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タランティーノが描きたかった<復讐劇>とは?『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

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ライター:#松崎健夫
タランティーノが描きたかった<復讐劇>とは?『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

テレビの普及で映画産業が斜陽となった“その後のハリウッド”

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の題材となっている<シャロン・テート殺人事件>が起こったのは、1969年8月9日。つまり2019年の8月で、事件から50年が経過したことになる。この節目とも言える時期に公開を合わせたことは、この映画にとって殺人事件の顛末を描くことが重要な要素だと裏付ける。

同時に筆者は、クエンティン・タランティーノ監督が描きたかったことには、もうひとつ別の要素があるのではないかと感じている。それは、1950年代のアメリカでテレビが一般家庭に普及したことで映画産業が斜陽となった“その後のハリウッド”を、ある視点で描くことにあるように思うからだ。その理由が、いくつかある。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

多くの登場人物が入り乱れる群像劇、粋な台詞に粋な会話、偏愛的な映画の引用、時代と設定を表現する既成楽曲の選曲、そして、どこかユーモアを伴った過剰なバイオレンス描写。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』には、これまでクエンティン・タランティーノが監督してきた作品と同様の特徴を指摘できる。ブライアン・デ・パルマ監督、ジョン・トラヴォルタ主演の『ミッドナイトクロス』(1981年)をベスト映画の1本に挙げているタランティーノは、『パルプ・フィクション』(1994年)の主演に憧れの俳優であったトラヴォルタを起用。このように偏愛映画からの数珠繋ぎで、憧れの人材を作品に起用することもタランティーノ作品の特徴だ。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

タランティーノはハワード・ホークスを敬愛する映画監督のひとりに挙げているが、ホークスの『暗黒街の顔役』(1932年)を『スカーフェイス』(1983年)としてリメイクしたのもデ・パルマだったという繋がりがある。『スカーフェイス』は4文字の放送禁止用語を主人公が連発することで、公開当時の記録を作った映画だが、『レザボア・ドッグス』(1991年)における会話のあり方は、その影響下にあることが論じられてきた。その流れで、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』には『スカーフェイス』に主演したアル・パチーノが出演している点も話題となっている。

マカロニでキャリアを巻き返したイーストウッドと、レオ演じる主人公

アル・パチーノが演じているマーヴィン・シュワルツは、『100挺のライフル』(1968年)や『ソルジャー・ボーイ』(1972年)を製作した実在の人物。彼は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で、レオナルド・ディカプリオ演じるリック・ダルトンに、イタリア製西部劇への出演を薦める役割を担っている。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

リック・ダルトンは、1950年代にテレビの西部劇で人気を博した俳優という設定。テレビの西部劇で人気を博した俳優が、イタリア製の西部劇、いわゆる<マカロニ・ウエスタン>に出演するという流れは、テレビの西部劇『ローハイド』(1959年~)で人気を博すも、キャリアが停滞していたクリント・イーストウッドがイタリア製西部劇『荒野の用心棒』(1964年)でキャリアを巻き返したという史実を想起させる。

ダルトンは実在しない架空の人物だが、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』には、対照的な映画スターとしてダミアン・ルイス演じるスティーヴ・マックィーンが登場する。マックィーンもまた、テレビの西部劇『拳銃無宿』(1958年~)で人気を博したのだが、イーストウッドと異なるのは『荒野の七人』(1960年)の助演で、映画スターへの転身に成功したという点。イーストウッドは現在も現役の映画人、一方のマックィーンは1980年に早逝。意外に思うかもしれないが、ふたりは共に1930年生まれなのだ。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

『ローハイド』と『拳銃無宿』の放送時期が重なっていることを考えると、『荒野の七人』と『荒野の用心棒』の間にある4年という期間の違いには、キャリアの浮き沈みに対してかなり重いものがある。

“代わりの復讐”を描いてきたタランティーノがブラピ演じるスタントマン・クリフに込めた想い

クエンティン・タランティーノのイタリア製西部劇への偏愛・敬愛は、『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012年)や『ヘイトフル・エイト』(2015年)から推し量ることができるだろう。

誰かの“代わり”に正義を貫くという<復讐劇>である点もタランティーノ作品の特徴だが、イタリア製西部劇にも<復讐劇>が多いという特徴がある。映画史的には、1950年代にテレビが普及し、映画の人気ジャンルだった西部劇のドラマを量産したため、西部劇というジャンルそのものが衰退したという経緯がある。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

やがて、テレビの西部劇に対しても視聴者は食傷気味となり、こちらも衰退。その“代わり”に人気を呼ぶのがイタリア製西部劇だと考えると、西部劇スターのハリウッドに対する<復讐劇>であるとも深読みできる。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

リック・ダルトンの相棒クリフ・ブースを演じるブラッド・ピットは、彼のスタントマンという設定。つまり、スタントマンは誰かの“代わり”に危険な仕事を引き受ける立場にある。『レザボア・ドッグス』で耳を削がれる警官、『パルプ・フィクション』における時計のエピソード、『キル・ビル』(2003年)や『イングロリアス・バスターズ』(2009年)の復讐など、誰かの“代わり”を描いてきたタランティーノが、映画の冒頭でクリフがリックの“身代わり”になったことを説明するくだりは、単なる偶然ではない。

文:松崎健夫

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』 CS映画専門チャンネル ムービープラスで2021年6月放送

 

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『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

レオナルド・ディカプリオ × ブラッド・ピット初共演!
1969年8月9日、事件は起こった。この二人にも ─ ラスト13分、映画史が変わる。

制作年: 2019
監督:
出演: