天才エドガー・ライトが仕掛けるサイコホラー『ラストナイト・イン・ソーホー』2人の若手スターに導かれ60年代へトリップ!

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ライター:斉藤博昭
天才エドガー・ライトが仕掛けるサイコホラー『ラストナイト・イン・ソーホー』2人の若手スターに導かれ60年代へトリップ!
『ラストナイト・イン・ソーホー』© 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

E・ライト×アニャ・T=ジョイ×T・マッケンジー

映画ファンなら、この名前に“反応”してしまう人が多いのではないか。それは、エドガー・ライト監督。

愛すべきゾンビムービー『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)で心をつかまれた人は、コメディ×アクション×サスペンスのジャンルミックスに、映画マニア向けのオマージュを詰め込んだ『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』(2007年)に大満足。

その路線で突き進むかと思いきや、映画愛はそのままに『ベイビー・ドライバー』(2017年)という、観客の間口を広げる傑作が放たれた。犯罪アクション映画ながら、ミュージカルのような音楽の効果で、マニアなネタを一切意識しなくても爽快に楽しめる同作は、アカデミー賞で3部門ノミネートも果たし、いい意味でエドガー・ライトのファンの期待をも裏切る快作となっていた。

そんな異才が次に何を仕掛け、どんな次元に向かうのかは、大きな楽しみとなった。『ラストナイト・イン・ソーホー』は、その期待感に応えるべくエドガー・ライトが完成させた、これまた超個性派路線の一作である。

『ラストナイト・イン・ソーホー』© 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

舞台は英ロンドンのソーホー。東京でいえば、新宿と渋谷を合わせたような、若者から大人まで楽しく飲んで騒げる歓楽街。英国南西部のコーンウォールから、ファッション・デザイナーをめざしてロンドンにやってきたエロイーズが、そのソーホーで不思議な体験をする。

夢の中で彼女は1960年代のソーホーへ迷い込み、そこで歌手を夢みるサンディと、自分が一体化する感覚を味わうことになる。「不思議の国のアリス」のごとく未知の世界に導かれ、現実と夢が交錯する、なんとも“映画らしい”展開に、観ているこちらもエロイーズの目線で引き込まれていくのだ。まるで魔法にかかったように……。

『ラストナイト・イン・ソーホー』© 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

スウィンギング・ロンドン完全再現と『007』からの引用

この魔法の効果が発揮されたのは、エドガー・ライト監督による、60年代“スウィンギング・ロンドン”の完全再現が成功したから。要するに「世界観」の構築がパーフェクトなのだ。スウィンギング・ロンドンとは、1960年代のファッション、音楽、映画、建築といったストリートカルチャーの代名詞。当時の若者文化全般がロンドンから発信されていたので、本作のエロイーズにとっても、その中心地であるソーホーは、最先端の夢の世界、というわけである。

『ラストナイト・イン・ソーホー』© 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

サイケデリックなデザイン、ミニスカートなどのファッションが過剰なまでに強調され、音楽、映画も当時の流行がこれでもか、これでもかと注ぎ込まれる。『ラストナイト・イン・ソーホー』というタイトルも、1968年の同名のヒット曲に由来するが、この曲をライトに勧めたのがクエンティン・タランティーノという逸話も映画ファンの心に響く。

そんな感じでネタを書き始めたらキリがない作品だが、ダイレクトな引用が『007』で、60年代のソーホーの映画館では『007/サンダーボール作戦』(1965年)が上映され、エロイーズが住む部屋を所有するミズ・コリンズ役は『女王陛下の007』(1969年)でボンドガールを務めたダイアナ・リグ(本作が遺作)。今でも『007』が人気を維持しているのは、このシリーズのルーツが60年代にあること。つまり当時のカルチャーが現在まで世界中に影響を与え続けていることと無縁ではなさそう。

『ラストナイト・イン・ソーホー』© 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

エドガー・ライトは『007』だけでなく、同じく英国文化の代表であるアガサ・クリスティーへの愛も語っており(『ホット・ファズ』でインタビューした際、『ナイル殺人事件』へのオマージュを熱弁していた)、そう考えるとダイアナ・リグは、クリスティー原作の『地中海殺人事件』(1982年)にも出演していた……などと想像が広がる。

『ラストナイト・イン・ソーホー』© 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

さらに重要な役で起用されたのが、テレンス・スタンプ。エドガー・ライト監督は、本作のキャストたちに60年代ロンドンの人々を体現させるため、スタンプが出演したケン・ローチ監督の『夜空に星のあるように』(1967年)を観せたという。リアリズムにあふれた同作は、当時のロンドンの空気を伝えており、やはりテレンス・スタンプが主演した『イギリスから来た男』(1999年)では、主人公の過去の回想シーンとして映像が使われたりもした。

この『夜空に星のあるように』は奇遇だが、日本では『ラストナイト・イン・ソーホー』の翌週、2021年12月17日(金)より公開される。

一瞬で観客を虜にする若きスター2人の魅力

そして、エドガー・ライトが繰り出す、さまざまな60年代ロンドン愛のネタを上回るインパクトを与えるのは、エロイーズ、サンディという2人のヒロインのシンクロだ。

夢の世界に“迷い込む”側で、純真なイメージのエロイーズと、夢で“待っている”側で蠱惑的なムードを放つサンディ。2人がひとつに溶け合っていく演出は、サスペンスフルであり、エロティックでもあり、最後の最後まで観る者の目をクギづけにする。エロイーズ役のトーマシン・マッケンジーが『オールド』(2021年)、サンディ役のアニャ・テイラー=ジョイが『スプリット』(2016年)『ミスター・ガラス』(2019年)と、ともにM・ナイト・シャマラン監督作で輝きを放っていたのは、偶然というより「必然」だったと本作で納得してしまう。

『ラストナイト・イン・ソーホー』© 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

一瞬で観客を虜にする若きスター女優の魅力を、この『ラストナイト・イン・ソーホー』は最高レベルで引き出している。2人に誘われるようにスクリーンの世界に入り込んだわれわれは、センセーショナルな事件も体験しながら、過去のどんな映画とも違うトリップ感を味わうのだ。

文:斉藤博昭

『ラストナイト・イン・ソーホー』は2021年12月10日(金)より全国公開

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『ラストナイト・イン・ソーホー』

ファッションデザイナーを夢見るエロイーズは、ロンドンのデザイン学校に入学する。しかし同級生たちとの寮生活に馴染めず、ソーホー地区の片隅で一人暮らしを始めることに。新居のアパートで眠りに着くと、夢の中で60年代のソーホーにいた。そこで歌手を夢見る魅惑的なサンディに出会うと、身体も感覚も彼女とシンクロしていく。夢の中の体験が現実にも影響を与え、充実した毎日を送れるようになったエロイーズは、タイムリープを繰り返していく。だがある日、夢の中でサンディが殺されるところを目撃してしまう。その日を境に現実で謎の亡霊が現れ始め、徐々に精神を蝕まれるエロイーズ。そんな中、サンディを殺した殺人鬼が現代にも生きている可能性に気づき、エロイーズはたった一人で事件の真相を追いかけるのだが……。果たして、殺人鬼は一体誰なのか? そして亡霊の目的とは―!?

制作年: 2021
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