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「人を殺す」とはどういうことか? 菅田将暉主演“最狂”バイオレンス『タロウのバカ』とアルゼンチン“最凶”殺人鬼の実話『永遠に僕のもの』

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ライター:#大倉眞一郎
「人を殺す」とはどういうことか? 菅田将暉主演“最狂”バイオレンス『タロウのバカ』とアルゼンチン“最凶”殺人鬼の実話『永遠に僕のもの』
『タロウのバカ』©2019「タロウのバカ」製作委員会

「人を殺す」ということ

人を殺すことは不条理だ、と言い切れるだろうか。少なくとも国家が戦争や死刑を行なっている限り、「人を殺してはいけない」と諭すことには矛盾が生じる。「太陽が眩しかったから」人を殺した場合は文学的には「不条理」だが、これまでの人間の振る舞いを思えば、不条理であろうがなかろうが「あること」だろう。

しかし、そうは言っても、人間は一般的に「人を殺す」という一線を簡単には超えられない。「人を殴る」ということでさえ、いくら怒りの感情に我を忘れても拳を叩きつけることは容易ではない。

『永遠に僕のもの』©2018 CAPITAL INTELECTUAL S.A / UNDERGROUND PRODUCCIONES / EL DESEO

新兵はいくら訓練を受けていても、初めての戦闘では敵兵に銃口を向けることができず、見当はずれの場所に引き金を引くという。不条理でない人殺しであっても、簡単なことではない。実践を重ね、躊躇なく撃ち殺すことができるようになった人間は、どこかで何かが壊れてしまう。イラク、アフガニスタンの帰還兵の自殺率が異様に高いのはそのせいではないか。

『永遠に僕のもの』©2018 CAPITAL INTELECTUAL S.A / UNDERGROUND PRODUCCIONES / EL DESEO

今回紹介する新作2本はアルゼンチンと日本で撮られたが、奇しくも少年が拳銃を手にし、引き金を引くものである。

「不条理に」殺す

ペドロ・アルモドバルが製作に加わった『永遠に僕のもの』は、1971年に実際にアルゼンチンで起きた事件をヒントに作られた。マリリン・モンローに例えられた美少年は11人を射殺したという。なんの躊躇いもなく、興奮を得ることもなく、邪魔だったり、目に入っただけで引き金を引いた。

『永遠に僕のもの』©2018 CAPITAL INTELECTUAL S.A / UNDERGROUND PRODUCCIONES / EL DESEO

感情が入る余地がないので、私はただ唖然とスクリーンを見つめているしかない。少年が逮捕された時にアルゼンチンの国民が言葉を失ったように、観客のバランス感覚を失わせるような不可解さが残る。監督は「迷える者たちにとっては、犯罪はとてつもなく魅了的だ」と話しているが、それだけで納得できるものではない。

『永遠に僕のもの』©2018 CAPITAL INTELECTUAL S.A / UNDERGROUND PRODUCCIONES / EL DESEO

人間の心理は不可解だ。フィクションであるアクション映画で、「正義の」主人公がマシンガンで「敵」を皆殺しにしても観客は喝采するが、ブーイングは起きない。私も同じだ。
フィクションだと割り切れているにしても、今更ながら考え込んでしまう。

いずれにせよ、この『永遠に僕のもの』の主人公、カルリートスは我々に目眩を残していく。

これ以上不快な映画はないが……

そして、大森立嗣監督の撮った『タロウのバカ』が公開される。本当に偶然のはずだが、私にはシンクロニシティとしか映らなくて、ここで同時に紹介することにした。

『タロウのバカ』©2019「タロウのバカ」製作委員会

天才・菅田将暉見たさに足を運んだが、最初の3分で後悔した。セリフも、彼らが関わる全ての音がエッジを立てていて、耳からの不快感は半端ではない。そんな音を背負って、無軌道な3人がひたすら走り、笑い、転げまわり、大声で叫ぶ。そして偶然拳銃を手にしてしまう。

エージ役の菅田、スギオ役の仲野太賀はある意味わかる。ギリギリ“演じる”という行為の範疇に入っている、と、私は納得しようとした。ただ、一人だけ「こいつはなんなんだ」という少年がいる。YOSHI演じるタロウだ。

『タロウのバカ』©2019「タロウのバカ」製作委員会

タロウは学校に一度も行ったことがない。母子家庭だが母親とのコミュニケーションはない。タロウはエージとスギオに付き従っているが、拳銃を手にしてからタロウと外界との関係性が変わってしまう。やかましい、うるさい、俺に構うな、いや、俺を見ろ、外の世界のことは知らないが、俺たちの世界は俺たちの思うままだ。

タロウが演技をしているようにはどうしても見えない。この少年はどこで見つけてきた? 少なくとも私の住んでいる惑星の人間ではない。完全にメーターを振り切ってしまっている。圧倒された。

『タロウのバカ』©2019「タロウのバカ」製作委員会

この作品で、いきなり主演の俳優デビュー。YOSHIはまだ16歳だが、13歳からモデルとして著名ブランドのショーへ多数出演しており、アート作品を創り、ミュージシャンとしても2019年5月にアルバムデビューを果たしている。

私の「なんなんだ」はプロフィールを読んでもさっぱり解決しない。言語化不可能な、とんでもないものを目撃してしまった。本人も完成した映画を観て「狂ってるなあ」と思ったそうだが、それは君だろう。君の存在が衝撃なんだよ。

『タロウのバカ』©2019「タロウのバカ」製作委員会

『日日是好日』(2018年)を撮った大森監督が、人生で一番最初に書いた脚本が本作だそうだ。これを本当にやりたかったらしい。器用というべきだろうか、これが本質なのか。

大森監督の『ゲルマニウムの夜』(2005年)を思い出す。『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』(2009年)の世界が重なる。しかし、この『タロウのバカ』はあらゆる意味でこれまでの作品と一線を画している。これは衝撃を覚悟して観るべき作品。好きとか嫌いとか、良いとか悪いとか様々な感情を一度受け止めて、そのあとじっくり考えてほしい。

シンクロしている2本の作品は全く違った余韻を残す。しかし、発砲の音はどちらも異様にリアルである。

文:大倉眞一郎

『永遠に僕のもの』は2019年8月16日(金)より渋谷シネクイント、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

『タロウのバカ』は2019年9月6日(金)よりテアトル新宿ほか全国ロードショー

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