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現在の「ハリウッド・アクション」を形作ったのは誰?マーヴィン&イーストウッドの貢献と意外な共通点

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ライター:#谷川建司
現在の「ハリウッド・アクション」を形作ったのは誰?マーヴィン&イーストウッドの貢献と意外な共通点
『ポイント・ブランク』『ダーティハリー』劇場パンフレット:筆者私物
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60~70年代ハードボイルド・アクションをけん引した二人の男

1960年代末から70年代にかけて一世を風靡した “アメリカン・ニューシネマ”の作品群。その傍ら、60年代半ばにはその呼び水となったハードボイルド・タッチのアクション映画の傑作がいくつも作られ、その流れはニューシネマ後のハリウッドでのアクション映画の主流になっていった。

その中心にいたのが、ドン・シーゲル監督。そして俳優で言うと、何といってもリー・マーヴィンが当時のハードボイルド・タッチのアクション映画の最右翼のスターだが、1924年うまれのマーヴィンは当時40歳代の男盛り。元々『復讐は俺に任せろ』(1953年)の残忍なギャング(自分の情婦の顔に煮えたぎったコーヒーをぶっかける!)などで気を吐き、TVシリーズ『シカゴ特捜隊M』(1957~1960年)の警部役で人気を得て、ジョン・ウェイン主演作での最強の敵役を経て第一線級の主演スターの座に躍り出た。

もう一人が、マーヴィンの6歳年下で、シーゲル監督とのコンビで第一線に躍り出るクリント・イーストウッド。彼の場合もTV西部劇『ローハイド』(1959~1966年)で人気を得たが、その後のマカロニ・ウェスタンは(今でこそセルジオ・レオーネ監督作品などは名作の地位を獲得しているものの)当時は都落ちしたスターが出稼ぎ先で出た“紛い物”西部劇の扱いだった。イーストウッドが第一線に躍り出たのは、言うまでもなくシーゲル監督の『ダーティハリー』(1971年)だ。

『ダーティハリー』
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二人の唯一の共演作はミュージカル・コメディ西部劇だった

そんなマーヴィンとイーストウッドの二人だが、先輩マーヴィンが既に『キャット・バルー』(1965年)でアカデミー主演男優賞を受賞するなど一歩リードしていた中、その時期に二人が唯一共演した作品に『ペンチャー・ワゴン』(1969年)がある。

これは、ブロードウェイ・ミュージカルの映画化作品で、『南太平洋』(1958年)をヒットさせた実績を持つジョシュア・ローガンが監督し、男くさい二人のスターに、ヌーヴェルバーグの女神ジーン・セバーグのヒロインという顔ぶれの超大作。だが、如何せんアメリカン・ニューシネマの真っただ中で誰がミュージカル・コメディ西部劇を見たいのか、といった間の悪さがあって酷評されてしまった。マーヴィンは『キャット・バルー』での酔っ払い演技でオスカーを受賞しているので、その延長線上の作品ではあるのだが……。

物語の中でのマーヴィンとイーストウッドの友情の絆は、アメリカン・ニューシネマの諸作品のどのコンビよりも堅固だし、二人の男を愛する女との三角関係は『突然炎のごとく』(1961年)、『冒険者たち』(1967年)の延長上で、ある意味ヒッピー・ムーブメントのこの時期に相応しいテーマ。そしてラストの大掛かりな町の崩壊のスペクタクルは見応えがあるが、やはりミュージカル・コメディという枠組みをすっぱり止めて、ドラマを前面に押し出したら、『さすらいのカウボーイ』(1971年)に先立つアメリカン・ニューシネマの傑作の一本になっていたかもしれない。

あるいは、やはりアクション映画のスター同士が真っ向勝負で激突するハードボイルドな内容の映画を見てみたかった、というのが映画ファンの偽らざる気持ちだ。

リー・マーヴィンの男くさい魅力が炸裂した2本の名作

1960年代半ばに製作されたハードボイルド・タッチのアクション映画の傑作としては、まず『殺人者たち』(1964年)が挙げられる。監督はドン・シーゲル。そして冷酷な殺し屋役がリー・マーヴィンだ。

『殺人者たち』劇場パンフレット:筆者私物

現金輸送の郵便車を襲った一味が仲間割れし、裏切られたマーヴィンがかつての仲間を独りずつ追い詰め、ボスの居所を白状させて殺し、最後にはボスも始末するが……という内容で、ボスの情婦にはアンジー・ディキンソン、そしてボス役には何とロナルド・レーガンが扮していた。レーガンにとっては俳優として出演した最後の映画(その後テレビ・ドラマが一本ある)で、後の大頭領になってからとほとんど変わらない容姿なのが面白い。

『殺人者たち』でのマーヴィンはサイレンサーの付いた拳銃を手前に向けて構えたポーズが決まっていたが、このポーズはそっくりそのままドン・シーゲルの次のハードボイルド・タッチのアクション映画『ダーティ・ハリー』に受け継がれる。主役はマーヴィンからクリント・イーストウッドが受け継いだ。

『ダーティハリー』(C) Warner Bros. Entertainment Inc.

マーヴィンの方は、その後ジョン・ブアマン監督の『殺しの分け前/ポイント・ブランク』(1967年)という、もう一本の傑作に主演する。こちらも、裏切られたマーヴィンが自分の分け前を取り戻すべく、裏切った仲間を追い詰めていくのはほぼ一緒で、復讐の相手の情婦がアンジー・ディキンソンなのも一緒だが、ブアマンの映像と編集のリズムは独特のスタイリッシュさを有し、カルト的な作品に仕上がった。その後ブアマン×マーヴィンのコンビは三船敏郎を加えての『太平洋の地獄』(1968年)に発展する。

『殺しの分け前/ポイント・ブランク』©2025WBEI

何となく、『殺人者たち』の殺し屋が1960年代後半のサイケデリックな世界に迷い込んだような不思議な魅力の作品『殺しの分け前/ポイント・ブランク』が何とリヴァイヴィル公開されるので、未見の人はぜひ劇場で見てほしい。

『殺しの分け前/ポイント・ブランク』は6月13日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開

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