鬼才、それとも奇人? 孤高の映画監督ウィリアム・フリードキンの音楽世界を『恐怖の報酬』ほか代表作から振り返る

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ライター:森本康治
鬼才、それとも奇人? 孤高の映画監督ウィリアム・フリードキンの音楽世界を『恐怖の報酬』ほか代表作から振り返る
『フリードキン・アンカット』(C) 2018 Quoiat Films/CS映画専門チャンネル ムービープラスで2021年10月放送

ドキュメンタリー『フリードキン・アンカット』

リアリズムを重視し、物議を醸すような題材に挑むことも厭わない反骨精神を持つ巨匠ウィリアム・フリードキン。作品のクオリティーのためならキャストやスタッフを極限まで追い込むことも辞さない人物ゆえ、「鬼才」とも「奇人」とも呼ばれている。

『フリードキン・アンカット』(C) 2018 Quoiat Films/CS映画専門チャンネル ムービープラスで2021年10月放送

一方、ドキュメンタリー映画『フリードキン・アンカット』(2018年)を観ると、彼の歯に衣着せぬ発言とあけっぴろげな性格が映画ファンや業界仲間から愛されていることが分かる。同作でエレン・バースティンやウィレム・デフォーらが嬉々として撮影当時の思い出を語る姿からは、彼らがフリードキンとの仕事に感銘を受けたのであろうことが伝わってくる

『フリードキン・アンカット』(C) 2018 Quoiat Films/CS映画専門チャンネル ムービープラスで2021年10月放送

彼はまた、自身の作品で使用する音楽に関して独特なこだわりがあることでも知られている。自ら「最高傑作」と公言する『恐怖の報酬【オリジナル完全版】』(1977年)と、『フリードキン・アンカット』の放送に合わせて、彼の主な作品の音楽について振り返ってみたいと思う。

『フリードキン・アンカット』(C) 2018 Quoiat Films/CS映画専門チャンネル ムービープラスで2021年10月放送

劇中使用曲や作曲家を直感的に選定 あの大御所すら容赦なくクビに!

『恐怖の報酬』の音楽を担当したのは、ドイツのプログレッシヴ・ロックバンドのタンジェリン・ドリーム。彼らの曲を聴いて衝撃を受けたフリードキンは、完成した映画の脚本を渡してスコア作曲を依頼。ドミニカ共和国の熱帯雨林で半年近く撮影していた際に、バンドから約90分のデモテープが届いたという。つまりバンドメンバーはラッシュの映像を全く見ずに、脚本から受けた印象だけで曲を作ったことになるが、彼らの無機質で不穏な電子音楽は、人生の難局を打開すべく「ニトログリセリンの運搬」という危険な仕事に挑む男たちの焦燥と狂気を見事に描き出していた。

筆者私物

フリードキンはサウンドトラック・アルバムのライナーノーツの中で、「もし私が『エクソシスト』(1973年)の前に彼らの音楽を聴いていたら、この映画の音楽も依頼していただろう」とタンジェリン・ドリームに賛辞を贈っている。

『フリードキン・アンカット』(C) 2018 Quoiat Films/CS映画専門チャンネル ムービープラスで2021年10月放送

では、その『エクソシスト』はどうだったかというと、当初スコア作曲を担当するはずだった大御所のラロ・シフリンを情け容赦なくクビにして、マイク・オールドフィールドの「チューブラー・ベルズ」やペンデレツキ、ヘンツェ、ジョージ・クラムらの現代音楽を自ら選曲し、フィル・スペクターの片腕として活躍していたジャック・ニッチェに追加スコアを作曲させていた(のちにニッチェは『クルージング』[1979年]の音楽を担当)。『フレンチ・コネクション』(1971年)のドン・エリスのようなジャズマンの起用も含めて、この時期のフリードキンは映画音楽が本業ではないミュージシャンとの仕事に面白さを見出していたのかもしれない(『ランページ/裁かれた狂気』(1988年)ではエンニオ・モリコーネと組んでいるが)。

筆者私物

これらの事実から、フリードキンは既存の楽曲から演出のインスピレーションを得る傾向があると考えられる。例えばジョー・エスターハス(脚本)とロバート・エヴァンス(製作)というクセ者たちとタッグを組んだサスペンス『ジェイド』(1995年)では、ストラヴィンスキーの「《春の祭典》:祖先の儀式」がドラマの中で重要な役割を担っている。

筆者私物

『英雄の条件』(2000年)ではマーク・アイシャムの1983年作品「On The Threshold of Liberty」が好きすぎて、スコア作曲をアイシャムに依頼した上で、この曲の新録版を劇中で使用している。『ハンテッド』(2003年)でジョニー・キャッシュの「The Man Comes Around」を使ったのも、フリードキンのアイデアと思われる。

ポップミュージックの分野でも“音楽通”の一面を発揮

オペラ演出家としても手腕を振るう”音楽通”のフリードキンは、クラシック/現代音楽だけでなくポップミュージックにも造詣が深い。『L.A.大捜査線/狼たちの街』(1985年)では、ワン・チャンのアルバム「Points On The Curve」を気に入って、映画音楽の経験がない彼らにスコアと挿入歌の作曲を依頼した。

フリードキンはテーマソング「To Live And Die In L.A.」のPVも自ら監督し、その後デュオの一人であるジャック・ヒューズに『ガーディアン/森は泣いている』(1990年)で再びスコア作曲を依頼している。意外なところでは、ローラ・ブラニガンの大ヒット曲「Self Control」のセンセーショナルなPV演出もフリードキンの手によるものだった。

フリードキンと仕事をした映画音楽家たちのその後

音楽に相当なこだわりがあるがゆえに、映画音楽家からすれば少々仕事がやりにくいタイプの監督である感も否めない。しかし、フリードキンが「彼はあの頃仕事した作曲家の中で、最も才能のある人物の一人だったと思う」と評した『ジェイド』のジェームズ・ホーナーは、その後『タイタニック』(1997年)で第70回アカデミー賞作曲賞を受賞。『ハンテッド』と『BUG/バグ』(2007年)で組んだブライアン・タイラーは、今や『ワイルド・スピード』シリーズ(タイラーの参加は2006年の第3作から)などで活躍する売れっ子となり、『キラー・スナイパー』(2011年)の音楽を担当したタイラー・ベイツも、『ジョン・ウィック』シリーズ(2014年~)で大ブレイクを果たした。

こうした先見性の点でも、やはりフリードキンは音楽に関して確かなセンスを持った映像作家と言えるだろう。

筆者私物

※筆者注:文中のフリードキンのコメントは、下記サウンドトラック・アルバムに彼が寄せた英文ライナーノーツやコメントの内容に基づいています。
TANGERINE DREAM / SORCERER (Esoteric Recordings)
MUSIC FROM THE MOTION PICTURE SOUNDTRACK / RULES OF ENGAGEMENT (Milan Records)
MUSIC FROM THE ORIGINAL MOTION PICTURE / TO LIVE AND DIE IN L.A. (Geffen Records)
MUSIC FROM THE MOTION PICTURE / JADE (La-La Land Records)

文:森本康治

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