奇跡の実話! 難民の少年が非凡なチェスの才能で人生と希望を切り拓く『ファヒム パリが見た奇跡』

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ライター:BANGER!!! 編集部
奇跡の実話! 難民の少年が非凡なチェスの才能で人生と希望を切り拓く『ファヒム パリが見た奇跡』
『ファヒム パリが見た奇跡』©POLO-EDDY BRIÉRE.

難民の少年がチェスの全国大会で優勝! 嘘みたいな奇跡の実話を映画化

バングラデシュの首都ダッカから、政治難民として父親ヌラとともにフランス・パリに渡ったチェス大好き少年ファヒム。住む家もなく言葉も風習もわからない土地では仕事も見つからず、父子は路頭に迷ってしまう。すぐに赤十字団体によって難民保護施設に入所することはできたが、生活環境はなかなか好転しない。そんな中でもファヒムは持ち前のチェスの腕前を発揮し、優秀なコーチと出会ったことでますますその才能に磨きをかけていく。

『ファヒム パリが見た奇跡』は、バングラデシュからフランスへ逃れてきた少年の驚きの実話を基にしたヒューマンドラマだ。実在のファヒムは、異国の地でチェスのチャンピオンになることによって滞在許可をゲットしたという、なんとも驚きのエピソードの持ち主。本作はその実情を子ども目線、親目線、そして周囲の人々の目線から切実に描きながらも映画としてのエンタメ性は失うことなく、誰もが楽しめる作品に仕上がっている。フランスは人権の国なのか、人権を宣言した“だけ”の国なのか――ひとりの少年の才能が家族の未来を救った、奇跡のような感動のドラマだ。

『ファヒム パリが見た奇跡』©POLO-EDDY BRIÉRE.

こまっしゃくれファヒムと寡黙な父、周囲の人々の暖かな交流に胸が締め付けられる

なぜファヒムたちは家族で暮らすバングラデシュから逃れることになったのか? 物語の中盤、反政治活動に参加し警察に追われる身となったヌラの事情が語られるが、同国では民主化運動が起こった80年代から政変が激しく、本作の舞台である2010年代初頭は反政府デモが盛んに行われていた。本作ではヌラたちが命を脅かされていたことは示唆されるものの、そのあたりの深層にはあえて触れられない。とはいえファヒムとヌラ、その家族や同胞たちのバックグラウンドを知った上で鑑賞すれば、さらに胸に迫るものがあるはず。国から逃れてきた人々にはそれぞれの切実な理由があり、その道程は我々の想像を遥かに上回る険しさだ。

『ファヒム パリが見た奇跡』©POLO-EDDY BRIÉRE.

実際ヘビーなテーマではあるものの、身構えて鑑賞する必要はない。撮影数ヶ月前に難民として訪仏したという、まるで役の設定まんまなアサドくん演じる天真爛漫なファヒムと同世代の子どもたちとの交流や、名優ジェラール・ドパルデュー演じるチェスの師匠シルヴァンとのやり取り、チェス塾のマチルドおばさんの世話焼きぶりには、思わずほっこりさせられる。終始しかめっ面のシルヴァンに口答えしながらも、彼の出す難題に次々と答えていくこまっしゃくれたファヒムの姿は痛快。チェスは映画のテーマとしては地味と捉えられがちだが、チェスでなくとも将棋や囲碁に親しんでいる人ならば、特にこのあたりのカタルシスを存分に味わえるのではないだろうか。

ただし難民の立場が厳しいことには変わりなく、父ヌラは国外退去を命じられホームレス状態に。それまで感情を抑え気味だったヌラが強制退去を命じられ、ファヒムとの離別を告げられたときの取り乱し様には胸が締めつけられる。こういった悲痛な光景が、今この瞬間も世界中で繰り返されているということを、我々“観客”は心に刻み込む必要があるだろう。

『ファヒム パリが見た奇跡』©POLO-EDDY BRIÉRE.

難民たちが抱える切実な事情――我々は彼らのことをどれだけ理解しているか?

特に衝撃的なのは、ヌラと入国管理局の職員とのやりとりに同席する通訳の男性が、めちゃくちゃな通訳で密かに面接を反故にするシーンだ。なんだかシュールなギャグなのかなと思ってしまうほどだが、要するにこの男性はバングラデシュ政府側の人間、もしくは他の難民を優先したい事情があり、ヌラの難民申請が通らないよう妨害しているのだ。物語冒頭、父子がパリに着いて早々エッフェル塔の土産物を買ってくれと声をかける男性が登場するが、その“深刻な理由”も劇中で描かれる。

『ファヒム パリが見た奇跡』©POLO-EDDY BRIÉRE.

ファヒム親子は結果的にチェスの才能のおかげで在留許可を与えられたが、当然ながらそうでない難民のほうが多く、問題解決には程遠いのが現状だ。それでも人権意識が比較的高いフランスだからこそ、こうして映画化することができた。入管職員による移民・難民たちへの非人道的な行為が黙認され、自国民すら“生産性”という物差しで排除しようとする日本では、絶対に成立しないお話だ。マイノリティへの不寛容は時代の潮流に逆行する愚行であり、それはいずれ滅びゆく世界である。そのために我々は、せめて“難民”という言葉に抱いているネガティブなイメージを捨て去るところから始める必要があるだろう。

『ファヒム パリが見た奇跡』は2020年8月14日(金)より全国ロードショー

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『ファヒム パリが見た奇跡』

わずか8歳で母国バングラデシュを追われたファヒム。母親と引き離され、父親と二人でたどり着いたのはフランス・パリだった。亡命者として政治的保護を求めるも、言葉も文化も違う異国ではなかなかうまくいかない。そんな時、故郷でチェスの天才と呼ばれていたファヒムは、フランス国内でも有数のトップコーチであるシルヴァンと出会う。国籍も年齢もかけ離れた師弟は、ぶつかり合いながらも信頼関係を築いていく。しかし、一方でファヒム父子の亡命は認められず、強制送還の脅威にさらされることに……。解決策はただ一つ。ファヒムがチェストーナメントでフランス王者になることだった。

制作年: 2019
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