河村康輔「デヴィッド・リンチを見て“ちょっと気持ち悪い”って思わせたら勝ちだと思った」(1/5)

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ライター:BANGER!!! 編集部
河村康輔「デヴィッド・リンチを見て“ちょっと気持ち悪い”って思わせたら勝ちだと思った」(1/5)
グラフィックデザイナー/アートディレクター/コラージュアーティスト、河村康輔さん。近年では『AKIRA』で知られる大友克洋氏との一連のコラボレーションを目にした人も多いはず。巨匠の作品を文字通り“切り刻む”ことが許されたアーティストなのです。
偏り気味と自称する映画嗜好やアーティストとしてのキャリアに影響を与えた“映画体験”と、それにまつわる人生の様々なエピソードをお届けします。

カッコつけたくてもカッコつかない、むき出しの人間味

『ワイルド・アット・ハート』(1990年)

もともとデヴィッド・リンチがすごく好きで。先に『イレイザーヘッド』(1977年)を観たと思うんですけど、あれが一番最初の映画体験に近い……もうトラウマというか。中学生のときにレンタルビデオ屋でジャケ借りして、なんかカッコよさそうだなと思って観たら、そういうの通り越してすごく怖くて嫌~な気持ちになったんですけど、それが強すぎて名前をすごく覚えていて。

そこから色々と観ていったんですけど、その流れでたまたま『ワイルド・アット・ハート』を観て、初めてリンチが自分の中でしっくりきたというか。どうしようもない恋愛モノの中で、リンチ節が要所要所に出てる感じがものすごく好きでした。

リンチとかを観るようになるまでは、ちゃんとストーリーがあって普通の時間軸が流れる大作映画的なものを観ていました。リンチの色々と狂った世界の中でも『ワイルド・アット・ハート』は当時、すごくマトモだなと思って観たんですけど、結局後半でまったくマトモじゃなかったっていうのが分かって(笑)

恋愛モノは好きで、色々観てきた中でも『ワイルド・アット・ハート』が一番ロマンチックな映画で、いまだにすごく好きですね。本当にダメ男の話なんですけど、でもなんか憎めないし、やっぱり自分も同性として……どこかしら同じようなところというか、カッコつけたくてもカッコつかないところ、それがすごくリアルに出てるというか、むき出しになってる感じですごく人間味がある。

劇場では観ていないのですが、デヴィッド・リンチ作品ではまず『ツイン・ピークス』を観ました。あれもすごく変わってるじゃないですか。それを背伸びして「カッコいい」「面白い」って周りの同世代の数人が言っていて、僕もそれに便乗して観て、でもやっぱり分からないなあって当時すごく思って。その後これを観たので、あれよりは観やすいし(笑)、でもなんか要所で同じような世界観というか地続きな感じというか、結局この二人も『ツイン・ピークス』に出てきても何の違和感もないんだろうなって感じのカップルだし(笑)。

「ちょっと気持ち悪い」って思わせたい

(自分の作品に)影響はありますね。僕がやっているコラージュの手法って、どうしても人が作ったものとか写真とかがメインになってくる。そういうものを崩していくんですけど、ある意味、誰にでもできるものなんですよね。

例えば絵でいうと、特別上手な人とか、ヘタでも味のある人、いろんな個性が出てくるじゃないですか。でも、僕たちがいるのはすごく縛りがある世界なので、素材がカブることもあるし、大体その枠内で収まってしまうんですけど、それを飛び越えた普遍的なものとか、コラージュっていう一つのフォーマットから飛び出して、「ちょっと気持ち悪い」って思わせたら勝ちだなとかって初めて思ったのは、リンチの手法を見てから。ああいう世界感じゃないにしても、観ていて感じる何とも言えない違和感とか、どこかにひっかかる気持ち悪さを作品に出せたらいいなって後に思って、意識して作るようになったりしました。

新しい『ツイン・ピークス』はまだ観られてないんですけど、新シリーズが始まったときに最初のをもう一回全部観返して、原点なんだなってすごく感じました。だから『ワイルド・アット・ハート』もすごく大事な作品ですね。『ツイン・ピークス』的な違和感というか、気持ち悪かったり怖かったりっていうのも多いし。でも僕は作品を作る時に、それだけをやりたくはなくて、どこかに普遍的だったりロマンチックだったりとか、そいういうものをすごく入れたいと思ってやっていて。

それで言うと、『ツイン・ピークス』で作品の一番最初の影響というか大枠ができて、『ワイルド・アット・ハート』で自分のやりたいことのベースに影響を受けたっていう感じですね。これとこれをかけ合わせると、自分のやりたいことができるんだなって思った作品です。

イラッとすることがあると定期的に観る(笑)

『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(2005年)

高校生の時に(デヴィッド・)クローネンバーグがものすごく好きになって、地元で借りられる作品はほとんど観ました。この監督も一筋縄ではいかないというか、当時は普通にパッと観て面白いなって思える感じではなかったんですけど、色んな監督の中でもトップクラスに好きな監督で。それで初めて劇場で観れたクローネンバーグ作品が『ヒストリー・オブ・バイオレンス』だったんですよね。

ひさびさに新作をやるって聞いて普通に映画館に観に行って、始まって冒頭5分くらいで珍しくどっぷり入っちゃって、最後まで一切気が抜けなかった初めてのクローネンバーグ作品でした。ただただカッコいいなっていう、別にヒーロー像じゃないんですけど……あるじゃないですか、男の子の変な憧れ(笑)、みたいなものがおもいっきりここに出てるなっていう。一見ぜんぜん普通なんだけど実はめちゃくちゃ強いみたいな、ものすごく単純な構造なんですけど(笑)

もちろんウイリアム・バロウズは好きなので原作も読んでたんですけど、『裸のランチ』とかを最初に観たときは、本でもよく分からないのに映画でビジュアル化されて、さらに分からなくなるっていう体験をして(笑)。でも『ヒストリー・オブ・バイオレンス』はストーリーもちゃんとしてるからすごく観やすいし、物語としてもしっかりできてて、男の子が憧れを抱く「ちょっとワルくて強い」っていう感じ、普段はカモフラージュしてるっていう、あれにすごくヤられて。

当時観たときに、すごくスッキリしたんですよね。ぜんぜん気持ちいい映画ではないじゃないですか、言ったらマフィアとかギャングものだし。なのにすごく爽快な気持ちで観終えて、それがとても印象に残ってます。好きすぎて劇場に3回くらい観に行って、DVDもすぐに買って、いまだにイラッとすることがあると定期的に観てます(笑)

普段は“オブラートに包む”じゃないですけど、あえて分かるか分からないかの内面と表面のギリギリのラインを描く人が、それをおもいっきり全面に出して分かりやすくビジュアル化した作品だなっていう印象がありますね。

いまだに99%くらい初期衝動でしか作ってない

なんかネタ明かしみたいになっちゃったらアレなんですけど、“真逆のことをやりたい”っていうのはずっとあって。普段そんなに表に出るような職業でもないので個展のときくらい、しかも行くのはオープニングくらいであまり在廊もしないんですけど、そういう場でお会いする方たちによく言われるのは、皆さん作品から入ってくださってるので「ものすごく怖い人だと思ってた」っていう(笑)。あと「すごく意外だった」って言ってもらえることも多くて。

僕の場合どっちが本当なのか分かんないんですけど(笑)、自分の中にある暴力性みたいなものを全部作品に出していて、それをやってるから自分を作らなくていいのかなって。実際にはどうか分からないですけど、でも二面性としては同じくらい(この作品に)共感できる感じです。普段の生活では絶対にできないし、やったらアウトっていうことを全部作品にバーッて出す、ある意味作品が自分の中でのデトックスみたいな(笑)

普段からイライラすることもそんなにないですし、怒ることとかも少なくて。それは多分、そういう暴力的な内面を作品に全部出すことで、すごくスッキリしてるんだと思います。でも、例えば誰かと話す時に「自分はこういうふうに考えて作ってます」とかっていう話も普段は全然しないので、どっちかっていうと「何も考えてないです」とか「意味はないです」ってはぐらかすことが多くて。本当は裏に沸々とする何かがあって作ってるんですけど(笑)

作品を作るときって色々とコンセプトを立てて、段階を踏んで時間をかけて作られる方も多いと思うんですけど、いまだに僕は99%くらい初期衝動でしか作ってなくて。本当にその場でパッと思いついたことを、そのまんま何のリミットもかけずに思いっきりやってみるっていうのをずっと続けているので、もうライブに近い感覚ですね。

自分の中で消化しきれないことってあるじゃないですか、どうしても腹が立つとか(笑)。そういうのが作品で消化できる場合もあるんですけど、思うように作品がいかなくてとか、人間関係だったりとか色んなことでイラッとしてしまったときとかにこれを観返すと、ぜんぶ解決してくれる(笑)。自分に置き換えられるというか、けっこう“入れる”作品。別に自己投影するわけじゃなくて(笑)、「ああスッキリした」ってなれる作品だなって。

<河村康輔「『グッドフェローズ』はマフィアの弱さも見えて、“分かるな~人ってそうだよね”って(笑)」(2/5)>

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