指名手配犯を追って失踪した父はどこへ?『さがす』の異才・片山慎三監督が語る「佐藤二朗さんの意外な側面を見せたい」

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ライター:遠藤京子
指名手配犯を追って失踪した父はどこへ?『さがす』の異才・片山慎三監督が語る「佐藤二朗さんの意外な側面を見せたい」
『さがす』©2022『さがす』製作委員会

ポン・ジュノ監督や山下敦弘監督のもとで助監督を務めてきた片山慎三監督。劇場長編映画デビュー作『岬の兄妹』(2018年)は、業界を驚かせ映画通に絶賛された問題作だった。

『さがす』メイキング ©2022『さがす』製作委員会

このたび公開される『さがす』も佐藤二朗、清水尋也、伊東蒼と人気俳優たちを集めながら、彼らのまったく違う顔を映し出している。父親が「指名手配中の連続殺人犯を見たんや」と言ったのちに娘の前から姿を消してしまう、ただならない作品だ。公開を2022年1月21日(金)に控え、片山監督に話を聞いた。

『さがす』©2022『さがす』製作委員会

「佐藤二朗さんのイメージとかけ離れた役」

―フランツ・リストの「愛の夢」で始まるのが印象的でしたが、なぜクラシックを、しかも甘い曲を選ばれたのですか。

そうですね……これから起こる話自体が、ちょっと悲劇的じゃないですか。だから対照的に甘い曲調の音楽で中和させたかったというのが、わりと大きいですね。

劇伴の音楽というよりも、犯人自身が犯行を行うときに何か曲をかけるとして、どういう曲をかけるんだろう? ということを考えていくと、今の若者っぽい曲じゃなくて、少し古いというか、クラシックな曲の方がいいんじゃないかと思って採用しました。

『さがす』メイキング ©2022『さがす』製作委員会

―音楽は「愛の夢」なのに金槌を振り上げている佐藤二朗さんが映し出されて、ちょっと不吉な予感がします。「亡き王女のためのパヴァーヌ」(モーリス・ラヴェル)もブラックジョークかと思ってしまったのですが。

あの曲に関しては、自分の中ではそこまで深い意味を持たせようという狙いはなくて。曲調として、あのシーンにいろんなクラシックの曲をはめてみて一番合った曲なんです。

本当は、あの海のシーンは美空ひばりさんの「真っ赤な太陽」にしたかったんですが、なかなか難しいことが色々とあって。それでクラシックの曲になりました。

―そのバージョンも見てみたくなります!

非常にいい感じですよ。

『さがす』メイキング ©2022『さがす』製作委員会

―登場人物はあて書きだったとのことですが、どうして佐藤さんを主役にと考えられたのでしょうか。

佐藤二朗さんのパブリックイメージとかけ離れた役で、シリアスな一面も見えて、そこがすごく佐藤さんご自身に合っているんじゃないかと考えて、二朗さんにオファーしました。

―それまで他のドラマ作品などでご覧になっていた佐藤さん像は、どのようなものだったのでしょうか?

もちろん、すごく才能豊かな方と思って見ていました。けれど、一般的なイメージと違った一面もお持ちなんだろうなと考えたんです。

『さがす』©2022『さがす』製作委員会

「役者さんが持つ普段のイメージとは違うものを引き出したかった」

―伊東蒼さんが、ちょっと「じゃりン子チエ」のチエちゃんのようなキャラクターでした。どういったところを重視してキャスティングされたのでしょうか。

演技が上手ということはもちろんですが、ネイティブで大阪弁を喋れることと、 大阪らしさ、大阪の会話のテンポそのものを理解していることと、ボケツッコミ文化みたいなことですよね。そこが一番重要だったような気がします。やっぱり大阪弁を自在に操れる人で、なおかつ芝居が上手いので、自然に見えますよね。

伊東蒼さんはオーディションのときからすごく良くて、一発で「伊東さんしかいないな」と。もう「この人しかいない」というくらいピタッと決まりましたね。早かったです。

『さがす』©2022『さがす』製作委員会

―指名手配犯役の清水さんや自殺志願者・ムクドリさん役の森田さんを含めて、メインキャストの皆さんに共通しているのが、私たちがこれまでテレビドラマなどで見てきたものとはまったく違う役柄を演じているということなのですが、そこは狙ってらっしゃったのでしょうか。

そうですね。とくに二朗さん、伊東さん、清水くん、森田さんも、やっぱり今までとは違う一面が出ていますよね。そこはすごく意識しました。

『さがす』©2022『さがす』製作委員会

―非日常を描くという以上に、何か隠されたものを引き出していきたいということですか?

とくに清水くんや森田さんは見た目がいいじゃないですか。そういう人に説得力を持たせるためには、本人の演技に加えて、外見についてもすごく意識していろいろとやらないといけないと思うんです。清水くんに関しては寝ぐせがひどい髪型だったりとか、森田さんならサングラスをしてカツラを被ってもらうとか、見た目も変えていかないと普段の姿のように見られてしまうだろうと思って、そこはすごく意識的にしましたね。

―では隠された内面を露わにするというよりは、さらに何かを足していったということになりますか。

そうですね。あとは現場で演技を重ねてもらう中で、いいところを探っていったという感じです。

『さがす』©2022『さがす』製作委員会

―よくある教訓的な話になってしまうかもしれませんが、見た目は美しい人だけれども何を考えているか分からない、というふうにも受け取れます。

そこまでは、あまり。見た目が綺麗な人を“見た目が綺麗だ”というふうに撮りたくなかったんですよね。そこの“当たり前”感みたいなものが、映画の中でよく描かれがちだなあと思っていたので。

あとは自分の頭の中で、清水くんはこういう人だなというモデルを決めて、そのモデルが実際に喋っていることや仕草、笑顔などに近づけていけるようにしました。森田さんもそうです。モデルを自分の中で決めて、どういうふうにそこに近づけられるか、ということを考えていきました。

―むしろ全員かなり細かい演出下にあった、完璧にコントロールされていたということなんでしょうか。

そうですね、できるだけコントロールしようと試みました。

『さがす』©2022『さがす』製作委員会

「ポン・ジュノ監督が、映画を撮り続けようと踏みとどまらせてくれた」

―今回、絵コンテは描かれましたか?

シーンによりますね。ちょっと仕掛けがあったりするようなシーンは描きました。家の中で殺人が行われるシーンとか、そういうところは自分の整理のために描いていましたね。

ただ、絵コンテっていうのは前もっていろんな部署に伝えるために有効な手段として使われたりもしますよね。 現場的には、たとえばここはCGが多いから絵コンテが必要だとか、アクションだから絵コンテが必要だとか、そういう理由で絵コンテが描かれると思うんですが、今回はスタッフが少なかったので、どちらかといえば“誰かに何かを伝える”ということはやりやすい状況だったんです。

だからそこまで(絵コンテを)描く必要なかったんですが、描く理由としては、自分の中の整理ですよね。自分の中でどういうふうに編集していくか、つなげていくかっていうのを整理するために絵コンテを描いたような気がします。

『さがす』メイキング ©2022『さがす』製作委員会

―以前インタビューで、邦画と韓国映画との違いについて「韓国映画ではよく絵コンテを使っている」とお話しされていました。

ええ、そうですね。やっぱり韓国映画とかの場合は予算が多いので、予算を出す人たちに「こういうふうに撮影しますよ」と提示するために、お金を出してもらうことを納得させるために絵コンテが必要という部分はあります。ハリウッド映画とかも予算が大きいから、それだけ説得しなきゃいけないじゃないですか。

『さがす』©2022『さがす』製作委員会

―では、韓国映画界では現場の作業のためというよりも、出資者を説得する材料としての絵コンテ……。

っていう意味もありますよね。あとは最近の映画、特に日本映画の場合は、現場で材料を揃えて現場でドン! でやりましょうっていう考え方が多いんですよ。でも海外を見てみるとCGだったり、目の前に存在するはずのないものに対して芝居をしなきゃいけなかったりする。そうなってくると絵コンテは必要ですし、だからどんどんアニメーションを作るように実写が作られていっているんですよね。

『さがす』©2022『さがす』製作委員会

―映画をやめようかと思っていた時期に、オムニバス映画『TOKYO!』(2008年)の一篇「シェイキング東京」でポン・ジュノ監督に出会えて良かったと話されています。映画をやめようかと思うほどの、一体どんなことがあったのでしょうか。

助監督をやっていると、監督はこうしたいけれど予算やキャスト、スケジュールの都合でできないとか、いろいろと。それで自分がいざ映画を撮ろうというときに、この環境で(監督に)なったとしても意味がないんじゃないかなという気持ちがあったんです。当時まだ27歳だったので、だったらアニメーションとか、別の表現の世界に行ったほうが面白いんじゃないかなと思っていたんですよね。

でもポン・ジュノ監督と会って、監督業に対する姿勢みたいなものとか、自分が目標とする姿をそこで見たので、そういう意味でもう一回やってみようかなという気になって、とどまらせてくれたような感じですね。

『さがす』©2022『さがす』製作委員会

「今は“正しさ”がはっきりと定義できない時代だと思う」

―邦画に足りないのは脚本、資金、志とおっしゃっていました。最近は状況は変わってきていますか。

(苦笑)いや、変わってないんじゃないですかね。まず脚本を作る時間が短いので、もうちょっと時間をかけて作った方がいいなと思います。でも資金をかけられない理由もあるじゃないですか。なぜならヒットしないから。やっぱり「この映画はヒットするんだ」となったら、資金は集まる。だからヒットさせることも重要なんだろうなと思います。

だけど「お金がない、お金がない」って作り手が言ったとしても、「かけてもいいけど、それだけ回収できるもの作れるの?」って言われたら「いやあ……」って、作り手側もちょっと尻込みしちゃうというか。だから作り手側もちゃんと集客のことを考えながら作らないと、予算は上がらないですよね。……というふうに人を批判していたら自分に返ってきた、みたいな感じで(笑)。最近は考え直すようにしています。

『さがす』メイキング ©2022『さがす』製作委員会

―そういうところが、その“志”ということなんですね。

それはあると思います。だから本当にヒットさせて……うん、そうなんですよね。アニメだと、比較的うまくいっているように感じていて、(資金を)かけるときはかけて、回収するときは回収して大きいお金が入ってくる。そういう要素はアニメは比較的強いんでしょうけど、実写はそういうわけにもいかなくて。いまは全体的に予算を低く抑えて映画を作って「当たればラッキー」っていう、最初からリクープする金額を低く見積もっている。だから作り手側が“これくらいの金額が入る”ということを証明していかなきゃいけないんですよね。

―ただ「ヒットが予測できないから予算を出さない」という状況が続くと、悪循環になっていくのでは?

そうですね。例えば「この監督の作品だったら、これくらいヒットするだろう」ということで、監督としての知名度があればそれでお金が集まる。だから、まずは自分の中で努力してヒットするものを作っていくということが、自分にはすごく必要なんだろうとは思います。もちろん原作がある企画であっても、ちゃんと映画制作者としての誇りを保っていける状況で、ということですが。

『さがす』©2022『さがす』製作委員会

―でも『岬の兄妹』をしっかりヒットさせていらっしゃいますよね。

予算から考えたらヒットしていますね、ありがとうございます。

―『さがす』のプレスリリースに、その「『岬の兄妹』では、彼らが正しいか正しくないかは誰にも決められない。本作では“正しい”か“正しくない”かを誰が決めるのか問おうと思っている」とありました。監督にとって「正しさ」とはどういうことでしょうか。

正しさというのは人それぞれの事情の中にあって、僕から見て正しいと思うことでも相手から見たら正しくないとか、そういう側面を持っていますよね。だから一概に自分自身の正しさが全体の正しさではない、ということはあります。今はそういうものが曖昧な時代ですしね。だから昔みたいに“完全な悪”がいて、それを退治したら世界が幸せになるみたいな話って、今はどんどん描きにくくなっているなと思います。

かなり複雑化しているし、いろんな意見も見えてくるから、なかなか正しさっていうものがはっきりと定義できないですよね。「これが絶対に正しいんだ」ということは、もうない。例えば「不倫はいけない」って(報道された人を)めちゃくちゃ叩くけど、 別にその人には迷惑をかけていないのに、なぜそこまで言うのか俺は分からなかったりするし(笑)。そういう正しさみたいなものっていうのは、時代によっても人によっても変わるということですかね。

『さがす』©2022『さがす』製作委員会

―監督の作品は、その大勢ではない、複雑なほうに寄り添っているように見えます。

どちらかというと、そうですね。そういう人にフォーカスを当てることに関心があります。普段知らない人や、側面を見てもらいたいという。自分自身も、あまり大多数じゃないほうの考えの持ち主だから、自分も共感しやすいという部分はあると思いますね。

『さがす』メイキング ©2022『さがす』製作委員会

取材・文:遠藤京子

『さがす』は2022年1月21日(金)よりテアトル新宿ほか全国公開

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『さがす』

大阪の下町で平穏に暮らす原田智と中学生の娘・楓。「お父ちゃんな、指名手配中の連続殺人犯見たんや。捕まえたら300万もらえるで」。いつもの冗談だと思い、相手にしない楓。しかし、その翌朝、智は煙のように姿を消す。ひとり残された楓は孤独と不安を押し殺し、父をさがし始めるが、警察でも「大人の失踪は結末が決まっている」と相手にもされない。それでも必死に手掛かりを求めていくと、日雇い現場に父の名前があることを知る。「お父ちゃん!」だが、その声に振り向いたのはまったく知らない若い男だった。失意に打ちひしがれる中、無造作に貼られた「連続殺人犯」の指名手配チラシを見る楓。そこには日雇い現場で振り向いた若い男の顔写真があった――。

制作年: 2021
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