成功の秘密は「不殺」にアリ!?『るろうに剣心 最終章 The Beginning』大友啓史監督が明かすシリーズ最大の武器

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ライター:SYO
成功の秘密は「不殺」にアリ!?『るろうに剣心 最終章 The Beginning』大友啓史監督が明かすシリーズ最大の武器
『るろうに剣心 最終章 The Beginning』© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会

映画監督・大友啓史の“魂”

約10年に及ぶ実写映画『るろうに剣心』シリーズが、『るろうに剣心 最終章 The Beginning』(2021年6月4日公開)をもって完結する。

『るろうに剣心 最終章 The Beginning』© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会

第5作目である本作は、時系列的には第1作『るろうに剣心』(2012年)以前を描く前日譚。舞台は幕末の京都。討幕派の暗殺者として暗躍し、「人斬り抜刀斎」として恐れられていた若き日の緋村剣心(佐藤健)が、謎めいた女性・雪代巴(有村架純)と出会ったことで、運命が大きく動き始める。

『るろうに剣心 最終章 The Beginning』© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会

第4作『るろうに剣心 最終章 The Final』(2020年:以下、『The Final』)に登場した最恐の敵・雪代縁(新田真剣佑)の姉であり、剣心が斬殺した妻である巴。彼女と剣心の間に、何があったのか? そして、ついに明かされる剣心の十字傷の秘密とは――。『るろうに剣心 最終章 The Beginning』(以下、『The Beginning』)は、これまでのシリーズとは一線を画すダークかつシリアスな本格時代劇のトーンで、シリーズの根幹にかかわる秘話を描き出す。

今回は、大友啓史監督に単独インタビュー。シリーズを締めくくる『The Beginning』にも連綿と受け継がれた、彼のものづくりにおける“魂”に迫る。

大友啓史 監督

漫画原作に取り組む際の「リアルから2.5センチ浮いた」意識

―大友監督は「リアリズム」を大切にしつつ、『るろうに剣心』以外にも『秘密 THE TOP SECRET』(2016年)、『ミュージアム』(2016年)、『3月のライオン』(2017年)と漫画原作ものも多数手がけられています。そうした際の方法論はあるのでしょうか。

漫画原作をリアルに落とし込んでいくときには、2.5センチ宙に浮いている感じを目指しています。完璧にリアルにしてしまうと、漫画の良さがなくなってしまうんですよね。だからこそ、“嘘”を少し残していく。

ただ『The Beginning』の“浮いている”感じはちょっと性質が違っていて、これまで以上にリアリズムに振り切った中で、剣心や巴、新選組の面々がまるで亡霊であるかのように浮かび上がっていけばいいと思っていました。つまり、既に“心を喪っている”人たちの物語であり、そこに現代とは違う“時代感”が浮かび上がっていけばいいなと考えたんです。

『るろうに剣心 最終章 The Beginning』© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会

太平洋戦争から70年が経ち、安保闘争からも時間が流れ、僕たちが実生活で血が流れるさまを見る体験というのはほとんどないですよね。自分たちの生を実感するのは、身の危険を感じたとき、たとえば病気になったときくらい。ですが、幕末のリアリティというのは「日常のすぐそばで人が斬られる」部分にあった。生きている実感においては、幕末のほうがはるかに強かったわけです。

僕自身も、若いころバブルの狂騒を経験していくなかで、生きている実感が得られないなと感じていたし、現代でも映像の中に“リアル”を仮託して生きている、バーチャルな死生観が続いている。そうした中で、特に日本では劇薬すぎるとエンターテインメントとして成立しない、という問題があります。

『るろうに剣心 最終章 The Beginning』© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会

―非常によく分かります。大友監督の作品の特長である“汚し”の演出もそうですが、リアルに振りすぎると大衆からは敬遠される傾向にありますよね。だからこそ、本作のバランス感覚は奇跡的です。

ありがとうございます。ちょっと話が逸れますが、ゾンビものなんかが人気なのは、完全にフィクションとして、まるでゲームでもあるかのように安心して“生き死に”を観られるからだとも思うんですよ。見た目的にも、もはや人類とは違う“種族”になっていますしね。ただ、自分たちと同じ民族の血が流れる、人が斬られる話というのは、多分そうはいかない。フィクションということが明確にならないと、みんな観たくないんじゃないかな。『The Beginning』の演出で多少ケアが必要だったのは、そういう部分なんですよね。

逆に言えば、『るろうに剣心』というコンテンツ自体は、日本人に広く受け入れられるだろうなと思っていた。なぜなら「不殺」だからです。

『るろうに剣心 最終章 The Beginning』© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会

『るろうに剣心』の最大の武器だった「不殺」

―なるほど! 逆刃刀だから血が流れない。

そう! 僕が思う『るろうに剣心』の最大の武器は、そこにありました。ただ『The Beginning』では同じ日本人同士が争う幕末を描くし真剣だから、血がすごく流れる。剣心自体も人を斬り続けた結果、幽鬼のような表情になっていくし、今までの「おろ剣心」に慣れてしまっていると、下手したら心臓が止まっちゃうくらいビックリしてしまうお客さんもいるかもしれない。それは翻せば、社会全体のフィクションに対する許容度が、そのくらいになってしまっているかもしれないということでもあって。韓国などは逆で、身近な人が血を流す衝撃作の方が、大人に受け入れられる場合も少なくないですよね。

『るろうに剣心 最終章 The Beginning』© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会

―確かに。日本映画として、興行として成立させるための娯楽性と大友監督が標榜する現実感のせめぎ合いは、非常に難しいところですね。

だからこそ、『The Beginning』は『The Final』と一緒じゃないと勝負できなかった気がするんですよ。むろん内容的にも直接繋がっているということもありますが、エンタメに振り切った『The Final』があったからこそ、リスクを取ってチャレンジすることができた。

―「亡霊」というコンセプトも、その一環だったのですね。

というのも、剣心も巴も“魂の抜け殻”なんですよ。剣心は心根が優しい人間だからこそ、心を失った状態で人斬り抜刀斎を演じている。巴は清里(窪田正孝)という許嫁を失ってしまった。『The Beginning』は、そんな二人が出会うことで少しずつ心を取り戻していく物語です。

『るろうに剣心 最終章 The Beginning』© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会

そうした孤独感を抱えて、ご飯を食べても味がわからない、酒を飲んでも血の味しかしない、喜怒哀楽を失い、生きている実感を得られない“魂の抜け殻”たちを描く上で、映画全体に登場する人物たちが、人間らしさを失った亡霊のように見えたら、という意識になっていったんです。後半の雪景色も、幽玄な雰囲気になっていけばいいなと思っていました。

実は雪が積もる場所を探していたんですが、結果的に見つからなかったんです。ただ、“水墨画”のような表現にたどり着けたことは大きかった。そこに先ほど話した「現実から2.5センチ宙に浮いている」虚構性が生まれました。撮影用のイミテーションの雪を使っていますが、もしリアルに雪が積もっている場所だったら足場がぐちゃぐちゃになってしまって、見渡す限り白銀の幽玄な雰囲気は出なかったと思っています。

『るろうに剣心 最終章 The Beginning』© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会

―『るろうに剣心 伝説の最期編』(2014年)の撮影でも、雨が降ってきたことでシーンの演出を変えるなど、臨機応変に対応されてきたイメージがあります。

映画の神様が「こっちに行け、次はこっちに行け」と言っているんでしょうね(笑)。今回の雪景色に関しても、映画を作るっていうのはこういうことだよ、と実感できた気がします。

『龍馬伝』から現在まで連なる、譲れないモノ

―それもある種の、現場のリアリティを映画に落とし込んでいく作業ですね。同時に、いまお話しいただいたようなドラマ性の高い演出は、『龍馬伝』(2010年)の頃から一貫しているように感じます。

日本はどちらかといえばデオドラント文化だから、のっぺりとしたものが好まれる傾向にある。そうした中で、『龍馬伝』は挑戦でしたね。日曜の夜8時に放送するものでリアリティを追求した結果、賛否両論ありましたが「面白い」と言ってくれた方も多かった。

『るろうに剣心 最終章 The Beginning』© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会

『龍馬伝』は、「(坂本)龍馬が動けば、時代が動く」をテーマにしていたから、とにかく動くシーンを取り入れたんです。従来の時代劇にあったような、座って話し込むことで物語が進行していく演出――海外だと「サムライ・ミーティング」といって揶揄されがちなのですが――をなるべく排除していきました。

そこで活用したのが、風の演出です。スモーク演出などを意識的に取り入れて、風を可視化できるようにしました。龍馬が動く→風が動く→時代が動くといった流れを、視聴者の意識に植えつけられるようにしたんです。そうした意識はもちろん『るろうに剣心』にも生きていますし、自分自身もずっと丁寧にこだわってきたところなので、そう言っていただけて嬉しいです。

『るろうに剣心 最終章 The Beginning』© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会

―「挑戦」もまた、大友監督を語る上で外せないキーワードかと思います。

ドラマ&映画『ハゲタカ』(2007年、2009年)、『白洲次郎』(2009年)、『龍馬伝』と作って、NHKを辞めてフリーになって、『るろうに剣心』シリーズが始まって――。リスクをとったOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング。実務をこなしながら訓練していく育成法)は、これまでずっとやってきたことでもありますね。

『るろうに剣心 最終章 The Beginning』© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会

『るろうに剣心 京都大火編』(2014年)『るろうに剣心 伝説の最期編』で成功したら、『秘密 THE TOP SECRET』のようにチャレンジングなものを選んでしまう(笑)。うまくいかないことも多いけど、やってみると見えてくるものもたくさんあるんです。リスクをとったトライアルは、常々心掛けていますね。

ただ、成功体験がないと安心して取り組めない。『The Beginning』は、『The Final』のようにエンタメのほうに振り切る作品があったから、思いっきりリアリズムを追求できました。

大友啓史 監督

取材・文:SYO

『るろうに剣心 最終章 The Final』は全国公開中

『るろうに剣心 最終章 The Beginning』は2021年6月4日(金)より全国公開

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『るろうに剣心 最終章 The Beginning』

動乱の幕末。緋村剣心は、倒幕派・長州藩のリーダー桂小五郎のもと暗殺者として暗躍。血も涙もない最強の人斬り・緋村抜刀斎(ひむらばっとうさい)と恐れられていた。

ある夜、緋村は助けた若い女・雪代巴(ゆきしろともえ)に人斬りの現場を見られ、口封じのため側に置くことに。

その後、幕府の追手から逃れるため巴とともに農村へと身を隠すが、そこで、人を斬ることの正義に迷い、本当の幸せを見出していく。しかし、ある日突然、巴は姿を消してしまうのだった……。

制作年: 2020
監督:
出演:
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