『007』ボンドカーは無邪気な大人の夢、そして冒険への憧れ!! レーザー光線にラジコン化BMW!

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ライター:牧野茂雄
『007』ボンドカーは無邪気な大人の夢、そして冒険への憧れ!! レーザー光線にラジコン化BMW!
筆者私物

モータージャーナリストが解説! ボンドカーの変遷と時代背景【後編】

第10作『007/私を愛したスパイ』(1977年)でのギミック満載ボンドカー、ロータス・エスプリS1の活躍は『007/ゴールドフィンガー』(1964年)以来だった。そして『ゴールドフィンガー』後の作品と同様、しばらくボンドカーの存在は隅へと追いやられるのだろうか……と思っていたら、ジェームズ・ボンド役の俳優がロジャー・ムーアからティモシー・ダルトンへと一気に若返った第15作、1987年公開の『007/リビング・デイライツ』では、アストンマーティンV8ヴァンテージが「活躍するボンドカー」として登場した。

フロントバンパーの下にあるフォグランプの裏からミサイル、後部ガラスは防弾、両側ドアの下からスキーがせり出し、ホイール(車輪)中央のアストンマーティン・エンブレムから真横に並走する敵に向かってレーザー光線を放ち、タイヤはボタンひとつでスパイクタイヤになる。ボディ後部には加速用ロケットブースター。『ゴールドフィンガー』のDB5より装備が増えていた。

この映画は登場するクルマが興味深い。冒頭には英国のランドローヴァー・ディフェンダー。チェコでの逃走用はアウディ200クワトロ、ブラチスラバ警察のラダ(日本ではラーダと呼ばれる)・2101、路上に留まっているスコダ(日本ではシュコダと呼ばれる)・105S、ボンドカーのギミックでからかわれるチェコ警察のラダ・2103、イギリスの牛乳配達専用3輪電気自動車、ボンドがプライベートで乗っているアストンマーティン・V8ヴァンテージコンバーチブルなど、『007』シリーズの中でもっともクルマ好きの興味を引く作品だ。同時に、ビロード革命2年前のチェコスロバキアは、西側とのクルマ格差がこれほどまでに大きかったという歴史的事実も確認できる。

英国最後の大手自動車メーカー喪失への抗議!? ちょい役に留まったBMW

第17作、1995年公開の『ゴールデンアイ』では、ご挨拶がわりにロシア陸軍の戦車をボンド役初登場のピアース・ブロスナンが操縦して暴れまわるシーンに比べ、BMW・Z3はほんのちょい役だった。タイアップだったのかどうかは定かでないが、1994年に英国最大の自動車メーカーであるローヴァー・グループをBMWが買収している。

当時のローヴァー・グループにはホンダが20%を出資し、技術支援も行なっていた。私がローヴァー経営陣にインタビューしたときは「非常によい関係」と言っていた。しかし、残りのローヴァー株80%を英国政府の依頼で所有していた航空機・防衛産業のBAe(ブリティッシュ・エアロスペース)は、英国政府との約束だったローヴァー株転売禁止期間の5年が経過した1994年に突如、全株をドイツのBMWに売った。この年、ローヴァー・グループの業績はホンダの支援で非常に良好だったため、BAeは大きな売却益を得た。これで英国から大手自動車メーカーが消えたのだが、英国政府は完全に黙認だった。

この背景があったからだろうか、ボンドは『ゴールドフィンガー』時代のアストンマーティン・DB5を駆り、発売されたばかりのフェラーリ最新モデルF355とダウンヒルのお遊びに興じる。BMW・Z3はほんのちょい役。武器開発のQが「ライトの奥にスティンガーミサイル、全方位レーダー、自爆装置……」と説明しただけだった。これはBAeと英国政府に対する抗議と受け止めても筋の通る演出である。

ラジコン化&ド派手に大破するBMW750! フォード協賛でアストンマーティン復活

第18作『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』(1997年)ではBMW750がボンドカーになる。敵の追っ手はランドローヴァーの名車・レンジローヴァー。BMWはレンジローヴァー3代目の開発資金を提供し、そのメカをそっくり移植したBMW・X5をローヴァーに設計させたあと、ローヴァー・グループのブランドだった「ミニ」「ライレー」「トライアンフ」の商標使用権だけを手元に残してランドローヴァー部門はフォードへ、MGなど残る部門は英国の投資家グループに売却した。英国にしてみれば「欲しいものだけ奪って残りはドブに捨てたBMW」だ。

BMW750ボンドカーは携帯電話(まだスマートフォンではない)の操作で実物大ラジコンカーになる。パッドを指で2回叩くとエンジン始動。指先をパッド面に滑らせるとクルマの進路を変えられる。スライディングルーフからロケット弾、外装はチタン合金で銃弾を跳ね返し、フロントボンネット上のBMWエンブレムの下から強力なワイヤーカッターが飛び出す。ボンドを窮地から救う活躍はしたが、最後は駐車場ビルから落下してAVISレンタカーのオフィスに突っ込んだ。AVISもタイアップなのだろう。

2002年の第20作『007/ダイ・アナザー・デイ』(2002年)はフォード協賛のため、フォード傘下のアストンマーティンからV12ヴァンキッシュがボンドカーとして復活。アストンは1991年にフォードが買収していた。同じく1989年にフォードが買収したジャガーが敵のマシンに。

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ボンドカーのヴァンキッシュは車体表面に仕込まれた無数のカメラで周囲を撮影し、ボディ全体を覆う画像を発光性ポリマーに投影して「見えなくする」ほか、バンパーからマシンガン、ボンネットから自動追尾銃、『リビング・デイライツ』でも活躍した瞬間スパイクタイヤなどギミック満載だった。

ミス・マネーペニーが意味深に放つ「古いものって、いいわね」という言葉の真意とは?

2006年公開の第21作『007/カジノ・ロワイヤル』からボンド役がダニエル・クレイグに変わっても、アストンマーティンはボンドカーの座にとどまった。この作品の撮影にあたりアストンは、市販モデルにないDBSというスペシャルモデルを製作した(のちに市販)。

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第22作『007/慰めの報酬』(2008年)は、ボンドのヴァンキッシュがアルファロメオ軍団に追われるシーンから始まり、運転席側のドアがもぎり取られた状態でボンドはイタリアのシエナで待つMのもとに人質を届ける。このあとヴァンキッシュは登場せず、ボンドはフォードのSUVを運転した。

続く22作目『007/スカイフォール』(2012年)ではアストンマーティンDB5が戻ってくるが、無数の銃弾を浴びる。第23作『007/スペクター』(2015年)では、アストンマーティンがこの映画のために特別に製作したDB10が009専用マシンとして登場、ボンドがこれを盗む。敵方のジャガーC-X75も本作のためだけにジャガー・ランドローヴァー(いまやインドのタタ財閥がオーナー)が製作した。

『スカイフォール』の1シーン。マネーペニーはボンドが髭剃りに使うカミソリを見て「古いものって、いいわね」と言う。ボンドは敵の攻撃にさらされたMを救い出し、DB5で逃げる。そして『スペクター』のラストシーンでは『スカイフォール』でズタズタにされながらもQ部門が完璧にレストアしたDB5にボンドが乗っている。“古いもの”とは、ジェームズ・ボンド? アストンマーティンDB5? それとも映画という娯楽?

ボンドカーは無邪気な大人の夢であり、冒険への憧れでもある。劇中ではボンドを守る盾に徹する。あっけなく真っ二つにされることも盾の役目。だからカッコいい。そしていつも、ボンドカーはジェームズ・ボンドというキャラクターによく似合う。

文:牧野茂雄

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