ロジャー・ムーア版ボンド、宇宙へ! ド派手な演出や名作パロディなど遊び心が最高『007/ムーンレイカー』

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ライター:齋藤敦子
ロジャー・ムーア版ボンド、宇宙へ! ド派手な演出や名作パロディなど遊び心が最高『007/ムーンレイカー』
UNITED ARTISTS / Allstar Picture Library / Zeta Image

ジェームズ・ボンドついに宇宙へ! シリーズ第11作『ムーンレイカー』

『007/ムーンレイカー』(1979年)は『007』シリーズ第11作。ジェームズ・ボンド役は三代目ロジャー・ムーアで、脂の乗った4作目。私はムーア版『007』が大好きなのだが、理由は後で説明するとして、まずはストーリーを紹介しよう。

イギリス空軍が輸送中のスペースシャトル“ムーンレイカー”が何者かに奪われる。イギリス情報局のMは国防大臣からの指令を受け、007ことジェームズ・ボンド(ロジャー・ムーア)に捜査を命じる。ボンドはシャトルの建造元であるドラックス社を訪ねてカリフォルニアへ。社長のドラックスは自己資金で宇宙開発を進める大金持ち。ボンドは宇宙飛行士の訓練施設でNASAから派遣されてきたホリー・グッドヘッド博士に出会い、ドラックス邸に隠されていた秘密文書を発見。文書にあった硝子の部品を探してヴェネツィアへ行き、ドラックスの秘密研究所に忍び込んで、猛毒の神経ガスが作られていることを知る。

しかし、Mと国防大臣を連れて戻ると、研究所は跡形もなく消えていた。ボンドは2週間の休暇を取り、神経ガスの送り先であるリオデジャネイロへ飛ぶ。猛毒を持つ野性の蘭を求めてアマゾンの奥地へ入っていったボンドは、ピラミッド遺跡の下に隠されていたドラックスの秘密基地に潜入。選ばれた人間だけで宇宙に脱出し、地球の人類を神経ガスで絶滅させようとするドラックスの計画を阻止するため、CIAのスパイと判明したホリーと共にムーンレイカーに忍び込んで宇宙へ……。

より派手な娯楽路線になったワケは?

原題の『Moonraker』とは英国の諺“水面に映った月を熊手で取ろうとする者”、転じて“愚か者”のこと。イアン・フレミングの原作小説では大陸間弾道ミサイル計画の名称だったが、折からのSF映画ブームに乗っかって、米国のスペースシャトル計画(1981年に初飛行)を先取りした内容に膨らませた。

ご存知のように『007』シリーズは、名プロデューサー、ハリー・サルツマンとアルバート・R・ブロッコリが組んで製作を続けてきた。が、ショーン・コネリーの降板が噂されるようになった5作目辺りから、よりリアルなスパイ映画路線を指向するサルツマンと、より派手な娯楽路線を突き進もうとするブロッコリが対立。結局サルツマンが抜けて、シリーズはブロッコリのテイストに統一・発展していく。そのブロッコリ・テイストが最もよく出た作品が『ムーンレイカー』ではないかと思う。

てんこ盛りの本格アクションと豪華なロケ地

見どころは何と言ってもアクションだ。白眉は冒頭の落下シーンで、何度見ても惚れ惚れする。まだフィルム時代だったので、カメラマンは約67秒しか撮影できない100フィートという小さいマガジンを装填した軽量カメラを頭につけて(軽くないとパラシュートが開いたときの重力で首が折れる)、スタントマンと共に88回降下して撮影したという。続いてヴェネツィアでのゴンドラのチェース(最後はゴンドラがホバークラフト化してサンマルコ広場を暴走する)、リオデジャネイロに移って、ロープウェイの屋根の上での格闘シーン(命綱なしのスタントに拍手)、アマゾン川でのボートのチェース(最後はイグアスの滝に落下する寸前にボンドがハンググライダーで脱出)、クライマックスの宇宙ステーションの爆破シーンまで盛りだくさん。すべてにコメディ・タッチのオチがついている。

もう一つの見どころは、ヴェネツィア、リオデジャネイロのカーニバル、イグアスの滝、アステカの遺跡といった豪華なロケ地にある。海外旅行がままならない今見ると、なおさら贅沢に思える。カリフォルニアという設定のドラックス邸はフランスのセーヌ=エ=マルヌ県に実在するヴォー=ル=ヴィコント城、ボンドがグッドヘッド博士に初めて会う訓練施設は1977年に完成したばかりのポンピドゥー・センターの最上階だ。当時はここにシネマテーク・フランセーズの分室があって、個人的にとても懐かしかった。

悪役のキャラ立ちバツグン! 日本の合気道師範も出演

キャストは、悪役ドラックス役にマイケル・ロンズデール。1931年パリ生まれのフランス映画界の大ベテランだ。父親がイギリス人、母親がアイルランド人で、完璧なバイリンガルなのでスピルバーグの『ミュンヘン』(2005年)などアメリカ映画にもよく登場する。ちなみに、初めの頃はフランス名のミシェルを芸名としていたが、のちに本名のMichaelに改めた。英語圏ではマイケル、仏語圏ではミカエルと発音する。

ジョーズ役のリチャード・キールは1939年ミシガン州デトロイト生まれ。2メートル18センチという長身を生かして巨人役やモンスター役で有名に。前作『007/私を愛したスパイ』(1977年)にジョーズ役で初登場し、あまりの人気で続投が決定。残念ながら2014年に74歳で亡くなった。

もう1人、『ムーンレイカー』で印象的な俳優と言えば、ドラックスの手下、殺し屋チャン役の日本人だろう。彼はプロの俳優ではなく、エグゼクティブ・プロデューサーのマイケル・ウィルソンに合気道を教えていた菅俊朗(Toshiro Suga)氏である。他に3本ほどフランス映画に出演しているが、すぐ映画界から引退。当時も現在もフランスの道場を拠点に世界中で合気道を教えている合気会の師範である。

名作たちを堂々パロディ! 面白ければ何でもアリ

『ムーンレイカー』の長所は遊び感覚にある。全体がジャンル映画のパロディとして作られていて、ロジャー・ムーアが『荒野の用心棒』(1964年)のクリント・イーストウッドのようなポンチョ姿で馬に乗って登場したり、名作『カサブランカ』(1942年)のハンフリー・ボガートの名台詞を引用したり、『未知との遭遇』(1977年)の信号音、月面着陸したニール・アームストロングの“人間にとっては小さな一歩”という有名な言葉までパロディで登場、隅々まで遊び感覚に満ちている。フレミングが目指した(いち早く映画化権を買ったサルツマンが目指した)路線からは大きく逸脱した、面白ければ何でもいい映画なのだ(真面目なファンを逆撫でするところでもある)。

それを引き立てるのがロジャー・ムーアだ。スーツをおしゃれに着こなしたムーア=ボンドは、ヘアスタイルさえ乱すことなく、どんな危機も悲壮感ゼロで軽々と切り抜ける。それが根本から荒唐無稽な『ムーンレイカー』の雰囲気にぴったり合う(ショーン・コネリーやダニエル・クレイグにはまったく合わない)。私はこのいい加減さというか、軽い感じが好物で、それを低予算B級映画ではなく、予算をたっぷりかけたA級(?)映画でやってしまうところが素晴らしいと思う。これこそブロッコリ版『007』の真骨頂。すべてが右肩上がりで、未来がバラ色に輝いていた、幸せな時代の愛すべき1本である。

文:齋藤敦子

『007/ムーンレイカー』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年6月ほか放送

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『007/ムーンレイカー』

英国へ空輸中のスペースシャトル“ムーンレイカー”が、アラスカ上空で何者かにハイジャックされた。調査に向かったジェームズ・ボンドは、ムーンレイカーを開発した謎の科学者ドラックスに接近。彼は化学兵器によって人類を抹殺し、新帝国を創り上げようとしていた!

制作年: 1979
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