歴史に残る番狂わせ! 第93回アカデミー賞を総評 『ノマドランド』のジャオ&マクドーマンドが最多受賞で制す

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ライター:齋藤敦子
歴史に残る番狂わせ! 第93回アカデミー賞を総評 『ノマドランド』のジャオ&マクドーマンドが最多受賞で制す
『ノマドランド』© 2020 20th Century Studios. All rights reserved.

最高齢ホプキンスが故ボーズマンを抑え主演男優賞

最後に驚きが待っていた。ちょっと茫然とした。授賞式というのは本当に幕が下りるまで何が起きるか分からない。

2020年の第92回まで、アカデミー賞の最後を飾るのは作品賞だった。それを今回は主演男女優賞の前に持ってきて最後を主演男優賞にしたのは、下馬評でも鉄板だったチャドウィック・ボーズマンの受賞で感動的に締めくくる演出だと思っていた。が、そうはならなかった。受賞者のアンソニー・ホプキンス(それでも歴代最高齢83歳での受賞は快挙だ)は、賞など頭の片隅にもなかったのかオンラインでも姿を見せなかった。このあっけない幕切れは、ウォーレン・ベイティが受賞作を読み間違えた第89回などと共に、授賞式の歴史に残る“番狂わせ”だろう。

『ファーザー』© NEW ZEALAND TRUST CORPORATION AS TRUSTEE FOR ELAROF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION TRADEMARK FATHER LIMITED F COMME FILM CINÉ-@ ORANGE STUDIO 2020

2021年はいつものドルビーシアターに大勢のゲストを入れ、ショーアップした豪華な授賞式を世界に中継して視聴率を稼ぐというやり方ではなく、ロサンゼルスのユニオンステーションの待合室に舞台を作ってメイン会場とし、カメラの前以外ではマスクをし、ソーシャルディスタンスを保ち、ロンドン、パリ、ソウルなど世界各地をオンラインで繋ぐというスタイル。MCもなく、生オーケストラの伴奏もなく、歌やダンスのショーもない代わりに、受賞スピーチの時間制限をなくし、授賞式の主役は受賞者であるという原点に戻ったような回だった。

『ノマドランド』栄冠、他候補もまんべんなく賞を分け合う

予想でも書いた通り、今回のノミネート作品はコロナ禍で劇場公開作が少なく、配信作も加えて数を揃えた、“よく言えば粒ぞろい、悪く言えばどんぐりの背比べ的”だったが、作品的には『ノマドランド』が頭ひとつ抜けていた。そして、作品賞、主演女優賞、監督賞の主要3賞を押さえ、最多受賞という順当な結果に落ち着いた。

クロエ・ジャオは『ハート・ロッカー』(2008年)のキャスリン・ビグロー以来、11年ぶり2人目の女性の監督賞。フランシス・マクドーマンドの主演女優賞は3度目で、キャサリン・ヘプバーンに次ぐ最多受賞者となった。ちなみに、マクドーマンドはプロデューサーとして作品賞のオスカーも手にしている。

『ユダ・アンド・ザ・ブラック・メサイア(原題)』がダニエル・カルーヤの助演男優賞と歌曲賞を獲って2冠。『マ・レイニーのブラックボトム』がメイク・ヘアスタイリング賞と衣装デザイン賞の2冠、『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』が音響賞と編集賞の2冠、『ファーザー』が脚色賞とアンソニー・ホプキンスの主演男優賞の2冠、『ソウルフル・ワールド』が長編アニメ賞と作曲賞の2冠と、まんべんなく賞を分けあった印象。特に衣装デザイン賞発表のとき、候補者の席にカメラを振ると、壁に飾られた石岡瑛子(1993年にフランシス・フォード・コッポラの『ドラキュラ』で同賞受賞)の写真が写り込むような配置になっているのが、さすがの心遣いだと思った。

韓国映画界の隆盛を象徴するユン・ヨジョンの助演女優賞受賞

私にとって意外だったのは、『Mank/マンク』の撮影賞と美術賞だ。特に『ノマドランド』のジョシュア・ジェームズ・リチャーズの撮影が好きだったので、彼にあげたかったのだが、伝説の名撮影監督グレッグ・トーランドのモノクロームの“ルック”を忠実に再現したエリク・メッサーシュミットに票が集まった。さすが、歴代アメリカ映画ベストワンの誉れも高い『市民ケーン』(1941年)は強かったというべきか。

エメラルド・フェネルが脚本賞を受賞した『プロミシング・ヤング・ウーマン』は、#MeToo問題を真っ向から取り上げたサスペンス・スリラーで、キャリー・マリガンの体当たり演技にぜひ賞をあげたかったが、今年は本命が強すぎた。

私が最も嬉しかったのは『ミナリ』のユン・ヨジョンの助演女優賞受賞だ。受賞スピーチで、彼女の映画デビュー作『火女』(1971年)を監督した鬼才キム・ギヨンの名をあげて感謝していたのにも感動した。韓国映画界は2019年のポン・ジュノ監督作『パラサイト 半地下の家族』に続き好調を維持。配信でも韓流ドラマは絶好調で、層の厚さ、質の高さは群を抜いている。日本映画は水をあけられるばかりだ。

文:齋藤敦子

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