「未体験ゾーンの映画たち 2019」<映画本音でジャッジ>チームが『孤独なふりした世界で』を語る

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ライター:BANGER!!! 編集部
「未体験ゾーンの映画たち 2019」<映画本音でジャッジ>チームが『孤独なふりした世界で』を語る
『孤独なふりした世界で』© 2018MARKED LAWNS LLC.
大人の事情で日本公開がスルーされてしまった世界各国の知られざる良作・怪作の数々を一挙に上映する「未体験ゾーンの映画たち」が今年も開催中! 同映画祭の後半戦を盛り上げるべく、2019年4月15日(月)から上映される『孤独なふりした世界で』の特別先行上映と<映画本音でジャッジ 批評トークライブ(番外編)>が開催された。

主人公がトム・ハーディとかメル・ギブソンだったら『マッドマックス』になっちゃう

未体験ゾーンの映画たち2019『孤独なふりした世界で』特別先行上映&映画本音でジャッジ 批評トークライブ

今回のトークイベントに招かれたのは、映画識者たちが忌憚のない意見を交わすことで人気を博している<映画本音でジャッジ 批評トークライブ>から有村昆(写真中央)、松江哲明監督(写真右)、藤井ペイジ(写真左)の3名。上映ラインナップの中でも注目度の高い『孤独なふりした世界で』先行上映後に、ざっくばらんな映画トークを繰り広げた。

※『孤独なふりした世界で』レビューはこちらの記事へ

有村:いわゆるこういう“終末もの”って、例えばリチャード・マシスン原作の『地球最後の男』(1964年)、有名なのはウィル・スミス主演の『アイ・アム・レジェンド』(2007年)だけど、そっち系の「世界に誰もいなくなったらどうなるか?」っていう要素に、今回は女の子がひとり入ったっていうのがミソだなと。
価値観の違う2人がだんだん惹かれ合っていくっていう意味では過去いろんな作品があったけど、最近だとNetflixの『バード・ボックス』もそうだった。あれは大半の人が死んでしまった世界でサンドラ・ブロックたちが何かに襲われる、見ると死んでしまうっていうテーマ。そうやって最近いろんなアイデアを試している中で、『孤独なふりした世界で』の最後は以外な展開だった。脚本家がいろんなアイデアを入れてるのかなっていうのが率直な感想。

藤井:これ(ポスター)だけ見たら、まさか主役がピーター・ディンクレイジだとは誰も思わないですよね。冒頭から惹き込まれたんですけど、おそらくディンクレイジしか生き残ってないんだろうなっていうところに女の人が現れて……っていう。結局この人は街を出て他の人を探しに行くことをしなかった。大抵の人は不安になって、色々と荷物をつめ込んでガソリン積んで出ていくじゃないですか? なんで出ていかなかったかっていうと、差別と戦っていたりとか自分にコンプレックスがあったっていうことが、劇中のセリフで分かる。そういうところから色々と考えさせられる。最終的に幸せの形ってなんなんだろう? っていうところまで展開していって、けっこう惹き込まれましたね。

松江:キャスティングが“勝ちにいった”なって。エル・ファニングとピーター・ディンクレイジじゃないと、なかなかこの映画のテーマは伝わらなかったと思う。これがトム・ハーディとかメル・ギブソンみたいな逞しい男性だったら『マッドマックス』になっちゃうし、小人症の男性がひとり残っているっていうことで、こういう世界になる前の彼のこともすごく想像させるというか。
だから、この世界がすごく居心地がいいっていう彼の気持ちがすごく伝わってきて。ここでナイーブそうな孤独な男性、例えばスティーヴ・カレルとかだったらまた違うし、エル・ファニングが出てきたときに「結ばれるのかな?」みたいなものになっちゃうじゃないですか。でも、この2人だとそうもいかないのかなっていう風になる。
今までエル・ファニングが出てきた映画って、孤独な男性に対して理解してくれる女性、みたいな。すごく美しい少女なんだけど心の中に何かを抱えてるっていう役が多かったから、このキャスティングがすごく良いなと思いましたね。僕、けっこう終末ものが好きなんですよ。何で好きなんだろう? って観ながら思ったのは……映画って孤独な人が観るものっていうか、孤独を共有したいってときあるじゃないですか? キラキラしたものじゃなくて「こんな世界終わっちゃえ!」って気分のときとか……。

藤井:そんな気分のときあるんですか!?(笑)

松江:そんなときばっかりですよ! ないですか?

有村:でもなんかディンクレイジには、その孤独を楽しんでる感ありませんでした? 意外に楽しんでるような感じがして、そこにエル・ファニングが出てきたことによって“俺の世界に入ってくんなよ感”が逆によかった。

藤井:自分にコンプレックスがあるから「どうせ俺のことなんか好きにならないだろ」っていうところがあったような気がする(笑)。

あまり作り込まず、自然光の中で美しく撮影している

未体験ゾーンの映画たち2019『孤独なふりした世界で』特別先行上映&映画本音でジャッジ 批評トークライブ

有村:目が覚めるといきなりポール・ジアマッティの声が聞こえて、あそこからチャプター2っていうか、これもう死んじゃってて別次元の話なのかな?って思ったくらい。実はそうではなくて……っていうところから、これ脚本家はどう見せるのかなって、久しぶりに観ながら後の展開にドキドキした。

松江:完全にシャルロット・ゲンズブールってどこか壊れた女性というか、昔のイメージとは全然違う。なんかラース・フォン・トリアーとかと映画作り始めてから、ちょっと危ういキャラクターを演じることが多くなったなって。この映画ってキャスティングがすごい。出てくる人は少ないけど、ハメ方がすごく上手いなって思いましたね。

こういうSFものって現実の比喩というか、何かを表現してたりするじゃないですか。この映画の2人がとる行動が、こういう世界だからこそどういう風に生きていくのか? っていう表現のひとつになってるなって思いますよね。そういった意味では、こういう終末もの映画にいろんなことを考えさせられながら観られた。

藤井:制作費をかけるよりも、アイデア勝負で作ってますよね。邦画は意外とアイデア勝負を避けるというか、こんなに豪華なキャストで金かかってますっていうアピールばかりで、こういう映画が大々的に公開されるってことはあまりない。

松江:こういう終末もの映画って、腕の見せどころでもありますよね。『孤独なふりした世界で』の監督はもともと撮影監督の人で、すごく大事なシーンで逆行を使ってロングで見せたり、ハレーション/レンズフレアをあえて入れてくる感じとか、自然光の中でキレイに撮ってるなって思いましたね。撮影監督ってことを意識して観るといいかも。あまり作り込んでない雰囲気がいい。

有村:監督の腕の見せどころといえば、『バード・ボックス』とかエミリー・ブラント主演の『クワイエット・プレイス』(2018年)みたいに終末もの映画のパターンが今どんどん細分化されている中で、「まだ誰も発明してない脚本は何だ?」「金脈を見つけよう!」みたいなところはあるのかもしれないですね。

この“誰もいない世界をもう少し楽しんでいたい”と思える映画

未体験ゾーンの映画たち2019『孤独なふりした世界で』特別先行上映&映画本音でジャッジ 批評トークライブ

有村:もし終末もの映画を撮るとしたら、どんなアイデアで?

松江:誰に頼まれたわけでもなく遺体を淡々と処理してる孤独な人っていう本作に近いところで言うと、まったりした終末もの好きなんですよね。ヴィゴ・モーテンセン主演の『ザ・ロード』(2009年)は“なんにもなさ加減”が好きでした(笑)。すごく地味だけど、観ていて「あ、世界ってこんな感じで終わるんだな」っていう雰囲気がすごく良い。

藤井:『孤独なふりした世界で』も、こういう終末もの映画が実はリアルなんじゃないかな? と思いましたね。何かに怯えながら暮らすとかじゃなくて。

松江:世界が終わってもまだ文明が続いている『マッドマックス』みたいな世界も面白いですけど、でもリアルなのはこっちじゃないかなって気はしますね。

有村:スーパーヒーローが出てこないのもいいよね。これがウィル・スミス主演だったら、どうしても「また世界を救っちゃうのかな?」みたいになるけど(笑)

松江:僕『アイ・アム・レジェンド』好きなんですけど、前半だけなんですよ。自分以外には犬しかいなくて、ビルの屋上でゴルフしてたりとか。ヴァンパイアみたいなのが出てくるまでが面白い(笑)。ダラダラと日常を過ごすっていうほうがリアルじゃないですか?

藤井:僕は知りたがりなので、なぜこういう世界になったのか説明されないけど、知りたいんですよね(笑)。でも、分からない部分が残ったほうが、鑑賞後にこうやって(作品について)喋れる。

松江:今は説明しない映画が多いですよね。でも僕はそっちのほうがいい派で。そういうところの走りになったのは、M・ナイト・シャマランの『ハプニング』(2008年)。彼がB級映画を大作風に撮って、謎に引っ張って引っ張って「え、なんだよそれ!?」っていう。そういう「トワイライトゾーン」とか「世にも奇妙な物語」みたいな30分くらいの“小さい話”感が1時間半とか2時間の尺になると世界観自体をもっと見せるものになるから、いいんですよ!(笑)

有村:世界観で言うと『孤独なふりした世界』は居心地のいい1時間半だった気がするな。この誰もいない世界をもうちょっと楽しんでいたいと思えるような。

藤井:たしかに前半、特に何も起こらないけど全然観ていられますもんね。

松江:孤独を愛でるというか向き合うというか、そういうところはすごく“今っぽい”なって。このラストって、今だからハッピーエンドにも見えるっていうか。時代によっては全然ハッピーエンドにならないんだろうなって感じました。

今の日本は「明日大きな災害が起こるかもしれない」状況をリアルに感じられる

未体験ゾーンの映画たち2019『孤独なふりした世界で』特別先行上映&映画本音でジャッジ 批評トークライブ

藤井:じゃあ自分に“3つ”当てはめません?「独りになったらどうする」「そこに女の子が来たらどうする」「他に人が生きていたらどうする」っていう。

有村:俺は嬉しい半分ショック半分かな、他の人が生きてたら(笑)。今まで一生懸命、孤独と戦いながら幸せを見つけて生きてきたのに……っていう。自分が神じゃなかったというか、他の生存者が敵に見えちゃう。でも、やっぱり日本は震災もあったし、常に“明日起こるかもしれない災害”と向き合っているっていう意味では、すごく近いところに生きているのかなと。そういう意味では自分に置き換えながら観てしまうのかな、とか思いますね。

松江:こういう映画を観ると、突然何かが起きるかもしれないっていう状況がリアルに感じられるじゃないですか、日本の今の状況って。やっぱり3.11とか他の自然災害もあって……向き合い方も変わってくる。そうすると映画の観方も変わったり。

 

「映画本音でジャッジ 批評トークライブ」次回は映画パーソナリティ・伊藤さとりさんも加わって、ヒューマントラストシネマ渋谷で2019年4月3日(水)に開催されるとのこと。最近公開された映画をピックアップして、忌憚のない意見を交わし合う本気イベントなので、映画ファンはお見逃しなく!

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『孤独なふりした世界で』

他人と関わることが嫌いな“孤独を愛する男”と、誰かと一緒にいたい“孤独を嫌う女”。互いに違った“孤独”を抱える男と女が、終末世界で出会う……。

制作年: 2018
監督:
出演:
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