松田優作が謹慎生活で溜まった鬱憤を晴らす!『暴力教室』は洗練される前の無骨な優作を見られる最後の作品

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ライター:椎名基樹
松田優作が謹慎生活で溜まった鬱憤を晴らす!『暴力教室』は洗練される前の無骨な優作を見られる最後の作品
『暴力教室』
DVD発売中
価格:2,800円+税
発売元:東映ビデオ
販売元:東映

「教師×不良×学校」カンフー映画のような勧善懲悪の構図

松田優作の出演作の中で『暴力教室』(1976年)は、ともすれば忘れられがちな作品かもしれない。ストーリーはツッコミどころ満載であり、作品の格調は低いと言わざるを得ない。しかし、荒々しい魅力がある。監督と出演者たちが火花を散らす。いびつさが人を惹きつける“知る人ぞ知る”作品となりうる個性がある。

『暴力教室』にはアメリカの同名の映画がある。当時の東映社長・岡田茂が、校内暴力が社会問題化した1970年代後半の社会状況を鑑みて、「1955年のアメリカ映画『暴力教室』を参考に、高校生バイオレンスを作れ」と指示をして、東映版が作られたからだ。

狡猾で悪の化身のような本家『暴力教室』の不良生徒たちと比べて、東映版の不良は牧歌的だ。教師と不良学生の対決が主なストーリーである本家に対して、東映版は松田優作演ずる教師が、不良学生たちを鎮圧するためだけに派遣されて来たという設定で、序盤では学生たちとの戦いが描かれるものの、最終的に両者は力を合わせて利権にまみれた「学校当局」と戦うことになる。

学園が社会の縮図として描かれるこの手法は、昔の少年漫画でよく見かけたパターンだ。作品中では“巨悪”として描かれている校内の権力者たちだが、所詮は学園内の話で、彼らの存在はシリアスさもリアリティーも欠けている。ただ勧善懲悪の物語になったことで、最後のバトルを屈託なく見ることができる。カンフー映画のラストバトルのような爽快感だ。本作のラストバトルは非常に面白い。特にラスボスたる校長の豹変ぶりは最高。お前、こんなに強かったのかよ!

松田優作像の原型を作った「遊戯シリーズ」のきっかけとなった『暴力教室』

松田優作の代表作にはなりえない『暴力教室』だが、彼のキャリアのターニングポイントとなった重要な作品である。事実、優作自身も雑誌インタビューで「映画へのめり込んだのは『暴力教室』からです。『暴力教室』に出て、はじめてオレは映画俳優になれたと思いました」と発言している。

『暴力教室』は松田優作初の東映出演作品でもある。この時、松田優作は19歳の予備校生に対し全治3ヶ月の怪我を負わせる暴行事件を起こしたとして、謹慎中の身であった。その謹慎からの復帰作が『暴力教室』って(笑)。まさか狙ってそうしたとは思えないが、今の時代では考えられない不謹慎ぶりである。昔、ポーカー賭博で逮捕されたジャイアンツの選手が、その謝罪会見でトランプ柄のセーターを着てきたことがあったが、その伝説を彷彿させるエピソードだ(笑)。しかも優作は、謹慎生活で溜め込んだエネルギーを本作品に注ぎ込んだとインタビューで答えている。

そんな本作のスマッシュヒットをきっかけにして、その後、東映では松田優作を主演とした、いわゆる「遊戯シリーズ」の3作品(『最も危険な遊戯』『殺人遊戯』『処刑遊戯』[1978~1979年])が制作され、ヒットシリーズとなる。松田優作と、彼の“盟友”となる村川透監督を結びつけた同シリーズは、後の「探偵物語」(1979年)の原型である。無骨、ユーモラス、スタイリッシュ、気障、そして無敵の超人、そんな松田優作のパブリックイメージを作り上げたのが「遊戯シリーズ」だと思う。キャリアの後半では、森田芳光作品などで違った一面を見せるが、やはり村川透が作り上げた松田優作像こそが、彼のパブリックイメージだろう。

村川監督のキャラクター作りもさることながら、彼の映画作りのセンスがそのまま松田優作のパブリックイメージの構築に大きく付与している。暗闇とロングショットを駆使した、洗練された映像センス。優作が暮らす“アジト”の美術センス。大野雄二作曲のビッグバンドジャズの小粋な音楽(「ルパン三世」の音楽と言えば、より多くの人にイメージしてもらえるだろうか)。そんなものが相まって、松田優作のパブリックイメージとなっている。

松田優作の役への没入ぶりが伝わってくる“ラスボス戦後の3秒”は必見!

『暴力教室』は松田優作が松田優作になるための、これら作品への橋渡しとなった。本作は、「太陽にほえろ」(1972~1986年)のジーパン役を彷彿させる、真に荒々しい、洗練される前の松田優作が見られる最後の作品なのかもしれない。

そして本作は、館ひろしの映画デビュー作でもある。彼が率いる「クールス」のメンバーも出演している。クールスは、もともとは舘ひろしと岩城滉一が結成したバイクチーム。ザ・ローリング・ストーンズがアメリカのバイクチーム「ヘルズ・エンジェルス」を親衛隊として従えているのを見た矢沢永吉が、クールスにその役目を依頼したことがきっかけで、彼らの知名度が上がった。その後、館と岩城は俳優の道へ進むことになる。館もクールスの面々も、本物の不良が不良役で本作に出演しているのだ。

本作において、館ひろしは準主役とも言える扱いで出演時間もかなり長い。しかし、この時点ではいわば素人俳優であり、その“迷演技”ぶりはある意味、本作の「裏の見どころ」と言える。最初の登場シーンで、ハの字眉毛で唇をとがらせ、優作を睨み付けるその表情は今にも泣き出しそうで、どんな感情を表現しているのか判然としない。誰かに似ていると思って記憶をたどると、「軟式globe」のパーク・マンサーだった。

松田優作の俳優としての、最大の特徴は過剰なまでに「役に入り込む」ことだ。『暴力教室』にはその本領が鮮明に垣間見られるシーンがある。最後の戦闘で、いわば“ラスボス”を倒した後、優作は3秒間ほど虚空を掻きむしるようにして暴れながらよろける。その無意味な動きに、彼の役への没入ぶりが非常によく表れている。それは狂気の沙汰と言ってもいい迫力だ。その3秒だけでもいいから見てくれと言いたい。松田優作が何たるかが、すべて表れているように思える。

文:椎名基樹

『暴力教室』はHuluほか配信中

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