『007』ボンドカーの条件は? 変遷を徹底解説! アストンマーティン、サンビーム、トヨタ、フォード……

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ライター:牧野茂雄
『007』ボンドカーの条件は? 変遷を徹底解説! アストンマーティン、サンビーム、トヨタ、フォード……
筆者私物

モータージャーナリストが解説! ボンドカーの変遷と時代背景【前編】

ジェームズ・ボンドが乗るクルマ。ボンドカー。映画の監督とスタッフはどうやってボンドカーを選ぶのか。英国車でなければならないのか? いや、そんなことはない。ボンドはアメリカ車のフォード・マスタングや日本のトヨタ・2000GTにも乗った。英国製が絶対条件ではない。では条件は何か。おそらく、選定基準はジェームズ・ボンドに「似合うか似合わないか」ではないだろうか。

気品あふれる2シーター・スポーツカー「サンビーム・アルパイン」

第1作『007/ドクター・ノオ』(1962年)でのボンドの愛車はサンビーム・アルパインだった。自転車とバイクのメーカーだったサンビームランド・サイクル・ファクトリーから1905年に自動車部門が独立し、1920年代に栄華を誇ったが、1929年の世界大恐慌によりルーツ・モーターに身売りした会社のクルマである。

このときルーツ・モーターはクレメント・タルボ(「Talbot」だが語尾の「t」は発音しない)も買収し、4人乗りのタルボ90をベースに2代目サンビーム・アルパインが作られた。1960年に世界ラリー選手権シリーズのモンテカルロラリーに出場し2,000ccクラス以下で優勝、サンビーム・アルパインは一躍有名になった。

ラリーで活躍する小さなボディの2人乗りハンドリングマシン。このキャラクターは充分にジェームス・ボンドに似合う。おそらく撮影がスタートする直前に決定したのではないか? 玄人好みのクルマである。

映画史上初のハイテク・ギミックカーに大興奮! アストンマーティンDB5

第2作『007/ロシアより愛をこめて』(1963年)の冒頭では、ボンドはベントレイ・マークIVコンバーチブルに乗っていた。1952年に生産終了したモデルであり、この映画が作られた1963年では少々クラシックだったが、ダンディズムの表現だろうか。それが第3作『007/ゴールドフィンガー』(1964年)では1963年デビューのアストンマーティンDB5がボンドの愛車になる。

ヘッドライトの奥から機関銃が飛び出し、車輪からはカッターが飛び出し、後部ガラスとトランクリッドの間に防弾板がせり上がり、ナンバープレートがくるくると回転して切り替わる。助手席に敵が座ると、ボタン一つで座席ごと空へ打ち上げて敵を追い出す。優雅かつセクシーなアストンはボンドのキャラクターにピッタリだ。そこにスパイ映画のエッセンスである秘密兵器を合体させ、ギミック満載のボンドカーに仕立てられた。

いまでも思い出すが、私が子供のころ、デパートのおもちゃ売り場に輸入品の「ゴールドフィンガー・ボンドカー」が並んでいた。1ドル=360円、1ポンド=1,000円という時代だったから、恐ろしく高価だった。おそらく映画史上初めてのハイテク・ギミックカーは子供も夢中にさせたのだ。同時にアストンマーティンDB5は、ボンドカーに選ばれたことで一般的な知名度が上がり、アメリカで売れるようになった。そしてDB5の後継モデルDB6は、初めて英国王室のプライベートカーとして迎えられた。宣伝効果は絶大だった。

特別モデルのトヨタ・200GT&映画館がざわめいたロータス・エスプリS1

第4作『007/サンダーボール作戦』(1965年)でもDB5はボンドの愛車だったが、活躍はしていない。第5作『007は二度死ぬ』(1967年)は舞台が日本だったため、DB5は持ち込まれなかった。

筆者私物

映画公開の1967年に発売されたトヨタ・2000GTの屋根を切り落としてコンバーチブルにした特別モデルが登場して日本人のプライドをくすぐったが、設定はボンドの愛車ではなかった。経済発展著しい日本だったが、英国の由緒あるスポーツカーと同列に論じる存在にはあらず、ということなのだろうか。

第6作『女王陛下の007』(1969年)ではアストンマーティンDBSがボンドの愛車になるが、ギミックは無し。しかし、それ以降の3作ではアストンマーティンは登場しない。デイビッド・ブラウン(この頭文字がDB)・グループがアストンマーティンの経営権を手放したことが影響したのだろう。1980年代後半までボンドはアストンマーティンに乗らなかった。

第10作『007/私を愛したスパイ』は1977年公開。1975年に投資家グループとアストン・マーティン・オーナーズクラブがファンドを結成して破産寸前のアストンマーティンを救ったが、ニューモデルの登場は1976年であり、『私を愛したスパイ』の撮影には間に合わなかった。このとき選ばれたのは英国の名門、ロータス・カーズのスポーツカー「エスプリS1」だった。運転席/助手席の後ろにエンジンがあるミッドシップカーがボンドカーに選ばれたのは、後にも先にもエスプリだけだ。

そのギミックは『ゴールドフィンガー』のアストンマーティンDB5を超えていた。クルマが潜航艇になるのだ。タイヤが引っ込み、スクリューが飛び出し、潜水舵と潜望鏡が出てくる。ミサイルはエンジンルームから飛び出す。ロジャー・ムーアという茶目っ気ある俳優がボンドを演じ、アッと驚くギミック満載のカッコいいスポーツカーが大活躍。作風はずいぶん変わった。

この映画を私は、公開から4日後に映画館で観た。桟橋から海に飛び込んだエスプリがどうなるかと思いきや、その変身の模様をいちいち見せながら、あれよと言う間に宇宙船のような潜航艇に……このときの映画館内の「ウォ~ッ!」というざわめきはいまでも覚えている。

1979年公開の第11作『007/ムーンレイカー』では一転、アメリカ宇宙軍仕様のスペースシャトルとレーザーガン、宇宙ステーションが秘密兵器になる。ボンドカーの代役はギミック満載のゴンドラ(ボート)だった。大学生だった私はボンドカーに期待して映画館へ足を運んだが、ラストの「宇宙の戦い」は、その前の年に観た『スター・ウォーズ』だった!

サンビーム、ベントレー、アストンマーティン、ロータス……理路整然で筋の通ったボンドカー選び

第10作までのボンドカーを私になりに考えると、まずは軽快なハンドリングマシーンであるサンビームを選んだのは、ストイックなスパイのイメージとのマッチングだろう。次に、押しも押されもせぬ英国の名車ベントレーを登場させるも、旧態依然から脱皮できないベントレーを早々にゴミ箱に入れ、ショーン・コネリー演じるタフでセクシーなボンドのイメージが出来上がったところで「スパイの道具」としてのアストンマーティンに落ち着く。

ところが、デイビッド・ブラウンの手を離れたアストンの堕落ぶりに愛想をつかし、「クルマはなんでもいい」と思ったか、あるいは興行成績の鍵を握るアメリカを意識したか、アメリカ車を何台か登場させた。行き着いた先は、名門ロータス会心の意欲作でイタリア人天才デザイナーであるジョルジェット・ジュジャーロ(日本ではジウジアーロ表記)の手によるエスプリS1だった。いまにして思えば、なかなかに理路整然で一本筋の通ったボンドカー選びだと言える。

【後編へ続く】

文:牧野茂雄

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