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ブラピ主演『マネーボール』の作曲家マイケル・ダナ独占インタビュー「明確な“勝利”を描かない映画は曲作りが難しい」

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ライター:#森本康治
ブラピ主演『マネーボール』の作曲家マイケル・ダナ独占インタビュー「明確な“勝利”を描かない映画は曲作りが難しい」
『マネーボール』© 2011 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

『ナチュラル』(1984年)や『ラブ・オブ・ザ・ゲーム』(1999年)、『オールド・ルーキー』(2002年)など、秀作揃いの野球映画。その多くは特定の選手の活躍を描いたヒューマンドラマや、弱小チームが奇跡の快進撃を見せる痛快娯楽作だが、『マネーボール』(2011年)はチームの経営という側面に焦点を当て、資金不足に悩む球団を革新的な方法で優勝へ導こうと奮闘するGMの姿に迫った、実話ベースの異色作である。

『マネーボール』DVD
価格:¥1,410+税
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

球界の既成概念を覆す「マネーボール理論」の奥深さと、オークランド・アスレチックスのGM、ビリー・ビーンを演じたブラッド・ピットの斜に構えた佇まい、鬼才脚本家のアーロン・ソーキンとスティーヴン・ザイリアンが脚色を手掛けたシナリオの面白さも相まって、第84回アカデミー賞では6部門(作品賞、主演男優賞、助演男優賞、脚色賞、編集賞、音響編集賞)ノミネートという高い評価を得た。

『マネーボール』© 2011 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

本作の音楽を担当したのは、『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(2012年)で第85回アカデミー賞作曲賞を受賞したマイケル・ダナ。今回BANGER!!!のコラム用にダナにインタビューすることができたので、緻密に作り込まれた『マネーボール』の音楽について詳しく話を聞かせてもらった。

マイケル・ダナ近影

「野球を題材としながら、より深いレベルでふたつのテーマを描いている」

―『マネーボール』はベネット・ミラー監督との2度目の顔合わせでした。『カポーティ』(2005年)がそうだったように、彼は控えめな音楽を好む傾向があるように思います。ミラー監督との共同作業はいかがでしたか?

ベネットはこの数十年で最も優れた映画監督のひとりだと思う。寡作なのが勿体ないよね。彼は注意深く、鋭敏な感性を持っていて、自分の映画のあらゆるシーンと、その中からどこを音楽的に演出するべきかを完全に把握している人物なんだ。そして理路整然としていて思慮深い。『カポーティ』も『マネーボール』も音楽の方向性を決めるのにかなり時間がかかったよ。でも一旦彼の探していたものが見つかると、とてもやり甲斐のある方法で曲作りを推し進めてくれたんだ。

ベネットは映画の全ての瞬間を音楽で説明してしまうのではなく、物語全体や作品のテーマで観客を感動させるような音楽を好んだ。観客を尊重していて、「ここはこういうシーンです」と彼らに教えるのではなく、自由に感じてもらいたいと思っているんだ。これは作曲家にとって非常に難しい仕事でもある。「この場面ではこういう気持ちになって下さい」と促すような音楽を書くことよりも、はるかに困難なものだからね。

『マネーボール』© 2011 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

―『マネーボール』の音楽にはミニマルミュージックの要素があり、とても深遠で、従来の野球映画とは異なる趣がありました。私は劇中で「野球は一連の行為だ(This is a process. It’s a process, It’s a process. Okay?)」というビリーのセリフを聞いた時、反復フレーズを用いたあなたのスコアが、映画の内容ととてもマッチしていることに気づきました。音楽のコンセプトについて教えてもらえますか?

この映画は野球を題材としているけれども、より深いレベルではふたつのテーマを描いている。ひとつは成功/失敗とは何か。それが何を意味するのか。そして誰がそれを定義するのかということ。もうひとつはアイデアの誕生と発展、具体化、実現といったものだ。これらは音楽の主要なテーマにもなっている。

「成功/失敗のテーマ」は勝利と敗北、成功と失敗というふたつの概念の中で繰り返され、時に中断される、ある種の緊張感を持ったものだ。そしてもうひとつは「プロセスのテーマ」。これは「よし、このアイデアはうまく行くぞ!」という希望と興奮を象徴するもので、いずれもシンプルで短いループサウンドになっている。

『マネーボール』© 2011 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

一般的に映画のテーマ曲というのは、何度も聴くのが楽しくて気持ちがいいものだよね。例えば映画を観ていなくても、よい結末が想像できるような曲とか。でも『マネーボール』は他のスポーツ映画と違って、最後に明確な「勝利」があるわけではない。こういう映画のテーマ曲を書くのは本当に難しいんだ。

『マネーボール』© 2011 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

「『マネーボール』の会話の多くは、驚くほど正確で洞察力に満ちている」

―劇中ではディス・ウィル・デストロイ・ユーの「The Mighty Rio Grande」が何度も断片的に使われていましたが、これは誰のアイデアだったのでしょうか?

この曲とレンカの「The Show」(ビリーの愛娘ケイシー役を演じたケリス・ドーシーが歌っていた曲)は、ベネットと音楽監督が選んだものだ。「The Mighty Rio Grande」は、僕がスコアでやっていたようなミニマルミュージックの様式美を持っているように感じた。素晴らしい曲だし、映画の中でもスコアと一緒にうまく機能していたと思う。

―この映画の好きなシーンや、印象に残っているシーンを教えて下さい。私は物語の後半、アスレチックスの20連勝がかかった大試合で、ビリーが自身のジンクスに直面して苦悩するシーンが印象的でした。私も自分の贔屓チームを応援する時、ジンクスが気になったり、験(げん)をかついだりすることがあるので……。

ハハハ、そうなのか! 僕が好きなのは、ビリーが限られた予算の中でチームを補強するため、電話で取引するシーンだね。「欲しい答えが出たら電話を切る」というのは実生活でもよく使っている。あとはビリーがピーター(ジョナ・ヒル)に選手を解雇/放出する時の伝え方を教えるシーンも印象的だった。「君を放出する。詳細は代理人から聞いてくれ。幸運を祈る」――短く、簡潔で、慈悲深さもある。僕らの業界で誰かを解雇しなければならなくなった時も、よくこういうやり取りをしているよ。

実はこの映画の作曲に取り組んだ時、野球をあまり知らなかったんだ。僕はアイスホッケーが盛んなカナダ生まれだからね。でも今はリトルリーグでプレーする11歳の子どもがいる。あの頃よりも野球に詳しくなったし、試合もよく観るようになった。だからこの映画の作曲に携われたことを、これまで以上に感謝しているんだ。『マネーボール』の会話の多くは、驚くほど正確で洞察力に満ちている。そして野球だけでなく、あらゆるシチュエーションで応用できるものでもある。素晴らしい映画だよ。

『マネーボール』© 2011 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

取材・文:森本康治
Special thanks to Mychael Danna

『マネーボール』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2021年7月放送

マイケル・ダナ
1958年カナダ生まれ。『手紙は憶えている』(2015年)のアトム・エゴヤンや『Dr.パルナサスの鏡』(2009年)のテリー・ギリアムなど、鬼才監督たちとの仕事で知られる作曲家。アン・リー監督作『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(2012年)でアカデミー賞作曲賞を受賞。近年は弟のジェフと共に『生きのびるために』(2017年)、『アダムス・ファミリー』(2019年)、『2分の1の魔法』(2020年)などのアニメーション映画でも活躍。映画『処刑人』(1999年)で使われた「The Blood of Cu Chulainn」を収録したコンセプト・アルバム「ケルティック・ロマンス」もMarigold Musicより発売中。

「ケルティック・ロマンス」
音楽:マイケル・ダナ&ジェフ・ダナ
発売元:Marigold Music, Inc.
品番:MGMU-1005

CS映画専門チャンネル ムービープラスではダナが音楽を担当した『ベラのワンダフル・ホーム』(2019年)も2021年7~8月に放送。

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『マネーボール』

プロ野球選手から、大リーグ・アスレチックスのゼネラルマネージャーに転身したビリー・ビーン。弱小で貧乏球団のため、優秀で年俸の高い選手は雇えない。ある日、データ分析が得意な青年ピーターと出会ったビリーは、“低予算で強いチームを作り上げる”という型破りな独自理論を実践し始める。

制作年: 2011
監督:
出演: