多発し病床不足で追い出されてしまった。ヤケドもキツいが、煙塵を吸い込んだ呼吸器系も傷ついているようだ。

『焼け跡クロニクル』©2022『焼け跡クロニクル』プロジェクト

だが、ひと息つく暇はない。現場検証時に消防士から「いつ崩れ落ちてもおかしくないから絶対に立ち入らないこと」と念押しされていても、映画フィルムや機材、免許証やカードや貴重品が気になって仕方がない。

ここからが見どころだ。主人は「ちょっと見てくる」と発掘作業を開始する。原家の焼け跡からは、炎熱で固まった8ミリフィルムやアルバムが見つかる。無傷に近いものもあれば、使い物にならないものもの沢山。傷ついたひとコマひとコマが編集機で丁寧につなげられていく。家族の歴史を刻んだフィルムには、炎がもたらした奇跡とも呼ぶべき独特な“色調”が浮かび上がる。

『焼け跡クロニクル』©2022『焼け跡クロニクル』プロジェクト

クラウドの時代、だからこそ見つめ直したい大切なこと

必要な時にデータを呼び出し、映画やゲームもオンラインが当たり前になった。辞書はなくても、複数単語で検索すれば必要な言葉や情報が得られる。音楽は月額料金で聴き放題、読書もスマホやタブレットでこと足りる。クラウドの時代、誰もが物を所有することに執着しなくなっている。だけど、世界にひとつしかない思い出の品や、家族の記録など、決して捨てることができない大切なものが数多くあるのではないだろうか。

『焼け跡クロニクル』は、出火直後から緊急避難した数日間、仮住まいのアパート生活を経て、新しい住み家を見つけ、家族旅行に出掛けるまでの記録である。まおり氏がスマホで撮影した映像に、奇跡的に生き残ったフィルムが醸しだす得も言われぬ味わいの映像がブレンドされて、まさに原家の“年代記”となっている。

『焼け跡クロニクル』©2022『焼け跡クロニクル』プロジェクト

映画は自分の周りにあることを見つめ直すことの大切さを教えてくれる。焼け跡から見つかったのは、決して色褪せることのない家族の思い出であり、自分たちが生きてきた軌跡そのものなのだ。発掘作業はかけがえのない“昨日”を再発見する喜びとなり、“明日”に向かう原動力になっていく。

とてつもなく大変な事態に直面しても決してへこたれなかった家族が見つけたのは、金銀財宝をいくら積んでも手に入れることができない、人生を再び輝かせる唯一無二の“宝物”だ。くよくよせずに動き出そう。宝物はきっと見つけられるはずだから……。

『焼け跡クロニクル』©2022『焼け跡クロニクル』プロジェクト

文:髙橋直樹

『焼け跡クロニクル』は2022年2月25日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開

Share On
  • Twitter
  • LINE
  • Facebook

『焼け跡クロニクル』

2018年7月、昔ながらの町家が残る京都西陣。路地奥にあった映画監督・原將人の自宅が不慮の火事で全焼した。幸い家族5人は無事だったものの、すべての家財道具と保管していた映画フィルムや機材が焼失してしまう。原は新作のデータを救いに火の中へ戻り、やけどを負って入院。夫を安心させようと、妻のまおりはとっさに家族の様子をスマートフォンで撮影した。

今夜寝る場所は? 着る服や靴は? 火災保険は?明日からの仕事や学校は?
呆然とした夜が明けて、嵐のような日々がはじまったーー

制作年: 2022
監督: