押井守「『ブレードランナー』っていう映画の門をくぐらないわけにはいかない」(3/3)

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ライター:BANGER!!! 編集部
押井守「『ブレードランナー』っていう映画の門をくぐらないわけにはいかない」(3/3)
この映画が観たい#65 〜押井守のオールタイム・ベスト〜
70年代からテレビアニメの演出を手がけ、劇場版『うる星やつら』や『機動警察パトレイバー』、そして『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』で世界にその名を轟かせた押井守監督が映画を語る!(全3回)

映画がいちばん力を持てるのは、問答無用でねじ伏せる世界観

あらかた想像されるとおりですよ。「どうせこれだろ」と思ったんじゃないですか(笑)。でも、どうしてもこれ外せないんですよ、やっぱり! ベスト10とかの企画って毎年あるんで、そういうの依頼されるたびに、その時の気分で変えてるの、基準を。どの基準に照らしても、どうしても入ってきちゃうのが『ブレードランナー』(1982年)。

これはね、ものが分かってから初めて、自分の認識に確信を持った。いま風に言うと“励まされた”とかっていうやつだね、力をもらったとか。“感動をもらった”とかいうの大っ嫌いなんだけど(笑)、確かに勇気づけられた。何に勇気づけられたかっていうと、僕は「映画でしかできないことってなんだろう?」ってずっと思ってきたわけ。明らかにドラマだけだったら、ラジオドラマのほうが絶対に面白いと思う、妄想できるから。絵があるってことは限定されちゃうんで。

だから、映画に何を求めるんだろう?っていうとね、ドラマって要素に過ぎないんですよね。映画は、ドラマとか物語のお弁当箱じゃないって言うんですよ。物語の器じゃないっていう想いがずっとあった。それだったら、たぶん映画監督にはなってないと思う。だったらSF作家になってもいいやって。なれたかどうかは別としてね。

それで、じゃあ何が残るんだ? ってときにさ、僕はやっぱ世界観だと思ったわけ。映画でしかできない仕事、っていうか映画がいちばん力を持てるのは、世界観だっていうさ。問答無用でねじ伏せる、観てる人を圧倒する、架空の世界の存在から浴びせるっていうね。提出するとか、そんな優しいもんじゃない。一撃で叩き伏せるってやつ。

これが観たくて映画館に通ったし、それを作りたくて映画作ってるっていう思いがずっとあったんですよ。これを観に行ったときに、プロデューサーと一緒に観に行ったんだけど、「やっぱり自分は正しかった」と思った(笑)。これには実は“オマケ”が付くんだけどさ。

 

『ブレードランナー』がなければ『攻殻機動隊』もなかった


「『ブレードランナー』って映画はすごい映画だ」って言って、じゃあどういうストーリーだったか覚えてる? って聞くと、たぶん覚えてる人はそんなにいない(笑)。まあ色んなパターンがあったしね バージョン違いとか。それにしたって、どんな映画か語れる人は滅多にいないと思った。でも、みんな打ちのめされたんですよ、特に映画の好きな人間にとっては。

ハリソン・フォードとかショーン・ヤング、ルトガー・ハウアーが好きだろうが嫌いだろうが関係ないですよ。サー(リドリー・スコット)の名前を知らなくたって構わない。「なんかすごいもの観ちゃった」っていうさ。架空の未来の街をこれだけ生々しく、アクチュアルに表現した映画ってあったんだろうか? って。この後に「近未来でSFだ!」っていう世界を描こうと思ったら、もう『ブレードランナー』っていう映画の門をくぐらないわけにはいかないんですよ、これはゲートなんですよ。

いわゆる『ブレードランナー』っぽい映画が山ほど作られたんですよ、アニメーションも相当パクったからね。私もやったけど、『攻殻機動隊』っていうさ。ただパクるだけじゃ申し訳ないから、いろいろ要素を付け加えたわけ、足したり引いたりしたんだけど。どっちにしてもこの映画がなかったらね、あの映画もなかったことは間違いないんだから。

この門を通らなければここから先には行けませんよっていう映画を称して、「エポックメイキングな作品」と呼ぶんですよ。これから後、何十年間かわからないけどSF映画を作ろうと思ったら、とりあえずこの門をくぐるしかない。

 

僕とジェームズ・キャメロンは映画制作についての考え方が真逆だった

オマケが付いてくるっていうのはさ、私の場合は思考が極端だったんで、世界観だけでいいと思い込んじゃったんだよね!(笑)。これが大きな間違いだったというか、やっぱりお話もキャラクターも必要なんですよ。大事なのは、キャラクターと、ストーリーと、世界観。映画はこの3つで成立してるって、誰でも言うことだけどさ。

あるときジェームズ・キャメロンっていう監督と話したんだけど、「押井、お前はこの順番をどう考えるんだ?」って。「あんたはどうなんだ?」って聞いたら、「まずはやっぱりキャラクターだ」って言ってた。「誰もが好きになれる、興味を持てる素晴らしいキャラクターを考えることだ」って。「次に素晴らしい脚本をゲットすることだ。3番目に、どういう世界か? イメージを造形することだ。この順番を間違えると、ハリウッドでは生きていけない」って。

「ああ、そうなんだ」と思って。でも、僕は別にハリウッドで映画撮ってないしと思ったし(笑)、ものの見事に逆でした! っていう話なんですよね、世界観からしか出発してないから。いちばん最後にキャラクターを考えるんですよ。それが実はね、必ずしも正しくないっていう(笑)

要は優先順位なんですよ、最初に決めることじゃないんです。ただ、この3つはドラマ性を考えると、とても大事っていう。これを観た当時は頭に血が上ってたから、優先順位も何もあるか! お話もキャラクターも関係ねえ!って。それは良くなかったね(笑)

 

『ブレードランナー 2049』に流れている時間は素晴らしい

やっぱりね、何度も何度もそういう痛い目にあって、その結果として自分の考え方ができてきたんで。僕が喋ったことは全部経験則だし、私の言葉で言えば「戦訓」なんですよ、戦いから学んだっていう。「だから聞く価値あると思うよ!」っていうさ。誰も私の言うことは聞かないんだけどさ、うるせえなとしか思ってないからね(笑)

そういうのも思わず口出すんだけど、分かんないときはしょうがないっていうかさ。結局ね、しくじったぶんしか気づかないんだって。まあしくじっても気づかない人もいるんだけど。ただ調子悪かったとか、現場が良くなかったとか、役者がダメだったとか、言い訳なんて幾らでもできるから。そうじゃないんだよ! っていう、あんたの問題なんだよ! っていうさ。監督もスタッフもそう考えるべきだし、そうであるべきだから。そういう現場にしちゃったのは誰だ? っていう話だからね。だから色んな事を考える契機になったっていうか、いまだに考えてる。

『ブレードランナー 2049』(2017年)の監督(ドゥニ・ヴィルヌーヴ)は本当に素晴らしいね。『メッセージ』(2016年)もすごかったけど、『ブレードランナー 2049』は久々に痺れた。エンディングが終わっても、しばらく立つ気にならなかったもん。あの“時間”が素晴らしいね、映画でしか体験できないもの。まったりしてるんだけどスカスカじゃないんですよ。濃密で、中身がいっぱい詰まってるんだよね。あの時間って、あの監督のものなんですよ。

サーの『ブレードランナー』と比較すること自体がね、何の意味があるんだ!? っていうさ。比べること自体、何の意味もないよ! 別の映画だよ! って。リスペクトはしてるんだけど、それもいらないくらいだよ、別に。爺さんになったハリソン・フォードが出て来ようが来まいが、素晴らしい映画ですよ。

 

みんな新作制作の順番に脈略を見出そうとするけど、完全な誤解です(笑)

この映画が観たい#65 〜押井守のオールタイム・ベスト〜

まあ、色々やってます。今は、今年の春に撮影した映画の仕上げが、ようやく。僕の映画が好きだっていう人間にとっては、ちょっと意外かもしれない映画。あとはアニメーションの企画とかは、何本も。実はいつも動いてるんですよ、企画って5本も6本も同時に動いてるもんで、どれが先に決まるかっていう順番で仕事してるだけ。(制作の順番に)脈絡を見出そうとする人はいっぱいいるんだけど、評論家とかね。実はね、完全な誤解です(笑)。自分で決めてないから。

もちろん脈絡ないことはないですよ、人間だから。その脈絡に何か意味があるか? って言うとね、それは個人的な意味以外には何もないと思ってる。アニメーションをやる機会があるんじゃないかと思い続けてきたし、アニメが嫌いになったわけでもなんでもないから。

映画とは、「初恋の女性と結婚しちゃったようなもの」

一言で言えば、「初恋の女性と結婚しちゃったようなもの」。どうやったら添い遂げられるだろう? っていう、そんなようなものだって思ってますね。「愛してる」とかどうとかって以前の話だよね。「ずっと一緒でした」ってやつ。で、「これからもたぶん一緒」だっていうさ。一緒でいるためには努力が必要。あと10年くらいはやれるのかなあ……と思ってます。

 

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