青春の“覚醒ロック”!! 爽快感抜群の選曲センスは奇跡的『カセットテープ・ダイアリーズ』

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ライター:斉藤博昭
青春の“覚醒ロック”!! 爽快感抜群の選曲センスは奇跡的『カセットテープ・ダイアリーズ』
『カセットテープ・ダイアリーズ』© 2019 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

B・スプリングスティーンに触発された高校生の青春ストーリー!

『カセットテープ・ダイアリーズ』という日本語タイトル(原題『BLINDED BY THE LIGHT』)からして、心地よいノスタルジーに誘われる。そして作品を観れば、単に時代を懐かしむ青春映画というだけでなく、やや極端な比較をすれば、あの『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)とも似た、高鳴る思いを得られる仕上がりだ。

『カセットテープ・ダイアリーズ』© 2019 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

1987年、ロンドンから50キロ離れた街ルートン。パキスタン系の高校生ジャベドが、ブルース・スプリングスティーンに触発され、友情や恋愛、家族との葛藤を経験しながら、将来の夢を切り拓いていく物語。語り尽くされた展開とはいえ、「大都市との距離感」「人種」「音楽」と、映画をドラマチックに構成する要素を絶妙に、そして軽やかな流れで取り込んだ脚本が、まず見事。詩を書くのが好きで、何となく日々屈折した感情を抱えるジャベドに、スムーズに共感してしまうのだ。

『カセットテープ・ダイアリーズ』© 2019 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

モヤモヤした高校生がロックを聴いて“覚醒”する設定も、ありきたりと言えばそのとおり。しかしジャベドが心酔するのは、サウンドではなく“歌詞”。メッセージ性の強いスプリングスティーンは、まさに覚醒ロックとして最高のチョイスであり、しかもその歌詞が躍動するように“映像”として登場する。ジャベドの心の叫びとシンクロしたり、迷う背中を後押ししたりと、すべてのフレーズが、まるで今作のために書かれたかのよう! このあたり、本人もスプリングスティーンのファンだというグリンダ・チャーダ監督の選曲センスが際立っている。

『カセットテープ・ダイアリーズ』© 2019 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

最高にテンションが上がるのは、スプリングスティーンの曲の中でもメジャーな「明日なき暴走(Born to Run)」のシーンで、主人公たちが学校内から街へとび出すまでをミュージカル風に演出。マイケル・ジャクソン、マッドネスなどのダンスを織り交ぜつつ、カメラワークや編集も“80年代風”なのが微笑ましい。

心を揺さぶる物語、そして奇跡的なレベルの後味の良さ!

こうした音楽による高揚感だけでなく、移民の主人公像と、それゆえの家族、とくに父との関係など、『ボヘミアン・ラプソディ』が頭をかすめる瞬間は多数。さらに、イギリス映画好きに偏愛される数々の作品の流れも汲んでいる。

『カセットテープ・ダイアリーズ』© 2019 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

夢にまっすぐな息子と、反対する父親(もちろん彼の気持ちも痛いほどわかる!)、それでも自分の才能を認めてくれる周囲の優しさという構図は『リトル・ダンサー』(2000年)。純粋すぎる恋愛と、親友との関係、食事シーンの会話などは『小さな恋のメロディ』(1971年)と、さまざまな共通項が浮かび上がり、その“感覚”も本作の魅力となっている。

『カセットテープ・ダイアリーズ』© 2019 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

ジャベドを演じるヴィヴェイク・カルラの素直すぎる名演技を中心に、それぞれの立場から彼を支える周囲の演技も、過剰ではない分、静かに心にしみわたる。中でもジャベドの文章能力を信じる教師役、ヘイリー・アトウェルのサポートに徹した「引き」の演技は的確で、いわゆる恩師と出会った経験がある人なら、思わず自分自身の過去と重ねてしまうはず。

『カセットテープ・ダイアリーズ』© 2019 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

そして終盤からラストの流れは、ある程度予想できるものの、ここにもスプリングスティーンの歌詞がきっちりキーポイントとなっていて、おそらく多くの人がストレートに心を揺さぶられるだろう。その後、心地よい風に当たったような爽快感も訪れる。この後味の良さは、近年の映画の中でも奇跡的レベル!

文:斎藤博昭

『カセットテープ・ダイアリーズ』は2020年4月17日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国ロードショー

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『カセットテープ・ダイアリーズ』

イギリスのルートンの小さな町で暮らすパキスタン系少年のジャベドは16歳。夏のアルバイトを終え、SONYのウォークマンで流行のペット・ショップ・ボーイズを聴きながら自転車を走らせる彼は、この9月からハイスクールに入学する。

誕生日が同じ、幼なじみの少年マットは恋人ができ、日々充実した青春を楽しんでいる。だがジャベドは孤独に鬱屈を募らせていた。保守的な町の人からの移民への偏見や、パキスタン家庭の伝統やルールから抜け出したくてたまらない彼。特に古い慣習を振りかざす父親マリクには内心強い反発を感じていた。

人種差別や経済問題、不安な政情に揺れる時代をジャベドなりに反映させた詩を書いているが、まだ本当の“自分の言葉”を見つけられずにいた。だがそんなある日、モヤモヤをすべてぶっ飛ばしてくれる、ブルース・スプリングスティーンの音楽と衝撃的に出会い、彼の世界は180度変わり始めていく―。

制作年: 2019
監督:
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