• BANGER!!! トップ
  • >
  • 映画
  • >
  • デヴィッド・リンチ『ストレイト・ストーリー』4Kリマスター公開!脚本家スウィーニー氏が明かす〈リンチの創作術〉

デヴィッド・リンチ『ストレイト・ストーリー』4Kリマスター公開!脚本家スウィーニー氏が明かす〈リンチの創作術〉

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook
ライター:#遠藤京子
デヴィッド・リンチ『ストレイト・ストーリー』4Kリマスター公開!脚本家スウィーニー氏が明かす〈リンチの創作術〉
『ストレイト・ストーリー 4Kリマスター版』© 1999 – STUDIOCANAL / PICTURE FACTORY – Tous Droits Réservés
1 2

「デヴィッドはこの社会で起こることからインスピレーションを受けていたと思います」

――アメリカの中西部には、アルヴィンのような方が多いんですか?

そうですね、(映画の)アルヴィンは、お子さんから教えてもらったアルヴィン本人についての真実と、私が育ってきた場所で見てきた人々から作り上げられています。私が育ったマディソンは大学があるウィスコンシン州の州都ですが、私の父はマディソンの外の酪農家で育っていて、マディソンから5マイル(約8キロ)外に出ると、とうもろこし畑と納屋と乳牛ばかりという感じの、すごい田舎です。

でも、そこはタリアセンを生み出したフランク・ロイド・ライト(建築家)が育った場所でもあって、とても美しい田園地帯なんです。家族経営の農家ばかりで、私が育ったのはそういう場所でした。農業がとても重要な州のカルチャーが私の一部になっています。そういう人々をアルヴィンの物語に付け足したんです。

『ストレイト・ストーリー 4Kリマスター版』© 1999 – STUDIOCANAL / PICTURE FACTORY – Tous Droits Réservés

――それは今でも変わっていないのでしょうか。

ものすごく変わりました。まず家族経営の小規模農家というものが、いまは滅多にありません。若い世代の有機農家もウィスコンシンにいますし酪農も強いですが、大規模化した酪農企業になってしまいました。最大都市のミルウォーキーの人口は50万人くらい、2番目に大きいマディソンは25万人ですが、まだ田舎ですね。冬はものすごく寒いので過疎地のままですが、田園地帯はいまでも美しいです。

でも農家の数そのものは減りました。みんな農業労働者ですが巨大農家で働いています。すごく変わりましたね。ウィスコンシン州といえば、本来民主党が強い州でした。州全体がとてもリベラルだったのに、いまは地方はもっと共和党寄りになって、州全体の政治が分断でだいぶ変わってしまいました。ウィスコンシンにはほとんどいない超富裕層と、それ以外の人々との分断です。

『ストレイト・ストーリー 4Kリマスター版』© 1999 – STUDIOCANAL / PICTURE FACTORY – Tous Droits Réservés

――それはとても残念です。この映画はヒューマニスティックでほのぼのとしていてG指定です。でも、リンチ監督の作風は前衛的でシュールだと言われていて、実際に多くの作品がR指定ですが、シュールだと言われている作品で描かれている家庭内暴力で、少女が殺されたり売春婦がミソジニー殺人に遭遇したりすることも、現実に起こっていることですよね。スウィーニーさんもリンチ監督も、シュールな作品でもこの作品でも、結局はアメリカという国の現状や、私たちの社会を描こうとされていたんじゃないかと思うのですが。

ええ、デヴィッドはこの社会で起こることからインスピレーションを受けていたと思います。作品とすべての芸術作品が、いつも私たちが暮らしている社会を鏡のように映し出していました。それに彼は、特別にパワフルなやり方で世界を解釈していて、そこにはもちろんシュールレアリズムの要素がありました。『マルホランド・ドライブ』(2001年)は本当にシュールでノンリニア(非線形)で、通常のナラティブでは話が進んでいきませんが、感情的にものすごくパワフルで、私たちの世界の混乱を非常に重要な形で見せています。彼が亡くなったとき、人々がすごい喪失感を感じたのも、自分たちの理解者を喪ったと考えたからです。

デヴィッド・リンチ監督:撮影メイキング『ストレイト・ストーリー 4Kリマスター版』© 1999 – STUDIOCANAL / PICTURE FACTORY – Tous Droits Réservés

「デヴィッドがやりたかったのは“100%自分だけで”DIYでやること」

――スウィーニーさんは『ツイン・ピークス』や『ブルー・ベルベット』、『ワイルド・アット・ハート』、『ロスト・ハイウェイ』、『マルホランド・ドライブ』とリンチ監督と数々の素晴らしい仕事をなさってきましたが、ご自分で一番気に入っていらっしゃる作品はどれですか。

それぞれ独自の作品ですし、どの作品も子どものように思っています。わかっていただけると思いますが、細心の注意をはらって書いただけでなく、生み出したと言える作品たちで、それぞれ別々に大好きなんです。

いま言ったのが正直なところで、どれも大好きです。作っていたときの思い出や経験を考えるとショックを受けるほどです。編集室でたった一人で、登場人物とものすごく長い時間一緒に過ごしました。家族みたいな感じです。彼らの顔に浮かぶすべての表情、ベストアングル、彼らのキスの仕方……フィルムを編集するのは登場人物たちととても親密な感じになることで、しかも隔絶されていて、極私的なことです。私がものづくりをしてきた人生の地図のようなもので、デヴィッドにとっても同じ。だから全部好きと言いたいですね。

――うーん、それはそうですよね。日本では本作と同日に『インランド・エンパイア』(2006年)も上映されます。スウィーニーさんは『インランド・エンパイア』でリンチ監督との製作を最後にされましたが……。

彼にとっても最後の長編映画だったんですよ。

――そうですね。作品の制作で大変だったのはどんなことでしたか?

『インランド・エンパイア』は私はプロデュースはしましたが編集はしていないんです。だからこれに関しては、私はずっと一緒に働いたというわけじゃなかった。デヴィッドがそうしたがったのも、複雑になった一番の要因ですね。

彼はハリウッドの大スタジオのシステムに背を向けて、『イレイザーヘッド』(1976年)みたいな製作環境に戻りたかったんじゃないかと思うんです。もちろんAFI(アメリカ映画協会)に入っていて、5年以上安定した生活をしていましたが、あの映画では彼のほかには5人のスタッフしかいなくて、たぶんそういうことをすごくやりたかったんだと思います。

彼はビデオカメラを使うことで、クルーをシンプルにできると感じていました。それに、特にそこまで性能が良くないカメラを使うことに挑発的な喜びを感じていたと思います。彼が作品の中で描いた世界の表現の一部として、あのルックが本当に気に入っていました。ですから周囲にいた人々だけで、ものすごく低予算で撮っていたんですが、カメラを操作しながらキューを出して、カットを出して……たぶん、あの“うさぎ”の中に自分も入っていたはずです(※うさぎの着ぐるみが登場する)。

2002年か2003年か、それから何ヶ月か後だったと思うんですが、ローラ・ダーンのモノローグを書いて、彼女が私たちの家に来て撮影しました。スタートとカットもはっきりしなくて、まさにインディペンデントな映画でした。公開は2006年、彼が撮っていたのは2002年で、彼が何を作っているのかはっきりしていなかった。ですから私のプロデュースの仕事も、やったり休んだりという感じでしたね。編集もしませんでしたが、私は彼と制作上でもパートナーでいたかったため、すごいチャレンジでした。100%自分だけでDIYでやる、というのが彼がやりたかったことだったからです。

――脚本なしで撮影したと聞いています。香港や台湾の監督ではそういう人もいますが、ものすごく大変だったでしょうね。編集も大変だったと思います。

でも、彼は脚本を書いていましたよ。ローラ・ダーンにも脚本を渡していたし、うさぎにも書いていたんです。最終的に映画に入らなかった部分もありました。彼は書いている間、直感的に構成して脚本化して、そのように作っていったものが最終的に『インランド・エンパイア』になっていきました。だから長い映画になったんです。結局3時間半になりました。

――編集をしたいと思いませんでしたか? あるいは何かリンチ監督に仕事を申し出たりとか?

彼が一人でやると決めたので、最初の計画では個々のシーンが一本の映画になる予定ではなくて、彼はただ一人で撮り続けていたんです。あるときに彼が自分で編集したいと表明して、『イレイザーヘッド』みたいにやりたいと言って、本当に誰も編集をつけなかったんです。彼一人で編集していました。

――すみません。プライベートなことをうかがっても?

お聞きになってもいいですが、答えないかもしれませんよ(笑)。

――もちろんです。ありがとうございます。『インランド・エンパイア』のときにご結婚されていますが、なぜプライベートでもパートナーになることを選ばれたんですか?

ええ、デヴィッドと私は仕事上でも私生活でも結婚前の15年間パートナーで、結婚したときすでに14歳の息子がいたんです。そうですね、私たちが結婚したいと思った理由は個人的なことになります。

――すごい人生です。あれだけたくさんの美しい映画を製作しながら息子さんまで育てたなんて。

ありがとうございます。本当に素晴らしい20年間でした。

デヴィッド・リンチ監督:撮影メイキング『ストレイト・ストーリー 4Kリマスター版』© 1999 – STUDIOCANAL / PICTURE FACTORY – Tous Droits Réservés

――現在はどうしていらっしゃるんですか?

デヴィッドと仕事をするのをやめたとき、すでに南カリフォルニア大学の映画学校で教えていたんです。2003年に働き始めて、脚本創作を教えています。それで2006年に離婚したとき、フルタイムで終身在職権がある教授になりました。そうして脚本科の主任教授になり、今もやっています。脚本科で女性で主任教授になったのは私が初めてなんですよ。

そういうわけでそこにいて、2003年から楽しく仕事しています。学生と仕事するのも楽しいですし、私が教えているのは『夢 ― 脳とストーリーテリング』という講座で、夢を見ること、想像することの重要さについて話しているんです。アイデアを詳細に書き出して、自分のオリジナルなアイデアを見つけること、アイデアを探す手助けをして、それを広げていくことを教えています。

学生と一緒に美しい映画をたくさん観ました。若い人と働くのはいつも楽しいですね。長年一緒に働いてきた同僚も何人もいます。すごく恵まれています。

――素敵です。その講座を受けてみたいですね。

あら、南カリフォルニアに来なきゃだめですよ。

――そうですね。ありがとうございました。

ありがとう。それに、高齢者の尊厳についての物語だと言ってくださって感謝しています。本当にその通りなんです。

取材・文:遠藤京子

『ストレイト・ストーリー 4Kリマスター版』は2026年1月9日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー

1 2
Share On
  • Twitter
  • LINE
  • Facebook

『ストレイト・ストーリー 4Kリマスター版』

73歳のアルヴィン・ストレイト(リチャード・ファーンズワース)は、アメリカ・アイオワ州ローレンスで娘のローズ(シシー・スペイセク)と二人で暮らしている。ある日、転倒して無理矢理、病院に連れていかれる。医者からは治療をするように言われ、普段は歩行器を使うようにと指導されるが、拒絶。2本の杖を使うことだけは受け入れてさっさと家に帰ってしまう。頑固な老人である。
雷雨の夜、仲違いをして長らく口もきいていなかった、76歳の兄のライル(ハリー・ディーン・スタントン)が心臓発作で倒れたという知らせが入る。ライルが暮らすウィスコンシン州マウント・ザイオンまでは560km。車であれば一日の距離だが、運転免許証を持っていない。しかし、自分の力で会いに行くと決めたアルヴィンは周囲の反対に耳も貸さず、たったひとり、時速わずか8kmのトラクターに乗り、旅に出る。もう一度、兄と一緒に星空を眺めるために。

監督:デヴィッド・リンチ
製作:アラン・サルド メアリー・スウィーニー ニール・エデルスタイン
製作総指揮:マイケル・ポレア ピエール・エデルマン
脚本:ジョン・ローチ メアリー・スウィーニー
撮影:フレディ・フランシス
美術:ジャック・フィスク
編集:メアリー・スウィーニー
衣裳:パトリシア・ノリス
音楽:アンジェロ・バタラメンティ

出演:リチャード・ファーンズワース、シシー・スペイセク、ハリー・ディーン・スタントン

制作年: 1999