命をかけた究極の選択、あなたならどうする!?『新感染半島 ファイナル・ステージ』はゾンビ映画の思想を継承した意欲作

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ライター:松崎健夫
命をかけた究極の選択、あなたならどうする!?『新感染半島 ファイナル・ステージ』はゾンビ映画の思想を継承した意欲作
『新感染半島 ファイナル・ステージ』©2020 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILMS.All Rights Reserved.

“究極の選択”を問う<救命ボートの倫理>とは?

船舶が沈没し、大海原へ投げ出された人々。救命ボートには既に10名が乗っているが、まだ10名が救出されていない。救助隊がいつ来るのかも判らない状況ながら、ボートの定員は15名。あと5人分の余裕しかない。もし貴方が救命ボートに乗っている側だったとしたら、溺れかけている人々を目前にどんな選択をするのだろうか?

――倫理を学ぶ上での基礎として、度々例に挙げられる<救命ボートの倫理>は、アメリカの生態学者であるギャレット・ハーディンが1974年に提唱したものだ。この当時、映画の世界では豪華客船の沈没を題材にしたパニック大作『ポセイドン・アドベンチャー』(1972年)が大ヒット。後にハーディンの考え方がテレビなどで紹介されたことも相まって、人道的な救出のあり方が茶の間でも“究極の選択”として議論されたという経緯がある。

ちなみにハーディンは四つの選択肢を提案している。要約すると、一つ目は全員をボートに乗せる。この場合、当然のことながらボートは沈むことになる。しかし、人道的な救出は平等であるべきという考え方だ。二つ目は見殺しにする。既に乗船している人たちの権利を優先することで、救出は平等ではないとする考え方。現在ボートに乗船している10人だけが救われることになる。三つ目は何人かだけ救出する。残念ながら救出されず命を落とす人が出てくるのだが、一方で命を助けられる人もいるという考え方。そして、四つ目は自発的にボートから降りてもらう人を募る。既に乗船している10人の良心に訴えかけ、溺れかけている人のために何人かが身代わりになってもらうという考え方で、最後の二つは平等な救出ではないけれども、人道的な配慮をしつつ犠牲を強いるという側面がある。

主人公の“究極の選択”を見せることで観客の固定観念を逸脱させる『新感染半島 ファイナル・ステージ』

移動する高速鉄道の車内で起こったパンデミック。限定された空間でのパニックを群像劇として描き、ゾンビ映画というジャンルに新たな恐怖を生み出した韓国映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016年)。その後日譚を描いたシリーズ最新作『新感染半島 ファイナル・ステージ』は、カン・ドンウォン演じる元軍人のジョンソクが、<救命ボートの倫理>のような“究極の選択”に直面することで物語の幕を開ける。

『新感染半島 ファイナル・ステージ』©2020 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILMS.All Rights

パンデミックのパニックによる渋滞を回避するため、軍事訓練で使ったことのある山間部の抜け道を通って港へと向かっていたジョンソクは、車が故障して立ち往生している家族に遭遇する。幼い娘を連れた3人の家族は「娘だけでも助けて欲しい」と懇願するものの、既に姉夫婦を車に乗せていたため、ジョンソクは車のスピードを上げ、彼らを見殺しにしてしまう。この「救出は平等ではない」という彼の選択は、その後の“究極の選択”のあり方に影響を与えるのだ。

『新感染半島 ファイナル・ステージ』©2020 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILMS.All Rights

一度、見殺しにする姿を見ている観客は、ゾンビによる襲撃などの危機が迫った時、常に「ジョンソクの選択は間違っているのではないか?」と疑念を抱くようになる構成となっている。それは“究極の選択”が訪れた場合、彼がどんな時も老若男女に分け隔てなく平等であるべきだと考えているのではなく、自身や身内の命を優先する人物なのだと映画の冒頭で観客に刷り込ませているからである。「主人公はヒーローなので、必ず人道的な行動に出るはず」という、観客側にある固定観念を自然と逸脱させている構成が見事だ。

『新感染半島 ファイナル・ステージ』©2020 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILMS.All Rights Reserved.

シリーズ3作は同じ時間軸だった! ロックダウンされた半島を舞台に繰り広げられる極限サバイバル

『新感染 ファイナル・エクスプレス』(以下『新感染』)では、首都ソウルから港町である釜山まで列車で向かうという設定だったが、ジョンソクもまた旅客船で国外へ脱出するため、釜山に向かっている途中だった。つまり『新感染半島 ファイナル・ステージ』(以下『新感染半島』)は、『新感染』と同日の別の場所にいた人々の姿を描いた作品なのである。そして大勢が逃げた釜山もまた、安全な場所ではなかったという残酷な事実が、劇中のニュース番組内で解説されている。韓国が国家の機能を失ったのは、パンデミックから僅か1日のことだったのだ。

『新感染半島 ファイナル・ステージ』©2020 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILMS.All Rights

前日譚であるアニメーション映画『ソウル・ステーション/パンデミック』(2016年)、『新感染』、その後日譚である『新感染半島』は、それぞれが異なるアプローチ、異なる視点によって、同じパンデミックというモチーフを描いたシリーズとなっているのが特徴。監督は3作品ともヨン・サンホなのだが、出演する俳優はそれぞれ異なっている(『ソウル・ステーション』で声の出演をしていたシム・ウンギョンが、感染者役として『新感染』に少しだけ出演していたという程度の繋がりはある)というのも特徴。つまり、パンデミックによってゾンビが闊歩する韓国を舞台に、別々の場所で起こった出来事を描いたスピンオフのような趣で、各々の作品の間に繋がりを持たせているのである。

『新感染半島 ファイナル・ステージ』©2020 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILMS.All Rights Reserved.

最新作『新感染半島』では、ハイスピードでノンストップのアクションが展開。前作が列車内という限定された空間であったのに対して、ロックダウンされた半島を舞台に怒涛のカーチェイスが繰り広げられるなど、監督の意欲的な姿勢を窺わせる。

『新感染半島 ファイナル・ステージ』©2020 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILMS.All Rights Reserved.

不寛容な現代社会にゾンビ映画で警鐘を鳴らす! ロメロ御大の意志を継承するヨン・サンホ監督

かくして『新感染半島』では、パンデミックから4年後の世界が描かれてゆくことになる。旅客船の中で起こったパニックによって姉家族を守ることができなかったジョンソクは、亡命先の香港で廃人のような生活を送っているという設定。また、朝鮮半島で安全だったのは、韓国と休戦状態にある北朝鮮だけだったという皮肉までも描かれている。南北が分断された韓国と北朝鮮の緊張状態。或いは、パンデミックから逃れた韓国人たちが、異郷の地で差別を受けているという状況。実はこれらの設定が、現代の国際社会における<移民>や<難民>の問題をフィクションとして置き換えていることがわかる。

『新感染半島 ファイナル・ステージ』©2020 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILMS.All Rights

前述の<救命ボートの倫理>は、経済格差という先進国と後進国の<南北問題>や<資源配分>を暗喩させた思想だと指摘されてきた経緯がある。救命ボートを「豊かな国」、溺れかけている人々を「貧しい国」とした時、「貧しい国」の人々は「豊かな国」へ行きたいと願うけれども、「豊かな国」の人々の間では「貧しい国」の人々を受け入れるのか否かで議論が起こる。救命ボートに定員以上の人間が乗船すれば沈没するため、提唱者であるギャレット・ハーディンは「豊かな国」のことだけを考えるべきだと主張したのである。

『新感染半島 ファイナル・ステージ』©2020 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILMS.All Rights Reserved.

そもそも生態学者という立場にあるハーディンの考え方は、地球上の人口過多による、資源や食料などの枯渇に対する警鐘に基づいている。しかしハーディンは、犠牲となる人間を「必要悪」とみなしたため、「反人道的だ」という批判にさらされてきたという経緯もある。そういう意味で『新感染半島 ファイナル・ステージ』は、ゾンビがはびこる世界での人間vs人間のサバイバル対決を描きながら、実は利己主義がまかり通り、不寛容になりつつある現代社会に警鐘を鳴らす作品にもなっているのだ。それは、ジョージ・A・ロメロが監督した『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド/ゾンビの誕生』(1968年)以降、ゾンビ映画が単なるホラー映画ではなく、社会問題を内包させたジャンルであるという映画的な思想を、ヨン・サンホ監督が韓国映画として継承したものであることを示唆するのである。

『新感染半島 ファイナル・ステージ』ヨン・サンホ監督©2020 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILMS.All Rights

文:松崎健夫

『新感染半島 ファイナル・ステージ』は2021年1月1日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

Presented by GAGA

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『新感染半島 ファイナル・ステージ』

パンデミックが半島を襲ってから4年後。香港に逃げ延びていた元軍人のジョンソクは、ある任務を遂行するために半島に戻ってくる。任務とは、チームを組み3日以内に大金が積まれたトラックを回収して半島を脱出すること。チームはウイルスにより凶暴化した人間たちから逃れ、順調にトラックを手に入れるも、突如とし631部隊と呼ばれる民兵集団に襲われてしまう。トラックも奪われ、危機一髪となったジュンソクを救ったのはミンジョン母娘。そして、彼らはともに半島を脱出するために協力することになり……。

制作年: 2020
監督:
出演:
  • BANGER!!!
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