「監督と会って5分でケンカした(笑)」マッツ・ミケルセンが赤裸々に語る『さよなら、僕の英雄』とコメディへの愛
盟友アナス・トマス・イェンセン監督と再タッグ
マッツ・ミケルセンが主演作『さよなら、僕の英雄』を語る
とても気さくで自然体なのにクールで、ワイルドだけどお茶目でもあるゆえに、日本でも絶賛愛され中のマッツ・ミケルセン。彼の待望の新作は、初監督作からすべての作品で彼とコラボレーションを果たしてきたデンマークの盟友、アナス・トマス・イェンセンの『さよなら、僕の英雄』だ。
『さよなら、僕の英雄』© 2025Zentropa Entertainments4ApS & Zentropa Sweden AB.
あまりに奇想天外なことがふつうに起こる暴走物語で、ミケルセンは記憶力に問題があり、自分をジョン・レノンだと思い込むちょっとネジの外れた兄マンフレルに扮する。弟アンカー役のニコライ・リー・コスとのでこぼこコンビぶりは、強烈なユーモアを含みながらも兄弟愛に満ち、ほろりとさせられる。
本作がワールドプレミアを迎えた昨年のヴェネチア国際映画祭で、マッツに話を訊いた。
この投稿をInstagramで見る
「あの髪型はうまくいったと思うよ(笑)」
――マンフレルは記憶を失い、どんな行動にでるかわからない突拍子もない人間という設定ですが、どのようなアプローチをされたのでしょうか。何か具体的な病気のリサーチなどをされたのでしょうか。
いや、あえてリサーチはしなかったよ。はっきりとした病名が書いてあったわけではないから。僕は彼を子どものようにとらえてアプローチした。5、6歳ぐらいの子どもだね。ずっと弟の世話になってきて、いまもその関係が変わらない兄。だから一緒にいるのが難しい、ナルシストで自己中心的な子供としてとらえた。でも同時に、世界をとても純粋に美しく見ているところもある。
アナス・トマスは、具体的な病気を描くことにこだわっていたわけじゃないと思う。むしろそんな兄と弟の関係を描くことに興味があったんだ。
――あの髪型と服装にまずやられました(笑)。
あれはアナス・トマスとアイディアを出しあって決めたんだ。何かとても特徴的な感じにしたかったのと、弟のアンカー役のニコライとメリハリをつけたかった。自分が考えるといつもやり過ぎになりがちなんだけど、あの髪型はうまくいったと思うよ(笑)。
『さよなら、僕の英雄』© 2025Zentropa Entertainments4ApS & Zentropa Sweden AB.
――笑いながらも呆然とさせられたり、ほろりとさせられたりする作品だと思いますが、あなたにとって本作のファニーなところと、エモーショナルなところはなんでしょうか。
ファニーなところは、そうだな、病院の廊下を歩いていて、突然マンフレルが窓から飛び降りるところかな。あの場面は編集も一切してない。いきなり飛び降りるから、一緒にいたアンカーはびっくりする。しかもマンフレルは手じゃなくて顔から着地する。僕にとっては、とてもバスター・キートン的なシーンで大好きなんだ。ニコライがびっくりする顔はすごく可笑しいと思う。他にも、マンフレルが車からいきなり飛び降りるシーンがあるんだけど、それはマンフレルにとってベストのコミュニケーション手段なんだ。
エモーショナルなところは、やはり兄弟の絆だね。彼らはお互い相手の、他の誰にも見えないところが見えている。映画の中で印象的なシーンに、たしかふたりがベッドに横になりながら、アンカーが「なぜジョンになりたいんだ?」と訊くと、マンフレルが「だってみんなが僕のことを好いてくれるから」と言って、いろいろ支離滅裂なことを言い始めるところがある。それでうんざりしたアンカーが、「ジョンだから(好かれるのか)?」と訊くと、マンフレルは「そう、ジョンだから」と答えるんだけど、そこで彼は自分が本当はジョンでないことに少し気づくんだ。あのシーンはちょっとほろっとさせられたね。
『さよなら、僕の英雄』© 2025Zentropa Entertainments4ApS & Zentropa Sweden AB.
「“ただ面白くあること”が目的にならないように気をつけている」
――コメディを演じるのはドラマよりもチャレンジングだと思いますか。
コメディを、ただ笑わせることが目的のコメディとして演じるのは難しい。でもこの映画はたんなるコメディ以上のものだと思う。むしろ狂気に包まれた詩的な物語だからこそ、ときおり笑いが生まれるんじゃないかな。それがアナス・トマスの物語の語り方だ。
この投稿をInstagramで見る
彼は人生について何か大きなことを伝えたいけれど、それを偉そうに言うのは気取っていると感じる。だから、いわば回りくどい言い方をする。でも僕はそういう語り口が好きだ。ただのジョークの連続みたいなコメディなら、僕は向いていないかもしれない。自分自身、そういう映画はあまり好きじゃないしね。
僕が大好きなコメディはいくつかあるけれど、どれもキャラクター主導。たとえばマーティン・スコセッシの『キング・オブ・コメディ』(1982年)はお気に入りの1本で、すごく笑えるんだけど、それは主人公がめちゃくちゃクレイジーで、彼は自分の姿を客観的に見ることができないから。それは観ていてすごく可笑しい。
『さよなら、僕の英雄』© 2025Zentropa Entertainments4ApS & Zentropa Sweden AB.
――笑いのツボというのは文化とも密接に関わったものだと思いますが、本作のユーモアは北欧特有のものだと思いますか? ちなみに英題も『The Last Viking』と北欧性を打ち出していますよね。
たしかに、僕たちはブラックユーモアで知られているかもしれない。この映画もとても北欧っぽいところがある。ただそれ以上に、やっぱりこのユーモアはアナス・トマス特有のもので、他の類を見ないと思う。彼はユーモアのセンスと、世界を逆さまに捉える視点、そしてその本質を詩的に表現する能力を、とてもユニークな形で融合させていると思う。
『さよなら、僕の英雄』© 2025Zentropa Entertainments4ApS & Zentropa Sweden AB.
――あなたとイェンセン監督とのコラボレーションは25年に及びますが、それは仕事関係に限りますか、あるいはプライベートでも交流されているのでしょうか。また彼との仕事のプロセスはどのようなものですか。
彼とはプライベートでも交流をしているよ。幸いずっといい友だちのままだ(笑)。仕事のプロセスはいつも同じで、彼がまずストーリーを持ち込んで一緒に話し合う。だからまずストーリーありきと言える。彼の脚本はいつもとても可笑しいから、ファニーになるのは恐れない。
でも気をつけていることは、ただ面白くあることが目的にならないようにすること。さっきも言ったように、いつもキャラクターを主体にした面白さであるべきだと思う。だから演じる上で多少変えていくことはあるけれど、ベースはつねに彼が書いたものだ。
『さよなら、僕の英雄』© 2025Zentropa Entertainments4ApS & Zentropa Sweden AB.
「アナス・トマスと初めて会ったとき、5分もしないうちに喧嘩になった」
――イェンセン監督は、かつてあなたと初めて会ったとき、出だしは最悪だったと語っていたのですが、あなたの言い分はいかがでしょう?
僕らの言い分が食い違うとは思わないよ(笑)。彼はほら吹きだけど、僕もそうだ(笑)。初めて会ったときは5分もしないうちに喧嘩になったんだ。
――いったいなにが原因だったのですか!?
原因が何だったかは、もう覚えていないな。なんだって理由になっただろうね(笑)。僕らはお互いに掴みかかって、さらにそばにいたふたりの俳優が僕らをなんとかしようとして、カバンで殴りかかってきた(笑)。で、そのあと3週間くらい経って彼から電話があって、自分の最初の映画に出ないかと言われたんだ。
――じゃあ、ある種テストだったとか?
かもしれないね(笑)。いったいなんでそんなことになったのかわからないけれど。でもともかく、いいスタートになったよ。だってもう、それ以上(関係が)悪化することはないだろうから(笑)。
この投稿をInstagramで見る
――いまでもお互いに学び合っていると思いますか。
そう思う。彼は僕ら俳優を、自然と何かを学べるような状況に押し出していると思う。彼が具体的に何か指示を出すことがないわけではないけれど、むしろ自然に何かを学べるような状況に僕らを置くことに長けている。僕が他の監督たちと仕事をするときに大胆でいられるのは、彼と長いこと仕事をしてきたおかげだ。それに彼やニコライとなら、とても早く大胆な状態になれる。
『さよなら、僕の英雄』© 2025Zentropa Entertainments4ApS & Zentropa Sweden AB.
「つねにいまを生き、キャリアに関しては一切野心を抱かないようにしている」
――あなたは現在60歳ですが、年齢を気にすることはありますか。
“たんなる数字だ”と言いたいところだし、最近まではずっとそう思っていた。でも残念ながら僕は数学が得意でね(笑)。“やれやれ、人生の峠は超えてしまった”と思うわけだ。今の状況はエキサイティングだし、子どもや孫たちを見ているのも楽しい。だからまあ、そういうものだと深く考えないようにしているよ。でもこうやって質問を受けると、現実的に考えないわけにいかなくなるから厄介だね(笑)。
『さよなら、僕の英雄』© 2025Zentropa Entertainments4ApS & Zentropa Sweden AB.
――では仕事的にはこれまでまだやっていないことで、これからどんなことをやりたいと思っていらっしゃいますか。
先のことは考えないタチなんだ。「こういう映画を作りたい」とか、「この役を演じたい」なんて夢見たことはない。ただその瞬間を生きてきただけ。誰かが僕に、何かに参加してくれと言って、それをやってきた。もしそれが気に入れば、それが僕の夢になる。
この仕事ですべては達成できたと思えればそこで終わるけれど、幸運なことにまだそれを達成していないから、また次の挑戦がある。僕はつねにいまを生き、キャリアに関しては一切野心を抱かないようにしているんだ。
――じゃあこの監督と仕事がしたい、などとも思わないのですか。たとえばスコセッシ監督とか。
彼とはもちろん機会があれば仕事がしたい。実際に会ったときにそういうことも伝えたから、彼はもう知っているはずだ(笑)。
‘Martin Scorsese ile çalışmak en büyük hayallerimden biri.’ (Mads Mikkelsen, 2023)
Mads Mikkelsen, Martin Scorsese’in yeni filminin kadrosuna katıldı. pic.twitter.com/ibLdJXgNmw
— Movie Graf (@MovieGrafMG) December 20, 2025
取材・文:佐藤久理子
『さよなら、僕の英雄』は6月19日(金)より全国公開
『さよなら、僕の英雄』
強盗事件での服役を終えたアンカーは、逮捕前に大金を預けた兄・マンフレルと15年ぶりに再会。しかしマンフレルはその隠し場所を忘れ、自分をジョン・レノンだと思い込んでいた……。生まれ育った実家の森に埋められているはずの大金を掘り起こそうとするも、どうにも見つからない。そこでアンカーは精神科医とともに、マンフレルの記憶を取り戻すためビートルズの再結成を決意。ところが現れたのは珍客ばかりで、事態は混乱の一途をたどっていく。
監督:アナス・トマス・イェンセン
出演:マッツ・ミケルセン ニコライ・リー・コス ソフィー・グローベール ソーレン・マリン ボディル・ヨルゲンセン ニコラス・ブロ
| 制作年: | 2024 |
|---|
2026年6月19日(金)より全国公開