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70年代ホラー&サスペンスの抗しがたき魅力! フーパー『悪魔の沼』フリードキン『恐怖の報酬』キューブリック『シャイニング』

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ライター:#谷川建司
70年代ホラー&サスペンスの抗しがたき魅力! フーパー『悪魔の沼』フリードキン『恐怖の報酬』キューブリック『シャイニング』
『恐怖の報酬』【オリジナル完全版】≪最終盤≫ 発売中 価格:¥9,680 (税抜¥8,800) © MCMLXXVII by FILM PROPERTIES INTERNATIONAL N.V. All rights reserved. / 『悪魔の沼』Blu-ray 価格:¥5,280(税込)発売元:エクリプス 販売元:KADOKAWA

A級からZ級までホラー映画が元気だった時代

1970年代の洋画というと、一般的には硬直した古いハリウッドの映画作りシステムから、いわゆる“アメリカン・ニューシネマ”の作品群が風穴をこじ開け、続々と新しい才能が世に飛び出し、若きスティーヴン・スピルバーグ監督の『JAWS/ジョーズ』(1975年)に代表されるようなブロックバスター映画が登場してその後のハリウッドのメインストリームへ躍り出ていった時期、と認識されている。

『恐怖の報酬』© MCMLXXVII by FILM PROPERTIES INTERNATIONAL N.V. All rights reserved.

それはその通りなのだが、日本における洋画配給の状況を見ると、スピルバーグをA級とするならば、B級、C級からZ級まで、玉石混交、バラエティに富んだ様々な映画が公開されていた時期でもあり、特にホラーやサスペンス映画の領域では元気があり、今日カルト映画の地位を確立した名作・迷作の数々が公開された。

『悪魔の沼』©MPI Media Group 1976

“悪魔シリーズ”の日本ヘラルド映画

今はKADOKAWAに吸収されてなくなってしまった日本ヘラルド映画は、老舗の東宝東和に追いつけ追い越せ、と1960年代に急成長してきた新興洋画配給会社だったが、東和が薫り高きヨーロッパの名作を配給するルートをがっちり握っていたこともあって、よそが手を出さないヘンテコな映画、B級だが得体のしれないパワーのある映画などで異彩を放っていた。

そんなヘラルドが掘り当てた鉱脈がB級ホラー映画の数々で、アンディ・ウォーホルがプロデュースした『悪魔のはらわた』(1974年8月公開)を皮切りに、『悪魔のいけにえ』(1975年2月公開)、『悪魔の墓場』(1975年6月公開)、『悪魔の沼』(1976年12月公開)、『悪魔の棲む家』(1980年3月公開)と続々と同じ路線の作品を配給し気を吐いた。――当時のヘラルドの予告編では、「“悪魔シリーズ”の日本ヘラルド映画が送る最新作!」といったコピーが使われていたのを覚えている人は、もうあまりいないかもしれない。

それらの作品の中でも、とりわけ観客を悲鳴の渦に巻き込んだのが『悪魔のいけにえ』『悪魔の沼』で、監督はどちらも若き鬼才トビー・フーパー。当時30歳そこそこの新進気鋭の映画作家だったフーパーは、無名の役者ばかり使った処女作『悪魔のいけにえ』のドキュメンタリー・タッチの乾いた演出で旋風を巻き起こすと、第二作目の『悪魔の沼』では、主役に1950年代の西部劇の悪役や囚人役などで顔を知られていたネヴィル・ブランドを抜擢し、助演にメル・ファーラーやスチュアート・ホイットマンといった主役級の俳優を起用できるまでになった。

『悪魔の沼』
価格 Blu-ray ¥5,280(税込)
発売元 エクリプス・販売元 KADOKAWA

メル・ファーラーは知的な二枚目俳優として人気を博し、プロデューサーとしても知られる才人だが、オードリー・ヘプバーンの最初の夫という肩書が最も知られているかもしれない。その妻オードリー主演の『緑の館』(1959年)では監督を務め、『暗くなるまで待って』(1967)でもプロデューサーを務めている。……そんな由緒正しき知性派のメル・ファーラーを、事もあろうに異常な殺人鬼が若い娘たちを次々沼に飼う“ペット”の餌食にしていくB級ホラー映画に起用した(被害者の父親役)のもビックリだが、あっという間にネヴィル・ブランドの振り下ろした大鎌に……という展開もショッキングだった!

トビー・フーパーにとことんつきあった日本ヘラルド映画

最初の二作品のあと、フーパーの第三作『死霊伝説』(1982年1月公開)もヘラルドが配給を引き受けたが、地方公開の併映用の“スプラッシュ”扱いでの公開だった。その後フーパーは、メジャー資本で撮った『ファンハウス/惨劇の館』(1981年)『ポルターガイスト』(1982年)を経て、当時イスラエルから新興勢力としてハリウッドに乗り込んできたキャノン・フィルムズとの提携で立て続けに三作品を発表するのだが、その三作品をすべて配給したのが、やはりヘラルドだった。

『死霊伝説』デジタル配信中
ブルーレイ 2,619円(税込)/DVD 1,572円(税込)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
© 2019 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

その三作品とは、『スペースバンパイア』(1985年8月公開)、『スペースインベーダー』(1986年7月公開)、そして『悪魔のいけにえ2』(1986年10月公開)で、ヘラルド宣伝部の一員としてそれらすべての作品にかかわったのが、かく申す私、谷川だった。

特に『悪魔のいけにえ2』では、大阪・心斎橋の某レストランで、本作の予告編の映像をモニターで流した後、レザーフェイスを顔に付け、刃部分を外したチェーンソーを持たせた学生アルバイトに乱入させて、食事に来ていた客の度肝を抜くイベントを敢行して顰蹙を買い(女性のお客さんで具合が悪くなる人がいて)、警察から大目玉を食らったことを告白しておこう。

『悪魔のいけにえ2』イベント:筆者提供

フーパー監督の初来日に際しても成田空港まで迎えに行き、関西のメディア向けにインタビューをしたが、悪戯小僧っぽいフーパーが「本当はホラーばかりじゃなくてミュージカル・コメディみたいなものを作りたいんだよね」と言っていたのが印象に残っている。その時に、ヘラルドが同作品のノベルティとして作ったチェーンソー型のミニ・カッターをプレゼントしたらフーパーは大はしゃぎして、それを振り回して谷川に襲い掛かった、という証拠写真が残っている(笑)。……そのトビー・フーパーも大学の講師などをしつつホラーを作り続け、2017年に世を去った。合掌。

成田空港でトビー・フーパー監督と:筆者提供

ウィリアム・フリードキンの傑作サスペンス『恐怖の報酬』!

1970年代の状況に話を戻そう。ホラーというジャンルは後々カルト・クラシック的な作品になることはあっても、所詮は時代のあだ花。それに対して、サスペンス映画は、スピルバーグの弱冠21歳での処女作『激突!』(1973年1月公開)や『JAWS/ジョーズ』(1975年12月公開)がまさしくそうだったように、ホラーよりも間口が広く、このジャンルで成功すると一躍メインストリームへ躍り出る、というジャンルだ。

1970年代のサスペンス映画の中で、最も興行的に成功したのはスピルバーグ、そしてウィリアム・フリードキンだったように思う。フリードキンはフランシス・フォード・コッポラ、ピーター・ボグダノヴィッチと共にディレクターズ・カンパニーを結成するなど、当時の若手映画作家の先頭ランナーだったが、『フレンチ・コネクション』(1972年2月公開)、『エクソシスト』(1973年7月公開)の大ヒットで知られる。ジャンル分けで言うと、前者は刑事アクション、後者はホラーと分類されることが多いが、カー・チェイスにしろ悪魔祓いにしろ、基本的には観客をいかにドキドキハラハラさせ得るかが勝負な訳で、その意味では広義のサスペンスだともいえる。

そのフリードキンが満を持して世に放ったのがフランスのアンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督、イヴ・モンタン、シャルル・ヴァネル主演の名作『恐怖の報酬』(1953年)の現代的リメイク。ニトログリセリンを積んだトラックが足場の悪い山道を進み、崩れかけた吊り橋を渡る、というシチュエーションそのものがサスペンスの王道だが、フリードキン版『恐怖の報酬』(1978年3月公開)は、アメリカでの興行的失敗を受けて日本では92分の短縮版として公開。それでも手に汗握る出来栄えに、満足して映画館を後にしたことを覚えている。

恐怖の報酬【オリジナル完全版】≪最終盤≫
発売中
¥9,680 (税抜¥8,800)
© MCMLXXVII by FILM PROPERTIES INTERNATIONAL N.V. All rights reserved.

フリードキン自身は『L.A.大捜査線/狼たちの街』(1985年)を最後にややエッジを失ってしまった感があるが、初公開から40年を経た2018年になって、なんと121分のオリジナル全長版『恐怖の報酬』がリバイバル公開され、筆者も40年振りに再見、「こんなに面白かったか!」と改めて大満足した。

巨匠キューブリックのサスペンス・ホラー『シャイニング』の登場!

1970年代当時、続々と生まれてくる新世代の映画作家たちをしり目に、世界で最もその動向が注目されていたのは、スタンリー・キューブリックだったかもしれない。既に『2001年宇宙の旅』(1968年4月公開)と『時計じかけのオレンジ』(1972年4月)で他の追随を許さない巨匠という立ち位置にいたキューブリックは、1970年代にはもう一本、『バリー・リンドン』(1976年7月公開)を発表しただけで、この寡作家にして一作ごとに異なるジャンルに挑み続けている巨匠が次にどんな作品を世に問うのか、筆者ならずともかたずをのんで見守っている感があった。

そのキューブリックの新作が、スティーヴン・キングの原作に基づいたホラー映画だという情報に接したのは1979年の後半くらいだっただろうか。完成したその作品、『シャイニング』はアメリカでは1980年5月、日本ではその年の12月に公開された。

『シャイニング』
北米公開版<4K ULTRA HD&HDデジタル・リマスター ブルーレイ>(2枚組)6,345円+税
ブルーレイ 2,381円+税/DVD 1,429円+税
ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
© 1980 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

作品の内容について、今更どうこう言う必要などはないと思うが、雪に閉ざされ、人里離れた古いホテルの空気感、ダニー少年の三輪車の目線でホテルの廊下を進むステディカムのカメラの不穏なリズム、霊感のある(=シャイニング)ダニー少年の目に映る惨殺された双子の少女の残像、と初見から41年経った今でも鮮明に覚えている映像体験は、ホラー映画というジャンルの金字塔として、1970年代の数多のホラー映画たちのすべてを前座の位置に追いやってしまった感がある。

『シャイニング』© 1980 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

玉石混交、百花繚乱の1970年代ホラー&サスペンス映画の数々を経ての、その最終完成形として完成したのが『シャイニング』だったとすれば、その『シャイニング』の未使用テイクの一部を流用しつつ、1980年代の新たな潮流の源泉となったのがリドリー・スコットの『ブレードランナー』(1982年)だったのかもしれない。

キューブリックはその後『フルメタル・ジャケット』(1987年)、『アイズ・ワイド・シャット』(1999年)の二作品を発表しただけで1999年に70歳で亡くなってしまった。彼には映画化へ向けて相当な準備を進めたにもかかわらず企画だけに終わってしまった作品もいくつかあるが、その中で、『シャイニング』のジャック・ニコルソンを再び起用してタイトルロールを演じさせる『ナポレオン』が実現しなかったことは本当に残念だ。

言うまでもなく、『シャイニング』の後日談はその後『ドクター・スリープ』(2019年)として提示されたわけだが、好き嫌いは別としても、映画作りにおける作り手たちの持つエネルギーの熱量というものは、1970年代の作品群の方がはるかに上だったような気がしてならない。

『ドクター・スリープ』デジタル配信中
ブルーレイ 2,619円(税込)/DVD 1,572円(税込)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
Doctor Sleep © 2019 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

文:谷川建司

『悪魔の沼』『恐怖の報酬』『シャイニング』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2021年10月放送

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