キュアロン、デル・トロ、イニャリトゥ。大活躍“メキシコ映画三人衆”の過去、現在、未来

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ライター:齋藤敦子
キュアロン、デル・トロ、イニャリトゥ。大活躍“メキシコ映画三人衆”の過去、現在、未来
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第91回アカデミー賞の授賞式では、ブラック・パワーをはじめ、様々な勢力図の変動が見えた。その中でも特に印象的だったのは、監督賞をはじめ3部門に輝いた『ROMA/ローマ』のアルフォンソ・キュアロンらメキシコ勢の台頭だ。

『レヴェナント:蘇りし者』のイニャリトゥ監督がカンヌ映画祭審査員長に

今年の第91回のアカデミー賞を席巻し、台風の目となったアルフォンソ・キュアロン(スペイン語読みではクアロン)。しかし、メキシコ勢の快進撃はキュアロンばかりではない。昨年の第90回に作品賞、監督賞他4賞を受賞した『シェイプ・オブ・ウォーター』のギレルモ・デル・トロ、さらには第87回に『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』で作品賞ほか4賞、第88回に『レヴェナント:蘇りし者』で監督賞、主演男優賞ほか3賞受賞し、5月のカンヌ映画祭で審査員長を務めるアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ。名付けてメキシコ三人衆の活躍がめざましい。

三人衆のうちで最も早く世に知られるようになったのは、最も若い、64年生まれのギレルモ・デル・トロだ。ファンタスティック映画界は作る方も見る方もおたく出身(および現役)がほとんどで、横の結束が非常に強い。ゆえに、ファンタ一筋のデル・トロの才能は早くからファンの間で高く評価されていた。私が彼に注目したのはハリウッド進出第1作の『ミミック』からだが、メキシコで撮った長編デビュー作『クロノス』も、ちゃんと日本公開されている。さすがおたく界である。デル・トロの転機は、06年にカンヌのコンペに出品され、第79回アカデミー賞3部門受賞した『パンズ・ラビリンス』だろう。スペイン内戦の悪夢とサディスティックな継父を持った少女の悪夢を融合させたダークファンタジーで、ファンタ系ではない、普通の、しかもカンヌ映画祭という大舞台に出てきたことが、彼の才能をより広く、一般の映画ファンにまで浸透させることになった。この路線が、ヴェネツィア映画祭金獅子賞およびアカデミー賞4賞受賞の『シェイプ・オブ・ウォーター』に繋がっていく。

アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥはデル・トロより1歳若い63年生まれだが、映画界に入るのは最も遅かった。大学を卒業後、音楽専門のラジオ局に入り、DJから始めてディレクターとして番組作りを担当。さらにはミュージシャンとしてメキシコ映画の映画音楽を担当した後、90年代に映画会社を立ち上げ、製作者としてキャリアをスタートさせた。99年に長編デビュー作『アモーレス・ペロス』を撮り、00年にカンヌ映画祭批評家週間賞、東京映画祭最優秀監督賞を受賞。06年『バベル』でカンヌ映画祭初のメキシコ人監督として監督賞を受賞し、トップレベルの監督となる。

イニャリトゥの転機は、長編デビュー作から『バベル』まで脚本を担当したギジェルモ・アリアガと別れたときだ。複数のストーリーラインを複数の時間軸で錯綜させるアリアガの技巧的な作風から離れ、自分自身の原案・脚本で撮った『BIUTIFUL ビューティフル』には、脚本まで自分で責任を持ち、作家性を強めようという意志が感じられた。それが、『バードマン~』や『レヴェナント~』に結実するのだから、すごい底力の持ち主である。

『ROMA/ローマ』でようやく見えた、キュアロンの作風

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ファンタのデル・トロ、社会派イニャリトゥに比べ、アルフォンソ・キュアロンの作風が一番分かりにくかった。私がキュアロンの名を意識したのは01年のヴェネツィア映画祭コンペに『天国の口、終わりの楽園。』(原題は“そして、君のママもね”)が出品されたときだ。思春期の青年2人の“ひと夏の体験”ロードムービーで、内容的にはあまり感心しなかったものの(男性受けするタイプ)、映像の図抜けた美しさが強烈に印象に残った(それもそのはず、撮影監督は、のちに13年から3年連続でアカデミー賞撮影賞を受賞する盟友エマニュエル・ルベツキだった)。しかし、その後のキュアロンは『ハリー・ポッター アズカバンの囚人』や、P・D・ジェームズ原作のSF『トゥモロー・ワールド』で、優れた映像演出家としての腕前は見せてくれたが、それ以上の映画作家としての作風を知る手がかりをあまり与えてくれなかった。

そんな分かりにくかったキュアロンの作風が『ROMA/ローマ』からは、はっきりと見えてくる。自伝的なストーリーゆえに、キュアロンがこれまで映画に込めてきたテーマがライトモティーフとして浮かびあがってくるのだ。撮影を自身で行っているのも、キュアロン色を強めている一因だが、その撮影が素晴らしい。ルベツキとやってきたようなアクロバティックなテクニックはないが、モノクロームのゆっくりした横移動の簡潔さが、映画の語り口と一心同体となって、お手本のような作品になっている(ただし、演出自体は非常に凝っていて、映像ほどシンプルでないところも見事だ)。

もう「ハリウッドの裏庭」ではない! 名撮影監督から名優までそろう、メキシコ映画人

三人衆だけではなく、撮影監督ルベツキを始め、俳優ガエル・ガルシア・ベルナル、ディエゴ・ルナら、メキシコ映画人大活躍の背景には、昔から“ハリウッドの裏庭”として機能してきたメキシコ映画界の位置がある。ルイス・ブニュエルの傑作の数々が生まれたのが50年代のメキシコだったのは偶然ではない。名匠エミリオ・フェルナンデス、名撮影監督ガブリエル・フィゲロア、名優ペドロ・アルメンダリスがいて、ジョン・フォードやジョン・ヒューストンが映画を撮りにいったのがメキシコだったのだ。文化と文化が触れ合い、切磋琢磨し、その種から生まれ育ってきたのが今のメキシコ映画人なのだ。

さて、今後の三人衆はというと、まずギレルモ・デル・トロは、ディズニーのアニメで有名な『ピノキオ』をNetflix製作でダークファンタジー版ストップモーションアニメとして映画化中。イニャリトゥにはカンヌ映画祭の審査員長の他は公になっているプロジェクトはまだないが、キュアロンは、デル・トロと共に、ロバート・ゼメキスが監督するロアルド・ダール原作の<魔女がいっぱい>の映画化にプロデューサーとして参加する予定で、これからもメキシコ旋風が続くことは間違いない。

文:齋藤敦子

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