「アル・パチーノは、すごくハードコアだった」ガス・ヴァン・サント監督が『デッドマンズ・ワイヤー』の音楽&キャストを語る
ガス・ヴァン・サント監督が最新作『デッドマンズ・ワイヤー』を語る
ガス・ヴァン・サント監督の新作『デッドマンズ・ワイヤー』は、借金苦からローン会社社長を恨んで、ショットガンをワイヤーに結びつけた装置(通称デッドマンズ・ワイヤー)を社長の息子の首にくくりつけて誘拐し、自宅に閉じ籠った男の実話をもとにしたサスペンス映画だ。人気DJをスポークスマンのように扱ってメディアの寵児となった犯人をビル・スカルスガルド、被害者をデイカー・モンゴメリー、DJをコールマン・ドミンゴ、ローン会社社長をアル・パチーノが演じる。
素晴らしい選曲と、1977年に起こった実際の事件をテーマに描こうとしたものとは? オンライン単独インタビューで監督に聞いた。
『デッドマンズ・ワイヤー』© 2025 Starlight Digital Ventures, LLC. All Rights Reserved.
「革命はテレビで放送されない」
――なぜギル・スコット・ヘロンの「Revolution Will Not Be Televised」をエンディング曲に選んだのでしょうか?
あの曲が大好きだからだよ。フレッド・テンプル(コールマン・ドミンゴが劇中で演じる人気DJ)もアシスタントに「ギル・スコット・ヘロンを聴け」と勧めるしね。
――フレッド・テンプルはフィクションではないんですね。
原作にもDJが出てくるんだけど、苗字が違ってフレッド・ヘックマンというんだ。彼のキャラクターは映画とまったく同じなんだけれど、番組は映画とは違ってもっとニュース番組に近くて、音楽もかけていた。コールマン・ドミンゴがフレッド・ヘックマンを演じることになったから名前を変えたんだよ。
60年代後半か70年代のニューヨークにロスコー(Rosko)というディスクジョッキーがいたんだ。彼はアフリカ系アメリカ人で、彼の番組はすごかった。まるで詩を読んでいるみたいで、政治的なメッセージのある政治的な音楽をかける。彼なら「Revolution Will Not Be Televised」をかけただろうし、デオダートもかけただろうね。
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映画の始めにデオダートの曲がかかるだろう? 劇中でフレッドがかける曲はロスコーから来ているんだ。それでコールマンには、ロスコーのラジオ番組のテープを渡した。たぶんWNEWラジオで、“1968年”“ロスコー”で探せばネット上で聴けるんじゃないかな。そのDJから作り出したんだ。
――ギル・スコット・ヘロンのこの曲は、とくに当時のマスコミを批判しているものですよね。
ギル・スコット・ヘロンは暴力や戦争や人権問題やあらゆることを批判しているけれど、そうだね。もし革命が起きたらまずテレビ局が潰されるから、彼はそのせいで革命を報道できなくなるのでは、と考えたんじゃないかと思っているんだ。
――でも、今日の状況にそっくりじゃないですか。テレビ業界が信頼を失ってしまっていますし。
そうだね。革命はテレビで放送されない。メディア企業が経営しているし、検閲も受けているからだ。
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「トニーにも有害な男らしさがあるし、ディックの父親にはもっと有害な男らしさがある」
――私が驚いたのは、本当にあんな事件が起きたということなんです。当時、監督は24歳か25歳だと思いますが、この事件をニュースで見たり聞いたりしたんですか?
数年前にこの脚本を読むまで聞いたこともなかったよ。中西部で起こった事件で、新聞には載ったんだろうけれど、その記事は読まなかった。読みそこなったんだね。ほかにも過激派がテレビ局を乗っ取った事件などもあったんだけれど、知らなかった。そういうことを知らなかったのと同じように、トニーの事件も知らなかったんだ。
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――そうなんですね。それで、映画の最後に実物のトニーとディックの当時の写真が出ますよね。人質のディックはすごくアングロサクソンらしくて体格も良くて、でも犯人のトニーは小柄なので、ああいう判決になるのも不思議はないなと思ってしまいました。でも映画でトニーを演じるのはビル・スカルスガルドで、背も高いしハンサムですよね。トニーを弱々しく描くのを避けたということなのでしょうか?
いや、ビルは危険な感じのルックを持っていると思ったからだよ。僕は、誰がトニーを演じるのがいいか思いついていなかったんだけど、ビル・スカルスガルドが主役をやったら面白いと思ってね。たしかに彼は背が高いけれど、この役を演じたらすごいだろうと思ったんだ。
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――なるほど。アル・パチーノが演じるM・L・ホール(ディックの父親)がまた、すごく傲慢ですよね。監督はフロリダでのシーンで、ウェイターがブリトーを持ってくるとわかっているのに食べないシーンで、M・Lの傲慢さを的確に描いていますが、彼が断固として謝罪しないことで状況がどんどん悪化していきます。それでうかがいたいのですが、監督には有害な男らしさを描く意図もおありだったんでしょうか。
そうだよ。トニーにも有害な男らしさがある。だからこそ、ああいう考え方になってああいう行動に出たんだと思う。もちろんディックの父親にはもっと有害な男らしさがあって、それでトニーを気に入っていたんだ。だからトニーに融資していた。でもトニーが借金を払えなくなって、こういうことになったんだと思う。それであの父親は「OK、これまでだな」と言うんだけど、トニーはそうなることが理解できないんだ。
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「これこそがアル・パチーノの演じ方だ! と思ったよ」
――トニーも謝罪に固執して状況を悪化させていきますよね。ディック役はデイカー・モンゴメリーが演じていますが、実際のディックよりもっと弱々しい感じで、誰も彼を助けようとしないのが本当にショックでした。モンゴメリーのキャスティングは、どのように決まったのでしょうか?
デイカーは背が高くないし大柄でもないけれど、実際の事件で人質にされたリチャードに似ていると思ったんだ。リチャードはかなり体格がよかったんだけど、僕はデイカーの前作が気に入っていてね。それで彼が何かやってくれると思った。実際のリチャードが持っていたのと同じで、なおかつ新鮮な何かを物語に与えてくれるんじゃないかと。彼はいい俳優だからね。
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――はい。彼はすごく犠牲者らしく見えるんですよね。
うん。彼こそが犠牲者なんだ。
――男性なのに、有害な男らしさの犠牲者に見えるんです。
首に銃を突きつけられていて、どうなるかわからず殺されるのを恐れているんだからね。
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――それで父親は、じつは弱い人間なんじゃないかと感じたんです。息子が人質になっているのに、彼の強さを誇ったりして現実を直視できていないし、フロリダから自分の会社に戻ってもきませんよね? こういうシーンで彼の弱さを描こうとしたんでしょうか。
彼は、何を言ったとしてもそれが裁判の証拠に使われるとわかっていて、謝罪しようとしなかったと思うんだ。録音されていたわけだからね。だから「俺は謝るつもりはない」と言い続けた。謝るとトニーの言い分を肯定することになってしまうし、トニーは借金を払っていなかったわけだから、そんな彼に同意なんてしない。アル・パチーノはすごくハードコアで、これこそがアル・パチーノの演じ方だ! と思ったよ。
――はい、素晴らしい演技でした。貴重なお時間をいただきありがとうございました。
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取材・文:遠藤京子
『デッドマンズ・ワイヤー』は7月17日(金)より全国公開
『デッドマンズ・ワイヤー』
インディアナポリスに住む中年の独身男性トニー・キリシス(ビル・スカルスガルド)は不動産ローン会社メリディアン・モーゲージ社に全財産を騙し取られたとして、同社に押し入り社長の息子で役員のディック・ホール(デイカー・モンゴメリー)を人質に取り立てこもりを始める。自分の首と人質の首をショットガンとワイヤーで固定、ヘタに動けば自動発砲される“デッドマンズ・ワイヤー”という装置を使い、同社からの謝罪や補償を訴えた。
地元警察が全く身動きを取れない中、トニーはメリディアン・モーゲージ社の悪を暴露しようと人気ラジオ番組に電話をかけ、番組のDJフレッド・テンプル(コールマン・ドミンゴ)を巻き込んで自分の訴えを電波に載せた。モーゲージ社の代理人がTVカメラの前でトニーの要求を受け入れるような声明を発表するが、彼はM・L・ホール自らの謝罪がまず重要としてこれをすべて拒否。事件が好転する兆しが見えない中ついにFBIが出動しトニーのプロファイリングを始め、警察は突入の準備を進める。また、現場には爆弾が仕掛けられている疑いがあり爆弾処理班が出動するなどトニーに対する包囲網は徐々に固められていくのだった。
そんな中、トニーは次なる一手として犯行現場に米3大ネットワーク局を始めとするメディアを呼び、ディックにデッドマンズ・ワイヤーを突きつけたままの記者会見を行う。メディアを通したトニーの訴えは世論を二分し、アメリカ中に大混乱を巻き起こす。そして、ついにトニーとM・L・ホール社長(アル・パチーノ)の電話がつながるのだが……。
監督:ガス・ヴァン・サント
音楽:ダニー・エルフマン
出演:ビル・スカルスガルド、デイカー・モンゴメリー、ケイリー・エルウィス、マイハラ、コールマン・ドミンゴ、アル・パチーノ
| 制作年: | 2026 |
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2026年7月17日(金)より全国公開