映画監督・黒木瞳が最新作『十二単衣を着た悪魔』で魅せる! 柔軟な発想から生まれた大胆アプローチの秘密

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ライター:SYO
映画監督・黒木瞳が最新作『十二単衣を着た悪魔』で魅せる! 柔軟な発想から生まれた大胆アプローチの秘密
『十二単衣を着た悪魔』黒木瞳 監督

『レディ・バード』(2017年)や『mid90s ミッドナインティーズ』(2018年)、『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(2019年)など、俳優の映画監督作が続々と増え始めた昨今。国内でも斎藤工やオダギリジョー、竹中直人をはじめ、ムロツヨシ、真鍋大度、上田誠によるユニット「非同期テック部」、山田孝之が発起人を務める短編映画製作プロジェクト「MIRRORLIAR FILMS」など、俳優の映画製作が急速に進んでいる。

そんななか、『嫌な女』(2016年)からいち早く監督業を行っていた黒木瞳が、最新監督作『十二単衣を着た悪魔』(2020年11月6日公開)を引っさげて帰ってくる。

『十二単衣を着た悪魔』©2019「十二単衣を着た悪魔」フィルムパートナー

『プラダを着た悪魔』(2006年)をヒントにしたという、脚本家・小説家の内館牧子による小説を映画化した本作。就職試験59連敗中のフリーター・雷(伊藤健太郎)が「源氏物語」の世界にタイムスリップしてしまい、帝の正妃・弘徽殿女御(三吉彩花)と出会う――という筋書きだ。

映像化にあたり、セットの屋根を取り払うなど、常識にとらわれない柔軟な発想で挑んだ黒木監督。彼女の創作術、さらには独自の「監督論」について、じっくりと伺った。

女優でも監督でも「お客様に作品を届ける」意識は一緒

―初監督作『嫌な女』から約4年が経ち、監督業にも変化はありましたか?

今回のカメラマンと演出部は、2017年に監督したショートムービー『わかれうた』と一緒なんです。あのメンバーとまた仕事をしたいと思い、オファーさせていただきました。初監督作品のときは、「どなたがいい」というスタッフィングまでは提案をしなかったので、一番の違いはそこかと思いますね。

やはり、監督は自分の頭の中にあるイメージを形にしていくので、なるべくコミュニケーションが取りやすい人だったり、共有しやすい方々だったりすると、言葉も半分で済むし、非常にやりやすい。そういった意味で、今回は気心が知れたメンバーと組むことが出来、いいチームになったと自負しています。

『十二単衣を着た悪魔』©2019「十二単衣を着た悪魔」フィルムパートナー

―より、やりやすくなったというような意識でしょうか。

そうですね。ただ、監督としてすべてのジャッジを下さなければならないという重責は、1本目だろうが3本目だろうが変わらないようにも思います。作品はみなそれぞれ違うものですし、「ここまでできた」と思っても、次の作品に挑む際に成長しているかどうかはわからないわけですから。一つひとつを丁寧にやっていくしかないのかもしれません。

―そういった意識は、俳優業と監督業ではまた別ですか?

そうですね。女優として40年経ちますが、自分が成長出来ているかは自分では分かりません。ただ、エンターテインメントの世界にいて、一つの映画に携わっているという意味では、女優であろうが監督であろうが「お客様に作品を届ける」という気持ちは一緒です。やっていることは全く違いますが、目指す場所は同じです。

『十二単衣を着た悪魔』黒木瞳監督©2019「十二単衣を着た悪魔」フィルムパートナー

―国内外でも「俳優の監督進出」が盛んになってきていますが、黒木さんはどう受け止めていらっしゃいますか?

俳優の方が監督をなさるという動きが増えてきていることは、私自身楽しみにしていますし、演じ手に限らず女性が監督をする機会が、もっと増えてきても面白いんじゃないかなとは感じています。

1本目の映画を撮った際に、日本外国特派員協会で記者会見をさせていただいたのですが、記者の方から「ハリウッドでも女性が主役の作品や、女性監督の作品が少ない。日本でも女性の監督作品が増えていってほしい」というお話を伺いました。これは単純に「女性の進出」というだけの理由ではなく、女性から見た景色や感受性は男性とは違うでしょうから、この先、様々な視点から撮られた作品が生まれていくことはとてもいいことだと思います。

『十二単衣を着た悪魔』黒木瞳監督©2019「十二単衣を着た悪魔」フィルムパートナー

「役者の気持ちがわかる」からこそ、編み出された演出アプローチ

―伊藤健太郎さんが黒木さんの現場の即興演出の面白さなどを語っていらっしゃいましたが、黒木さんご自身は、俳優が映画監督をする際のメリットは、どういった部分にあると思われますか?

やはり、演者の気持ちがわかるところでしょうか。「こういう気持ちで芝居をしているけれど、映ってみたらそう見えない」というようなときに、おこがましいですが「ここをもうちょっとこうしたら良い」というアドバイスをすることで、演者の気持ちがお客様に伝わるように調整できる。そういった演出はできるのではないかと思います。

『十二単衣を着た悪魔』©2019「十二単衣を着た悪魔」フィルムパートナー

―役者の気持ちに寄り添ったうえで、“見え方”を整えるような意識ですね。

演技がカメラに映ったときに、自分が思っている以上にさく裂しているときもありますし、私自身「こういう気持ちで演じたのに、映像で観たら全然伝わっていなかったな」と反省することもあります。

見え方の演出というのは、「自分が好きか/好きではないか」「美しいと思うか/美しくないと思うか」という、早い話“好み”でもあるかとは思うのですが、演者の皆さんが一生懸命やってらっしゃるのに伝わらなかったら、それは勿体ない。

そういったときに、そっとささやいてあげると皆さんすぐお分かりになるので、今回も阿吽の呼吸でできた部分はありますし、それはおそらく私が女優だからという信頼関係があるのかなとは思います。

『十二単衣を着た悪魔』©2019「十二単衣を着た悪魔」フィルムパートナー

―なるほど、演じる側としても安心感を抱けるのかもしれませんね。伊藤さんは「黒木さんは、役者ごとに違ったアドバイスをされていた」ともおっしゃっていました。

役者によってボルテージの上げ方や、本番に行くまでのタイプやリズムも人それぞれですし、それが個性でもあります。例えば画面に2人映るシーンであっても、お互いのアプローチは違いますよね。それを両方とも良いボルテージに持っていくために、「こちらの方にはこういう言葉をかけて、こちらの方にはこう接して」というようには気を配りました。

今回は時代物で準備も大変ですし、役者においては着物が重いという負担もあるので、「テストは1回、すぐ本番に行く」ということは最初からスタッフには申し上げましたね。そのため、皆さん「すぐカメラが回るぞ!」という意識で臨んではくださっているのですが、どのくらいボルテージを上げればいいのか、というのは人によって異なるため、「マックスのテンションで始めてください」とか「そのままで大丈夫です」と、個別でお声がけしました。

『十二単衣を着た悪魔』©2019「十二単衣を着た悪魔」フィルムパートナー

―非常にきめ細かいケアをされていたんですね。

監督が何かアドバイスをしたあとにカットがかかると、役者は「大丈夫だったかな?」と思うものなんです。伊藤健太郎くんもそうですが、カットをかけた後に私のことを探すときがあったので、「大丈夫だよ」「良かったよ」など、コミュニケーションを密にとるようには心掛けました。

やはり皆さん演技達者なので、私の“口写し”をしようと思えばできてしまうんですよ。言いすぎちゃうと私の演技に寄ってしまうから、良い塩梅でモノマネにならないように、とは気を付けました。

『十二単衣を着た悪魔』©2019「十二単衣を着た悪魔」フィルムパートナー

映画の“常識”を覆す!「セットの屋根を取り払う」という発想

―本作を拝見して、「源氏物語の世界の中では、“◯◯年後”といったように時間が飛ぶ」「現代的なエッセンスを持ち込む」など様々な工夫が見られたのですが、中でも非常に興味深かったのが、セットの屋根を取り払ったことです。この発想はどのようにして生まれたのでしょう?

「源氏物語」をやるうえで美術費がかかるということはわかっていたので、どうやったら抑えられるのかを頭の片隅に置きつつ、名古屋の徳川美術館に「源氏物語」の絵巻を見に行ったんです。じっくり眺めてみると、空には金色の雲があって、屋根がなくて、遠近法も巧妙にウソをついている。「そうか、絵巻の世界に入っていくわけだからこの通り、屋根がなくていいのでは?」と思いついて、隣にいた助監督に伝えたら、「はい?」と言われました(笑)。そのあと美術の打ち合わせで提案したときも、皆さん驚かれていましたね。

あと、「庭を玉砂利にしますか、砂にしますか」など色々と提案してくださったのですが、「金色のパウチにしましょう」と伝えました。これも絵巻を見たうえで考えたことですが、コストを下げられるし、着物も汚れない。カメラの移動もスムーズにできるので、非常に効率的なんです。

『十二単衣を着た悪魔』©2019「十二単衣を着た悪魔」フィルムパートナー

―斬新なアイデアですね……!

でも、一か八かの賭けでもありました。勿論、最終ジャッジは私です。面白く見て下さったのなら、とても嬉しいです。苦労したのは床の緑色です。これは絵巻通りではあるのですが、女性の顔色が一番悪くなってしまう色なんですよ。そのため、弘徽殿女御の部屋の色味に関しては、カメラマンと照明と相当細かく調整をしました。やっぱり、女優の顔を綺麗に撮ってなんぼですしね。

そのほか、もちろん十二単衣についてはこだわりましたし、絵巻の中に入っていくようなカットが欲しいということで、クレーンを使いたいとお伝えしました。また、脚本づくりの段階で「黒猫がいたらいいんじゃないか」と考えていたのですが、実物の絵巻を見たら本当に黒猫がいた、という嬉しい奇跡もありました。

『十二単衣を着た悪魔』©2019「十二単衣を着た悪魔」フィルムパートナー

―映像的にも、挑戦の連続だったのですね。いまのお話を踏まえて、見返したくなりました。

ただこれらのアイデアは、私が監督としての経験が少なく予備知識がなかったこと、そしてこの提案を信じて受けてくださるスタッフたちがいてくれたおかげだと思っています。

絵巻の中からヒントを受けて「パウチにしましょう」と言っても、リスクや責任は全部自分が負わなければいけないわけです。ですからジャッジする重責は相当のプレッシャーでした。

『十二単衣を着た悪魔』©2019「十二単衣を着た悪魔」フィルムパートナー

―貴重なお話の数々、ありがとうございました。最後に、黒木さんにとって、女優として/監督として、ものを作り続けるモチベーションになっているのは?

『十二単衣を着た悪魔』のセリフを借りて言うならば、「身の丈に合わないものを追い求めるからこそ、生きていける。身の丈に合ったものだけを追い求めるのは、小物がすることなんだ」というような意識でしょうか。

できることだけをやっても、やっぱり自己満足でしか終わらない。そうではなく、身の丈に合わないものを求めていく自分がいてもいいのかな、という弘徽殿女御さまへの憧れがモチベーションになっているのかもしれません。

『十二単衣を着た悪魔』©2019「十二単衣を着た悪魔」フィルムパートナー

取材・文:SYO

写真:町田千秋

『十二単衣を着た悪魔』は2020年11月6日(金)より全国公開

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『十二単衣を着た悪魔』

現在、就職試験59連敗中! フリーターの伊藤雷は文武両道な弟に引け目を感じていた。そんなある日、「源氏物語」に関するイベント設営にバイト帰りに、家の付近で激しい雷雨に見舞われ、バイト先でも目撃した不思議な光に吸い込まれて気を失った。目が覚めるとそこは何と平安時代、あの紫式部によって書かれた「源氏物語」の世界だった! タイムスリップしてしまった雷は皇妃・弘徽殿女御と息子の一宮に出会う。口から出まかせで陰陽師“雷鳴”を名乗り、息子を帝にしようと野心に燃える弘徽殿女御に翻弄されながらも、次第に触発され、一念発起する──。

制作年: 2019
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