少年の過激な信仰が殺人計画へ発展⁉ カンヌ映画祭監督賞受賞! ダルデンヌ兄弟最新作『その手に触れるまで』

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ライター:BANGER!!! 編集部
少年の過激な信仰が殺人計画へ発展⁉ カンヌ映画祭監督賞受賞! ダルデンヌ兄弟最新作『その手に触れるまで』
『その手に触れるまで』© Les Films Du Fleuve – Archipel 35 – France 2 Cinéma – Proximus – RTBF

中二病と言ってしまうとあまりにも軽薄だが、多感なティーンの時期に「自分以外の同級生はみんなバカだ!」みたいな謎の思考に取り憑かれた人は少なくないだろう。……こんな浅はかな例を出してしまって恐縮だが、カンヌ国際映画祭パルム・ドールを2度獲得したベルギーの名匠、ジャン=ピエール&リュックのダルデンヌ兄弟による最新作『その手に触れるまで』は、ごく普通の少年が急速に過激な思想に染まってしまった結果、女性教師の殺人を決意するに至る……という衝撃的な出来事とその後の顛末を描いた問題作だ。

『その手に触れるまで』© Les Films Du Fleuve – Archipel 35 – France 2 Cinéma – Proximus – RTBF

アメッド少年は我々の日常にも存在する

主人公の少年アメッドが激ハマり中なのは、批判的な意味を込めて“イスラム原理主義”と呼ばれる、コーラン(聖典)をベースに作られたイスラム法による国家統治を求める思想だ(という程度の知識ですがご勘弁を!)。よくニュースで“イスラム過激派”なんて言葉を耳にするが、IS(イスラム国)など一部の組織による暴力行為も一応はイスラム原理主義に基づいているため、イスラム教徒=テロリストという極端なイメージに結びついてしまっているのが現状である(そもそもISは制御装置を失った単なる犯罪集団という意見もあり、平和的なイスラム教徒のほうが圧倒的に多い)。

かようにイスラム教というのは複雑なテーマであり、特に無神論者の多い日本人にとっては理解・言語化しづらい問題でもある。そんなこんなで本作を敬遠してしまう映画ファンも少なくないと思うが、そこはダルデンヌ兄弟の手腕を信じてほしい。少年の揺れ動く心を淡々とつぶさに捉え、80分強という必要最小限の尺で意外性のある(ぶん投げとも言う)結末に繋げてみせている。我々が本作から学べるのは、信仰が犯罪行為に至る具体的な要因、そして近しい環境で暮らしているはずのアメッドとイネス先生の対比から見えてくる、国や信仰を超えた根本的な問題だ。

『その手に触れるまで』© Les Films Du Fleuve – Archipel 35 – France 2 Cinéma – Proximus – RTBF

ハマるな危険! インターネット導師によるお手軽エクストリーム思想

少し前まではゲームが大好きなごく普通の少年だったアメッドは、いまや家族以外の女性に触れることを拒むほどのイスラム原理主義者に成長。そんなアメッドの“粛清のターゲット”となるイネス先生は、地域の子どもたちにコーラン以外の学びの手段を与えることで、将来の可能性を広げてあげたいと考えている素晴らしい人だ。しかし、過激な思想を持つ近所の導師(やインターネット導師!)に影響されてしまったアメッドは、あるとき自宅から小刀を持ち出してイネス先生の自宅へ向かい……いきなり斬りかかった!

『その手に触れるまで』© Les Films Du Fleuve – Archipel 35 – France 2 Cinéma – Proximus – RTBF

イネス先生は幼いアメッドの識字障害を克服するのに尽力してくれた、いわば恩人でもある。そんな先生を“背教者”だという理由で殺そうというのだから、もはや正気の沙汰とは思えない。しかし、アメッドは家族や周囲の人間を思いやることのできる少年としても描かれていて……というか、本当にそのへんにいそうな13歳の少年なのだ。一体なぜ彼はこんな極端な行為に及んでしまったのだろうか? もう彼が先端の尖った何かを手にするだけでハラハラが止まらなくてつらい!

『その手に触れるまで』© Les Films Du Fleuve – Archipel 35 – France 2 Cinéma – Proximus – RTBF

衝撃の結末に白目! ダルデンヌ兄弟の愛あふれる突き放し芸が炸裂

ただし本作にドラマチックな展開は皆無で、登場人物に過剰に寄り添うような描き方をしていないところもダルデンヌ兄弟らしい。とはいえ、これまで多くの若者の姿を捉えてきた監督の作品には常に救いが感じられたし、さすがにここまでヘビーなテーマを扱った作品はなかったかもしれない。あまりにもアメッドの行動が不穏すぎるので、逆に笑ってしまう人もいるのではないかと心配になるほどだが、本作が掲げるテーマの難しさを改めて意識させられる。

『その手に触れるまで』© Les Films Du Fleuve – Archipel 35 – France 2 Cinéma – Proximus – RTBF

それでも、少年院に入ったアメッドの心境に変化が訪れるきっかけが同世代の女の子という、なんともミドルティーンらしい展開にはニヤリとさせられるだろう。ところが、ここでもアメッドは(無意識ながら)ミソジニー的な身勝手さを爆発させ、性的な闇を露呈してしまう始末。しかもイネス先生への殺意もビタイチ揺らいでいないものだから、思わず頭を抱えたくなってくる……。はたしてダルデンヌ兄弟は、アメッドにどんな結末を用意したのか? ぜひ本作を鑑賞して確かめてほしい。

『その手に触れるまで』@Christine Plenus

『その手に触れるまで』は2020年6月12日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかロードショー

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『その手に触れるまで』

ベルギーに暮らす13歳の少年アメッドは、どこにでもいるゲーム好きの普通の少年だった。しかし尊敬するイスラム指導者に感化され、過激な思想にのめり込んでいく。ある日、学校の先生をイスラムの敵と考えはじめ、抹殺しようとするアメッド。狂信的な考えに取り憑かれてしまった少年の気持ちを変えることはできるのだろうか……?

制作年: 2019
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