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「孤独だけど、孤立はしていない」深田晃司監督が語る最新作『ナギダイアリー』と日本映画の現状・未来

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ライター:#遠藤京子
「孤独だけど、孤立はしていない」深田晃司監督が語る最新作『ナギダイアリー』と日本映画の現状・未来
深田晃司監督
© 2026 ナギダイアリー・パートナーズ (スターサンズ/八朔ラボ/ワンダーストラック) / Survivance / Momo Film Co.
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カンヌ映画祭出品『ナギダイアリー』
深田晃司監督が語る制作秘話

自衛隊の駐屯地と現代美術館がある岡山県奈義町。深田晃司監督の『ナギダイアリー』は、そこに暮らす人々の小さなコミュニティを細やかに描く。平田オリザさんの会話劇「東京ノート」を、奈義町現代美術館を舞台に映画化しないかとオリザさん自身から招かれたことをきっかけに、実際に奈義町に滞在してオリジナルの脚本を執筆し、出来上がった作品だ。

© 2026 ナギダイアリー・パートナーズ (スターサンズ/八朔ラボ/ワンダーストラック) / Survivance / Momo Film Co.

彫刻家の寄子(松たか子)のもとに、元義理の妹であり友人の友梨(石橋静河)が訪ねてくる。寄子は子どものための美術教室を開いていて、寄子の家はの中学生の居場所にもなっていた。

さまざまな人々が緩やかにつながった社会。そこには自衛隊の駐屯地もあり、登場人物の中には自衛隊員もいる。複雑に見えるがシンプルな社会を描き出した、深田監督に話を聞いた。

© 2026 ナギダイアリー・パートナーズ (スターサンズ/八朔ラボ/ワンダーストラック) / Survivance / Momo Film Co.

 

※文中の社会観はインタビュアーとインタビュイー個人のものであり媒体を代表した意見ではありません

「根幹は、企画の出発点になった『東京ノート』という作品」

――すごい勇気だなと思ったんです。セクシュアルマイノリティの女性が主人公であるという点では保守系の反発を招き、自衛隊が描き込まれているという点ではオールドリベラルの反発を招きかねない。両方を描かれたのは現実から目を背けても仕方ないということですか。

奈義町とあの土地をモチーフにして描こうとしたときに、自衛隊があるのは奈義町の日常なんですね。奈義町には自衛隊があるけれど、それは奈義町のためにそこにあるのではなく、私たちのためにある。日本に住んでいれば当然みんな自衛隊と関係するわけで、自衛隊を描くのは当たり前のことだと思ったんです。と言いながらも、べつに自衛隊を描かなくてもいいと言えばいいんですが、やっぱり“音”ですよね。

奈義町に住んでいてすごく印象的だったのは、大砲の音が日常的に鳴っている。毎日ではないんですが、訓練の日になると朝から夕方まで鳴っていて、でも町の人たちは慣れていて、ほとんど誰もそれを気にしていない。日常の中に、ある種、自衛隊が溶けこんでいる感覚がすごく印象的で、それを映画に残したいというのはありました。

© 2026 ナギダイアリー・パートナーズ (スターサンズ/八朔ラボ/ワンダーストラック) / Survivance / Momo Film Co.

――松たか子さん演じる寄子という役柄は、どのように作り上げていったんでしょうか?

脚本執筆に9年近くかかったので、その中でどんどん変わっていったんですが、ただ、奈義町という地方を題材にする上で、物語を作るベースをどこにしたいかと思ったときに、やっぱり家父長制については向き合わざるを得ないと思い、独りで暮らしている女性の話にしようとは思ったんです。

その中で、周りからどういうふうに見られているかを考えていったんですが、根幹になったのは、今回の企画の出発点になった「東京ノート」という作品でした。女性2人と男性3人の5人の姉弟が東京に来ていて、そのうちの一人、松田弘子さんという俳優さんが演じていた長女だけは田舎に残って、ずっと親の介護をしながら暮らしている。そのキャラクターのイメージが自分の中にあったんだと思います。

それで寄子のイメージができて、そもそも美術館を入口にして奈義町にたどり着いたので、美術家を主役にしよう、となっていきました。その中でセクシュアルマイノリティの女性であるということも、だんだんと固まっていったという感じです。

© 2026 ナギダイアリー・パートナーズ (スターサンズ/八朔ラボ/ワンダーストラック) / Survivance / Momo Film Co.

「寄子は“孤独だけど、孤立はしてない”。周囲の環境や人々と関わりながら生きている」

――彫刻も非常に印象的でした。絵画ではなく彫刻にしたのは、あれだけ広いアトリエが確保できるとか、素材が木であるということからでしたか?

そこは、じつは後からくっついてきた感じで、最初に彫刻家にしたのはもう、ほぼ直感ですね。ジャック・リヴェット監督の『美しき諍い女』(1991年)がすごく好きで、画家とモデルが向き合う時間はすごく映画的だなと思っていて。その中で対話も生まれてくるのが好きなんですが、ただ自分も過去の映画で“画家とモデル”といったシチュエーションを描いたこともあって、今度は別のものをやりたかったので、単なる思いつきで「だったらもう彫刻家だな」というところからスタートしたんです。

でも思った以上に悪くない直感だったのは、奈義町で寄子が一人で芸術に向き合っていて、それが彫刻であるというのは、非常に合理的だったんですね。映画の中でも出てきますが、彫刻だとどうしても騒音の問題もあるし、(奈義町なら)場所も広いので、町と寄子の生活を有機的に結びつけることができました。

東京だと彫刻家は珍しいんですよね、木材を買うのも高いですから。実際、奈義町の近隣に住む彫刻家の方にも取材させてもらったんですが、林業地域なのでだいたい周りで手に入るから、木材は買ったことがないと。

だから寄子が、それこそ「孤独だけど、孤立はしてない」、奈義町に住みながら周囲の環境や人々と関わりながら生きているということを、理屈じゃなく言葉じゃなく、より具体的に描くことができると思いました。

© 2026 ナギダイアリー・パートナーズ (スターサンズ/八朔ラボ/ワンダーストラック) / Survivance / Momo Film Co.

――彫刻家の方は、どのようにして見つけたんですか。

吉田愛美さんは人からの紹介ですね。女性の彫刻家にお願いしたいというのもずっとあって、“女性で彫刻家で木彫”となると、それでだいぶ選択肢が絞り込まれてきて、そういった中で自分でもインターネットでいろいろ見たり、知り合いから紹介してもらったりした中で、作品がいちばん寄子の彫刻のイメージに近かった方が吉田さんだったので、連絡を取って映画に関わってもらうことになりました。

撮影メイキング © 2026 ナギダイアリー・パートナーズ (スターサンズ/八朔ラボ/ワンダーストラック) / Survivance / Momo Film Co.

「見えないルールに影響を受けて、縛られている。顔色を見てしまう。これはすごく日本的」

――石橋静河さんが演じる友梨という役柄が、いちばん家父長制をくらっている女性という感じがしまして、たとえば「別れた嫁が彼の実家に泊まってるのは変なのか」というのは、家制度みたいなことに縛られているから感じる疑問ですよね。自分たちを個人として捉えていない。しかも、自分の仕事内容が家父長制の影響を受けてしまっていたということに気づいて離婚している人です。友梨の役柄、台詞はかなり意図的につくっていかれたんでしょうか。

そうですね、友梨が建築家としてやっていく上で、仕事で悩んでいる理由のひとつに、男性社会の中での生きづらさを感じていたり。建築家に限らず、当然、奈義町に限らず地方ではやっぱり家父長制が色濃く残っていると思いますが、じゃあ都会にはもう家父長制がないかといったらそんなことはないわけで、都会のほうが自由に見えても、じつはまだ影響下にあるイメージなんですよね。そういった価値観をみんな内面化しながら生きてしまっているから、自由に生きているように見えるけれど、ふとした瞬間に、それにとらわれてしまう。

都会でも、たとえば女性が離婚したら相手の親族と関係が断たれてしまうって、たぶんいまでもよくあることだと思うんです。本来、個人なんだからべつに会えばいいじゃんって思うんですが、ひとつブレーキがかかってしまう。それは私たちの中でも空気のように当たり前になって、社会常識という形でルール化されてしまっている。その家父長制みたいなものの見えないルールに影響を受けて、縛られている。顔色を見てしまう。これはすごく日本的だなと思います。もう地方も東京も関係なく。

© 2026 ナギダイアリー・パートナーズ (スターサンズ/八朔ラボ/ワンダーストラック) / Survivance / Momo Film Co.

――石橋さんとは、友梨という役柄をどのように作り上げていかれましたか?

脚本を読んでもらって、まずは委ねるので、そんなに話しこんだりといったことは別になかったですね。基本的に自分がいいなと思う俳優さんは、「監督の言う通りやりますよ」という人じゃなく、アーティストとして主体的に脚本を読みこんでくれて、アウトプットしてくれる俳優さん。そのほうが自分がやっていて楽しいなと思うので、まずは俳優さんが脚本やキャラクターをどう読みこんで出してくるかを見たいと思っています。よっぽど何か違ったり、わからないときに相談されたら自分なりに回答はするんですけど。これはどういう役だから……ということをそこまで話しこんではいないですね。

© 2026 ナギダイアリー・パートナーズ (スターサンズ/八朔ラボ/ワンダーストラック) / Survivance / Momo Film Co.

――じゃあもう今回は本当にスムーズに。

はい、脚本を石橋さんが読みこまれて、あとは撮影前に具体的なリハーサルを重ねて、どういうふうに喋るのか、どういうタイミングで喋るのかという調整を、具体的に重ねていきました。

次ページ:「資本に依存した表現は保守化しやすい」
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『ナギダイアリー』

自然豊かな町「ナギ」。この地でひとり創作に打ち込む彫刻家の寄子のもとに、弟の元妻で建築家の友梨が、休暇をとって東京から訪れる。義理の“元姉妹”である友梨をモデルに彫刻を制作する数日間。若くして妻を亡くした好浩、その息子の春樹と親友の圭太――。異なる場所で生きる寄子と友梨の再会は、穏やかだったナギの日常に小さな揺らぎをもたらしていく。

監督・脚本:深田晃司
出演:松たか子 石橋静河
   川口和空 藤原聖 藤間爽子 水間ロン 申瑞季
   松山ケンイチ

制作年: 2025