インドはヒーロー映画も神がかり!? 宇宙最強のシク教徒が低空飛行で悪を討つ『フライング・ジャット』

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
ライター:松岡環
インドはヒーロー映画も神がかり!? 宇宙最強のシク教徒が低空飛行で悪を討つ『フライング・ジャット』
『フライング・ジャット』©Esselvisionproduction pvt Ltd

インド発! 仮面の最強ヒーローは高所恐怖症!?

ハリウッド映画ではマーベル作品のヒーローものが大人気だが、インド映画にも仮面のヒーローが存在する。一番有名なのはボリウッド映画の「Krrish(クリシュ)」シリーズで、日本では2013年の『Krrish 3』が『クリッシュ』という邦題で公開されている。

本作『フライング・ジャット』(2016年)は、この「クリシュ」シリーズに“笑い”と“シク教徒”ファクターを加えて、新しいヒーローを誕生させた作品だ。

『フライング・ジャット』©Esselvisionproduction pvt Ltd

主人公は、小学校で武術の教師を務める青年アマン(タイガー・シュロフ)。湖に面した住宅地に、気の強い母親(アムリター・シン)と兄ローヒトと共に住んでいる。父親はカルタール・シンといい、すでに亡くなったが、初めて中国の少林寺に拳法修行に行ったシク教徒として有名だったと母は語る。人々は尊敬を込めて、カルタール・シンを「フライング・ジャット(空飛ぶシク教徒)」と呼んだという。なのにアマンは、武術こそ習得しているものの高い所が大の苦手。おまけに、兄弟揃ってシク教徒の戒律を破り、ヒゲも生やしていなければ、ターバンも被っていない。というわけで、母の愚痴が雨あられと降り注ぐ毎日だった。

『フライング・ジャット』©Esselvisionproduction pvt Ltd

一方、湖の対岸に工場を持つ大会社社長マルホートラ(ケイケイ・メーナン)は、輸送効率アップのために湖に橋をかけることを計画する。ところが、アマンたちの家がある一帯を買収しようとすると、「ここは、シク教の聖なる印(カンダー)を付けた木がある神聖な場所」とアマンの母たち住人が大反対。マルホートラ社長は怪力のラカ(ネイサン・ジョーンズ)を呼び寄せ、実力行使で立ち退かせようとする。そのラカと雷雨の中で戦ったアマンは、聖なる木にたたきつけられたとたん不思議なパワーを身に帯びることに。アマンの背に刻まれた聖なるカンダー印を見た母は喜び、アマンをシク教徒のスーパーヒーローに仕立てようと決心する。

『フライング・ジャット』©Esselvisionproduction pvt Ltd

母の作った水色のコスチュームを着け、ターバンを被ったアマンは父親に生き写しだった。こうして、高所恐怖症のヒーロー「フライング・ジャット」の活躍が始まったのだが……。

「ジャット」って何? ボリウッドで存在感を増すシク教徒映画!

『フライング・ジャット』の「ジャット」(※正確な発音は「ジャト」)とは、北インドに住む、農業に従事するカースト集団の名称だ。「ジャート」とも呼ばれる彼らの居住地域は、北インド西部のパンジャーブ州、ハリヤーナー州、ラージャスターン州など。パンジャーブ州ではシク教徒のジャットが多いため、「ジャット」と聞くとターバンを被ってヒゲを生やしたシク教徒を連想する人も多い。

『フライング・ジャット』©Esselvisionproduction pvt Ltd

シク教徒はその容貌から、ボリウッド映画では長らく脇役に甘んじて来たが、21世紀に入るとシク教徒が主人公の作品がたくさん作られるようになった。アクシャイ・クマール主演作『Singh Is King/シンは王様(原題)』(2008年)のヒット以降、ターバンとヒゲ姿のヒーローが認知され、シク教徒の五輪陸上選手ミルカ・シンの伝記映画『ミルカ』(2013年)も作られた。

武井壮も出演した『ミルカ』のラストシーンは、パキスタンで開催された印パ陸上対抗戦だが、そこで優勝したミルカ・シンはパキスタン大統領から、「君はフライング・シク(空飛ぶシク教徒)だ」と、その走りを称えられた。『フライング・ジャット』は、この栄誉あるネーミングを意識したタイトルなのだ。

驚異の6パックを持つタイガー・シュロフがシク教徒ヒーローならではのアクションで魅せる!

『フライング・ジャット』の見どころはたくさんあるが、何と言っても主演のタイガー・シュロフの身体能力が光る。タイガーの父は、1980~1990年代のトップスターで、現在は大ヒット作『サーホー』(2020年3月21日公開)などで名脇役として活躍するジャッキー・シュロフ。

つい先日30歳になったばかりのタイガーは、高校まではサッカーに夢中で、その後体を鍛え始めたそうだが、テコンドーの黒帯も持っているスポーツマン。さらに、ブレイクのきっかけとなった主演第2作目『Baaghi(反逆者)』(2016年)出演時は、カンフーやシラット、そしてインドの伝統武術カラリパヤットゥも学んだという。

『フライング・ジャット』では、もっぱらコミカルな演技が要求されるため、アクションも凄味が抑えられているが、ラカとの戦いでタイガーの美しいフォームと“宇宙最強”ぶりがたっぷりと見られる。この戦いで最後に使われる武器は「カラー(金属の腕輪)」と言い、シク教徒が身につけるべき「5つのK」の一つである。「5つのK」とは、「ケーシュ(髪を伸ばすこと)、カンガー(木の櫛)、カラー(金属の腕輪)、キルパーン(短剣)、カチェーラー(短い袴)」で、大多数のシク教徒はこれを守っている。シク教徒のトレードマークのターバンは、伸び放題にした髪を覆うためのものなのだ。

『フライング・ジャット』©Esselvisionproduction pvt Ltd

アマン兄弟は現代風に髪を短くし、ヒゲも伸ばしていなかったのだが、やがてシク教徒としての自覚に目覚め、フライング・ジャットとなったアマンはターバンを被り、腕輪カラーで悪に立ち向かう。インドのヒーローが勝利する原動力はやはり、最終的には神の力なのである。

『フライング・ジャット』©Esselvisionproduction pvt Ltd

超豪華美女優陣にも注目! エンドクレジットではジャッキー映画風NGシーンも

そのほか本作では、登場する女優たちにも要注目。ヒロイン役のジャクリーン・フェルナンデスはスリランカ出身のボリウッド女優で、美しさと性格の良さから目下ひっぱりだこだ。ヒロイン役のほか、アイテム・ガール(ソング&ダンス・シーンだけにゲスト出演して、特にセクシーな踊りを見せる女優をこう呼ぶ)として、たくさんの映画に出演している。

『フライング・ジャット』©Esselvisionproduction pvt Ltd

また、『Baaghi』でタイガーの相手役を務めたシュラッダー・カプールも、バレンタイン・デーのシーンでカメオ出演。二人とも、前述の『サーホー』にも出演という、豪華キャスティングなのである。

インドの公害問題も入れ込みながら、インド人の宗教心に訴えかける異色のヒーロー映画だが、ジャッキー・チェンを真似したと思われる最後のNG集もお見逃しなく。野球帽姿でいろいろイジられているのが、監督で振付師としても有名なレモ・デソウザだ。

文:松岡環

『フライング・ジャット』はCS映画専門チャンネル ムービープラスにて2020年3~4月放送

Share On
  • Facebook
  • Twitter
  • LINE

『フライング・ジャット』

スィク教徒の神木を切り倒そうとする企業オーナー・マルホートラの手下に痛めつけられた武術教師のアマン。翌朝、無傷で回復した彼は、神木から超人力を授かったことに気付く。アマンは母が作った衣装に身を包み、ヒーロー”フライング・ジャット”として、町を壊そうとするマルホートラに立ち向かう。

制作年: 2016
監督:
出演:
  • BANGER!!!
  • 映画
  • インドはヒーロー映画も神がかり!? 宇宙最強のシク教徒が低空飛行で悪を討つ『フライング・ジャット』