『007』原作者も関与!「Q」は実在した!?『オペレーション・ミンスミート ―ナチを欺いた死体―』が描く驚愕の真実

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ライター:青井邦夫
『007』原作者も関与!「Q」は実在した!?『オペレーション・ミンスミート ―ナチを欺いた死体―』が描く驚愕の真実
『オペレーション・ミンスミート ―ナチを欺いた死体―』© Haversack Films Limited 2021

イギリス軍による奇想天外な作戦

第二次世界大戦では、最新兵器を使った戦闘と並行して兵器を使わない戦闘、すなわち情報戦も複雑かつ大量に行われた。映画『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』(2014年)で描かれたように、イギリス軍はナチス・ドイツの暗号機エニグマの解読に力を入れたが、それと並行してドイツ軍を撹乱するために偽の情報を流すという作戦も行われていた。

第二次世界大戦開始から4年後の1943年、イギリス軍はドイツ空軍の爆撃を撃退し、アフリカのドイツ軍もアメリカ軍とともに制圧、次にヨーロッパへの侵攻を考えていた。ヨーロッパへの足がかりはイタリアのシシリー島への上陸が有力視されていたが、問題はドイツ軍もそう考えているということだった。敵が待ち構えているところへ攻撃を仕掛けたのでは、大きな犠牲が出てしまう。上陸作戦が行われる前にドイツ軍の気をそらし、連合軍がシシリー以外の場所を狙っていると思わせたい。そこでイギリスの情報機関は奇想天外な方法を思いついたのだ。

彼らは、連合軍の目標がギリシャであると記した機密書類をイギリス海兵隊将校に偽装した死体に持たせ、それをドイツのスパイが活動している中立国スペインの海岸に漂着させようと企んだのだった。

『オペレーション・ミンスミート ―ナチを欺いた死体―』© Haversack Films Limited 2021

イアン・フレミング少佐って、もしかして……?

まるで映画のようなこの作戦は実話であり、映画『オペレーション・ミンスミート ―ナチを欺いた死体―』で描かれている内容は、若干の強調や創作があるとはいえ、ほぼ事実通りなのだから驚く。

『オペレーション・ミンスミート ―ナチを欺いた死体―』© Haversack Films Limited 2021

この「ミンスミート作戦」は1950年代に当事者の一人であるユーエン・モンタギュー、本作ではコリン・ファースが演じる人物により書籍として発表され、さらに1956年には『The Man Who Never Was(原題)』として映画化されている。

しかし、今回の映画化は2010年に刊行されたベン・マッキンタイアーによる「ナチを欺いた死体 英国の奇策・ミンスミート作戦の真実」をベースにしているため、過去の作品よりも更に詳細に作戦内容が描かれている。

ナチを欺いた死体-英国の奇策・ミンスミート作戦の真実 (中公文庫 マ 17-1)

本作で改めてクローズアップされた人物は、海軍情報部のゴドフリー提督の私設補佐官だったイアン・フレミング少佐。彼はもちろん「007」、あのジェームズ・ボンドを主人公とする一連の小説の原作者だ。

当時フレミングは実際に母の紹介でゴドフリー提督のもとにいて、まるでスパイ小説のような数々の奇策を考えていた。また、選抜されたエキスパートによる情報収集のためのコマンド部隊、30アサルトユニット結成にも関係していた。彼は任務で中立国ポルトガルに赴いた際、ドイツ軍人から活動資金を巻き上げようとカジノでカードゲームに挑戦したものの自分のほうが負けてしまったり、ロンドンでドイツ人捕虜を連れ出し酒を振る舞って酔わせ情報を引き出そうとしたが、逆に自分が酔っ払ってしまい警視庁特捜部に逮捕されそうになるなど、後に小説に活かされた失敗談が有名だ。

この作戦のアイデアの基となったのは、ゴドフリー提督がチャーチルに提出した「トラウト・メモ」だが、このメモはほぼフレミングがまとめたものだろうと現在では考えられている。このミンスミート作戦こそは彼の優れたアイデアが見事に成功した例だろう。

『オペレーション・ミンスミート ―ナチを欺いた死体―』© Haversack Films Limited 2021

『007』シリーズの「Q課」のモデルとなった実在の人物

作戦のため調達されたホームレスの死体はビル・マーティン少佐と名付けられ、腐敗が進まないように特別に用意されたコンテナに収容され、潜水艦でスペイン近海まで運ばれた。この特殊コンテナを考案したのは、チャールズ・フレイザー・スミスという人物。彼は英国軍需省の衣料繊維部門の官僚だったが、実はこの部署で外国に潜入する特殊作戦執行部(SOE)の工作員のために、消えるインクや隠しコンパスなど数々の秘密兵器を考案、製作していた。

彼のチームは別名「Q課」と呼ばれていたが、これは「Quatermaster (物資調達係)」からとられたもの。もうおわかりだろうが、『007』シリーズの秘密兵器係「Q」は彼がモデルなのだ。もっともフレミングは小説にQ課は登場させたものの、Qという人物は描写しなかった。しかし、フレイザー・スミスがQの元ネタになったことは間違いなく、実際にQを演じたデスモンド・リュウェリンとフレイザー・スミスが並んで写っている記念写真も存在する。本作ではフレミングがQ課で“ある小道具”を手に取ってニヤリとする場面があるが、これは明らかに『007』映画へのオマージュだろう。似たような小道具は『007/死ぬのは奴らだ』(1973年)に登場している。

ちなみに本作でイアン・フレミングを演じているジョニー・フリンは、フレミング本人によく似ている。海軍情報部時代のフレミングはいくつかの映画になっているが、今までの作品は内容も大きく誇張されていたし演じた俳優もあまり似ていなかった。本作のフレミングは行動も容姿も今までで一番本人に近いと言える。

『オペレーション・ミンスミート ―ナチを欺いた死体―』© Haversack Films Limited 2021

ミンスミート作戦の中心となったのはユーエン・モンタギュー(コリン・ファース)とチャールズ・チャムリー(マシュー・マクファディン)で、彼らは女性スタッフのジーン・レスリー(ケリー・マクドナルド)らと共に、存在しない海兵隊士官ビル・マーティンに存在感を持たせるため、様々な逸話を創作していく。この過程は正に物語を紡いでいくようで、とても楽しい。そして、その物語には作者の現実が少しずつ入り込んでいく。時にそれは、まるで遠回しな愛の告白の様相を見せ、当事者たちの関係が少しずつ親密になっていく。この辺の展開はスパイ映画というよりもロマンス映画のようだ。

面白いことに、実際にこの作戦に関与した人の中にはフレミングを始め、小説を書いていた人が少なくない。この映画はスパイ映画としてだけでなく、人が物語を作る欲求やその物語が勢いを得て膨らんでいき、多くの人に影響を与える物語と捉えることもできるだろう。

『オペレーション・ミンスミート ―ナチを欺いた死体―』© Haversack Films Limited 2021

後のスパイ作家による「虚構の物語」を軸に描かれる多面的な映画

遊びのように始まった、ナチス攪乱作戦の要となる秘密兵器=死体はついに海に放たれ、ドイツ軍が関与し始める。すると予測を超えた不具合やすれ違いが起こり、作戦の成功に影が差し始める。それはまるで、秘密兵器でピンチを切り抜けるスパイ・アクション映画が、リアルでシリアスなスパイ映画に変化していくようだ。そして戦地から離れた場所にいるはずのモンタギュー達の周辺にも不安が押し寄せてくる。

共産主義者としてスパイの疑惑をかけられるモンタギューの弟役に、ゲイであることを表明しているマーク・ゲイティスを配したことにより、私は戦後発覚したイギリスの大スパイ事件の当事者のガイ・バージェスやアンソニー・ブラントのことを連想した。彼らは同性愛者だったのだが、バージェスをモデルに共産主義者となった学生時代を描いた映画が『アナザー・カントリー』(1983年)であり、そこで主人公を共産主義に誘った学生を演じたのが、本作の主人公を演じたコリン・ファースだった。

さらに後年、このドイツ軍を陥れたミンスミート作戦の全貌は、当時からソビエトに知られていたことが判明した。情報を流していたのはアンソニー・ブラントだったのだ。

――このように『オペレーション・ミンスミート』は、超有名スパイ小説の原作者がいかに虚構の物語で勝利を掴んだかを描くとともに、英国内の複雑なスパイ活動の発端を垣間見せる、多面的に楽しめる映画なのだ。

『オペレーション・ミンスミート ―ナチを欺いた死体―』© Haversack Films Limited 2021

文:青井邦夫

『オペレーション・ミンスミート ―ナチを欺いた死体―』は2022年2月18日(金)より全国公開

Presented by GAGA

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『オペレーション・ミンスミート ―ナチを欺いた死体―』

1943年、打倒ナチスに燃えるイギリス軍はドイツ軍の防備に固められたイタリア・シチリア島を攻略する計画を立てていた。そこで英国諜報部のモンタギュー少佐、チャムリー大尉、イアン・フレミング少佐らが練り上げたのが、欺瞞作戦“オペレーション・ミンスミート”だ。“イギリス軍のギリシャ上陸計画”を示す偽造文書を持たせた死体を地中海に流し、ヒトラーを騙そうとする奇策だ。彼らは秘かに入手した死体を名付け、100%嘘のプロフィールをでっち上げていく。こうしてヨーロッパ各国の二重三重スパイたちを巻き込む、一大騙し合い作戦が始まるが——。

制作年: 2021
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