女人禁制の祭で飛び入り優勝!?『ペトルーニャに祝福を』は現実に起こった事件から生まれたベルリンW受賞の快作

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ライター:野中モモ
女人禁制の祭で飛び入り優勝!?『ペトルーニャに祝福を』は現実に起こった事件から生まれたベルリンW受賞の快作
『ペトルーニャに祝福を』© Pyramide International

ヨーロッパ南東部、バルカン半島に位置する北マケドニア。一般的な基準で言う「若く美しい女」枠からはみ出した三十路の女性非正規労働者。そして、この地域で信仰されている東方正教の女人禁制の奇妙な祭儀。もしあなたがこれらのキーワードに興味をそそられたなら、『ペトルーニャに祝福を』はきっと期待に応えてくれるだろう。自分にとっては近年有数の「こういうヒロインに出会いたいからミニシアターに行くのだ」と思える作品だった。

『ペトルーニャに祝福を』© Pyramide International

半裸男だらけの伝統行事

北マケドニアの、大都会ではなくそれほど田舎でもない様子の街で両親と同居しているペトルーニャ(ゾリツァ・ヌシェヴァ)。ウェイトレスのアルバイトをしている彼女に、母親は社会保障や年金の受給資格を得られる会社に就職しろとプレッシャーをかけてくる。ペトルーニャは紹介された縫製工場の事務職の面接に出向くが、男性の採用担当者は目の前の彼女を完全にナメていて、横暴で無礼だ。

『ペトルーニャに祝福を』© Pyramide International

どんよりした帰り道、川辺に思いがけず人が集まっていた。キリストの受洗を祝う“神現祭”、司祭が橋の上から川に十字架を投げ込み、それを拾った者は1年間幸福に過ごせると信じられている伝統行事だ。川面で芋洗いになっている半裸の男たちをすり抜けて十字架が自分のほうに流れてくるのを見たペトルーニャは、思わず飛び込んでそれを掴み取る。しかし、男たちは「女が取るのは許されない」と怒り出し、ペトルーニャから“幸運の十字架”を取りあげて大混乱に。ペトルーニャは騒ぎに乗じて十字架をふたたび奪取し、逃亡するのだった。

劇中の時代は2018年、ペトルーニャは32歳という設定だ。想定外のアクシデントも通りすがりの人々にスマートフォンで撮影され、ネット上で拡散されることが前提となっている。テレビ局の女性レポーターはこの件を重要な性差別問題として報じようとするが、上司や同僚の理解は得られず、野心も先走って空回りしてしまう(演じるラビナ・ミテフスカはこの映画のプロデューサーも務めているそうだ)。

『ペトルーニャに祝福を』© Pyramide International

このように現代のメディア環境があるからこそ発生する事態を描いているものの、物語は“世論を動かす”ような方向へは向かわず、主人公と彼女が直接関わる人々に焦点が絞られていて、じんわりと滋味深い。女友達と過ごす時間や母親との一筋縄ではいかない関係の描写に光るものがあり、くすんだ色合いの装いや生活風景も渋く美しい。

『ペトルーニャに祝福を』© Pyramide International

映画より映画みたいな実在の女性から生まれた物語

テオナ・ストゥルガル・ミテフスカ監督によれば、この映画は2014年にマケドニアで実際に起こった事件から生まれたのだそうだ。シュティブという町の神現祭で女性が十字架を掴み取り、地元住民や宗教関係者たちの怒りを買った。「彼女は、これからは十字架を手に入れるために女性もどんどん川に飛び込むように呼びかけました」とのことだから、映画のペトルーニャ以上に能動的かつ外向きで“映画のよう”だ。

『ペトルーニャに祝福を』© Pyramide International

監督は彼女が住民たちから「狂った」「精神障害のある」「問題を抱えた」若い女性という烙印を押されたことを、社会に行き渡る同調圧力と女性蔑視のあらわれとみなし、それに対する苛立ちからこの物語を考え出したと語っている。

主演のゾリツァ・ヌシェヴァは北マケドニアの首都スコピエのコメディ劇団で活動しているアクターで、長編映画への出演はこれが初めてだそう。劇中では「美しくない」と言われているものの、スリムな体型でないだけで、人前に立ってパフォーマンスをしてきた人らしい度胸と愛嬌がにじみ出ている。彼女の演技によって、衝動的な行動に出たあと少しずつ内に秘めた強さをあきらかにしていくヒロインに品位と説得力がもたらされた。

『ペトルーニャに祝福を』© Pyramide International

その“女人禁制”は今、本当に必要か?

古くからの伝統や慣習に見られる女性の排除は、一概に廃止するべきだとも存続させるべきだとも言えないデリケートな問題だ。ひとつひとつ丁寧に見直し、そもそも何のためにそうなっているのかを考え、時代に合わせて運用を調整していく必要があるだろう。

『ペトルーニャに祝福を』© Pyramide International

日本に目をやれば、大相撲の土俵の女人禁制をめぐってたびたびトラブルが発生しているし、先月、東京オリンピックの聖火リレーが愛知県半田市で行われた際に、コースの一部が「女人禁制区間」だったことが問題になったのも記憶に新しい。マケドニアと日本の共通点と相違点について思い巡らし、遠く離れた国に生きている人々が前よりほんの少し身近に感じられるようになる。それは映画が持つ大きな力だ。

『ペトルーニャに祝福を』© Pyramide International

この映画の邦題は『ペトルーニャに祝福を』だが、英語タイトルを直訳すれば「神は存在する、彼女の名はペトルーニャ」。地味でおとなしく見えて、しれっと大胆。かっこいい! と思える人はぜひ観てみてほしい。

文:野中モモ

『ペトルーニャに祝福を』は2021年5月22日(土)より岩波ホールほか全国順次公開

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『ペトルーニャに祝福を』

32歳のペトルーニャは、美人でもなく、体型は太目、恋人もいない。大学で学んだのに仕事はウェイトレスのバイトだけ。主義を曲げて臨んだ面接でもセクハラに遭った上に不採用となった帰り道に、地元の伝統儀式“十字架投げ”に出くわす。それは、司祭が川に投げ入れた十字架を男たちが追いかけ、手に入れた者には幸せが訪れると伝えられる祭りだ。ペトルーニャは思わず川に飛び込むと、その“幸せの十字架”を手にするが「女が取るのは禁止だ!」と男たちから猛反発を受け、さらには教会や警察を巻き込んでの大騒動に発展していく……。

制作年: 2019
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