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超絶イケメンがヨレヨレの殺人鬼を好演!? 主演ヨナス・ダスラーが語る『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』

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ライター:#佐藤久理子
超絶イケメンがヨレヨレの殺人鬼を好演!? 主演ヨナス・ダスラーが語る『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』
『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』(2019年)主演:ヨナス・ダスラー

実在の殺人鬼を演じたのは貴公子のようなイケメン若手俳優!

ファティ・アキン監督の最新作『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』(2019年)をご覧になった方が、ホンカ役ヨナス・ダスラーの写真を観たなら、信じられないと思うに違いない。あるいはその順番が逆なら、映画を観て驚愕することだろう。役に合わせて俳優がその外観をまったく変えるということは、優れた役者ならなおさら珍しくはないが、それにしても今回のケースには驚かされる。それぐらい素顔のダスラーは気品ある貴公子で、彼が演じた殺人鬼は醜く、無様で、恐ろしい。

『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』©2019 bombero international GmbH&Co. KG/Pathé Films S.A.S./Warner Bros.Entertainment GmbH

23歳のダスラーは舞台で活躍するかたわら、『善き人のためのソナタ』(2006年)で知られるフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督の『Never Look Away(原題)』(2018年)や、ラース・クラウメ監督の『僕たちは希望という名の列車に乗った』(2018年)で注目された後、本作のオーディションを受け、70年代にドイツに実在した連続殺人鬼、ホンカ役に抜擢された。

キャラクターの設定より20歳も年下のダスラーを選んだアキン監督は、その理由を「彼が次世代を担う素晴らしい俳優であるのはもちろんとして、彼の若さは役柄にある種の脆さをもたらしてくれると思った。それは脚本やメイクアップでは作れない、複雑さを役にもたらしてくれる」と語っている。

『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』©2019 bombero international GmbH&Co. KG/Pathé Films S.A.S./Warner Bros.Entertainment GmbH

果たしてダスラー自身は、どのような思いでこの難役に挑んだのか、話を聞いた。

「とても重要だったのは監督が『暴力を決して美化しない』と言ったこと」

―4人の女性を殺害したフリッツ・ホンカは、計算高い巧妙な殺人鬼ではなく衝動的で、幼少期に虐待を受けたトラウマを抱える社会の底辺にいる人間ですが、どんな経緯で演じることになったのですか?

普通にオーディションのプロセスを経たんだ。そしてファティ(・アキン監督)から電話があって、この役を演じて欲しいと言われた。僕は不安になって、「本当に? 僕はこの役を演じるにはずいぶん若いですが……」と言ったら、彼は「信用してくれ。僕の勘は確かだ。僕がついているから」と言われたよ。そんな風に言ってくれるのだからと、僕は彼を信頼した。そして、僕にとってとても重要だったことは、ファティと話したとき、彼がこの映画で暴力を決して美化しないと言ったことだった。そこに社会批判的な視点を込めることを彼は目指していたんだ。

『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』©2019 bombero international GmbH&Co. KG/Pathé Films S.A.S./Warner Bros.Entertainment GmbH

―それが殺人鬼を演じる上であなたを安心させたのですね。

そう。殺人鬼を魅力的に描いたり、ポップカルチャーのアンチヒーローのように描かないことが、とても重要だった。

―ホンカを演じる上で、何が一番困難でしたか? 精神的な面か、それとも年齢差も含めた外見的なトランスフォーメーションでしょうか。

ここまでの変身というのは過去にやったことがなかったら、毎日3時間も特殊メイクをすることに慣れるのは大変だった。

特にホンカの斜視を表現するための特殊なコンタクトレンズは大きくて、目がとても乾燥するので大変だったよ。でも、メイクのチームは素晴らしい仕事をしてくれて、それが大きな助けとなった。というのも、周りの人が僕を違う目で見ることで、その反応を肌で感じることができたから。ホンカは社会から疎外された人で、人々が彼に寄せる好奇な目が、彼に影響を及ぼしていたはずだしね。

『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』©2019 bombero international GmbH&Co. KG/Pathé Films S.A.S./Warner Bros.Entertainment GmbH

でも年齢のことは、それほど気にしなかったよ。それよりも彼の生い立ちや、彼が経験してきたことなどを考え、それを体に染み込ませようとした。つねに年上に見せなくちゃと考えていたら、クレイジーになったと思うよ(笑)。

『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』©2019 bombero international GmbH&Co. KG/Pathé Films S.A.S./Warner Bros.Entertainment GmbH

「精神科医でさえ説明できないのだから、僕なりのホンカを演じればいい」

―ホンカを演じる上で、彼に共感や、精神的なコネクションを持つことを必要としましたか?

いや、彼を正統化しようとは思わなかった。たぶん、彼のことを書いた原作(「The Golden Glove(英題)」)も原作者の見方が入った、実際の彼とは少し異なるものだろう。本当のところ、彼がなぜあんな殺人を犯したのか、人間にとってなぜこんな殺人が可能なのかということは理解できないし、ホンカがいた精神病院の医者も、彼の病を理解できないと言っていた。不運な子供時代を送った人は他にもいると思うけれど、彼らがみんな殺人鬼になるわけじゃないだろう。

『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』©2019 bombero international GmbH&Co. KG/Pathé Films S.A.S./Warner Bros.Entertainment GmbH

ともかく、医者でさえ説明できないのだから、僕なりのホンカを演じればいいと思うことにしたんだ。むしろ分析的ではなく、感覚的にアプローチした。実際、マスクを着けている間中ずっとホンカになりきっていたけれど、それでも彼に対する冷静な批評精神は持っていたよ。

―ホンカになったご自身をスクリーンで観るのはどんな気分でしたか?

とても居心地が悪かったよ(笑)。多くの俳優がそうかもしれないけれど、どんなに変貌しているからといっても、大スクリーンで自分を観るのには決して慣れない。自分で自分の癖などを見抜いてしまうし、映画を観ている間中「もっと巧くできたかもしれないのに」と思い続けるんだ(笑)。

『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』©2019 bombero international GmbH&Co. KG/Pathé Films S.A.S./Warner Bros.Entertainment GmbH

「最初はミュージシャンを目指していた。女の子にモテたかったから(笑)」

23歳にして、ドイツの若手世代を担う新鋭として注目を浴びるダスラーだが、もともとはミュージシャンになりたかったという。しかも、その理由が「女の子にモテたかったから」と聞くと、なかばジョークにしても似合わなすぎて(ただでさえモテるだろうに)笑ってしまうが、俳優の仕事に惹かれた理由を聞くにつけ、まっすぐで性格の良さが滲み出ている印象を受ける。

―なぜ俳優になりたいと思ったのですか?

正直に言うと、最初はミュージシャンを目指していたんだ。女の子にモテたかったから(笑)。10歳でギターを始めてから、パンクバンドをやっていた。ステージでみんなに観られるのはすごく快感だったよ(笑)。その感覚が、この仕事に惹かれた最初のきっかけかもしれない。そのあと演劇をやっていた先生から、自分のグループに参加しないかと誘われて芝居を始め、演劇学校に進学したんだ。

この仕事で僕が好きな点は、共同で何かを作り出すということだね。そこに喜びがある。テーマについて、キャラクターについて話し合うことは楽しいよ。僕にとってそれは学びであり、楽しみであり、友達ができることであり、幸福だ。演じることは面白いし、プロジェクトの一部になることは楽しいね。

―音楽はいまでもよく聴きますか?

うん、いまでもパンクはよく聴くよ。ドイツの実験的バンドであるアインシュテュルツェンデ・ノイバウテンは大好きだ。それまでまったくなかったような音楽を作り出している、イノベイティブで素晴らしいバンドだと思う。

取材・文:佐藤久理子

『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』は2020年2月14日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかロードショー

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『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』

1970年代、ハンブルク。留年が決定したペトラがカフェでタバコを咥えると、突然、男が火を差し出してきた。男はペトラが去った後も、その後ろ姿をじっと見つめている。

バー<ゴールデン・グローブ>。
カウンターの端にいつもフリッツ・ホンカは座っていた。女に酒を奢ろうと声を掛けても、「不細工すぎて無理」と振られるだけ。注文もせずにひとりでポツンと座る中年女にフリッツが一杯奢ると、そっと横にやってくる。「私はゲルダ。ありがとね」。フリッツとゲルダは店を後にする。

フリッツの部屋。
ゲルダには30歳になる独身の娘がいるらしい。「ぽっちゃりして、可愛い子よ。肉を売っているの」 「面白いな。娘を連れてこい」。ゲルダの娘に会うことを夢想するフリッツ。

バー<ゴールデン・グローブ>。
いつまでたってもゲルダは娘を連れてこない。フリッツは3人で飲んでいる娼婦たちに声をかける。「俺の家に来い。酒ならいくらでもある」。ひたすら酒を飲み続ける女たちは、言われるままにフリッツの家へ入っていく。

ある日、フリッツは車に突き飛ばされる。それを機会に禁酒するフリッツ。夜間警備員の仕事につき、真っ当に生きようと心に誓うのだった……。

制作年: 2019
監督:
脚本:
出演: