モンドで西部劇でスプラッタ!? カンヌ受賞作『バクラウ 地図から消された村』はカオス展開&強烈風刺の怪・傑作!

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
ライター:BANGER!!! 編集部
モンドで西部劇でスプラッタ!? カンヌ受賞作『バクラウ 地図から消された村』はカオス展開&強烈風刺の怪・傑作!
『バクラウ 地図から消された村』© 2019 CINEMASCÓPIO – SBS PRODUCTIONS – ARTE FRANCE CINÉMA

謎、謎、また謎! からの……!?

『パラサイト 半地下の家族』(2019年)が席巻した第72回カンヌ国際映画祭。その裏で審査員賞受賞を獲得し話題を呼んだのが、ブラジルの俊英クレベール・メンドンサ・フィリオ監督による『バクラウ 地図から消された村』だ。そのメインビジュアルからハードな血みどろスプラッタやゾンビ・パニックものを期待していると、グァルティエロ・ヤコペッティの『世界残酷物語』(1962年)の主題歌のような流麗なオープニング曲に意表を突かれるだろう。

『バクラウ 地図から消された村』© 2019 CINEMASCÓPIO – SBS PRODUCTIONS – ARTE FRANCE CINÉMA

本作は宇宙目線で地球を捉えた映像からぐぐっとカメラが寄り、一応の主人公であろうテレサが祖母であり長老のカルメリータの葬儀に出席するべく故郷の村バクラウに向かうシーンにつながる。……が、その道中には道端に空の棺桶が散乱していたりして、しかも特に説明もないという不穏な幕開け。とはいえ、いざ集落に到着するとそこに暮らす人々は皆のんびりした風情で、さっそく掴みどころのなさに翻弄される。

『バクラウ 地図から消された村』© 2019 CINEMASCÓPIO – SBS PRODUCTIONS – ARTE FRANCE CINÉMA

テレサと喪主である父、葬儀で発狂したように罵り言葉を叫ぶ老医師ドミンガス、村の若衆の代表格パコッチなど様々なキャラクターが登場するものの、そのバックボーンには特に触れられない。また、序盤に登場する村人たちは実際にそこで暮らす人々を集めたかのような生々しさで、見知らぬ土地の文化・風俗を垣間見るようなドキュメンタリー感すら漂っている。

『バクラウ 地図から消された村』© 2019 CINEMASCÓPIO – SBS PRODUCTIONS – ARTE FRANCE CINÉMA

物語のベースになっているのはブラジルに現存する脱走奴隷たちによる孤立集落

バクラウでは食料を外部からもたらされる物資に頼り、中でも水は貴重な資源として扱われている。これは、ここ10年ほどでやっと電気が通るようになったという“キロンボ”(植民地時代に逃亡奴隷たちによって作られた都市部から孤立した集落)がベースになっていて、ここにフィリオ監督の狙いが詰まっていると思われる。バクラウは、アフリカからの奴隷で形成されているキロンボに先住民族などをミックスし、ごく自然にトランスジェンダーの人々もいるという設定。基本的に女性たちによって仕切られている(家母長制)のは、実際のキロンボに倣っているそうだ。

『バクラウ 地図から消された村』© 2019 CINEMASCÓPIO – SBS PRODUCTIONS – ARTE FRANCE CINÉMA

時代設定は冒頭で「今から数年後……」と示されるだけで曖昧だが、一見すると未開の村なのにハイテク機器が当たり前のように備わっていたりするので、実は近未来モノであることがうっすら分かる。そのギャップが都市部から隔絶された村の置かれた状況を示唆してもいて、さらに支配層による搾取の結果として見ることで、序盤のシュールな演出にも(かろうじて)合点がいくようになっている。

『バクラウ 地図から消された村』© 2019 CINEMASCÓPIO – SBS PRODUCTIONS – ARTE FRANCE CINÉMA

一方的な被害者のように見えるバクラウの人々も終盤、話の通じない正体不明の驚異に対し、同胞のアウトローたち(メインキャラをトランス俳優が演じている)と共に“驚きの反撃”に転じる。ここからのバイオレンス展開は、無能な大統領が国民の命を脅かし続けている現代ブラジルへの強烈な風刺になっていて、なかなかエグい描写もある。とはいえ、そもそも本作を観ようと思うタイプの観客にとっては最高の“ご褒美”の範囲なので、安心して堪能してほしい。ヒーハー!

『バクラウ 地図から消された村』© 2019 CINEMASCÓPIO – SBS PRODUCTIONS – ARTE FRANCE CINÉMA

現代ブラジルが抱える様々な問題を……西部劇のフォーマットにぶち込んだ!

中盤過ぎ、村民たちが輪になりカポエイラ(アフリカ発の舞踏/格闘技)を踊るシーンがある。そこで流れるのは、なんと巨匠ジョン・カーペンターの楽曲。伝統的な踊りにカーペンターのベーシーなエレクトロ音楽が重なるという、なんともミスマッチだが妙にアガるシーンなので要注目だ。さらに一瞬だけ映る小学校の看板にも「PROF. JOAO CARPINTEIRO」という冠がついていたりと、いったい何人が気づくのかというレベルの小ネタに映画好きならば間違いなくニヤリとさせられるはず。

『バクラウ 地図から消された村』© 2019 CINEMASCÓPIO – SBS PRODUCTIONS – ARTE FRANCE CINÉMA

そして怪優ウド・キアが一体どんな役どころなのか? というのも猛烈に気になるところだろう。ネタバレを避けて説明すると、彼もいわゆる支配層の白人であり、一方的かつ不条理な暴力を象徴するキャラクターの一人。ちなみにメインビジュアルにもバッチリ映り込んでいる“空飛ぶ円盤”も同じくらい気になると思うが、こちらの正体も本編を見てのお楽しみということで。

『バクラウ 地図から消された村』© 2019 CINEMASCÓPIO – SBS PRODUCTIONS – ARTE FRANCE CINÉMA

上映時間の約半分を使ってじっくり醸成した不穏な空気を後半、一気に開放していく構成の本作。セルジオ・レオーネ監督『荒野の用心棒』(1964年)のような棺桶の山と突発的に始まる銃撃戦、そしてジョン・スタージェス監督『荒野の七人』(1960年)のような◯◯展開……。現代ブラジルにおける様々なテーマを西部劇に置き換えた結果、めちゃめちゃにシュールだが非常にメッセージ性の強い、世紀の怪・傑作が誕生した。必見!!

『バクラウ 地図から消された村』は2020年11月28日(土)よりシアター・イメージフォーラムにて公開

Share On
  • Facebook
  • Twitter
  • LINE

『バクラウ 地図から消された村』

村の長老である老婆カルメリータの死をきっかけに故郷の村バクラウに戻ったテレサ。しかしその日から村では不可解なことが次々に起こり始める。突然、村はインターネットの地図上から姿を消し、上空には正体不明の飛行物体が現れる。村の生命線である給水車のタンクに何者かが銃を撃ち込み、村外れでは村人が血まみれの死体で発見される。めったに現れないはずの他所者の来訪、それは血で血を洗う暴力と惨劇の幕開けだった。

制作年: 2019
監督:
出演:
  • BANGER!!!
  • 映画
  • モンドで西部劇でスプラッタ!? カンヌ受賞作『バクラウ 地図から消された村』はカオス展開&強烈風刺の怪・傑作!