音楽目線で紐解く『遊星王子 2021』
河崎実監督の最新作『遊星王子 2021』が2021年8月27日(金)より劇場公開される。本作は、1958年に<宣弘社>が制作した“日本初の宇宙人ヒーロー”番組を、60年あまりの時を超えて現代版にリブートした特撮映画。『帰ってきたウルトラマン』(1971~1972年)の団時朗やきくち英一など豪華キャストが出演していることでも話題を呼んでいる。
本作品の音楽を手がけているのは、BANGER!!!でも特撮系作品を中心にレビューを執筆しているナカムラリョウとタカハシヒョウリだ。特撮リスペクトバンド・科楽特奏隊としても活動する“特オタミュージシャン”の2人に、今回は音楽スタッフの目線から『遊星王子2021』の魅力について語ってもらった。
「過去の名作に“寄せる”塩梅を探りつつ、いかにストライクを投げるか」
ナカムラリョウ(以下、リョウ):というわけで、『遊星王子2021』のレビュー執筆依頼があったわけなんですけど、今回は音楽担当として作品に参加しちゃってるので、いつもと趣向を変えてスタッフ目線で作品を語っていければと思います。
まず、この作品は“どこに出しても恥ずかしい”B級映画界の巨匠こと(笑)、河崎実監督の最新作です。僕は2016年の『大怪獣モノ』以来、本格的な劇場映画作品としては5年ぶりに音楽を担当させていただきました。個人的に巨大怪獣ものは得意なんですが、今回はヒーローものなので、そういった作品により強いタカハシヒョウリと組んだら新しいものが生まれるのでは? と思い2人で制作したんですけど。ヒョウリは映画音楽を本格的に担当するのは初めてでしたよね。やってみてどうだった?
タカハシヒョウリ(以下、ヒョウリ):今回の音楽は「この曲は、この作品に寄せたい」という元ネタ的なものがあったじゃない? だからそこに向けて、いかにストライクを投げるかという楽しさがあった。でも、寄せすぎたら寄せすぎたでNGが出た(笑)。そのへんの塩梅を探って、ちゃんとオリジナルなものに落とす作業が面白かったですね。
リョウ:「バトル」とか「ミステリアス」とか、個々のテーマ的なメロディーをヒョウリに書いてもらい、それを僕がアレンジで広げるという作り方をしたね。
ヒョウリ:ひとつのメロディがいろんなバージョンに展開していくタイプの劇伴の手法が個人的に好きだったから、自分のメロディがそうやってアレンジされていくのは聴いていて楽しかったですね。
リョウ:結構、キャラクターごとのライトモチーフ(主題)も大事に意識して作っているので、そこは音楽的な聴きどころのひとつだよね。
ヒョウリ:あと、書いてる時は河崎監督作品にしてはちょっとカッコ良いとこを狙いすぎかな? と思ったりもしたんだけど(笑)、映像が仕上がってみたらバトルシーンなどは重厚で良かったので、シリアスめな曲で合っていたなと思いました。
リョウ:そうだね。経験上、河崎作品が「バカ映画」と言われるからといって、音楽もバカでいいというわけじゃなくて。逆に、そこを大真面目に作るからこそ安心して「バカだなあ」と笑ってもらえる、という矜持はあって。
ヒョウリ:だから音楽はかなり正統派に作って、それが良かったね。
「いろんなオマージュを込めた主題歌は“王道特撮ソング!”という感じ」
リョウ:今回は「歌」もいろいろ出てきます。
ヒョウリ:それこそ主題歌は、河崎監督作詞、俺が作曲、ナカムラ編曲で。そして歌ったのはLINE LIVEオーディションで勝ち抜いた人という。
リョウ:“たかま”くんこと、工藤崇希くんだね。
ヒョウリ:我々も最初、誰が歌うか知らない状態で曲を作ってて、「当然60年代の特撮ソングのように男性が歌うんだろう」と想定していたら、実際オーディションにエントリーしていた人がほとんど女性だったという(笑)。ただ、結果的にはその中で工藤くんが選ばれた。彼の声は曲にハマっていたね。
リョウ:すごく若くて、普段はラップをやっているんだよね。歌入れの日は「一体どんな人が来るんだろう……」ってドキドキしてたけど(笑)、めちゃくちゃ良い子だった。「子供の頃、プレステでウルトラマンのゲームやってました!」って言ってて、新世代だな! と思いました。
既にお知らせしているLINELIVE主題歌ボーカリストオーディション。
— 遊星王子2021 (@yousayouji2021) March 11, 2021
激戦?のすえ、決勝を勝ち抜いたのは“たかま”さんこと、工藤崇希さん???
3月6日(土)には、無事レコーディング?も終了!
どんなカッコいい主題歌?になっているか、
皆さま是非お楽しみに! pic.twitter.com/ujNgntvmqU
ヒョウリ:そんな主題歌は、かなり「王道特撮ソング!」という感じで、いろんなオマージュが見つかると思いますが(笑)。その中にも、元祖『遊星王子』へのリスペクトが込められていたりして。
リョウ:オリジナルの楽曲は服部克久さんが作曲されているので、そのエッセンスも意識してアレンジしました。
ヒョウリ:しかし、主題歌はあんなに特撮オマージュに振っているのに、エンディングテーマはNONA REEVESのめちゃくちゃオシャレな曲という、あのギャップがすごかった(笑)。
リョウ:NONAの西寺(郷太)さんは本編でも怪演されてますからね(笑)。でもエンディング手前までバリバリ特撮感のある音楽で押して、そこからのNONAという流れが意外にも気持ちよかった。
ヒョウリ:現実に引き戻される的な(笑)。
西寺郷太さんの個展へ。ライオネルリッチーの絵にグッとくる。ギャラリーに遊星王子2021のチラシを置かせていただきました。西寺さんは出演とエンディング曲で参加してもらったのでファンの皆さんよろしくお願いします。#西寺郷太#松田岳ニ#NONAREEVES#河崎実#遊星王子2021 pic.twitter.com/CsrDNjyoK9
— 河崎実 (@denace5555) August 11, 2021
リョウ:あと劇中で主演の日向野祥さんが歌う「星空にふたつ」という曲も僕が作曲したんだけど、これは明確な元ネタがあって。『ウルトラセブン』(1967~1968年)でセブンを演じた上西弘次さんが1968年にレコードで出した、<宇宙星人スーパーX>のイメージソング「星空にひとつ」のオマージュなんだよ。
ヒョウリ:へー! それは知らなかった。
リョウ:テレビ番組化はされていない、レコードだけで完結している架空のヒーローという企画。
ヒョウリ:マニアックだなー、さすが河崎監督(笑)。この曲は“音痴バージョン”もあって、あれが面白かった。
リョウ:劇中でこれを音痴っぽく歌うというシーンがあるんだけど、その音痴ぶりがすごい(笑)。あれは本来ちゃんと歌えないとなかなかできない演技で、とても良かった。
ヒョウリ:さすが役者さん! と思ったね。
リョウ:あとは団時朗さん(『帰ってきたウルトラマン』の主人公・郷秀樹隊員役)が登場するシーンでは、どうしてもこの音を使いたい! というアプローチもしてます(笑)。
ヒョウリ:往年の特撮音楽全部盛り! という感じだよね。それにしても団さんの存在感は格が違ったなあ。
「バトルシーンのエレキギターは『エヴァ』の劇伴を意識した」
リョウ:ヒョウリ的な聴きどころポイントは?
ヒョウリ:主題歌はもちろんだけど、やはりバトルシーンの音楽かな。『ウルトラ』シリーズで例えるなら、冬木透さん(『ウルトラセブン』以降のウルトラシリーズの音楽を数多く手がけた作曲家)というより、宮内國郎さん(『ウルトラQ』[1966年]『ウルトラマン』[1966~1967年]の音楽を手がけた作曲家)的というか。宮内さんのメロディってロックなんだよね。そのエッセンスを感じてもらえたら。
リョウ:そうだね。ある意味、壮大な音楽を作る方が作曲家としては楽だったりする。音を重ねればそれっぽく派手にはできるから。でも今回は逆で、ブラス中心で音数を絞っていくのが大変だった。そこはヒョウリのメロディの力があったからこそ成立した気がしたな。ちょっと宮内國郎的な特撮音楽の、現代版をやってみたかったというのもあるね。
ヒョウリ:往年の特撮音楽をベースにしつつ、より新しいアレンジにしようという試みもある。特撮音楽に精通している方々は、そのあたりも楽しんでいただきたいですね。
リョウ:バトルシーンの音楽にはエレキギターも入れてもらったけど、あれはどんなイメージ?
ヒョウリ:『新世紀エヴァンゲリオン』(1995~1996年)の鷺巣詩郎さんの劇伴かな。『シン・ゴジラ』(2016年)にエヴァの楽曲が引用された時、エレキギターが入ってきたのがすごく新鮮でびっくりした。あの感じを意識して弾きましたね。
リョウ:メイン楽曲はヒョウリに書いてもらいつつ、自分は合間に入る劇伴音楽をたくさん作ったんだけど、とくに大変だったのが劇中の「タルタン人(遊星王子の敵)の歴史映像」というくだり。6分近くノンストップで、とにかくいろいろ音楽的な小ネタを詰め込んだシーンなので、ぜひ注目してほしいですね(笑)。
「主演の日向野祥さんは、爽やかな演技をしても嫌味がない」
リョウ:さて、作品の全体的な印象はどうでしたか?
ヒョウリ:河崎監督作品だから斜め上なオマージュなどもありつつ、ちゃんと王道な特撮作品の楽しさが詰まっていて良かったですね。もっとギャグの連続かと思いきや、ちょっとホロッとくる要素もあって意外だったというか(笑)。あとは登場するロボットの造形もかなりクオリティが高い。ロボットの登場シーンは出色でした。
リョウ:レトロだけどカッコ良いよね。あのロボットのフィギュアとか欲しい。
ヒョウリ:これを機に『遊星王子』再評価ブームとか来てほしいよね。
リョウ:『遊星王子』のレトロフィギュアとかも発売しないかな。コスチュームデザインは麻宮騎亜さんだし、カッコ良く仕上がると思う。
ヒョウリ:<ブルマァク>的な(笑)。それはちょっと欲しいな。
リョウ:本作は配役も見どころだよね。
ヒョウリ:特に主演の日向野祥さんがすごく良かった。『ウルトラマンZ』(2020年)の平野宏周さんにも通じる、爽やかな演技をしていても嫌味がないキャラクターで。
リョウ:分かる! 観終わったあと、みんな彼を好きになっちゃうのでは? という感じが似ているよね。
ヒョウリ:彼の「陽」な感じに引っ張られて、楽しい映画になっている印象だったな。
リョウ:単純に、観て元気になれる。今の時代に必要とされてる作品という気がするよね。往年の特撮俳優の方々の出演も多かったけど、個人的に良かったのは『ウルトラマン』でホシノ少年を演じた津沢彰秀さん。
ヒョウリ:あのシーンは良い! セリフにグッときた。そう考えると、やっぱりあの時代のあらゆる特撮作品にリスペクトを捧げてる作品だなあ。
「“かゆいところに手が届く特撮音楽”をご提供!(笑)」
リョウ:というわけで、楽しい作品になりましたので是非ご覧いただければと思います。
ヒョウリ:今後も我々コンビでいろいろやりたいよね。
リョウ:そうだね。特撮作品だと、どうしても特撮に予算がかかって音楽にあまりお金が回せない、という事情もありがちで。そんなとき我々ができるだけリーズナブルに「かゆいところに手が届く特撮音楽」をご提供します、ということで(笑)。
ヒョウリ:これを読んだ業界関係者の皆様、ご連絡お待ちしています(笑)。
『遊星王子2021』は2021年8月27日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
ナカムラリョウ:音楽家、デザイナー。様々なバンドでの活動を経て、現在は音楽制作と並行して広告クリエイティブに携わる。科楽特奏隊のギター&シンセサイザー。
タカハシヒョウリ:ミュージシャン、作家。オワリカラ/科楽特奏隊のボーカル&ギター。サブカルチャー全般への造詣と偏愛から、カルチャー系媒体での執筆や番組出演など多数。
『遊星王子2021』
1基の宇宙船が地球に墜落してから200年後の日本。長い眠りから覚めたMP5星雲第四遊星の王子は、パン屋の娘・君子の前に突如現れ、絶体絶命のピンチから彼女を救った。パン屋に居候することになった遊星王子は、地球人と触れ合い、時にはトップアイドルと入れ替わったり、しつこく現れる宇宙からの侵略者・タルタン人から街を守ったり、地球生活を満喫していた―――ようにみえるが、墜落の衝撃で記憶の大部分を失くし、第四遊星へ戻るすべが分からずにいた。地球を守るヒーローとして一躍国民の人気者になった王子だったが、タルタン人によって王子の正体は「宇宙の破壊者」だと、日本中に暴露されることに……。果たして、遊星王子は正義の味方なのか? 否、王子こそが侵略者なのか?地球の運命やいかに!?
制作年: | 2021 |
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監督: | |
出演: |
2021年8月27日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開